こどくな患者達

赤衣 桃

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ここは①

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「シイを捕まえたら終わりでしょう。もしかして、殺すとか言わないわよね」
「彼女の処遇は博士やこの舘の全容を知ってからのほうが良いと個人的には思う」
 ニイがさっさと話しなさい、みたいな視線をナナに向けていた。
「適切な名称かは分からないが、博士はこの館の外では人間と呼ばれる存在のはずだ」
「博士が宇宙人だったとしても別に問題はないけどな。一番大事なのは、わたしたちがいる場所のことだし」
 シイが回りくどい言い方をするからかニイが館で良くないとつっこむ。
「ニュアンスというか建物として認識をしているとこれからの話がややこしくなるんだよ」
「すでに意味不明だわ。要するに一階の開かない扉の向こう側が館の外で良いのね」
「ニイが理解しやすいならそれでオッケーだ。続きはナナにお願いします」
 口を挟まない意思表示か、シイが自分の唇が開かないようにチャックする動作をした。
「博士が宇宙人でも、開かない扉を解析さえすればこの館から出られる。シイみたいに殺さ」
「さっきその本人も言っていたように、ここを館と考えればニイの意見は正しいが。どうやっても生き残れるのは一人だけなんだ」
「どうして分かるのよ。わたしの部屋の扉を開けた時みたいに成功するかもしれないじゃない」
 ニイが苛立たしそうにしていた。扉のトリックや心臓交換の話からそれとなく理解した上で。
「わたしの部屋の扉もシステムとかを解析して開けられたんだから。時間をかけたり、シイと協力を」
「そんなことをわたしはしてない」
「わたしの部屋なのにナナの眼球を認証したら扉を開けられたのは、シイがハッキングとかを」
「それぞれの部屋の扉がどのアンドロイドの眼球を認証しても開くようになっていたのは最初からさ」
 そもそもここのアンドロイドは一種類だけで区別や分別とかグループにできない。ニイが信じる神様からすれば、わたしたち人間の魂なんてものはどれもこれも同じらしい。
 わたしたちが本当はアンドロイドではないことをシイが断言する。
「人間の魂、なにを言っているのよ」
「人格のほうが分かりやすいか。とにかく、わたしたちはアンドロイドじゃなくなんらかの生物なのは確定。案外、本当に宇宙人だったりしてな」
 いきなり話があらぬところにいき混乱したからかニイが頭を抱えていた。
「無理もない。初めから全部分かっていた、わたしでさえも意味が分からない状況だったんだし」
 シイは最初から全てを知っていたんですね、そう思わずわたしは呟いてしまう。
「多分わたしがこの館。この生物が見ている夢の中とか精神の世界の主だからだろうね」
「ここの主はシイで、わたしたちは間借りをさせてもらっているような状況」
「ハチは賢いな。鈍感だとか天然だとか言われるが一番物分かりが良いからわたしは好きなんだよね」
 いつの間にかどす黒くなっていたシイの目が細くなっていく。
「わたしに殺されても文句を言えない理由はこれで共感をしてもらえたはず。それともハチは気づいてくれていたのかな、自分が悪いことにも」
「わたしが悪かったのかはともかく、ここが自分のいるべき場所ではないのは分かっていました」
 ナナセくんと出会った病院が、わたしが存在するべき居場所だったと思う。
 四階の音がシイ以外にとって悪影響があるのも。
「間借りさせてもらって、ありがとうございます」
「ハチは素直で良いね。殺すのを躊躇いそうになるがこればっかりは仕方が」
「どういうことよ。夢の中や精神の世界とか、ここは実在する館でわたしたちはアンドロイドで」
「落ち着けよ、ニイ。あくまでも非現実的な世界観だと考えるほうが納得しやすいって話」
 夢の中だからこそ人間と遜色ないアンドロイド、絶対に音が聞こえない図書室やら文字を書くだけで料理が出てくるホワイトボードが存在するが。
 わたしが覚えている、今のところ解明された科学では到底できない代物ばかり。
「けど、ハチの例えのほうが分かりやすいな。この館はわたしの所有物で皆が間借り中。強いて説明を加えるなら他のマンションや家にない設備が整っている」
 まさしく夢の館だとシイが深呼吸をする時のようなポーズをとった。
「シイの話が本当だとしたら、わたしたちの本当の肉体は」
「事故か事件か知らないが、全員の本体が無事じゃないのは確実。ナナもこの状況の原因は、移植だと考えているんだろう」
「移植の影響で眼球を提供してくれた方が見た絶景を追体験した事例もあるらしいし。わたしもシイの肉体をベースにしたと」
 ナナが喋っているのに、なんだか聞こえづらい。
わたしの脳味噌が事実を拒否したいからなのか。
 わたしにも分かるようにナナはシンプルに説明をしてくれているのに。
「だから人間になれるのは一人だけ。多重人格者のような特殊なケースは期待できないし、いつまでも本体の健康が続いてくれるとも限らない」
 一人しか生き残れないなら、シイが選ばれるべきだと個人的には思うとナナが締めくくっていた。
「館の主であるわたしを殺して他の誰かがここから出て行くのかい」
 誰もなにも言わない。反論しようとしてかニイが唇を開きかけたが、すぐに首を横に振る。
「シイ以外は他の人間を殺してまで生き残りたくはないようだね」
「わたしの館なんだ、侵入者がいれば排除するのが筋だろう」
 シイの考え方を否定するつもりはないと伝えたいのかナナが手を上げて、掌を彼女に見せた。
「誰かを殺してしまう前に相談してくれていれば」
「全員が喜んでわたしのために死んでくれていたとでも、ありえないね。一人しか生き残れない以上、殺し合いは決定していたし」
 例のメッセージでわたしなりに警告をしたつもりだったんだけどな。
 まばたきさえもしてないはずなのに、シイがニイの頭部を持っていた。彼女の首から下は直立不動のまま、千切られた部分から黒い液体が溢れる。
 ようやく自分が死んだことに気づいたらしくニイの首から下が倒れて、大きな音がした。
「わたしも皆と同じ立場だったら絶対に自分だけが生き残りたいと考えて。殺すための準備万端な場所に呼びだして確実に息の根を止める」
 シイの掌の上で逆さまになっていたニイの頭部を床に落とし。黒い液体を撒き散らしつつ転がるそれを彼女が力強く踏んづけて粉々にする。
「ここだったら、ナノマシンを使えば。わたしにも勝てると勘違いしたかゴウ、ロク、ナナ」
 ニイが簡単に殺されて驚いていたせいか、わたしだけ名前を呼ばれなかった。
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