こどくな患者達

赤衣 桃

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アンドロイド達の性質②

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「ハチ、今のは自分で考えたのか」
 想定以上の答えだからかナナが身を乗り出す。
「今朝メンテナンスをした後に博士から次の月曜日の話題としてそのことを考えておくように言われていましたから」
 わたしだけの機能についてだったかもしれないが気にしないでおこう。記憶なんて忘れるためにあるんだし。
「方法があったとしても普通はアンドロイドが人間になれるなんて信じないのでは」
「この館に常識があると思えないが基本的にはハチの言う通りだろうね」
「例外があるような口振りに聞こえるんですけど」
「ハチもすでに察しがついているんじゃないか」
 わたしの頭の中で、ピースサインをする白衣姿の博士が浮かぶ。
「人間になれたからこそ博士は館から出入りできるようになったと」
「館の外に移動できるかはおいといて、わたしたちとは違う存在なのは確実だ。以前に血を流すところを見たからさ」
「チョコレートを食べすぎて鼻血を出すなんて博士は甘い食べ物を控えるべきですね」
「博士の名誉のために言っておくが、彼は紙で指を切っただけだよ。過去を捏造してあげないでくれ」
 ベッドから立ち上がったナナがこちらに近づく。
「どうして博士はわたしたちを製造して、この館に閉じこめているんでしょう」
「メンテナンスできても、アンドロイドを作製するほど博士の頭は良くない。わたしたちは四階の部屋で誕生したと個人的には考えている」
「あんな音を聞きながらナナは」
「あくまでもわたしの推測だ。本当にわたしたちを作ったかどうかまでは分からない、今のところ必要な情報でもなさそうだし」
 謎のある人生のほうが楽しいだろうとナナに露骨に話を逸らされた。
 わたしの傍らに立つナナが机の上にあるパソコンのキーボードを指先で叩く姿を観察。
「この言伝をハチに読ませるように博士から頼まれたんだ」
 回転椅子を動かし、パソコンの画面に肉体の正面を向けた。言伝というよりはポエムのような。
「内緒話や秘密を知りたくなるのはアンドロイドも同じらしくてね。万一、誰かが暗号化をされたこの文章を見たとしても察してくれるんだとさ」
「歴史に色をつけるとしたら黒色が似合うのが証明されてしまいましたね」
 苦々しく笑うナナが操作をしたようでパソコンの画面に表示されたポエムが回転したり、左右に反転する。
 ようやく文字の慌ただしい動きが終わった。
「博士の悪癖だな。真剣な話の時ぐらいセクシャルハラスメントをやめれば良いのに」
「アンドロイドにセクシャルハラスメントは適用をされないのでは」
「それはどうだろう、物に魂を与えてくれる神様もいるらしいし。アンドロイドが人権を訴える時代が来ないとも限らない」
 画面に表示された文章を下へとスクロールさせていく。内容を簡単にまとめると、次の月曜日までは生き残ってくれなんだが。
「これから館で大変なことが起こると読み取れるんですが」
「アンドロイドにとって人間になりたい欲求は想像を絶するもののようだから、ハチの心配する以上の出来事が発生してしまうんだと思うね」
 他人事みたいにナナが笑う。博士のメッセージの下には館のアンドロイドたちの基本的な性格が簡単に書かれていた。

 イチ プラス思考、悪戯好き
 ニイ さばさば(ただし偏愛あり)
 サン 単純明快、甘えんぼう
 シイ ネガティブ、内向的
 ゴウ 世話好き、熱しやすく冷めやすい
 ロク 秘密主義、腹黒
 ナナ 合理的、傍観者
 ハチ 純粋(成長途中の可能性)、天然

 さらにアンドロイドの性格一覧の下には、あくまでも基本であり条件により変化する可能性が高いと注釈がある。
「傍観者か、なかなか悪くない言葉だね」
「純粋と単純明快は同じ言葉のような」
「単純明快は損得勘定をするタイプという意味じゃないかな、博士的には」
 確かにわたしは算数がとても苦手だからな。
「この性格表は必要なものなんでしょうか」
「どちらかというと、傍観者のわたしに対する博士からのプレゼントだな」
 ハチはこれからどうする、とナナが聞いてきた。
 なんの話か分からないので首を傾げてしまう。
「とりあえず、わたしと次の月曜日までは手を組むつもりはあるのかと言いたかったんだ」
 おそらく人間に憧れてしまった他のアンドロイドから身を守るために行動を一緒にということか。
 アンドロイドを人間にする方法さえも不明なのに襲いかかられる可能性もなにもない気がするけど。
「ところでナナは人間になりたくないんですか」
「わたしが本音を語ったかどうかハチは確かめようがないんじゃないかな」
「さっきロクと喧嘩をしてくれたので、良いアンドロイドなんだと思いますし。騙されたとしてもナナが幸せになるのであれば結果オーライかと」
「自分が利用をされたとしてもか、健気なことで」
 質問に答えておくと、わたしは今のところ人間になりたいとは願ってないとナナが唇を動かした。
 ナナと目が合い、お互いに喋ってないのに思いが伝わっているような気分になった。
「ナナは春巻きを食べたいと考えていますね」
「ハチと同盟が成立したと喜んでいただけだよ」
 ある意味でこの館のどのアンドロイドよりもハチが恐ろしい存在かもしれないとナナが冗談を言う。
「もしハチが人間になれたら、どうするつもりなんだい」
「この館から出てみたいです」
 なんでもある狭くて楽園のような館から。そして夕食の時間帯になったらきちんと帰ってくる。
「外の世界は奇麗ですよね」
「多分、その質問の答えは博士にしか分からない」
 暫定的に人間だと思われる博士だけしか、そんな言葉をナナが続けていた。
 博士の首には、わたしたちみたいなファスナーがくっついてないんだから人間に違いないはずなのにナナはなにを疑っているのやら。
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