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アンドロイド達の性質①
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食堂でニイと別れ、一階にあるナナの部屋の扉を叩いたけど返事がない。
「ハチ、どうかしたの」
自分の部屋で彼女が戻るのを待とうか、探そうか迷っているとナナの左隣の部屋からロクが現れた。
白いブラウスに黒く長いフレアスカートをロクは着ている。基本的にイチより落ち着いた色の服装を選んでくれるので、わたしの目が痛くならないように配慮してくれているんだと思う。
「とりあえず、おはようございます。ロク」
「こちらこそ、おはようございます」
わたしと同じようにロクも頭を軽く下げる。
「挨拶を覚えたのね。えらいえらい」
自分の胸の前でロクが拍手をした。わたしの眼球が変なのか笑顔なのにこちらを睨んでいるような。
「ナナがどこにいるか分かりますか」
「五分ぐらい前に扉の開いた音が聞こえたから七階の図書室か、八階の夢世界でのほほんとしているんでしょう」
「行き違いになったのかもしれませんね。南の階段から下りてきたのでナナは北の階段を」
「部屋を出てすらいないよ、ハチ」
扉が開き、部屋の中からナナが顔を覗かせる。
「ナナ。おはようございます」
「おはよう。悪いね、すぐに扉を開けられなくて。今日はお腹の調子が悪いみたいでさ」
「わたしもナナの存在を忘れかけたので気にしないでください」
「なにはともあれ、ハチに思い出してもらえてなによりだよ」
扉を盾のようにしつつナナがロクに顔を向けた。
「なーに、わたしも予定があったりするんだけど」
「時間はかからないよ。ロクにとっても重要なことかもしれないし」
口紅を塗ったようなピンクの唇のロクの顔つきが険しくなった。個人の好みによっては、今の彼女に罵倒をされたい存在もいるとか誰かが教えてくれた気がする。
「わたしが部屋を出たと勘違いをしたのはどうしてだい」
「図書室から恋愛小説を借りて、戻ってきた直後にナナの部屋の扉が開いた音が聞こえたからよ」
ノックや扉の近くにいない限り防音対策が完璧なのはナナも知っているはず、とロクがわたしの記憶にない情報を口にしていた。
「だけど空耳だったようね、結果的にハチと会えたんだから良かった。わたしも一緒にナナを捜す羽目に」
ロクが自分の唇を手で隠した。変なことを言った訳でもないのに恥ずかしそうに彼女は震える。
ナナもロクの言葉に無反応。彼女の声がそもそも聞こえてなかったのかな。
「手間を取らせて悪かったね」
わざとらしく不愉快そうにロクが鼻を鳴らす。
すれ違う直前にロクが日本語ではなさそうな発音でわたしに囁く。内容は相手と顔を合わせて伝えるにはハードルの高いものだった。
「ハチはロクの悪意には鈍感なようで」
ロクの姿が見えなくなると、わたしを横目で観察しながらナナがやれやれといった顔をする。
「ロクは勘違いをしていただけなのでは」
「だと思っているならわたしから言えることはないな。それよりハチはわたしに聞きたいことがあったんじゃないか」
ナナに質問があったのは覚えているがゴウに頭を撫でられた時の脳味噌のダメージでどこかに落下をしてしまったようだ。
「部屋の中で話そうか、予定もないんだろう」
誰かとの約束を忘れた可能性もあるが、頭の中の予定は真っ白なので首を縦に振る。
「お邪魔します。挨拶なので安心してください」
ナナの部屋に入ったのは初めてだったはず。机やパソコン、ベッドの位置は同じ。図書室から持ってきたであろう、何冊かのミステリー関連の本が床に散乱している。
「わたしへの質問は思い出せたかい」
「ナナの部屋には落ちてないようです」
「ハチの記憶はどこか別の場所にあるらしいね」
相手はアンドロイドのナナなのに博士に笑われたような気分だからか不機嫌な顔になってしまう。
ナナが散乱した本を上手く避けていき移動する。扉の近くのベッドにナナが腰かけた。
「好きなところに座ってくれ。床でも回転椅子でもなんならわたしの隣に座るのもオッケーだ」
正座できないので床は却下として、ナナの隣よりも対面のほうがお互いに話しやすいと判断して回転椅子に座らせてもらった。
「かしこまる必要はないよ、ハチをテストしているつもりもないし。個人的にはこの館のアンドロイドの中でハチを一番信じているんだから」
「ナナの冗談は面白くて、お腹がよじれました」
「本音だったんだがね。博士からナナにハチの心臓のネジを緩めていた理由を聞きなさい、とか言われたんじゃないか」
確かに、わたしがナナに会いに来た理由はそんな気がしてきた。
「忘れやすい機能も健在か。ところで心臓が取れた理由について覚えているかな」
「アンドロイドにも骨があるのかなと自分の肉体を触っている最中にうっかり外れたんだと」
「記憶違いだ。イチに普段ハチが身につけないようなロングスカートを着せられ、引っかかって転んだからさ」
「ハチはドジなアンドロイドですね」
「卑下することもないよ。最近の若い人間の女の子が短いスカートを穿くのは転ばないようにするためらしいし」
さすがにわたしでも今のは嘘だと分かる。本当の理由はロングスカートを穿くたびに猟犬に噛みつかれるからだったはずだ。
「話を戻そうか。博士がハチの心臓のネジを緩めていた理由は他のアンドロイドとコミュニケーションを促すためだとさ」
不服そうだね、もっと面白い理由があると思っていたのかとナナが茶化すように聞いてくる。
「二週間ほど前に知らされた館にいるアンドロイドが人間になれるという情報に騙された存在から身を守らせるためとかですかね」
心臓が取れちゃう、うっかり者は弱者認定されるので破壊しやすいと思われても仕方ないですし。
わたしなりの仮説を口にしただけなのに、ナナが驚いた表情をする。
「ハチ、どうかしたの」
自分の部屋で彼女が戻るのを待とうか、探そうか迷っているとナナの左隣の部屋からロクが現れた。
白いブラウスに黒く長いフレアスカートをロクは着ている。基本的にイチより落ち着いた色の服装を選んでくれるので、わたしの目が痛くならないように配慮してくれているんだと思う。
「とりあえず、おはようございます。ロク」
「こちらこそ、おはようございます」
わたしと同じようにロクも頭を軽く下げる。
「挨拶を覚えたのね。えらいえらい」
自分の胸の前でロクが拍手をした。わたしの眼球が変なのか笑顔なのにこちらを睨んでいるような。
「ナナがどこにいるか分かりますか」
「五分ぐらい前に扉の開いた音が聞こえたから七階の図書室か、八階の夢世界でのほほんとしているんでしょう」
「行き違いになったのかもしれませんね。南の階段から下りてきたのでナナは北の階段を」
「部屋を出てすらいないよ、ハチ」
扉が開き、部屋の中からナナが顔を覗かせる。
「ナナ。おはようございます」
「おはよう。悪いね、すぐに扉を開けられなくて。今日はお腹の調子が悪いみたいでさ」
「わたしもナナの存在を忘れかけたので気にしないでください」
「なにはともあれ、ハチに思い出してもらえてなによりだよ」
扉を盾のようにしつつナナがロクに顔を向けた。
「なーに、わたしも予定があったりするんだけど」
「時間はかからないよ。ロクにとっても重要なことかもしれないし」
口紅を塗ったようなピンクの唇のロクの顔つきが険しくなった。個人の好みによっては、今の彼女に罵倒をされたい存在もいるとか誰かが教えてくれた気がする。
「わたしが部屋を出たと勘違いをしたのはどうしてだい」
「図書室から恋愛小説を借りて、戻ってきた直後にナナの部屋の扉が開いた音が聞こえたからよ」
ノックや扉の近くにいない限り防音対策が完璧なのはナナも知っているはず、とロクがわたしの記憶にない情報を口にしていた。
「だけど空耳だったようね、結果的にハチと会えたんだから良かった。わたしも一緒にナナを捜す羽目に」
ロクが自分の唇を手で隠した。変なことを言った訳でもないのに恥ずかしそうに彼女は震える。
ナナもロクの言葉に無反応。彼女の声がそもそも聞こえてなかったのかな。
「手間を取らせて悪かったね」
わざとらしく不愉快そうにロクが鼻を鳴らす。
すれ違う直前にロクが日本語ではなさそうな発音でわたしに囁く。内容は相手と顔を合わせて伝えるにはハードルの高いものだった。
「ハチはロクの悪意には鈍感なようで」
ロクの姿が見えなくなると、わたしを横目で観察しながらナナがやれやれといった顔をする。
「ロクは勘違いをしていただけなのでは」
「だと思っているならわたしから言えることはないな。それよりハチはわたしに聞きたいことがあったんじゃないか」
ナナに質問があったのは覚えているがゴウに頭を撫でられた時の脳味噌のダメージでどこかに落下をしてしまったようだ。
「部屋の中で話そうか、予定もないんだろう」
誰かとの約束を忘れた可能性もあるが、頭の中の予定は真っ白なので首を縦に振る。
「お邪魔します。挨拶なので安心してください」
ナナの部屋に入ったのは初めてだったはず。机やパソコン、ベッドの位置は同じ。図書室から持ってきたであろう、何冊かのミステリー関連の本が床に散乱している。
「わたしへの質問は思い出せたかい」
「ナナの部屋には落ちてないようです」
「ハチの記憶はどこか別の場所にあるらしいね」
相手はアンドロイドのナナなのに博士に笑われたような気分だからか不機嫌な顔になってしまう。
ナナが散乱した本を上手く避けていき移動する。扉の近くのベッドにナナが腰かけた。
「好きなところに座ってくれ。床でも回転椅子でもなんならわたしの隣に座るのもオッケーだ」
正座できないので床は却下として、ナナの隣よりも対面のほうがお互いに話しやすいと判断して回転椅子に座らせてもらった。
「かしこまる必要はないよ、ハチをテストしているつもりもないし。個人的にはこの館のアンドロイドの中でハチを一番信じているんだから」
「ナナの冗談は面白くて、お腹がよじれました」
「本音だったんだがね。博士からナナにハチの心臓のネジを緩めていた理由を聞きなさい、とか言われたんじゃないか」
確かに、わたしがナナに会いに来た理由はそんな気がしてきた。
「忘れやすい機能も健在か。ところで心臓が取れた理由について覚えているかな」
「アンドロイドにも骨があるのかなと自分の肉体を触っている最中にうっかり外れたんだと」
「記憶違いだ。イチに普段ハチが身につけないようなロングスカートを着せられ、引っかかって転んだからさ」
「ハチはドジなアンドロイドですね」
「卑下することもないよ。最近の若い人間の女の子が短いスカートを穿くのは転ばないようにするためらしいし」
さすがにわたしでも今のは嘘だと分かる。本当の理由はロングスカートを穿くたびに猟犬に噛みつかれるからだったはずだ。
「話を戻そうか。博士がハチの心臓のネジを緩めていた理由は他のアンドロイドとコミュニケーションを促すためだとさ」
不服そうだね、もっと面白い理由があると思っていたのかとナナが茶化すように聞いてくる。
「二週間ほど前に知らされた館にいるアンドロイドが人間になれるという情報に騙された存在から身を守らせるためとかですかね」
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わたしなりの仮説を口にしただけなのに、ナナが驚いた表情をする。
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