こどくな患者達

赤衣 桃

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機微って不思議②

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 ゴウとナナとわたしはかなり遅めの朝食後、六階のアスレチックルームに移動した。
 イチの死因などはそれとなく分かったけど結局。犯人が誰かは判明をしてないので、襲われても反撃をできるようにグループの中では一番強いゴウから護身術の類いを教えてもらう流れに。
「護身術うんぬん以前にハチは肉体を動かすことに慣れておけ。走ろうとして転んだのは脳からの電気信号に肉体の反応速度が追いついてないからだろうしな」
 武器を使うにしても運動能力は必須だと言うゴウが革ジャンのポケットの部分を触っていた。
 お腹が膨らんでいるので多分、ゴウは想像妊娠をしているに違いない。
「ゴウは酸っぱい食べ物が好きでしたよね」
「大好物だが。犯人を見つける方法でも思いついたのか」
「単純にゴウのお腹だけを守れるぐらい動けるようになろうと考えていただけです」
「できることなら他の部分も守ってくれや」
 なんてつっこんでいるが、ゴウの顔はどことなく嬉しそうな様子。
 ゴウとナナがマンツーマンで特訓をしている間、アスレチックルームの器具や仕掛けにわたしは数えられるほど挑戦をした。
 器具や仕掛けにはレベルがあり、わたしは一番下のランクしかできないが回数を重ねるにつれて肉体の動きがスムーズになってきている。
 これだけ明らかに成長を実感できるんだからサンが毎日トレーニングする気持ちも理解できる。
 サン以外にアスレチックルームを利用するアンドロイドがいないからかもしれないが、全ての器具や仕掛けのランキングのトップテンが全て彼女で埋め尽くされていた。
 しかも日に日にランキングのトップは更新されていて前日よりも確実にサンの身体能力は向上をしているようだった。
 体力がなくなり休憩をしていると部屋の隅でゴウが自分の右のこめかみに触っていた。
 誰かに頭電話でもしようと思っているのかな。
 でもイチの破壊方法を聞いているから全員、おそらく頭電話をできない状態のはず。
 わたしが覚えているんだから、ゴウも忘れて。
「ゴウが無意味な行動をしているのが気になるようだね」
 スポーツドリンクが入っているであろうスクイズボトルを片手に、汗だくのナナがわたしの隣で体育座りをする。
「わたしも意味もなく、腹筋をしたくなった時期があるのでゴウもお年頃なんでしょう」
「ハチよりもゴウは年上だった気がするけどね」
 運動をして疲れているせいか、ナナのつっこみが弱い気がした。
「使用できるかどうかは無視するとして、今のゴウは誰に頭電話をすると思う」
「ロクですかね。双子で、こんな状況でも一番信じられる相手でもあるはずなので」
「すでに答えを分かっているんじゃないか」
 わたしが知りたいのは通話できないのを分かっていてゴウが頭電話を使おうとする理由についてなのだが。
「ナナは運動すると、うっかり者になるんですね」
「確かに普段より頭の動きが鈍くて、ハチに上手く説明できなさそうだ」
 ゴウが頭電話の使用を諦めたのを確認してかナナも彼女との特訓を再開しようと立ち上がる。
 ふらつくナナを見習い、わたしも運動器具の設置してある方向に歩き出した。



 改めて考えてみると夕食の時に、わたしが日記のことを話したから自分の部屋のパソコンの前に座るはめになったのだろう。
「充電をするならわたしの部屋ではなくて医療室で眠ったほうが良いのでは」
「今はハチの日記を読みたい気分なんだよ。だからパソコンのパスワードを入力してくれよ」
 と言いながらゴウがわたしが座る回転椅子をくるくるさせる。このままでは遠心力で、両足が外れてしまうのでさっさと要求に応えることにした。
 ナナはゴウほど催促してないが、わたしの日記に興味はあるようでパソコンの画面から目を離そうとしない。
「わたしの日記が今回の事件と関係があったりするんですか」
「全く関係がないとも言い切れないが、もしかすると重要な出来事を書いてくれているかもしれない」
「そんなに都合の良いことがありますかね」
「事件の計画表とかが出てきたら面白いんだがね」
「本人的には笑えないタイプの冗談かと」
 ナナの意地悪な想像と違い、日常の些細な出来事しか記録されてない。博士みたいに暗号化をされている可能性は低いだろうしな。
「最近ではなくて、一番古いものから読ませてくれないかい。日付が飛んでいるところもあるらしいが時系列順のほうが分かりやすいと思うし」
 一番古い記録は半年ぐらい前でわたしでなくてもそれほど期間が空いていたら内容は全く覚えてないはず。

 初めましてハチです。博士から忘れっぽいのなら日記を書いたほうが良いと言われたので覚えている間はやります。
 窓の外の天気は見えませんが、今日は晴れかと。廊下に寝転んで眠りたい気分になったので、間違いありません。
 今日は眠たいのでここまでにします。
 覚えていたらまた明日。お疲れさまでした。
 自分で書いておいてだけど、どうして天気のことを書こうと考えたのやら。

「一般的な日記には天気の情報を書くんですか」
「個人差はあると思うけど。忘れたことを思い出す時に情報は多いほうが良いからな」
「わたしもこの日記の存在を思い出すためだけに、架空の天気の話を書いたんでしょうね」
 ゴウが苦笑いを浮かべるが、わたしの言葉を否定することはなかった。
「次の日記を読ませてくれないか」
 パソコンのカーソルを次の日記が記録されているファイルに移動させる。最初の日記を書いた時から一週間ほど空いていた。

 ハチです。博士から日記をちゃんと書いているのかと言われてしまい思わず首を縦に振ってしまったので、日記の続きをパソコンのキーボードを使って作成中。
 慌ててなんかいません。この日記は毎日書くものではなく、わたしが思い出した時にやるスタイルで正解なのです。
 一週間前のわたしが窓の外の天気を書いていたので報告しておきます。
 今日は雪です。被害はないですが、わたしの頭の中を真っ白にしてくるので迷惑だったりしました。
 だけどコーヒーに入れる四角くて白いものは好きです。甘くて小さいので。
 甘い食べ物を夢の中で食べたくなったので今日はここまでにしましょう。
 明日は忘れないようにしないと、日記は毎日書くのが普通なんですから。

 変なことも面白い文章も書いてないつもりなのにゴウがにやつく。理由を聞いてみたが彼女は答えてくれなかった。
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