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機微って不思議①
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「幽霊は人間を祟ること以外にも、アンドロイドの改造までできるとは勉強になりました」
「落ち着けよ、ハチ。シイの仕業だとは確定をしてないだろう」
アンドロイドの幽霊は見たことないし、とゴウがさらっと心霊体験を暴露する。
「切り替えが早いね。プログラミング関係はシイにしかできないが、イチの頭に部品を取りつけるのは誰にでも可能だ」
「生前のシイがイチを壊すために仕掛けようとしていた部品を誰かが代わりにくっつけた」
独自にシイのパソコンなどを調べたのか、共犯として計画していたのかは不明だけど。
「幽霊やらオカルトよりも現実的な話だろう。ハチも納得してくれたなら人差し指同士をクロスさせるのをやめてくれるかい」
「前世のナナは吸血鬼だったんですね」
吸血鬼は不死身らしいから生まれ変わらないはずだよとナナが指摘したが、彼女は老衰で亡くなったあの有名なヴァンパイアを知らないようだった。
「結局イチの頭に機械をくっつけたのは誰なんだ、一番親しいアンドロイドだと思うが」
「イチは八方美人で基本的に誰とでも仲が良かったから絞りこむのは」
「逆じゃないんですか」
わたしのつっこみにゴウとナナが首を傾げる。
「八方美人は言い換えたら嫌われることを恐怖しているのと同義なので」
「誰かに避けられているのを自覚していれば、イチは仲良くしようとするよな」
先にゴウに説明をされてしまった。
「イチを嫌っていた奴とかいるのか」
「というよりはできるだけイチに関わらないようにしていたアンドロイドか。厄介なことに彼女は悪戯好きでもあったし、候補者だらけだな」
わたしもイチに追いかけられて廊下で転んで心臓が取れた記憶があるような。
「わたしはロクがイチにスカートをめくられているのを見た」
「こっちはニイだったな。スカートはめくってないが階段の下から覗いていた気がする」
「わたしはイチに心臓を盗み取られましたよ」
ハチの記憶違いだと、ゴウとナナに同時に否定をされた。二人もイチとの悪戯エピソードがあるけど思い出したくないらしい。
「全員、イチの頭に部品を取りつけるぐらいの悪戯をされてそうな感じだな」
「ゴウは機械が苦手だったのでは」
「本当にハチは優しいよなー。わたしが嘘をついてないと信じてくれているなんて」
「その可能性は考えてませんでした」
ゴウが、まじかよと不満そうに声を出していた。
「そもそもイチが改造されていてじじいは気づいてなかったのか、心臓まで取り出してメンテナンスをしていたのによ」
「微妙なところだがメンテナンスはあくまでも生命維持ができるかどうかの確認だし脳やら神経はそこまで調べてなかったんじゃないかな」
用意周到なことに肉体の異常を知らせるシステムも簡単に改造をされていたし。
なぜだかナナが胸に一物ありそうな顔になった。
「吐き気がするなら遠くを見たほうが良いですよ」
「心配をしなくても体調は万全だ。ただ、今までの犯人の手口に比べると甘すぎると思ってね」
「単純に、肉体の異常を知らせるシステムを完璧に偽装する時間がなかったんじゃないか」
自分以外の全員を確実に殺せるならともかく犯人的にはイチにばかり労力をかけられないだろうよ、ゴウがさらに続ける。
「効率化だとしたら、ナナの手抜きの話とも一応は合致すると思いますし。個人的に首を切り落としてまで調べるなんて想像すらできないかと」
人間になりたいと願っているアンドロイドならばある種の非人道的な行為までしないと、自分の基準で判断する可能性も高いはず。
「ハチの意見はごもっともなんだがね」
目を閉じたナナが珍しく唸り声を上げている。
「なんだよ、違う見解があったりするのかよ」
できるだけ隠し事はなしにしておこうぜと忠告をしているのかゴウが声を荒らげた。
「気を悪くしたのなら謝るよ。だけど、あまりにも荒唐無稽すぎる考えでね。これが正しければ効率化も人間になれるというメッセージのことさえも全てが納得できてしまう」
シイの抜け殻を斧でばらばらにするほどの殺意を抱いた理由も分からなくない。というナナの台詞を聞き、わたしの頭にトンカチで叩かれたような衝撃が走った。
「効率的にアンドロイドを壊したいタイプだとしたら、なんでシイはあそこまで破壊したんでしょう」
「宣戦布告や自分の殺意の強さをわたしたちに伝えたかったとかかね。部屋の扉を開けるのに、シイの眼球が必要だから一石二鳥とも言えなくないし」
ゴウの説明は正しいはずなのに間違っている気がするのは。
「注意してください、わたしは反抗期みたいです」
「自己申告できている時点で、ハチの反抗期は終了してそうだけどな。どっちかというとナナのほうが素直になれてないように見せるぜ」
ゴウがナナに詰め寄った。
「荒唐無稽でも的外れでも情報は共有、次にナナが殺されないとも限らないんだからよ」
ナナが犯人なら話は変わってくるが、ゴウの視線が鋭くなり今にも彼女の胸倉を。
「わたしの予想が正しかった場合、人間になれるのは一人だけ。ハッピーエンドには絶対にならない」
「確実に一人だけしか生き残れないのか」
ゴウの目を真っ直ぐに見つめながらナナが頷く。
ばつが悪そうにゴウが髪の毛をかきむしる。
「だったらその予想はすでに間違っているじゃん。わたしたちは今までみたいに平和に暮らすために、努力をしているんだからよ」
「ゴウの言う通りだね。意固地にならず、さっさと予想が的外れなことを認めるべきだったよ」
ナナが否定をするのは分かるけど、内容を聞いてないのにゴウが先に答えられるということは。
「もしかしてゴウはエスパーの末裔だったり」
「わたしがエスパーならナナの意見を読み取る前にさっさと犯人を見つけているよ」
「ケアレスミスですね。ゴウはこれからも平均的なアンドロイドとして暮らしてください」
「わたしが犯人を捕まえられたら、そうするさ」
ゴウとナナがわたしの顔をじっと観察している。
こちらが変顔をしても反応すらしてくれない。
「ハチはこの館から出たいか」
「外出はしてみたいですが、迷子にならないように誰かと一緒が良いと思います」
健気なことで、ゴウがにやついた。
「わたしの荒唐無稽な推測をハチは聞きたいかい」
「間違っているようですし、わたしは正解しか聞きたくありません。本当に一人しか生き残れないならハチ以外であるべきかと」
わたしは人間になりたいとは願ってないので相手が犯人だとしても、必要とする方に譲渡をするのが筋だと個人的には思う。
「心配しなくても犯人を見つければ全て元通りだ」
すでにイチとシイがこの館から存在しなくなっているのに元通りになるのだろうか。
考えるのはやめよう。アンドロイドだって思考を停止して、現実逃避したい時だってある。
わたしたちはハッピーエンドを目指しているんだから難しい問題には目を逸らさないと。
「落ち着けよ、ハチ。シイの仕業だとは確定をしてないだろう」
アンドロイドの幽霊は見たことないし、とゴウがさらっと心霊体験を暴露する。
「切り替えが早いね。プログラミング関係はシイにしかできないが、イチの頭に部品を取りつけるのは誰にでも可能だ」
「生前のシイがイチを壊すために仕掛けようとしていた部品を誰かが代わりにくっつけた」
独自にシイのパソコンなどを調べたのか、共犯として計画していたのかは不明だけど。
「幽霊やらオカルトよりも現実的な話だろう。ハチも納得してくれたなら人差し指同士をクロスさせるのをやめてくれるかい」
「前世のナナは吸血鬼だったんですね」
吸血鬼は不死身らしいから生まれ変わらないはずだよとナナが指摘したが、彼女は老衰で亡くなったあの有名なヴァンパイアを知らないようだった。
「結局イチの頭に機械をくっつけたのは誰なんだ、一番親しいアンドロイドだと思うが」
「イチは八方美人で基本的に誰とでも仲が良かったから絞りこむのは」
「逆じゃないんですか」
わたしのつっこみにゴウとナナが首を傾げる。
「八方美人は言い換えたら嫌われることを恐怖しているのと同義なので」
「誰かに避けられているのを自覚していれば、イチは仲良くしようとするよな」
先にゴウに説明をされてしまった。
「イチを嫌っていた奴とかいるのか」
「というよりはできるだけイチに関わらないようにしていたアンドロイドか。厄介なことに彼女は悪戯好きでもあったし、候補者だらけだな」
わたしもイチに追いかけられて廊下で転んで心臓が取れた記憶があるような。
「わたしはロクがイチにスカートをめくられているのを見た」
「こっちはニイだったな。スカートはめくってないが階段の下から覗いていた気がする」
「わたしはイチに心臓を盗み取られましたよ」
ハチの記憶違いだと、ゴウとナナに同時に否定をされた。二人もイチとの悪戯エピソードがあるけど思い出したくないらしい。
「全員、イチの頭に部品を取りつけるぐらいの悪戯をされてそうな感じだな」
「ゴウは機械が苦手だったのでは」
「本当にハチは優しいよなー。わたしが嘘をついてないと信じてくれているなんて」
「その可能性は考えてませんでした」
ゴウが、まじかよと不満そうに声を出していた。
「そもそもイチが改造されていてじじいは気づいてなかったのか、心臓まで取り出してメンテナンスをしていたのによ」
「微妙なところだがメンテナンスはあくまでも生命維持ができるかどうかの確認だし脳やら神経はそこまで調べてなかったんじゃないかな」
用意周到なことに肉体の異常を知らせるシステムも簡単に改造をされていたし。
なぜだかナナが胸に一物ありそうな顔になった。
「吐き気がするなら遠くを見たほうが良いですよ」
「心配をしなくても体調は万全だ。ただ、今までの犯人の手口に比べると甘すぎると思ってね」
「単純に、肉体の異常を知らせるシステムを完璧に偽装する時間がなかったんじゃないか」
自分以外の全員を確実に殺せるならともかく犯人的にはイチにばかり労力をかけられないだろうよ、ゴウがさらに続ける。
「効率化だとしたら、ナナの手抜きの話とも一応は合致すると思いますし。個人的に首を切り落としてまで調べるなんて想像すらできないかと」
人間になりたいと願っているアンドロイドならばある種の非人道的な行為までしないと、自分の基準で判断する可能性も高いはず。
「ハチの意見はごもっともなんだがね」
目を閉じたナナが珍しく唸り声を上げている。
「なんだよ、違う見解があったりするのかよ」
できるだけ隠し事はなしにしておこうぜと忠告をしているのかゴウが声を荒らげた。
「気を悪くしたのなら謝るよ。だけど、あまりにも荒唐無稽すぎる考えでね。これが正しければ効率化も人間になれるというメッセージのことさえも全てが納得できてしまう」
シイの抜け殻を斧でばらばらにするほどの殺意を抱いた理由も分からなくない。というナナの台詞を聞き、わたしの頭にトンカチで叩かれたような衝撃が走った。
「効率的にアンドロイドを壊したいタイプだとしたら、なんでシイはあそこまで破壊したんでしょう」
「宣戦布告や自分の殺意の強さをわたしたちに伝えたかったとかかね。部屋の扉を開けるのに、シイの眼球が必要だから一石二鳥とも言えなくないし」
ゴウの説明は正しいはずなのに間違っている気がするのは。
「注意してください、わたしは反抗期みたいです」
「自己申告できている時点で、ハチの反抗期は終了してそうだけどな。どっちかというとナナのほうが素直になれてないように見せるぜ」
ゴウがナナに詰め寄った。
「荒唐無稽でも的外れでも情報は共有、次にナナが殺されないとも限らないんだからよ」
ナナが犯人なら話は変わってくるが、ゴウの視線が鋭くなり今にも彼女の胸倉を。
「わたしの予想が正しかった場合、人間になれるのは一人だけ。ハッピーエンドには絶対にならない」
「確実に一人だけしか生き残れないのか」
ゴウの目を真っ直ぐに見つめながらナナが頷く。
ばつが悪そうにゴウが髪の毛をかきむしる。
「だったらその予想はすでに間違っているじゃん。わたしたちは今までみたいに平和に暮らすために、努力をしているんだからよ」
「ゴウの言う通りだね。意固地にならず、さっさと予想が的外れなことを認めるべきだったよ」
ナナが否定をするのは分かるけど、内容を聞いてないのにゴウが先に答えられるということは。
「もしかしてゴウはエスパーの末裔だったり」
「わたしがエスパーならナナの意見を読み取る前にさっさと犯人を見つけているよ」
「ケアレスミスですね。ゴウはこれからも平均的なアンドロイドとして暮らしてください」
「わたしが犯人を捕まえられたら、そうするさ」
ゴウとナナがわたしの顔をじっと観察している。
こちらが変顔をしても反応すらしてくれない。
「ハチはこの館から出たいか」
「外出はしてみたいですが、迷子にならないように誰かと一緒が良いと思います」
健気なことで、ゴウがにやついた。
「わたしの荒唐無稽な推測をハチは聞きたいかい」
「間違っているようですし、わたしは正解しか聞きたくありません。本当に一人しか生き残れないならハチ以外であるべきかと」
わたしは人間になりたいとは願ってないので相手が犯人だとしても、必要とする方に譲渡をするのが筋だと個人的には思う。
「心配しなくても犯人を見つければ全て元通りだ」
すでにイチとシイがこの館から存在しなくなっているのに元通りになるのだろうか。
考えるのはやめよう。アンドロイドだって思考を停止して、現実逃避したい時だってある。
わたしたちはハッピーエンドを目指しているんだから難しい問題には目を逸らさないと。
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