こどくな患者達

赤衣 桃

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幽霊プログラミング②

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「ここだったら充電をできるベッドがあるから交代で眠ろうという話になったんだよ」
 鍵をかけられるが念のためにな、とゴウが記憶の一部を思い出させてくれる。
「ゴウとナナが生きているのはわたしが眠らないで蝶の夢を見て楽しんだおかげですね」
「誤魔化すなら、せめて矛盾させないでおこうか」
 ゴウとナナの約束を破ってしまったのはわたしの勘違いのはずだ、寝不足でふらついているし。
「捏造の件は水に流してもらうとして、ナナはどこに」
「ベッドが大きかったし、同じところで眠るほうが効率的だってさ」
 寝返りを打ってゴウとは反対方向に顔を動かすとナナがいた。彼女は肉体を横向きにして眠るタイプらしい。
「あまり騒いでやるなよ。やっと眠れたんだから」
 廊下の窓の色が見えないから分からないが、おそらく紫になっているぐらいの時間帯のはず。
「では、わたしが起きているのでゴウも安眠を」
「わたしも眠ったよ。ハチの可愛い寝顔を見させてもらいながら」
「目を開けたままで眠ったんですか、ゴウは器用なことができるんですね」
 ナナを起こさないように小声でゴウが笑った。
「どうかしたか、落とし穴に引っかかたみたいな顔をしてよ」
「ナナがくっついてきてしまって、動けません」
「そのまま休んでおけよ。どうせ今はここから出ていく用事もないんだし」
 用事と言っても良いのか微妙な話ではあるが。
「本当にロクを説得しなくても後悔はしないんですか、ナナやわたしに気を遣う必要もないかと」
「昨日も言ったがロク本人が決めたことに対して、横から口を挟むのは駄目なんだ。わたしのポリシー的にな」
「自己満足の結果だとしても、ロクが本当に壊されたら後悔すると思いますよ」
「なかなか辛口な意見だな。例にするのは悪いけどニイの人間に憧れているのと似たような感覚だよ。自己陶酔と言われようと曲げられないのさ」
 ポリシーや自己陶酔を強要するかしないか程度でニイやゴウやナナと犯人に違いはないのか。
 わたしからすれば基本的に同じようなものだし。
 だけど、自分の意固地を自己陶酔と言えるゴウは大人で割り切った考え方ができるのだろう。
「世の中は複雑すぎて、頭が変になりそうです」
「間違いなく、この館で一番ハチが自由そうにしてそうだけどな」
「わたしもカツ丼とイルカ丼のどちらを食べようか悩みますよ」
「最終的にカツ丼を選んだんじゃないか」
「苦渋の決断だったので、わたしもイルカ丼も涙を流してしまいました」
 しばらく、そんな会話をゴウとしているとお腹を締めつけられた。
「随分と楽しそうだね。わたしも会話に入れてくれないかい」
 寝ぼけているらしく、わたしの背中に頭をこすりつけながらナナがくぐもった声を出す。
「おはようございます、甘えたい期のナナ」
「おはよう。悪いね、抱き枕になってもらっていたようで」
「困った時はお互い様です。どうしても借りを返したいのであれば、わたしの借金を肩代わりしてください」
 軽く笑い、ナナがゆっくりと起き上がる。アンドロイドなのに低血圧なのか顔色が悪い。
「本の知識だけでは分からないこともあるようだ。感情がないのに罪悪感とは面白すぎる」
 読心術が使えないので、ナナの唇の動きを見ても独り言の内容は分からなかった。
「眠気覚ましにコーヒーでも飲むか」
 医療室なのに眠れなくなる飲み物をつくれるコーヒーサイフォンがある。ナナがゴウからマグカップを受け取った。
「ハチも飲むか」
「大量の砂糖があるなら飲めます」
 わたしも角砂糖を二つ入れてもらったコーヒーをゴウからもらう。前世が猫だったであろう舌が熱いからやめなさいと忠告をしてくる。
 いくつものチューブが刺さったイチの頭部にゴウが視線を向けた。
「切り取った頭部だけで死因とか分かるのか。ぶっ壊れた機械を調べているみたいで意味がなさそうに見えるんだが」
「言葉が足りなかったね。イチの死因というよりも彼女の脳味噌の情報をデータや文章にしている最中のほうが適切かな」
 一番知りたかった殺される直前のデータはあの音の影響のせいか駄目になっていたが、とナナがコーヒーを飲む。
「コンピュータウイルス的なものか、せめてニイの疑いぐらいは白黒はっきりすると思ったのに」
 ゴウが歯軋りをしていたが、すぐに冷静になってか大きく深呼吸をする。
「今はイチの頭部でなにを調べているんですか」
「イチを壊した原因である音の発生源である機械について。彼女の頭の中には見たことない部品が埋めこまれていたよ」
 数の多さとセキュリティが強力で時間がかかっているけどそろそろ。ナナの話を聞きたくないと主張するように赤いランプが輝く。
「とうとう、わたしたちにもお迎えが来たようで。地獄があったらまた会いましょう」
「セキュリティを突破したと教えてくれているだけだよ。ゴウも落ち着くんだ」
 空になったマグカップを洗い、ナナが赤いランプをくっつけた機械に移動していく。
 わたしもコーヒーカップを持ったまま回転椅子に座るナナの後ろから文字が羅列された画面を見た。
「今度は誰のラブレターでしょうか」
「ある意味では、イチからの手紙に違いないか」
 ハチは意外と詩人だよなと背後から聞こえたのと同時にゴウに頭を撫でられた。わたしの耳から出てきたなにかが床に転がる。
 ポエムだったので問題はなさそうだった。
「なんのデータから見るんだ」
「音の発生源である機械を取りつけられた日付からにしようと思っている。博士に改造されていたなら月曜日限定のはずだが」
 機械に指示したようで画面が一瞬だけ暗くなり、明るくなると文章の配置が変わっていた。
「なにかしらの改造をされた日付だけを抜粋したんだが、いずれも月曜日じゃないな」
 逆に月曜日だけは改造されてないらしい。と言いながらナナは画面を下へとスクロールさせている。
「そもそもじじい以外に、誰がそんな改造をできるんだよ」
「わたしが知る限りでは、博士にばれずにここまで改造できるのはシイだけ」
 口を開き、驚いた表情の状態でナナが固まる
「最後に改造された日を調べようと一番下までスクロールさせたんだけど論より証拠か」
 ナナに言われた通りに画面の文章を確認した。
「二日前ですよね、この日付は」
 わたしと同じことを考えたようでゴウも声を震わせている。
「改造できるのはシイしかいないとか言っていたが死んだ存在がそんなことできるのかよ」
「幽霊に足はないらしいが手はあるからね。工夫をすれば可能なんじゃないか」
 ナナの冗談は個人的にはあまり面白くなかった。
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