こどくな患者達

赤衣 桃

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三人目②

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 でも気のせいか博士の台詞もわたしの口から出てきている感じがした。もしかするとこちらの声帯を使っている可能性もあるのか。
 だったら存分に利用をしてもらわないと。
「博士はシイとイチが壊されたのを知ってますか」
「ハチからも聞いておきたいね。ニイやサンの時と違った印象を受けるかもしれないしさ」
 シイが自分の部屋で斧でばらばらにされて、イチがファッションルームで頭が痛くなったことを丁寧に博士に説明した。
「イチの頭が痛くなった原因はシイが作製した機械みたいです」
 斧についてもサンから聞いているはずだが伝えておく。博士は知らなかったようで驚いている。
「イチの頭痛の原因は誰から聞いたんですか、もしかしたらメンテナンスの時に気づいて」
「ナイフで心臓を突き刺される前に本人から聞いていただけだよ」
 破壊されたイチは動けないから、もう不可能。
「殺された人間は声を出せないんだから、最初から会話なんてできない」
「博士ではなく、わたしが知っている情報をあなたに言わせているだけでしたか」
 博士がすでにどうしようもないのを認めたくないようで発音の方法を忘れそうになった。記憶も消えそうになったが、なんとか我慢できた。
「博士は犯人に殺されてしまったんですね」
 クイズに正解をしたのに、博士が褒めてくれないからか晴れやかな気分にならない。不正解だったとしても同じ気持ちだろうし、世の中は不条理だな。
「わたしはこれからどうすれば良いんでしょうか」
「今までと同じようにハチの自由にすれば良いさ」
 わたしが死んだのを悲しんでくれているのかい、と腹話術のように博士に言わせている。
「アンドロイドに感情はありませんので、泣くことはできないかと」
「神様製の人間以外が涙を流しても良いとわたしは思うがね。この世界のルールなんて悪いことをしたら誰かに裁きを下されるだけなんだし」
 死んだ博士を利用してまで、わたしはなにを納得したいのだろう。どうやっても生き返らないのに。
 目の前にあるのは白衣を着ていて、ナイフで心臓を突き刺されているだけの遺体なんだから。
 すでに博士と呼ばれた生きている存在ではない。
「そういえば博士の名前を一回も聞いたことがありませんでしたね」
 興味がなかったのか、博士の名前を聞こうとするたびに忘れていたのか。
「どうして博士の名前を知りたかったんでしょう」
 博士の名前を知ったところでなにかが劇的に変化なんてしないのに。それでも当時のわたしは、彼の名前を聞きたかった。
「もう博士は喋れないみたいなので、ゴウとナナを連れてきます」
 椅子から立ち上がり、博士の目が乾かないようにしようと考えてかまぶたを閉じさせてもらった。
「ゆっくりと休んでください、博士」
 博士の唇にわたしは顔を近づけたが、どんな行為をするつもりだったのやら。
「好きだったと思いますよ、博士のことが」
 アンドロイドに感情はないが類似したものの存在ぐらいは願わせてもらいたい。乾いた目を潤すためか涙が出てくる。
「怒ってませんし泣いてないですが、博士を殺した犯人は見つけたいと心の底から」
 らしくない言葉を口にした気もするが忘れやすいわたしなので正常なのか。
「次は博士もアンドロイドになれますように」
 回れ右をして部屋の外に出たいのに博士の遺体をずっと見ていたいようだ。
 そんな思いのようなものもわたしだから、いつか忘れるのは確定していた。
 はやく忘れてくれれば、とっても楽なのに。
 お腹の中で心臓が暴れ回っているような感覚も、本当にそうなっているんだと勘違いをできて。
「わたしを忘れないでほしいね、できればさ」
 博士の唇が動いたように見えた。
 さっきみたいにわたしは博士の真似をしてない。部屋の外にいるゴウかナナが悪戯をしようにもここまではっきりと声は聞こえないはず。
 荒唐無稽だったっけ、変なのは分かっているし。魔法みたいな化学はあってもファンタジーが禁止のミステリー小説みたいな世界で。
 わたしの聞き間違いだった可能性のほうが高いんだろうけど。
「分かりました。わたしだから信じられないと思いますが、あなたのことを忘れないようにします」
 当然、博士は返事をくれなかった。
「心臓が取れても放置するわたしが博士が殺されたぐらいで動揺をするほうが変ですよね」
 変と恋は似てますね、言ってみただけですよ。
 わたしはアンドロイドなので博士に惚れても腫れても意味がないんですから。
 わたしは博士のことが好きだったんですかね。
 もう忘れてしまったので本当だったのかどうかも分かりませんが。
「ハルヨシさんは忘れません。あなたと約束をしたので、できるだけそうさせてもらいます」
 にしても博士の名前はなんだったんでしょう。
 劇的に変わってしまうわけじゃないのにこんなに知りたいと考えるとは、占いにでも利用するつもりだったのかな。
「わたしが死んでも、ハチは相変わらずだな」
 部屋の扉を開けようとした瞬間、また博士の声が聞こえた気がした。
 後ろを振り向こうとは全く考えず空耳だとわたしは確信していた。
「忘れっぽいのがわたしだけの個性ですからね」
 部屋の扉を開ける。窓から射しこむ紫の光をぼんやりと眩しく感じた。
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