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奇跡は絶対に起こらない②
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わたしが謝るとシイは笑った。同じように彼女も天然娘のシンプルすぎる考えを。
「和解したつもりじゃないわよね、ハチ」
本棚が積み重なったところから声がした。わたしの空耳なのかと思ったけどシイにも聞こえたようで歯軋りをさせている。
「無駄な抵抗はやめたら、どうにもならない出来事があるのはシイも知っているはず」
大量の本棚の隙間から出てきたロクが右足を引きずり、後ろからシイの肩を叩いた。
シイの腕や足の関節が激しく軋む。
「ハチはシイを許すかもしれないけれど、わたしはあなたのために犠牲になりたくないので」
「待て、お前の我儘でハチが悲しむことに」
「よく分かってくれているわね。わたしの我儘なんだからハチの考えなんて関係ないのよ」
あっかんべーをするロクの説得は無駄だと察知をしてかシイの目が血走っていく。
「ロクが助かったのは、ナナのおかげですか」
「ナナなら計画をしてそうだけど奇跡が起こったと考えるほうがドラマチックじゃないかしら」
多分シイとゴウに本棚を集中させたから、ロクが助かったんだとしても彼女の意見を信じるほうが。
「なにをしているんでしょうか」
「頭電話で動けないハチを移動させているのよ」
ロクの壊れかけの肉体から嫌な音が。血か油か、全く別の液体か分からないが彼女の頭や腕から黒色が溢れる。
「ハチが頭電話をやめれば、わたしもシイに殺されちゃう。最後のチャンスなのは分かっているわね」
「わたしを人間にするつもりだったら、やめてください」
シイはまだ諦めてないのか全身を震わせていた。
「生き残らせた結果、ハチが人間になるだけよ」
黒い液体を流しすぎたのかロクの動きが鈍い。
「どうして、わたしなんですか。今の状況だったらシイも簡単に殺せてロクが人間になることだって」
「誰かを助けようとするのがそんなに不思議なの、理由とか得とかメリットがないと良いことはしたらいけないのか」
双子だからかロクと話しているはずなのにゴウに怒られたような気分だ。
「わたしは善人でもなく腹黒だが、目の前で困った奴がいたら助けようとは思っている」
「ロクは良い人ですよ」
「今はな。この館にいた人間全員を犠牲にして生き残ろうとするようなアンドロイドだけは選ばれたらいけないんだ」
ロクの右足からは黒い液体が出ていて、床に線を引けるほどだったのに。
「ぶち殺す、ナナしか。あいつしかこんなふざけたことを考えられない」
床とロクの右足が削れる音を掻き消すようにシイが叫んだ。懸命に肉体を動かそうとしてか顔や胸、腕や足いたるところにヒビが入っていく。
黒い液体を全身に纏い、垂れ流すシイの姿は人間でもアンドロイドでもなく空想の世界にしかいないはずの化け物にしか見えない。
「ぶっ壊れろ、ナノマシン。壊れてあの二体のアンドロイドをこの館から消し去れ」
シイの命令をナノマシンが聞かないように設定をしてあったらしくなにも起こらなかった。
「ロク、ジャンケンしましょう。これからすることはわたしも分かりました。どっちが生き残るか真剣に」
「ジャンケンなんかするまでもなく、ハチしか生き残れない。忘れっぽい天然娘もナノマシンに命令をできないんだから」
冗談ですよね。わたしの言葉をロクが否定する。
「ナノマシン、ロクの動きを止めてください」
わたしの声が小さかったせいかナノマシンはロクの邪魔をしない。
違う、ロクの言ったことが本当で。
ロクが一生懸命すぎるからナノマシンも哀れだと思ってわたしの命令を無視したに違いない。
もしも嘘だったら、わたしがナノマシンに命令をできないようにロクは気絶をさせるはずだから。
「泣くなよ、ハチ。心配しなくてもちゃんと助けてやる」
「なんで、一緒に死なせてくれないんですか」
「全滅するより誰か一人でも生き残るほうが得で、偶然それがハチだっただけさ」
七階に下りる階段がすぐ近くにあるからかロクの動きが止まった。
「死なせてくれないなら、ロクを一生恨みますよ」
「ハチに一生覚えてもらえるとは光栄だね。いつか忘れてしまうとしても」
「絶対に忘れません。わたしにも意地があります」
こっちにも意地があるぞ、とロクが笑う。今まで見てきた中で一番楽しそうな気がする。
「絶対に忘れさせてやる。わたしだけじゃない他の皆にも手伝ってもらってこの館での出来事を全部。ハチの頭の中から消去する呪いをかけてやろう」
「アンドロイドだったら機能なのでは」
「ハチはこれから人間になるんだから呪いのほうが正しいに決まっている」
「わたしは人間には」
ロクに押されて、わたしは階段から落ちていく。
「生まれ変わったらまた遊ぼうね。ハヅキちゃん」
ナノマシンに残酷な命令の後、確かにロクはそう言ったように聞こえた。
爆風に包みこまれて壁や床にぶつかり、吹き飛ばされた色々なものが全身に当たる。腕や足にヒビが入っていて黒い液体が漏れていた。
「わたしの本当の名前を知っていたロクこそ、生き残っても良かったんじゃないですか」
わたしの質問に、床に転がるロクの破片は返事をしてくれない。
このままダンゴムシみたいになって開かない扉に行かなければ、わたしも皆に。
「ハチ、行かせない」
声が聞こえてきた。夢世界に通じている階段から微かにだったけど誰かが。
「まだいた。いたいた。死ね。壊れろ、人間になるのはわたしなんだから」
変わり果ててしまったシイが階段を下りている。頭電話は壊れていて、もう使えない。このままだとロクの犠牲が無駄になってしまう。
シイが動かなくなった。階段から転げ落ちて彼女がばらばらになる。もしかしたらすでに這うこともできない状態だったのにそれでも。
「分かりましたよ、シイ。代わりにわたしが人間になります」
シイの人間になりたいという思いだけは、どんなことよりも純粋だったのだろう。
それにわたしが人間にならないと全てが、犠牲が無駄になる。イチもニイもサンもシイもゴウもロクもナナも博士も生きていたと証明をしなければならない。
わたしは絶対に人間にならなければならない。
立ち上がれた。全身にヒビが入っていて胸に穴が空いて心臓をどこかに失くしたのに動ける。
「アンドロイドで良かった。人間だったらとっくに死んじゃっていたよ」
一階に着く頃には館の全てが炎に包まれていた。皆の部屋、未知の動物たち、博士を閉じこめていたところ、嫌な音が聞こえる彼女だけの場所、ファッションルーム、アスレチックルーム、図書館、夢が現実になる世界が黒焦げになっていく。
おそらく人間の精神の世界だし影響はないはず。
「行って参ります」
開かない扉のドアノブを力強く回す。
その先には。
「和解したつもりじゃないわよね、ハチ」
本棚が積み重なったところから声がした。わたしの空耳なのかと思ったけどシイにも聞こえたようで歯軋りをさせている。
「無駄な抵抗はやめたら、どうにもならない出来事があるのはシイも知っているはず」
大量の本棚の隙間から出てきたロクが右足を引きずり、後ろからシイの肩を叩いた。
シイの腕や足の関節が激しく軋む。
「ハチはシイを許すかもしれないけれど、わたしはあなたのために犠牲になりたくないので」
「待て、お前の我儘でハチが悲しむことに」
「よく分かってくれているわね。わたしの我儘なんだからハチの考えなんて関係ないのよ」
あっかんべーをするロクの説得は無駄だと察知をしてかシイの目が血走っていく。
「ロクが助かったのは、ナナのおかげですか」
「ナナなら計画をしてそうだけど奇跡が起こったと考えるほうがドラマチックじゃないかしら」
多分シイとゴウに本棚を集中させたから、ロクが助かったんだとしても彼女の意見を信じるほうが。
「なにをしているんでしょうか」
「頭電話で動けないハチを移動させているのよ」
ロクの壊れかけの肉体から嫌な音が。血か油か、全く別の液体か分からないが彼女の頭や腕から黒色が溢れる。
「ハチが頭電話をやめれば、わたしもシイに殺されちゃう。最後のチャンスなのは分かっているわね」
「わたしを人間にするつもりだったら、やめてください」
シイはまだ諦めてないのか全身を震わせていた。
「生き残らせた結果、ハチが人間になるだけよ」
黒い液体を流しすぎたのかロクの動きが鈍い。
「どうして、わたしなんですか。今の状況だったらシイも簡単に殺せてロクが人間になることだって」
「誰かを助けようとするのがそんなに不思議なの、理由とか得とかメリットがないと良いことはしたらいけないのか」
双子だからかロクと話しているはずなのにゴウに怒られたような気分だ。
「わたしは善人でもなく腹黒だが、目の前で困った奴がいたら助けようとは思っている」
「ロクは良い人ですよ」
「今はな。この館にいた人間全員を犠牲にして生き残ろうとするようなアンドロイドだけは選ばれたらいけないんだ」
ロクの右足からは黒い液体が出ていて、床に線を引けるほどだったのに。
「ぶち殺す、ナナしか。あいつしかこんなふざけたことを考えられない」
床とロクの右足が削れる音を掻き消すようにシイが叫んだ。懸命に肉体を動かそうとしてか顔や胸、腕や足いたるところにヒビが入っていく。
黒い液体を全身に纏い、垂れ流すシイの姿は人間でもアンドロイドでもなく空想の世界にしかいないはずの化け物にしか見えない。
「ぶっ壊れろ、ナノマシン。壊れてあの二体のアンドロイドをこの館から消し去れ」
シイの命令をナノマシンが聞かないように設定をしてあったらしくなにも起こらなかった。
「ロク、ジャンケンしましょう。これからすることはわたしも分かりました。どっちが生き残るか真剣に」
「ジャンケンなんかするまでもなく、ハチしか生き残れない。忘れっぽい天然娘もナノマシンに命令をできないんだから」
冗談ですよね。わたしの言葉をロクが否定する。
「ナノマシン、ロクの動きを止めてください」
わたしの声が小さかったせいかナノマシンはロクの邪魔をしない。
違う、ロクの言ったことが本当で。
ロクが一生懸命すぎるからナノマシンも哀れだと思ってわたしの命令を無視したに違いない。
もしも嘘だったら、わたしがナノマシンに命令をできないようにロクは気絶をさせるはずだから。
「泣くなよ、ハチ。心配しなくてもちゃんと助けてやる」
「なんで、一緒に死なせてくれないんですか」
「全滅するより誰か一人でも生き残るほうが得で、偶然それがハチだっただけさ」
七階に下りる階段がすぐ近くにあるからかロクの動きが止まった。
「死なせてくれないなら、ロクを一生恨みますよ」
「ハチに一生覚えてもらえるとは光栄だね。いつか忘れてしまうとしても」
「絶対に忘れません。わたしにも意地があります」
こっちにも意地があるぞ、とロクが笑う。今まで見てきた中で一番楽しそうな気がする。
「絶対に忘れさせてやる。わたしだけじゃない他の皆にも手伝ってもらってこの館での出来事を全部。ハチの頭の中から消去する呪いをかけてやろう」
「アンドロイドだったら機能なのでは」
「ハチはこれから人間になるんだから呪いのほうが正しいに決まっている」
「わたしは人間には」
ロクに押されて、わたしは階段から落ちていく。
「生まれ変わったらまた遊ぼうね。ハヅキちゃん」
ナノマシンに残酷な命令の後、確かにロクはそう言ったように聞こえた。
爆風に包みこまれて壁や床にぶつかり、吹き飛ばされた色々なものが全身に当たる。腕や足にヒビが入っていて黒い液体が漏れていた。
「わたしの本当の名前を知っていたロクこそ、生き残っても良かったんじゃないですか」
わたしの質問に、床に転がるロクの破片は返事をしてくれない。
このままダンゴムシみたいになって開かない扉に行かなければ、わたしも皆に。
「ハチ、行かせない」
声が聞こえてきた。夢世界に通じている階段から微かにだったけど誰かが。
「まだいた。いたいた。死ね。壊れろ、人間になるのはわたしなんだから」
変わり果ててしまったシイが階段を下りている。頭電話は壊れていて、もう使えない。このままだとロクの犠牲が無駄になってしまう。
シイが動かなくなった。階段から転げ落ちて彼女がばらばらになる。もしかしたらすでに這うこともできない状態だったのにそれでも。
「分かりましたよ、シイ。代わりにわたしが人間になります」
シイの人間になりたいという思いだけは、どんなことよりも純粋だったのだろう。
それにわたしが人間にならないと全てが、犠牲が無駄になる。イチもニイもサンもシイもゴウもロクもナナも博士も生きていたと証明をしなければならない。
わたしは絶対に人間にならなければならない。
立ち上がれた。全身にヒビが入っていて胸に穴が空いて心臓をどこかに失くしたのに動ける。
「アンドロイドで良かった。人間だったらとっくに死んじゃっていたよ」
一階に着く頃には館の全てが炎に包まれていた。皆の部屋、未知の動物たち、博士を閉じこめていたところ、嫌な音が聞こえる彼女だけの場所、ファッションルーム、アスレチックルーム、図書館、夢が現実になる世界が黒焦げになっていく。
おそらく人間の精神の世界だし影響はないはず。
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