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「·····え、ずっとって、いつから··········」
「覚えてねえよ、いつからとか。ずっとはずっとだ」

 ーー仁が、俺のことが好き?しかも、ずっと前から?……だが今更そんなことを言われても、俺は今翠が好きで……、
 突然の告白に目をぐるぐると回らせる俺を見る仁はふっと目を細め、くしゃっと俺の頭を撫でた。

「··········ま、さっき振られたからな。俺からはもう何も言わねえよ」

 立ち上がった仁は入口まで行くと、扉に手をかけた。そして部屋から出る直前にこちらにくるっと振り返ると、翠を鋭く睨みつけた。

「·····翠、俺が言えたことじゃないが、綾に無理をさせるなよ」
「いやホント、仁くんには言われたくないから」

 早く出てけと手で払う仕草をする翠にむっとする仁だったが、俺に顔を向けると
「学校に忘れ物したから取ってくる」
 ゆっくり休めよ、と軽く手を振った。

 バタン、と扉の閉まる音が部屋に響くと、俺と翠だけが取り残された室内が静寂に包まれた。もしかしたら仁は、俺と翠に気を使って出て行ったのだろうか。
 すると翠はそんな俺の考えをよそに綾人くん、ときゅっと俺の手を握った。
 仁とは違う、細く滑らかな翠の手。感触を確かめるように翠の手をにぎにぎと揉み、するっと撫でると翠はふはっと笑った。

「綾人くん、くすぐったいんだけど」

「可愛いなあ、もう」
 翠は俺を抱き寄せると、柑橘系の柔軟剤が混じった翠の香りに包まれ、それがなんだか凄く安心した。

「········綾人くん、話があるんだけどさ、」

 そうぽつりと呟く翠は、俺に全部話してくれた。
 俺のことが好きで、尚且つ俺と仁が両思いなのを分かっていて、自慰をしていた俺を脅したこと。俺を突き放した時に言った言葉は本心ではなかったこと。
 翠は俺のことを脅してしまった手前、いざ付き合うとなるとどうしても引け目を感じてしまったらしい。

「好みじゃないとか、気まぐれとか言ったのも、全部嘘なんだ」

「酷いこと言って本当にごめん」
 翠の声には力が入っていなく、背に回る手は小刻みに震えていた。

 ーー好き、だったのか。俺のこと。

 確かに驚いたが、今まで隠されていた翠の本心が見れたことが、不思議と嬉しかった。

「翠」

 顔を見せて欲しい、と俺の肩に顔を埋める翠の頭をぽんぽんと撫でると、翠はゆっくりと顔を上げた。
 赤茶色の瞳と視線が重なると、互いの息が交わるほどにその距離は近かった。
 静まり返った、二人だけの空間。互いの唇が重なるのに、そう時間はかからなかった。
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