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日常
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奴隷達の解放がはじまってからも、飛鳥は体術の特訓を辞めなかった。
かなり動けるようになったからと言っても、烈兎の軍の兵士やギン、アクセルに比べればその実力はまだまだだったからだ。
今日は烈兎の軍の奴隷解放運動がない休みの日。
アクセルが念話でギンとビオラを呼んで、飛鳥の特訓に付き合ってもらっていた。
ーーもっとも、ギンは呼ばなくてもしょっちゅうアクセル宅に来るのだが。ーー
日が落ちかけた草原に座る飛鳥に、ギンが声をかける。
「飛鳥、今日はもう帰ろう。」
「うん。……今日の晩御飯なににしようかな。」
彼女はそう言いながら立ち上がる。
「僕は飛鳥の作ったトマトスープが飲みたい。」
「食べてぇもんをいつでも誰かが作ってくれると思うなよぉ。」
「お前には言っていない。」
ギンとアクセルのやり取りを見ながら、狼の獣人ビオラが言う。
「私はねぇ、パスタが食べたーい。」
顎に手を当てて言う様は同性の飛鳥から見ても可愛らしい。
「パスタいいね。アクセル、今日はパスタとトマトスープにしよ。」
「おぉ、いーぞー。」
家路につこうと歩きだしたアクセルが、飛鳥の提案に頷く。
他の3人も彼に続いた。
「やったー!」
ビオラは歩きながら飛鳥に抱きつく。
そして彼女の頬をペロペロと舐めた。飛鳥は思わず身をよじる。
「あはは、ちょっと。くすぐったい、ビオラ。」
「ごめんごめーん! あ、でもよく考えたらビオラ人間とハグするの初めて! つるつるなのに温か~い! 唇も舐めていい?」
突拍子もないことを言いだす彼女に、飛鳥は一瞬目を丸くする。
「だめだよ、そういうことは好きな人とすることだからね。」
「えぇ、飛鳥のことは大好きだよ?」
「私もビオラのこと好きだけど、唇はだめ。」
「ふ~ん。」
納得していないらしいビオラに、ギンが呆れ顔で話しかける。
「ビオラらしいっちゃらしいけど……そういうの、誰彼かまわずするのはどうかと思う。」
「そんなことないよ、私だって一応選んでるもん。」
「あれで?」
「あれで!!」
ギンとビオラの会話を聞いてある疑問が浮かぶ飛鳥。
「え、ちょっと待って。ビオラはそんなに人とハグしてまわってるの?」
「うん。」
即答するギンに、ビオラが待ったをかける。
「そんなことないよ! このチームと、あと他のところの仲良い人達だけだもん! アクセルとはしたことないし! ね!?」
「あん? おー、そうだな。」
突然話を振られたアクセルが適当に言葉を返した。
「仲良い人達って、何人くらい?」
飛鳥の問いかけにビオラは指を折りながら考える。
「…う~ん…。それは、数えきれないけど。」
「……。」
飛鳥は言葉を失うも、彼女に対する使命感にかられ思わず口を開いた。
「ビオラ、あのね。ビオラみたいな可愛い子に抱きつかれたら誰だってその気になっちゃうの。だから自分を安売りしちゃダメなの。わかる?」
「安売り? そんなんじゃないよ。ちゃんと自分でこの人は好きだなって判断した人だけにしてるよ?」
「それは恋愛の好きじゃないでしょ? ジャックさんだって心の中では"グヘヘへへ"って思ってるかもしれないでしょ? "記号の内側"は分かんないんだよ?」
唐突にいつか話した内容が出てきたことに気付いたギンは楽しそうに笑った。
「ふっ。そうだね。記号の内側ね。」
それに反応するアクセル。
「なんだぁ、それ?」
「こっちの話。」
「あん?」
アクセルとギンが"教えろよコラ"、"ヤダね"とじゃれている横で、ビオラが難しい声を絞り出す。
「うーん。……でも。正直ビオラは、なんで自分から恋愛と友情の好きを区別しなきゃいけないのか分かんない……。相手が心の中で思ってることは、そりゃあ分かんないけど……。」
「それは……。」
「別にセックスしてるわけでもないし、私にとってはただ"会えて嬉しい"って気持ちを表してるだけ。でも……私もみんなみたいに、付き合った人としかハグしちゃダメなのかな?」
「なんか……ビオラが言うとそれも正しい気もしてきた……。」
飛鳥が片手で頭を抱える横で、ギンがギョッとして彼女を見る。
「えっ、ちょっと飛鳥。流されないでよ。」
「いや。私はしないけど、でも人間階層では国によってハグやキスが挨拶な所もあるくらいだし……。」
「そう! そんな感じなの!! 本当に挨拶みたいな感じ!」
「そうだよね~、なるほどね……。」
ビオラの話を聞けば聞くほど納得してしまう飛鳥。
「ビオラ、彼氏が欲しいとか思ったことないの。たぶん仲良くしてくれる友達がたくさんいるからだと思うし、それで良いと思ってたの。エッチがしたいと思ったこともないから、本当に他意はないんだけど……。」
「うーん……、ビオラがちゃんと相手を選んでしてることなら、無理にやめなくて良いのかもね。」
「本当? 良かった……。ビオラが変なのかと思った~。」
「ごめんね、余計なこと言った。」
「ううん、いいの。何となく、周りとは違うのかなって薄々感じてたし。」
「そっか。でも、そういうとこがビオラの良いところかもね。」
「やった~、褒められた!」
そう言いながら彼女は尻尾を振り、全身で喜びを表現している。
「相手が嫌がってる可能性も頭に入れておいて欲しいな。」
ギンが呆れながらビオラに言った。
「え~ギンは意地悪だな~。」
むくれるビオラ。しかし彼女は通りすがりのカップルを目で追って、すぐに新たな話題を思いついたようだ。
「あっ、そういえば知ってる? ロアとジャックさんに彼女が出来たんだって!」
「彼女?」
聞き返す飛鳥。
「前に奴隷解放で助けられた人間の女の人なんだって!」
「もしかして……。」
心当たりのある飛鳥に、ずいっとビオラが身を乗り出す。
「あっ! やっぱり知ってる? ロアが飛鳥は会ったことあるって言ってたもん!」
「じゃあ、たぶんアレックスさんかな。」
「へぇ! アレックスさんていうんだぁ! 良いなぁ、私も会ってみたい! でもジャックさんはともかく、ロアと付き合うのは大変そうじゃない?」
「どうかな。以外と優しいかもよ?」
飛鳥は、ロアがアレックスを見ていた時の優しい瞳を思い出しながら言う。
「えぇー! 想像できない!」
「ジャックとロアに……ってことは、プルーラルなのか?」
彼女達の話に、アクセルが割って入った。
「そうらしいよ!」
「へぇ、なんか最近そんな奴らと縁があんなぁ。」
「他にも会ったの? プルーラルの人と。」
ビオラの問いかけに答えるアクセル。
「烈兎の兵士の中にいんだよ。リタとグルーノと、ハルっていったっけか。」
「そんな事もあったね。」
思い出しながらそう言う飛鳥の横で、ギンが忌々しそうに呟く。
「僕はあのハルとかいう女嫌いだ。」
「へぇ、ギンが嫌いな奴を嫌いって言うの、珍しいね?」
きょとんととして言うビオラに、疑問符を浮かべるギン。
「そう?」
「だって嫌いな人多すぎてあえて言わない、って感じじゃん!」
「確かにそんな感じはあるな! ダハハハ!」
アクセルが豪快に笑った。
「……まぁ、遠からずも近からずって感じかな。」
彼らの話を聞きながら、飛鳥は微笑む。
空を見れば夕暮れに鳥達が羽ばたいていた。
彼女は充足感を感じながら市場へ向かって仲間と歩く。
この平和な日常が、壊れる日が近いことも知らずに……。
かなり動けるようになったからと言っても、烈兎の軍の兵士やギン、アクセルに比べればその実力はまだまだだったからだ。
今日は烈兎の軍の奴隷解放運動がない休みの日。
アクセルが念話でギンとビオラを呼んで、飛鳥の特訓に付き合ってもらっていた。
ーーもっとも、ギンは呼ばなくてもしょっちゅうアクセル宅に来るのだが。ーー
日が落ちかけた草原に座る飛鳥に、ギンが声をかける。
「飛鳥、今日はもう帰ろう。」
「うん。……今日の晩御飯なににしようかな。」
彼女はそう言いながら立ち上がる。
「僕は飛鳥の作ったトマトスープが飲みたい。」
「食べてぇもんをいつでも誰かが作ってくれると思うなよぉ。」
「お前には言っていない。」
ギンとアクセルのやり取りを見ながら、狼の獣人ビオラが言う。
「私はねぇ、パスタが食べたーい。」
顎に手を当てて言う様は同性の飛鳥から見ても可愛らしい。
「パスタいいね。アクセル、今日はパスタとトマトスープにしよ。」
「おぉ、いーぞー。」
家路につこうと歩きだしたアクセルが、飛鳥の提案に頷く。
他の3人も彼に続いた。
「やったー!」
ビオラは歩きながら飛鳥に抱きつく。
そして彼女の頬をペロペロと舐めた。飛鳥は思わず身をよじる。
「あはは、ちょっと。くすぐったい、ビオラ。」
「ごめんごめーん! あ、でもよく考えたらビオラ人間とハグするの初めて! つるつるなのに温か~い! 唇も舐めていい?」
突拍子もないことを言いだす彼女に、飛鳥は一瞬目を丸くする。
「だめだよ、そういうことは好きな人とすることだからね。」
「えぇ、飛鳥のことは大好きだよ?」
「私もビオラのこと好きだけど、唇はだめ。」
「ふ~ん。」
納得していないらしいビオラに、ギンが呆れ顔で話しかける。
「ビオラらしいっちゃらしいけど……そういうの、誰彼かまわずするのはどうかと思う。」
「そんなことないよ、私だって一応選んでるもん。」
「あれで?」
「あれで!!」
ギンとビオラの会話を聞いてある疑問が浮かぶ飛鳥。
「え、ちょっと待って。ビオラはそんなに人とハグしてまわってるの?」
「うん。」
即答するギンに、ビオラが待ったをかける。
「そんなことないよ! このチームと、あと他のところの仲良い人達だけだもん! アクセルとはしたことないし! ね!?」
「あん? おー、そうだな。」
突然話を振られたアクセルが適当に言葉を返した。
「仲良い人達って、何人くらい?」
飛鳥の問いかけにビオラは指を折りながら考える。
「…う~ん…。それは、数えきれないけど。」
「……。」
飛鳥は言葉を失うも、彼女に対する使命感にかられ思わず口を開いた。
「ビオラ、あのね。ビオラみたいな可愛い子に抱きつかれたら誰だってその気になっちゃうの。だから自分を安売りしちゃダメなの。わかる?」
「安売り? そんなんじゃないよ。ちゃんと自分でこの人は好きだなって判断した人だけにしてるよ?」
「それは恋愛の好きじゃないでしょ? ジャックさんだって心の中では"グヘヘへへ"って思ってるかもしれないでしょ? "記号の内側"は分かんないんだよ?」
唐突にいつか話した内容が出てきたことに気付いたギンは楽しそうに笑った。
「ふっ。そうだね。記号の内側ね。」
それに反応するアクセル。
「なんだぁ、それ?」
「こっちの話。」
「あん?」
アクセルとギンが"教えろよコラ"、"ヤダね"とじゃれている横で、ビオラが難しい声を絞り出す。
「うーん。……でも。正直ビオラは、なんで自分から恋愛と友情の好きを区別しなきゃいけないのか分かんない……。相手が心の中で思ってることは、そりゃあ分かんないけど……。」
「それは……。」
「別にセックスしてるわけでもないし、私にとってはただ"会えて嬉しい"って気持ちを表してるだけ。でも……私もみんなみたいに、付き合った人としかハグしちゃダメなのかな?」
「なんか……ビオラが言うとそれも正しい気もしてきた……。」
飛鳥が片手で頭を抱える横で、ギンがギョッとして彼女を見る。
「えっ、ちょっと飛鳥。流されないでよ。」
「いや。私はしないけど、でも人間階層では国によってハグやキスが挨拶な所もあるくらいだし……。」
「そう! そんな感じなの!! 本当に挨拶みたいな感じ!」
「そうだよね~、なるほどね……。」
ビオラの話を聞けば聞くほど納得してしまう飛鳥。
「ビオラ、彼氏が欲しいとか思ったことないの。たぶん仲良くしてくれる友達がたくさんいるからだと思うし、それで良いと思ってたの。エッチがしたいと思ったこともないから、本当に他意はないんだけど……。」
「うーん……、ビオラがちゃんと相手を選んでしてることなら、無理にやめなくて良いのかもね。」
「本当? 良かった……。ビオラが変なのかと思った~。」
「ごめんね、余計なこと言った。」
「ううん、いいの。何となく、周りとは違うのかなって薄々感じてたし。」
「そっか。でも、そういうとこがビオラの良いところかもね。」
「やった~、褒められた!」
そう言いながら彼女は尻尾を振り、全身で喜びを表現している。
「相手が嫌がってる可能性も頭に入れておいて欲しいな。」
ギンが呆れながらビオラに言った。
「え~ギンは意地悪だな~。」
むくれるビオラ。しかし彼女は通りすがりのカップルを目で追って、すぐに新たな話題を思いついたようだ。
「あっ、そういえば知ってる? ロアとジャックさんに彼女が出来たんだって!」
「彼女?」
聞き返す飛鳥。
「前に奴隷解放で助けられた人間の女の人なんだって!」
「もしかして……。」
心当たりのある飛鳥に、ずいっとビオラが身を乗り出す。
「あっ! やっぱり知ってる? ロアが飛鳥は会ったことあるって言ってたもん!」
「じゃあ、たぶんアレックスさんかな。」
「へぇ! アレックスさんていうんだぁ! 良いなぁ、私も会ってみたい! でもジャックさんはともかく、ロアと付き合うのは大変そうじゃない?」
「どうかな。以外と優しいかもよ?」
飛鳥は、ロアがアレックスを見ていた時の優しい瞳を思い出しながら言う。
「えぇー! 想像できない!」
「ジャックとロアに……ってことは、プルーラルなのか?」
彼女達の話に、アクセルが割って入った。
「そうらしいよ!」
「へぇ、なんか最近そんな奴らと縁があんなぁ。」
「他にも会ったの? プルーラルの人と。」
ビオラの問いかけに答えるアクセル。
「烈兎の兵士の中にいんだよ。リタとグルーノと、ハルっていったっけか。」
「そんな事もあったね。」
思い出しながらそう言う飛鳥の横で、ギンが忌々しそうに呟く。
「僕はあのハルとかいう女嫌いだ。」
「へぇ、ギンが嫌いな奴を嫌いって言うの、珍しいね?」
きょとんととして言うビオラに、疑問符を浮かべるギン。
「そう?」
「だって嫌いな人多すぎてあえて言わない、って感じじゃん!」
「確かにそんな感じはあるな! ダハハハ!」
アクセルが豪快に笑った。
「……まぁ、遠からずも近からずって感じかな。」
彼らの話を聞きながら、飛鳥は微笑む。
空を見れば夕暮れに鳥達が羽ばたいていた。
彼女は充足感を感じながら市場へ向かって仲間と歩く。
この平和な日常が、壊れる日が近いことも知らずに……。
応援ありがとうございます!
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