その付喪神、鑑定します!

陽炎氷柱

文字の大きさ
38 / 87
第四章 犯人を捕らえろ!

38.寄木細工

しおりを挟む
「着物の付喪神!」
「!来てくれたのか!?」


 颯馬くんがパッと顔を輝かせ、こちらに寄ってくる。
 私はその嬉しそうな様子に少しだけ安心して、できるだけ明るい声を意識して着物の付喪神に声をかける。


「探してくださってありがとうございます。本当に助かりました」
『ほれ、これが千代の寄木細工じゃ。しばらく人の手を離れていたせいか、少しばかり弱っておるがのう』


 ずいっと差し出された寄木細工を落とさないように両手で受け取る。
 私の両手いっぱいにちょうど収まる大きさで、所々ささくれ立っていた。その使い込まれた寄木細工の上には、親指サイズの妖精が横になっていた。


(この子が寄木細工の付喪神かな?小さいし弱っているけど、ちゃんと人型だ……!)


 妖精の背中にはトンボのような翅があり、全体的に黄色っぽい。


「うわっ、急に寄木細工が雪乃の手に現れたぞ!?」
「こればかりは何回見ても驚くなあ」


 着物の付喪神の手から離れたから、寄木細工の存在はみんなにも見えるようになった。その上にいる付喪神は見えていないようだけど。
 少し離れたところで見ていた桜二くんも目を丸くしている。


『ふう。久しぶりに術を使うと、すぐに疲れてかなわんなあ。妾は着物に帰って少し休む。何かあれば起こすとよい』


 付喪神は長生きだからか、基本的にはマイペースだ。
 着物の付喪神は用事だけ終わらせると、さっさと壁をすり抜けて帰ってしまった。欲を言えばこのまま最後まで付き合ってほしかったけど、さすがに厳しいか。


(でも、本当に弱ってるな……。すぐに終わらせるからね!)


 半分眠りかけている付喪神に謝りつつ、そっと声をかける。
 反応が返ってこないので、今度はちょんちょんと控えめに突っつく。


『……うっ』


 付喪神は小さなうめきを上げると、ゆっくりと体を起こし。


『……あれ、ここは』
「辛いのに、起こしてごめんね」
『ひゃ!?あ、あなたはだれ!?』


 私の顔を見た瞬間、顔を真っ青にして怯えた。付喪神に怯えられたのは初めてだ。


(……あ、そっか。この子はずっと人から隠れていたから)


 付喪神は人に愛されて生まれた存在なので、基本的には人に好意的に接してくれる。だけど、この子はずっと周りを警戒しなければならなかった。
 私は少し考えて、付喪神が乗っている寄木細工を颯馬くんに向けた。千代さんとよく遊んだって言っていたし、きっと颯馬くんの顔なら覚えているはずだ。


『わ、わ、っそうまさま!』


 効果はてきめんだった。付喪神はパッと顔を赤らめ、嬉しそうに颯馬くんの名前を呼んだ。突然鼻先に寄木細工を突き付けられた颯馬くんはキョトンとしているけど。


「私は颯馬くんの……仲間です。私たちは、貴方が必死に守ってきた鍵を狙う犯人を捜しています」


 そう言って、少しドキドキしながらそっと颯馬君の顔色を窺った。仲間といった時も、少しも嫌そうな顔をしていない。よ、よかった……。


『なかま、わかる!かぎ、だいじ!』


 着物の付喪神が言っていた通り、寄木細工の付喪神はかなり弱い。その言葉はおぼつかなく、単語を話すのが精いっぱいのようだ。


「この子、あんまり難しいことは話せないみたい。たぶん、犯人の名前を聞くのが精いっぱいだと思う」
「いや、それで十分だ。他のことは捕まえて直接本人に聞く」


 とはいえ、私たちの会話は普通に理解できるようだ。付喪神は大きくうなずくと、単語を並べていく。


『かぎ、しった、たまたま』


 認識に差が出ないように、私は付喪神の言葉をそのまま繰り替えす。すると、今まで黙っていた桜二くんが口を開いた。


「鍵の存在を知ったのは、偶然ってことかな?」
『うん!あるじのせわ、たまたまみた』
「……!それは」


 このあとに続く言葉が予想できてしまった。
 急に口ごもった私に、アキくんが心配そうに声をかけてくれた。


「ユキちゃん?大丈夫?」
「――うん。桜二くんの推測は正解だって」
「その主って、誰の事なんだ?」
『ちよさま』


 この時だけは、私しかこの声が聞こえていないことを呪った。だって、こんなのはほぼ答えを言っているようなものだ。


(言いにくいな……けど)


 それは、身を削ってまで頑張った付喪神に失礼だ。彼女の気持ちを伝えられるのは私しかいないのに、その努力を踏みにじることはできない。


「……千代様、だって」
「じゃあ、鍵を狙ってるのは、誰だ?」
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

未来スコープ  ―キスした相手がわからないって、どういうこと!?―

米田悠由
児童書・童話
「あのね、すごいもの見つけちゃったの!」 平凡な女子高生・月島彩奈が偶然手にした謎の道具「未来スコープ」。 それは、未来を“見る”だけでなく、“課題を通して導く”装置だった。 恋の予感、見知らぬ男子とのキス、そして次々に提示される不可解な課題── 彩奈は、未来スコープを通して、自分の運命に深く関わる人物と出会っていく。 未来スコープが映し出すのは、甘いだけではない未来。 誰かを想う気持ち、誰かに選ばれない痛み、そしてそれでも誰かを支えたいという願い。 夢と現実が交錯する中で、彩奈は「自分の気持ちを信じること」の意味を知っていく。 この物語は、恋と選択、そしてすれ違う想いの中で、自分の軸を見つけていく少女たちの記録です。 感情の揺らぎと、未来への確信が交錯するSFラブストーリー、シリーズ第2作。 読後、きっと「誰かを想うとはどういうことか」を考えたくなる一冊です。

レイルーク公爵令息は誰の手を取るのか

宮崎世絆
児童書・童話
うたた寝していただけなのに異世界転生してしまった。 公爵家の長男レイルーク・アームストロングとして。 あまりにも美しい容姿に高い魔力。テンプレな好条件に「僕って何かの主人公なのかな?」と困惑するレイルーク。 溺愛してくる両親や義姉に見守られ、心身ともに成長していくレイルーク。 アームストロング公爵の他に三つの公爵家があり、それぞれ才色兼備なご令嬢三人も素直で温厚篤実なレイルークに心奪われ、三人共々婚約を申し出る始末。 十五歳になり、高い魔力を持つ者のみが通える魔術学園に入学する事になったレイルーク。 しかし、その学園はかなり特殊な学園だった。 全員見た目を変えて通わなければならず、性格まで変わって入学する生徒もいるというのだ。 「みんな全然見た目が違うし、性格まで変えてるからもう誰が誰だか分からないな。……でも、学園生活にそんなの関係ないよね? せっかく転生してここまで頑張って来たんだし。正体がバレないように気をつけつつ、学園生活を思いっきり楽しむぞ!!」 果たしてレイルークは正体がバレる事なく無事卒業出来るのだろうか?  そしてレイルークは誰かと恋に落ちることが、果たしてあるのか? レイルークは誰の手(恋)をとるのか。 これはレイルークの半生を描いた成長物語。兼、恋愛物語である(多分) ⚠︎ この物語は『レティシア公爵令嬢は誰の手を取るのか』の主人公の性別を逆転した作品です。 物語進行は同じなのに、主人公が違うとどれ程内容が変わるのか? を検証したくて執筆しました。 『アラサーと高校生』の年齢差や性別による『性格のギャップ』を楽しんで頂けたらと思っております。 ただし、この作品は中高生向けに執筆しており、高学年向け児童書扱いです。なのでレティシアと違いまともな主人公です。 一部の登場人物も性別が逆転していますので、全く同じに物語が進行するか正直分かりません。 もしかしたら学園編からは全く違う内容になる……のか、ならない?(そもそも学園編まで書ける?!)のか……。 かなり見切り発車ですが、宜しくお願いします。

お姫様の願い事

月詠世理
児童書・童話
赤子が生まれた時に母親は亡くなってしまった。赤子は実の父親から嫌われてしまう。そのため、赤子は血の繋がらない女に育てられた。 決められた期限は十年。十歳になった女の子は母親代わりに連れられて城に行くことになった。女の子の実の父親のもとへ——。女の子はさいごに何を願うのだろうか。

生贄姫の末路 【完結】

松林ナオ
児童書・童話
水の豊かな国の王様と魔物は、はるか昔にある契約を交わしました。 それは、姫を生贄に捧げる代わりに国へ繁栄をもたらすというものです。 水の豊かな国には双子のお姫様がいます。 ひとりは金色の髪をもつ、活発で愛らしい金のお姫様。 もうひとりは銀色の髪をもつ、表情が乏しく物静かな銀のお姫様。 王様が生贄に選んだのは、銀のお姫様でした。

村から追い出された変わり者の僕は、なぜかみんなの人気者になりました~異種族わちゃわちゃ冒険ものがたり~

楓乃めーぷる
児童書・童話
グラム村で変わり者扱いされていた少年フィロは村長の家で小間使いとして、生まれてから10年間馬小屋で暮らしてきた。フィロには生き物たちの言葉が分かるという不思議な力があった。そのせいで同年代の子どもたちにも仲良くしてもらえず、友達は森で助けた赤い鳥のポイと馬小屋の馬と村で飼われている鶏くらいだ。 いつもと変わらない日々を送っていたフィロだったが、ある日村に黒くて大きなドラゴンがやってくる。ドラゴンは怒り村人たちでは歯が立たない。石を投げつけて何とか追い返そうとするが、必死に何かを訴えている. 気になったフィロが村長に申し出てドラゴンの話を聞くと、ドラゴンの巣を荒らした者が村にいることが分かる。ドラゴンは知らぬふりをする村人たちの態度に怒り、炎を噴いて暴れまわる。フィロの必死の説得に漸く耳を傾けて大人しくなるドラゴンだったが、フィロとドラゴンを見た村人たちは、フィロこそドラゴンを招き入れた張本人であり実は魔物の生まれ変わりだったのだと決めつけてフィロを村を追い出してしまう。 途方に暮れるフィロを見たドラゴンは、フィロに謝ってくるのだがその姿がみるみる美しい黒髪の女性へと変化して……。 「ドラゴンがお姉さんになった?」 「フィロ、これから私と一緒に旅をしよう」 変わり者の少年フィロと異種族の仲間たちが繰り広げる、自分探しと人助けの冒険ものがたり。 ・毎日7時投稿予定です。間に合わない場合は別の時間や次の日になる場合もあります。

転んでもタダでは起きないシンデレラ

夕景あき
児童書・童話
ネズミから人の姿に戻る為には、シンデレラに惚れてもらうしかないらしい!? 果たして、シンデレラはイケメン王子ではなくネズミに惚れてくれるのだろうか?·····いや、どう考えても無理だよ!というお話。

クールな幼なじみの許嫁になったら、甘い溺愛がはじまりました

藤永ゆいか
児童書・童話
中学2年生になったある日、澄野星奈に許嫁がいることが判明する。 相手は、頭が良くて運動神経抜群のイケメン御曹司で、訳あって現在絶交中の幼なじみ・一之瀬陽向。 さらに、週末限定で星奈は陽向とふたり暮らしをすることになって!? 「俺と許嫁だってこと、絶対誰にも言うなよ」 星奈には、いつも冷たくてそっけない陽向だったが……。 「星奈ちゃんって、ほんと可愛いよね」 「僕、せーちゃんの彼氏に立候補しても良い?」 ある時から星奈は、バスケ部エースの水上虹輝や 帰国子女の秋川想良に甘く迫られるようになり、徐々に陽向にも変化が……? 「星奈は可愛いんだから、もっと自覚しろよ」 「お前のこと、誰にも渡したくない」 クールな幼なじみとの、逆ハーラブストーリー。

星降る夜に落ちた子

千東風子
児童書・童話
 あたしは、いらなかった?  ねえ、お父さん、お母さん。  ずっと心で泣いている女の子がいました。  名前は世羅。  いつもいつも弟ばかり。  何か買うのも出かけるのも、弟の言うことを聞いて。  ハイキングなんて、来たくなかった!  世羅が怒りながら歩いていると、急に体が浮きました。足を滑らせたのです。その先は、とても急な坂。  世羅は滑るように落ち、気を失いました。  そして、目が覚めたらそこは。  住んでいた所とはまるで違う、見知らぬ世界だったのです。  気が強いけれど寂しがり屋の女の子と、ワケ有りでいつも諦めることに慣れてしまった綺麗な男の子。  二人がお互いの心に寄り添い、成長するお話です。  全年齢ですが、けがをしたり、命を狙われたりする描写と「死」の表現があります。  苦手な方は回れ右をお願いいたします。  よろしくお願いいたします。  私が子どもの頃から温めてきたお話のひとつで、小説家になろうの冬の童話際2022に参加した作品です。  石河 翠さまが開催されている個人アワード『石河翠プレゼンツ勝手に冬童話大賞2022』で大賞をいただきまして、イラストはその副賞に相内 充希さまよりいただいたファンアートです。ありがとうございます(^-^)!  こちらは他サイトにも掲載しています。

処理中です...