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第五章 おもい
51.寄木細工のその後
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「地下なんて、宝物庫なんて、まったくなかったんだ」
「えっ」
思わず声が裏返ってしまった。
「鍵はあっけないくらい簡単に開いたさ。それで中をぐるっと回ったんだけど、埃が積もってることを除けば他の部屋と全く同じだったんだ」
「じゃ、じゃあ、噂は……」
「金に目がくらんだ大人たちの、ただの噂だったってことだ」
静に落とされた言葉に、私は何も言えなかった。
つまり、葵さんの裏切りはただ颯馬くんたちを傷つけただけ……。
「ひいばあちゃんは、俺が一人で居られる場所をくれたんだ。辛いことがあったとき、いつもひいばあちゃんのとこに行ってたから、心配してくれたんだろう」
そういった次の瞬間、颯馬くんは顔を上げる。
その瞳は鮮やかに輝いていて、私はこれ以上この話に触れるべきではないと感じた。
もう颯馬くんなりに考え抜いたのだろう。
「だから、あの鍵はもう一度寄木細工にしまって、父さんに預けたんだ」
んん?
話の方向が変わったような。
「今の俺が持ってても、またあんなことになったらひいばあちゃんと付喪神に顔向けできない。ちゃんと自分で管理できるようになるまでお預けだ。それに」
そう言い切ると、颯馬くんは気恥ずかしそうに私たちを見回した。
「俺にはお前たちがいるから、もう一人で隠れる必要はないしな」
と、大変爽やかに笑った。
桜二くんは顔を抑えた。肩が小刻みに震えているので、照れているのではなく笑いをこらえているのだろう。
「うわ、よくそんなこと面と向かって言えるね」
アキくんは腕をさすったが、嫌とは言わなかった。
話が落ち着いた頃を見計らって、私はずっと気になっていたことを口にした。
「そういえば、寄木細工の中になにか入ってなかった?」
お供え物として、私が置いていった飴だ。袋には入ってるけど、さすがに長い間入れ続けるのはまずいだろう。
(寄木細工は木だから、虫に食われちゃうかも)
しかし、颯馬くんは小さく首を傾げた。真っ黒な髪がさらさらと流れる。
「いや、何もなかったぞ。中になんか忘れたのか?」
(……そっか、寄木細工の子は起きたんだ。飴は貰ってくれたんだね)
なんだか全部上手くいった気がして、私は晴れやかな気持ちで笑った。
「――ううん、気のせいだったかも」
ちょうどそこで、車は静かに止まった。いつの間にか学校についたらしい。
みんなの後にの続いて車を降りると、氷のような声が聞こえた。
「――あら、七瀬さん?」
ギギギという擬音がつけられそうなくらいゆっくり声がした方を見れば、そこには綾小路さんの姿があった。
「えっ」
思わず声が裏返ってしまった。
「鍵はあっけないくらい簡単に開いたさ。それで中をぐるっと回ったんだけど、埃が積もってることを除けば他の部屋と全く同じだったんだ」
「じゃ、じゃあ、噂は……」
「金に目がくらんだ大人たちの、ただの噂だったってことだ」
静に落とされた言葉に、私は何も言えなかった。
つまり、葵さんの裏切りはただ颯馬くんたちを傷つけただけ……。
「ひいばあちゃんは、俺が一人で居られる場所をくれたんだ。辛いことがあったとき、いつもひいばあちゃんのとこに行ってたから、心配してくれたんだろう」
そういった次の瞬間、颯馬くんは顔を上げる。
その瞳は鮮やかに輝いていて、私はこれ以上この話に触れるべきではないと感じた。
もう颯馬くんなりに考え抜いたのだろう。
「だから、あの鍵はもう一度寄木細工にしまって、父さんに預けたんだ」
んん?
話の方向が変わったような。
「今の俺が持ってても、またあんなことになったらひいばあちゃんと付喪神に顔向けできない。ちゃんと自分で管理できるようになるまでお預けだ。それに」
そう言い切ると、颯馬くんは気恥ずかしそうに私たちを見回した。
「俺にはお前たちがいるから、もう一人で隠れる必要はないしな」
と、大変爽やかに笑った。
桜二くんは顔を抑えた。肩が小刻みに震えているので、照れているのではなく笑いをこらえているのだろう。
「うわ、よくそんなこと面と向かって言えるね」
アキくんは腕をさすったが、嫌とは言わなかった。
話が落ち着いた頃を見計らって、私はずっと気になっていたことを口にした。
「そういえば、寄木細工の中になにか入ってなかった?」
お供え物として、私が置いていった飴だ。袋には入ってるけど、さすがに長い間入れ続けるのはまずいだろう。
(寄木細工は木だから、虫に食われちゃうかも)
しかし、颯馬くんは小さく首を傾げた。真っ黒な髪がさらさらと流れる。
「いや、何もなかったぞ。中になんか忘れたのか?」
(……そっか、寄木細工の子は起きたんだ。飴は貰ってくれたんだね)
なんだか全部上手くいった気がして、私は晴れやかな気持ちで笑った。
「――ううん、気のせいだったかも」
ちょうどそこで、車は静かに止まった。いつの間にか学校についたらしい。
みんなの後にの続いて車を降りると、氷のような声が聞こえた。
「――あら、七瀬さん?」
ギギギという擬音がつけられそうなくらいゆっくり声がした方を見れば、そこには綾小路さんの姿があった。
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