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第六章 新一年生オリエンテーション
62.やっぱり、一緒に
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「桜二はいい奴だが、こんな性格だから友だちが少ないんだ」
「ちょっと、友だちが少ないんじゃなくて、親しくする人を見極めてるの! もう少し言葉を選んでくれない??」
「? 友だちが少ないっていうのは本当のことだろ?」
「……今のは白鳥に同情するよ」
その通りだったのか、桜二くんは悔しそうに目を細めて黙り込んだ。
悪意無き気遣いこそより人を傷つけることもあると、私が学んだ瞬間だった。
「それに、桜二は意外と繊細なところもあるからな。事情が事情なだけに、他のメンバーに気疲れするのは目に見えてる」
ため息交じりの颯馬くんに、桜二くんがわずかに眉をひそめてから目をそらす。
私も何となく心当たりがあるな、と考えたところで、ちょうど颯馬くんがこちらをまっすぐ見つめた。
「だから雪乃と秋兎がいてくれたら、桜二も本気で楽しめると思ったんだ」
これも、桜二くんは否定しなかった。その事実が嬉しくて、胸の奥がじんわりと暖かくなる。
同時に自分のことばかり考えて、颯馬くんのお誘いを断った罪悪感が顔を出す。
「ごめんね。そうとは知らなくて、私、あっさり断っちゃって……」
「そんな重く考えなくていいよ」
落ち込む私に、桜二くんが小さく笑いかける。
「ああ言ったけど、ソウが言うほど参ってないから。こうなったのも、身から出た錆っていうか」
「桜二くんが何かしたの?」
「ん-。うちって放任主義だから、結構好きにやらせてもらってるんだよね。それでオレが迷惑かけてる時もあるし、両親が急に何か始めても文句言えないっていうか……ま、お互い様ってわけ」
悪戯っぽく片目をつむってみせた桜二くん。
その隣で辛そうに眉を寄せる颯馬くんとの対比が鮮やかだ。
(仕方ないとか、私にはとてもそんなふうに思えない……)
英蘭学園はエスカレーター式の学校だから、何もなければ大学まで同じ学校に通うことになる。
同級生は代わり映えしないし、他と比べたら学校行事の貴重さは低いと感じる人もいるだろうけど……それでも中学一年生の林間学校はこの一度きりだ。
「そもそもオレはソウの意見に反対だしね。オレの都合で、ユキたちの楽しみまで奪うつもりはないよ」
わざと笑い飛ばせるような口調に反して、桜二くんの声には寂しさがにじんでいた。
首を振ったはずみで、日本では珍しい淡い金色の髪がその顔にかかって影を作る。長いまつ毛を伏せて微笑む姿は童話の中の王子のようで、あまりもの儚さに言葉を失った。
まだ知り合って間もないけど、弱気な姿にらしくないと私ですら思うほどだ。だからこそ颯馬くんが必死に頑張っているのだろう。
(私も、桜二くんにはちゃんと楽しんでほしいな)
そうと決まれば、私がやるべきことは一つ。
「颯馬くん。さっきのお誘いって、いつまで有効?」
「グループのか? それなら当日まで大歓迎だが……」
急に方向転換した私に、颯馬くんが戸惑いを見せつつも答えてくれた。
「さっき断ったことは、なしにしてもいいかな」
「ユキちゃん?」
私の意図を察したのか、アキくんが困ったように眉を下げた。
その向かいで桜二くんは目を丸くし、颯馬くんも驚いたように私を見つめる。
私は少しだけ息を吸い込んで、覚悟を決めて口を開いた。
「同じグループの人たちに聞いてから、改めて返事したいの。……ちょっと時間かかるけど、もしみんながいいって言ってくれたら、そのときは桜二くんたちと一緒に回りたい」
「! いいのか、雪乃」
「オレは嬉しいけど、邪魔じゃない?」
おずおずと、でも嬉しそうに表情を明るくする颯馬くんたち。
一方で声を落として、アキくんは私だけに聞こえるように話しかける。
「大変な時だけど、ユキちゃんはいいの?」
あえて主語を抜いているが、間違いなく綾小路さんのことだろう。あの冷たい視線を思い出すだけで背筋に悪寒が走るが、それよりも桜二くんの方が大事だ。
(スタンプラリーはみんな違うルートになるし、町全体に広がっているもの。気を付けていれば、うまくすれ違えるはず)
スマホでみんなに連絡をして、一緒にそのこともアキくんに個人メッセージで説明する。
『秋兎:わかった。でも無理はしないでね。あとで怖くなったら、いつでも代わりに断わってあげるから』
『雪乃:ありがとう、その時はよろしくね』
安心させるように笑ってみせれば、アキくんは仕方なさそうにため息をつく。
同じく思うところがあったのか、意外にもすんなり納得してくれた。
(あとは他のみんなの反応だけど……前向きに考えてくれるといいな)
颯馬くんも桜二くんも人気者だが、女子のファンが怖いからと実際に関りたくない人もいる。特に私たちのクラスには綾小路さんがいるから、余計に気を遣うだろう。
予定よりも大変なことになったと悩みながらも、私はそれでも意外と楽しみに林間学校の日に備えた。
「ちょっと、友だちが少ないんじゃなくて、親しくする人を見極めてるの! もう少し言葉を選んでくれない??」
「? 友だちが少ないっていうのは本当のことだろ?」
「……今のは白鳥に同情するよ」
その通りだったのか、桜二くんは悔しそうに目を細めて黙り込んだ。
悪意無き気遣いこそより人を傷つけることもあると、私が学んだ瞬間だった。
「それに、桜二は意外と繊細なところもあるからな。事情が事情なだけに、他のメンバーに気疲れするのは目に見えてる」
ため息交じりの颯馬くんに、桜二くんがわずかに眉をひそめてから目をそらす。
私も何となく心当たりがあるな、と考えたところで、ちょうど颯馬くんがこちらをまっすぐ見つめた。
「だから雪乃と秋兎がいてくれたら、桜二も本気で楽しめると思ったんだ」
これも、桜二くんは否定しなかった。その事実が嬉しくて、胸の奥がじんわりと暖かくなる。
同時に自分のことばかり考えて、颯馬くんのお誘いを断った罪悪感が顔を出す。
「ごめんね。そうとは知らなくて、私、あっさり断っちゃって……」
「そんな重く考えなくていいよ」
落ち込む私に、桜二くんが小さく笑いかける。
「ああ言ったけど、ソウが言うほど参ってないから。こうなったのも、身から出た錆っていうか」
「桜二くんが何かしたの?」
「ん-。うちって放任主義だから、結構好きにやらせてもらってるんだよね。それでオレが迷惑かけてる時もあるし、両親が急に何か始めても文句言えないっていうか……ま、お互い様ってわけ」
悪戯っぽく片目をつむってみせた桜二くん。
その隣で辛そうに眉を寄せる颯馬くんとの対比が鮮やかだ。
(仕方ないとか、私にはとてもそんなふうに思えない……)
英蘭学園はエスカレーター式の学校だから、何もなければ大学まで同じ学校に通うことになる。
同級生は代わり映えしないし、他と比べたら学校行事の貴重さは低いと感じる人もいるだろうけど……それでも中学一年生の林間学校はこの一度きりだ。
「そもそもオレはソウの意見に反対だしね。オレの都合で、ユキたちの楽しみまで奪うつもりはないよ」
わざと笑い飛ばせるような口調に反して、桜二くんの声には寂しさがにじんでいた。
首を振ったはずみで、日本では珍しい淡い金色の髪がその顔にかかって影を作る。長いまつ毛を伏せて微笑む姿は童話の中の王子のようで、あまりもの儚さに言葉を失った。
まだ知り合って間もないけど、弱気な姿にらしくないと私ですら思うほどだ。だからこそ颯馬くんが必死に頑張っているのだろう。
(私も、桜二くんにはちゃんと楽しんでほしいな)
そうと決まれば、私がやるべきことは一つ。
「颯馬くん。さっきのお誘いって、いつまで有効?」
「グループのか? それなら当日まで大歓迎だが……」
急に方向転換した私に、颯馬くんが戸惑いを見せつつも答えてくれた。
「さっき断ったことは、なしにしてもいいかな」
「ユキちゃん?」
私の意図を察したのか、アキくんが困ったように眉を下げた。
その向かいで桜二くんは目を丸くし、颯馬くんも驚いたように私を見つめる。
私は少しだけ息を吸い込んで、覚悟を決めて口を開いた。
「同じグループの人たちに聞いてから、改めて返事したいの。……ちょっと時間かかるけど、もしみんながいいって言ってくれたら、そのときは桜二くんたちと一緒に回りたい」
「! いいのか、雪乃」
「オレは嬉しいけど、邪魔じゃない?」
おずおずと、でも嬉しそうに表情を明るくする颯馬くんたち。
一方で声を落として、アキくんは私だけに聞こえるように話しかける。
「大変な時だけど、ユキちゃんはいいの?」
あえて主語を抜いているが、間違いなく綾小路さんのことだろう。あの冷たい視線を思い出すだけで背筋に悪寒が走るが、それよりも桜二くんの方が大事だ。
(スタンプラリーはみんな違うルートになるし、町全体に広がっているもの。気を付けていれば、うまくすれ違えるはず)
スマホでみんなに連絡をして、一緒にそのこともアキくんに個人メッセージで説明する。
『秋兎:わかった。でも無理はしないでね。あとで怖くなったら、いつでも代わりに断わってあげるから』
『雪乃:ありがとう、その時はよろしくね』
安心させるように笑ってみせれば、アキくんは仕方なさそうにため息をつく。
同じく思うところがあったのか、意外にもすんなり納得してくれた。
(あとは他のみんなの反応だけど……前向きに考えてくれるといいな)
颯馬くんも桜二くんも人気者だが、女子のファンが怖いからと実際に関りたくない人もいる。特に私たちのクラスには綾小路さんがいるから、余計に気を遣うだろう。
予定よりも大変なことになったと悩みながらも、私はそれでも意外と楽しみに林間学校の日に備えた。
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