その付喪神、鑑定します!

陽炎氷柱

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第七章 いざ、林間学校へ!

63.一日目、昼

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 とうとうやってきた、林間学校の一日目。
 朝から新幹線に揺られて、私たちは宿泊予定のリゾートホテルに到着した。
 見晴らしの良い山頂に建っているホテルは、自然にうまく溶け込んでいるのに華やかな雰囲気を持っている。事前に調べてみたけど、一般家庭だったら泊まろうとも思わないほどのお値段だった。

 そんな立派なリゾートホテルを二階分貸し切りにして、私たちや教員の二泊三日に渡る林間学校の活動拠点になる。


(このホテルを経営しているのが英蘭学園の卒業生、っていうのは颯馬くんから聞いたけど……それにしたって無償でこんな素敵な場所を貸し出すなんて……)


 一応今はオフシーズンだからとか、イメージ戦略とかいろいろ理由はあるみたいだけど、私には想像もできない世界なのは間違いない。


(三日間、ずっと制服か指定ジャージでの行動で本当によかった……私の私服なんて、どれを選んでも場違いになりそうだもん)


 ひとまずチェックインを済ませるべく、学年主任の先生が先にホテルの中に入っていく。
 一年生全員がロビーで待っていると邪魔になるので、クラスごとに列になってホテルの広場で待機することになった。四月とはいえ、この時期の山頂は気温が低く、雪が残っている場所もある。
 物珍しげにはしゃぐ生徒たちを横目に、各クラスの担任が最終確認事項を伝えていく。


「それじゃ、今からルームキーを一人一枚、お渡します。部屋番号の早い順に、各担任のもとへいってください!」


 そうしてルームキーを受け取った順に解散していき、それぞれ荷物を持って部屋に向かう。
 着替えなど大きな荷物だけを置いてから、必要な物だけを持参して再度この広場に集まることになっているのだ。
 あまり時間はないから、私は配られたカードキーを手に綾小路さんと一緒にエレベーターに向かう。


(はあ、綾小路さんと同じ部屋……)


 ホテルの豪華さに浮かれていた気持ちは、ずっと目を逸らしていた現実と直面によってあっけなく消え去った。
 お互い無言のまま、エレベーターに乗り込む。四階の部屋だからそんなに時間はかからないはずなのだが、まるで何時間にも感じ取れた。
 ゆっくりと切り替わっていく数字を眺めていれば、やがてチーンという軽快な音とともにエレベーターの扉が開く。


(わあ、写真で見るのよりずっと綺麗……!)


 ロビーに入った時から気になっていたが、まず目に飛び込んできたのは吹き抜けのアトリウムだ。
 山の上に建っているおかげで周りに邪魔な建物や木はなく、太陽の光がそのままホテルの中に差し込んでくる。
 周りをキョロキョロと見回しながらふかふかの絨毯の上を進んでいけば、あっという間に決められた部屋にたどり着いた。

 ここだ、と私は足を止めてカードキーを取り出す。
 しかし後ろを歩いていた綾小路さんは、そのまま歩みを止めることなく、すっと部屋の前を通り過ぎていってしまった。


「……え?」


 一瞬、私が部屋を違えたのかと思って。何度確認しても、ルームキーの番号は間違っていない。
 ……つまり、綾小路さんが間違えているということになる。
 さすがにこのまま放っておくわけにはいかず、私は小走りで綾小路さんに追いつき恐る恐る声をかけた。


「綾小路さん! あの……部屋、通り過ぎてるかも」


 綾小路さんはぴたりと足を止め、こちらを振り返る。
 その顔は見るからにうっとうしそうで、間違えて部屋を通り過ぎたわけじゃないのだと察してしまう。


「はあ……そういえば、七瀬さんにはまだお伝えしていなかったわね。わたくしは友だちのところに呼ばれていますので、林間学校の間はそちらにいますわ」
「えっ……?」
「そういうわけですから、もちろんこの部屋には用がありませんわ。荷物も置きませんから、全部七瀬さんが好きに使ってくださいな」
「あ……そうなんですね」


 にこりと張り付けたような笑顔ではっきり拒絶されてしまえば、私はそう答えるしかない。
 男女で部屋の行き来は禁止されてるが、同性なら許可されている。だけど予定されていた部屋以外での宿泊はアウトで、消灯時間になったら見回りの先生確認することになっているはずだ。
 そんな私の表情で察したのか、綾小路さん、まったく悪びれる様子もなく続けた。


「先生には『友だちの部屋にいる』って正直に伝えて構わなくってよ」
「え、でも荷物が無かったらバレるんじゃ……」
「バレたらわたくしも困りますので、言い訳はちゃんと用意しています。とにかく、七瀬さんは余計なことさえ言わなければ結構ですわ!」


 自信満々な綾小路さんの姿に、私はこれ以上何を言っても意味がないのだと悟る。
 ここは彼女の言う通りにしようと頷けば、綾小路さんはそれ以上何も言わず、さっさと踵を返して廊下の向こうへと歩き去っていった。
 その後ろ姿が廊下の奥に消えるのを見送ってから、私は気を取り直して部屋の鍵を開けて中に入る。


「私の部屋の倍くらいある……」


 ホテルの内観と同じ雰囲気の部屋はバルコニー付きで、窓から外の景色が良く見える。
 安全面の問題から私たちはバルコニーに出ることが禁止されているが、一般客なら森の空気を吸いながらのんびりと山頂の景色を楽しめるだろう。

 部屋の中は大きなベッドが二台置いてあり、テレビと冷蔵庫、それからシャワールームも併設してある。少し迷って、私は広縁のテーブルに荷物を置いた。
 手早く準備を済ませて、ほっと一息をつく。


「……あれって、私と同じ部屋にいられるか! ってことだよね、たぶん」


 シーンとした部屋に、独り言がやけに大きく響いた。

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