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第七章 いざ、林間学校へ!
64.一日目、夜
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こうして振り返ってみると、改めて苦い思いがこみ上げてくる。
そりゃあ私だって綾小路さんと同じ気持ちだったが、言葉もなく勝手に実行されるとこう……心に来るものがある。
「……でもまあ、こうなったら思いっきり一人部屋を楽しんでやるんだから!」
もともと仲良くない人と一緒に寝るのは得意なほうじゃない。向こうから言い出したことなんだから、これなら無理に合わせる必要も、神経を張り詰めて過ごす必要もないのだ。
関わる機会が少なければ、颯馬くんたちのことがバレる可能性も低くなってくる。
これはむしろ――ラッキーじゃない?
「うん……! ひとまず全力で林間学校を楽しもう!」
忘れ物がないかを確認して、私は気持ちを切り替えて集合場所である広場に向かった。
♢♢♢
林間学校最初の予定は、ガイドさんがいる歴史名所巡りだ。
バスで移動して、到着してからはクラスごとに並んで見学していくことになっている。
男女別々に背の順で並ぶからアキくんとは離れてしまったけど、同じグループの園田さんとは近い。少しでも仲良くなれたらなと思いながら、案内してくれるガイドさんの話に集中する。
私たちは順に昔の遺跡にお城、それから観光名所として知られる花見コースと進んでいく。
途中、何度も付喪神を見て話を聞きたいと思ったが、小学生の頃のように変な目で見られたくないのでぐっと堪えた。普段はおばあちゃんから貰った眼鏡で付喪神を視えなくしているので、見ようとすれば何度も眼鏡をつけ外しすることになるのだ。
(ずっと外しているのも力の使いすぎで頭が痛くなるし、今回は諦めるしかないなあ……)
合間合間に休憩を挟みつつ、気づけば夕方になっていた。
いろんなことを心配していたが、純粋に楽しめてほっとする。
(綾小路さんを筆頭に、女子のほとんどは見学よりもA組の方に気を取られていたから、ガイドさんに色々聞けて良かった)
混雑を避けるため、クラスとクラスはそこそこ間を取って行動する。
だけどそれは一つ前のクラス……私たちの場合はB組の間で取られる。颯馬くんと桜二くんがいるA組とはむしろタイミングがよく合う形となってしまい、頻繁にすれ違うことになったのだ。
そのため綾小路さんたちは颯馬くんたちを見つけるのに必死で、見学なんてそっちのけだった。アイドルのツアーライブの追っかけをしているような勢いに、クラスの雰囲気は二分していた。
(園田さんも水瀬さんに引っ張られて行っちゃったから、全然仲良くなれなかったなあ……)
園田さんは遠慮したそうにしていたが、ミーハー根性な水瀬さんの圧に根負けしたのだ。
私はこれ以上綾小路さんに目をつけられたくないからという理由のおかげで引いてもらえたから、こればかりは感謝しなきゃいけない。
みんなと仲良くなりたい気持ちはあるけど、それ以上にガイドさんとのほぼマンツーマン指導は貴重な機会なのだ。これは絶対に逃せない。
途中からアキくんもさりげなく合流してきて、林間学校の目的である『クラスメイトと交流を深める』をガン無視した勉強の時間となってしまった。
まあ、まだ一日目だし……明日からでも間に合うはず……!
♢♢♢
ホテルで夕食を食べたあとは自由時間だ。
各部屋に備え付けられたシャワーブースで消灯の時間までに入ってしまえばいいから、一人部屋になってしまった私は好きなタイミングで入ることができる。
「お風呂入る前に、今日取ったメモをちゃんとまとめなおそ」
この時間、ほとんどの生徒が友だちと過ごしている。
しかし私には一緒に旅館を回るような友だちも、おしゃべりを楽しむ友だちもいないので、部屋で今日の収穫をまとめることにした。
しおりやメモ帳に書いてあるけど、寝たら忘れることもあるので記憶がハッキリしているときにまとめ直したい。
ハイキングで通ったコースとか、ガイドさんに聞いた文化財の話とか……そういうのをスマホのメモアプリにどんどん記録し直していく。
ぜんぜん楽しいし、別に寂しくもない。ないったらない。
(アキくんは今ごろ、野上くんと旅館を散策しているのかな)
実は夕食のあと、アキくんに一緒に旅館内を探検しようと誘われていた。
でもほとんどが同性同士で遊んでいる中、幼馴染みとは言え二人だけで過ごすのは気恥ずかしさがある。男女で一緒にいるのはみんなカップルで、私なんかと変な噂がたったらアキくんに申し訳ないのだ。
そんなことを考えながら作業をしていると、突然スマホにメッセージアプリの通知が届いた。
『颯馬:秋兎、雪乃、今から会えるか?』
『桜二:このあと時間空いてたら、百合っていう名前のカラオケラウンジの来て』
予想外すぎる相手に、思わず「え」と声が出てしまう。
メッセージが届いたのは『付喪神鑑定団』のグループだけど、まさか林間学校の間も動くとは思わなかったのだ。遠目にみた限りでも颯馬くんも桜二もいろんな人に誘われていて、とても時間があるようには見えなかった。
(文字からも急いでる感じがする……どうしたんだろう)
そりゃあ私だって綾小路さんと同じ気持ちだったが、言葉もなく勝手に実行されるとこう……心に来るものがある。
「……でもまあ、こうなったら思いっきり一人部屋を楽しんでやるんだから!」
もともと仲良くない人と一緒に寝るのは得意なほうじゃない。向こうから言い出したことなんだから、これなら無理に合わせる必要も、神経を張り詰めて過ごす必要もないのだ。
関わる機会が少なければ、颯馬くんたちのことがバレる可能性も低くなってくる。
これはむしろ――ラッキーじゃない?
「うん……! ひとまず全力で林間学校を楽しもう!」
忘れ物がないかを確認して、私は気持ちを切り替えて集合場所である広場に向かった。
♢♢♢
林間学校最初の予定は、ガイドさんがいる歴史名所巡りだ。
バスで移動して、到着してからはクラスごとに並んで見学していくことになっている。
男女別々に背の順で並ぶからアキくんとは離れてしまったけど、同じグループの園田さんとは近い。少しでも仲良くなれたらなと思いながら、案内してくれるガイドさんの話に集中する。
私たちは順に昔の遺跡にお城、それから観光名所として知られる花見コースと進んでいく。
途中、何度も付喪神を見て話を聞きたいと思ったが、小学生の頃のように変な目で見られたくないのでぐっと堪えた。普段はおばあちゃんから貰った眼鏡で付喪神を視えなくしているので、見ようとすれば何度も眼鏡をつけ外しすることになるのだ。
(ずっと外しているのも力の使いすぎで頭が痛くなるし、今回は諦めるしかないなあ……)
合間合間に休憩を挟みつつ、気づけば夕方になっていた。
いろんなことを心配していたが、純粋に楽しめてほっとする。
(綾小路さんを筆頭に、女子のほとんどは見学よりもA組の方に気を取られていたから、ガイドさんに色々聞けて良かった)
混雑を避けるため、クラスとクラスはそこそこ間を取って行動する。
だけどそれは一つ前のクラス……私たちの場合はB組の間で取られる。颯馬くんと桜二くんがいるA組とはむしろタイミングがよく合う形となってしまい、頻繁にすれ違うことになったのだ。
そのため綾小路さんたちは颯馬くんたちを見つけるのに必死で、見学なんてそっちのけだった。アイドルのツアーライブの追っかけをしているような勢いに、クラスの雰囲気は二分していた。
(園田さんも水瀬さんに引っ張られて行っちゃったから、全然仲良くなれなかったなあ……)
園田さんは遠慮したそうにしていたが、ミーハー根性な水瀬さんの圧に根負けしたのだ。
私はこれ以上綾小路さんに目をつけられたくないからという理由のおかげで引いてもらえたから、こればかりは感謝しなきゃいけない。
みんなと仲良くなりたい気持ちはあるけど、それ以上にガイドさんとのほぼマンツーマン指導は貴重な機会なのだ。これは絶対に逃せない。
途中からアキくんもさりげなく合流してきて、林間学校の目的である『クラスメイトと交流を深める』をガン無視した勉強の時間となってしまった。
まあ、まだ一日目だし……明日からでも間に合うはず……!
♢♢♢
ホテルで夕食を食べたあとは自由時間だ。
各部屋に備え付けられたシャワーブースで消灯の時間までに入ってしまえばいいから、一人部屋になってしまった私は好きなタイミングで入ることができる。
「お風呂入る前に、今日取ったメモをちゃんとまとめなおそ」
この時間、ほとんどの生徒が友だちと過ごしている。
しかし私には一緒に旅館を回るような友だちも、おしゃべりを楽しむ友だちもいないので、部屋で今日の収穫をまとめることにした。
しおりやメモ帳に書いてあるけど、寝たら忘れることもあるので記憶がハッキリしているときにまとめ直したい。
ハイキングで通ったコースとか、ガイドさんに聞いた文化財の話とか……そういうのをスマホのメモアプリにどんどん記録し直していく。
ぜんぜん楽しいし、別に寂しくもない。ないったらない。
(アキくんは今ごろ、野上くんと旅館を散策しているのかな)
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そんなことを考えながら作業をしていると、突然スマホにメッセージアプリの通知が届いた。
『颯馬:秋兎、雪乃、今から会えるか?』
『桜二:このあと時間空いてたら、百合っていう名前のカラオケラウンジの来て』
予想外すぎる相手に、思わず「え」と声が出てしまう。
メッセージが届いたのは『付喪神鑑定団』のグループだけど、まさか林間学校の間も動くとは思わなかったのだ。遠目にみた限りでも颯馬くんも桜二もいろんな人に誘われていて、とても時間があるようには見えなかった。
(文字からも急いでる感じがする……どうしたんだろう)
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