その付喪神、鑑定します!

陽炎氷柱

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第十章 忘れられない林間学校

84.予想外の訪問

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「よかった、ちゃんと見つかったんだね」
「ただ一度盗品になったことで、安全面を考えるとこのまま景品として学生に渡していいのかなってことになったんだ。あいつに悪さをする能力も時間もなかったと思うけど、心証はよくないよね」


 せっかく苦労してゲットした景品に、そんな付加価値はいらないよね……。
 私も怖くなって使えないかも。


「じゃあ、景品はどうするの?」
「従業員の窃盗だから、ホテルが全額弁償! 全部綺麗に解決したし、余計な損失もないからオレも胸を張って父さんに報告できるよ」
「……桜二くんのお父さん?」


 余計なことを言ってしまったと、桜二くんは苦々しげに目線を泳がせる。


「あー、聞かなかったことには……」
「桜二くんが話したくないなら、別にいいけど……」


 ふと、通話で颯馬くんが話していた『兄弟問題』を思い出した。

 桜二くんなりに今回の事件に必死に取り組んでいたのは、はた目から見ても分かる。詳しい理由は分からずとも、家庭問題と分かっただけで私は無理に踏み込むつもりはない。

 桜二くんは悩んでいる様子だったから、自分の考えだけ伝えて黙り込む。


(私の秘密を打ち明けるとき、無理に急かしたりしないで、ただ事実として受け止めてくれたのが嬉しかったから)


 そうやってしばらく待っていれば、やがて桜二くんは覚悟を決めたよう顔を上げる。
 私を見つめる青い瞳は澄んでおり、夕日の赤を反射してとても暖かく見えた。


「……ごめん。オレ、嘘ついてたんだ」
「え?」
「放任主義で自由にさせてもらってるって言ったでしょ? ……本当は、そんなんじゃないのに」


 カラオケラウンジで最初に話し合ったときのことを言っているのだろう。
 あの時、確かに誤魔化されたような気がしたけど……。


「オレには年が離れた兄が一人いるんだけど、すごく優秀な人でね。何でもできちゃうし、全部期待されている以上の結果を出すんだ」


 そう褒める割には、桜二くんの表情は暗い。
 たぶん、お兄さんのことがそんなに得意じゃないのだろう。


「だから後継者はとっくに決まり切ってて、オレはどうでもいいの。自由なんていい物じゃなくて、興味ないから放っておかれてるだけなんだよ」
「……っ」


 注意しなければ聞き取れないような声に、私は一言も聞き漏らさないように耳を傾ける。

 おそらくずっと秘めていたかったであろう悩みを打つ開けられて、胸が苦しくなった。
 いつも遠慮せずに行動して、のらりくらりと好きに生きているように見えたから、余計に。


(桜二くんはむしろ、誰よりも白鳥家に縛られているんだ)


 本心を話すことになれていないのか、いつも整然と話す姿とは打って変わってたどたどしさがある。
 でも桜二くんの気持ちはむしろ伝わってくるから、この話し方も嫌じゃなかった。


「だからさ、今回の事件はオレたちで解決したかったんだ。学校の問題も家に頼るんだって……失望されたくなかった」
「……桜二くん」
「ソウの幼馴染みやってるからさ、御曹司の大変さはよく分かってるつもり。正直今の気楽さな生活は気に入ってるし、別に家を継ぎたいとかそういう考えはない」


 桜二くんはそう言うと、じっと己が握った拳を見つめた。


「ただの意地だったんだよ。オレだって立派にやれるって、証明したかった」


 桜二くんはふっと息を吐いて、冗談めかすこともなく、ごく真面目な口調でぽつりと呟いた。


「……マ、この考えも子どもっぽくてかっこ悪いね」


 俯きがちに笑うその横顔が、いつもよりずっと大人っぽく見えた。
 胸の奥がぎゅっとなって、私は思わず首を横に振る。


「そんなことないよ。自分のためにがんばれるのって、誰にでもできることじゃないから」


 少なくとも私は自分だけじゃ変えられなかったし、やろうとも思わなかった。鑑定団のみんなに勇気を貰って、やっと一歩踏み出せたのだから。

 そんな私の考えを見抜いたわけではないだろうけど、桜二くんは柔らかく微笑んだ。


「家のことなんて誰にも言いたくなかったし、言おうとも思わなかったけど」


 桜二くんは眩しいものを見るように目を細める。


「ユキに話してよかった、気がする。……聞いてくれて、ありがとう」


 その言葉は、私の中にすとんと落ちてきた。

 こうして悩みの少しを聞かせて貰えて、改めて桜二くんの力になれたらと思う。やっぱり今回、最後まで一緒に調査できてよかった。

 しばらくこの暖かい時間に身を任せていると、桜二くんはふと思い出したように姿勢を正した。

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