聖女だけど、偽物にされたので隣国を栄えさせて見返します

陽炎氷柱

文字の大きさ
36 / 65
第二章

31.対策

 村人に感染対策を伝えるのは、それはもう大変だった。

 まず石けんはあるけど、まあまあな高級品。お風呂に入るなら井戸から水をくむか、川にダイブがほとんど。一人だけ水魔法を使える人がいたが、彼は貴重な魔法を仕事か飲むのに使うとのことだ。
 そんなわけで、ちゃんと石けん使うのは家畜世話など汚れ仕事をしたあとだけらしい。

 次に欲しいのは消毒液だが、そもそもその概念がなかった。アルコールが欲しければ酒から錬成するしかないけど、そう簡単に大量に酒を買えるほどこの村も私も裕福じゃない。貴族相手の時は提案してもいいかもしれないが。


(これでポーション頼りなんだから、そりゃ黒い死がこんなに流行るよね)


 ケイン村にいる間、消毒は魔法でなんとか代用するとして。
 なんとか石けんの使用を説得できてよかった。こればかりは黒い死の恐ろしさが広まっていてよかったと思う。


『村人への説明は上手くいってるようだ。石けんがもったいないと顔をしかめる者もいたが、ノラが上手く言いくるめてる』
「偵察ありがとう、フブキ。他に体調悪そうにしてる人はいた?」
『治ったやつらの家族に何人かいたが、丸薬がちゃんと効果を出した。他にも数人かすかに異臭をまとっていたやつはいたが、自覚症状はまだ出ていない段階だ』
「やっぱり感染が早いね。追加の丸薬は間に合いそうだけど、エダさんはまだ帰って来ないよね……」


 私だけで最後まで行くのは不安だが、黒い死を放置することはできない。村人だけなら大丈夫だと思いたいが……。


『大丈夫だ、今のところ大きな混乱は起きてない。今まで真剣に村人と向き合ってきたおかげて、あいつらはちゃんとコハクを一人の薬師として信頼してる』
「そう、だといいな」
『この俺が言ってるんだ。それより、心配すべきことは別にあると思うが?』
「……?」


 さっと思い返してみるが、心当たりがなくて首をかしげる。
 フブキだから気づいたことかなと視線を向ければ、やれやれと呆れた顔をされた。犬なのに器用なことである。


『……コハク、ミハイルになんて言って送り出したか覚えてるか』
「…………基本的な対策を教えたらすぐに帰るので大丈夫です」
『今何時だと思ってる』
「………………太陽が、傾いてますね」
『そういうことだ』
「気づいてるんなら早く教えて!?!?」
「言っても聞かんだろう」


 それはそうだけど!
 ここは相棒が私を理解してくれていることに喜べばいいのか、それとも契約者のピンチを黙っていたことに怒るべきか。少し迷った私は、すぐにこうしてる場合じゃないと思い直す。
 過保護気味なミハイルは怒ると大変面倒くさい。主にまとわりつかれる的な意味で。


「戸締りは必要ないからいいとして……あっ、明日また来るって看板立てとかないと!」
『裏にカルテ用の板が積みあがっていたはずだ。それを使えばいいだろう』


 それだと小さくて見えにくいのではと思ったが、他に使えそうなものはない。内容を簡単にして字を大きく焼き付ければ問題ないだろう。

 そうと決まれば、私はカバンを持ってフブキと薬局の外に出る。
 全て手作りであるため、木の板のサイズは割と自由だ。簡単に取れる中から比較的に大きいものを探し出して文字を焼き付けていれば、突然フブキの様子が変わる。

 背後の森に向かって匂いを確かめるように鼻を鳴らしたかと思えば、その体のサイズをわずかに大きくした。毛も逆立っているせいで、しゃがんでいる私の姿は逆側から見えないだろう。私も向こうが視えないけど。


「フブキ?どうしたの?」
『森の向こうに人がいる。この村の人間じゃないな』
「こんな時間に?」
『男二人____血の匂いがする』


 ケイン村は帰らずの森に近いので、結構な頻度で魔物が出る。
 大抵はフブキの気配に怯えて逃げるので、一緒に居る私はまだ遭遇したことがないけど……狩りに出た村人は頻繁に襲われるらしい。

 稀に命知らずな冒険者が乗り込んでは助けを求めてくることもあるそうだが、それも太陽が高いときだ。日が落ちると魔物の動きが活発になるので、何か事情でもない限りこの時間帯に森を通っる人はいない。
 ただの怪我人なら、治してあげることもできるけど……。


グルルルル来るぞ


感想 9

あなたにおすすめの小説

ボロボロになるまで働いたのに見た目が不快だと追放された聖女は隣国の皇子に溺愛される。……ちょっと待って、皇子が三つ子だなんて聞いてません!

沙寺絃
恋愛
ルイン王国の神殿で働く聖女アリーシャは、早朝から深夜まで一人で激務をこなしていた。 それなのに聖女の力を理解しない王太子コリンから理不尽に追放を言い渡されてしまう。 失意のアリーシャを迎えに来たのは、隣国アストラ帝国からの使者だった。 アリーシャはポーション作りの才能を買われ、アストラ帝国に招かれて病に臥せった皇帝を助ける。 帝国の皇子は感謝して、アリーシャに深い愛情と敬意を示すようになる。 そして帝国の皇子は十年前にアリーシャと出会った事のある初恋の男の子だった。 再会に胸を弾ませるアリーシャ。しかし、衝撃の事実が発覚する。 なんと、皇子は三つ子だった! アリーシャの幼馴染の男の子も、三人の皇子が入れ替わって接していたと判明。 しかも病から復活した皇帝は、アリーシャを皇子の妃に迎えると言い出す。アリーシャと結婚した皇子に、次の皇帝の座を譲ると宣言した。 アリーシャは個性的な三つ子の皇子に愛されながら、誰と結婚するか決める事になってしまう。 一方、アリーシャを追放したルイン王国では暗雲が立ち込め始めていた……。

偽聖女として私を処刑したこの世界を救おうと思うはずがなくて

奏千歌
恋愛
【とある大陸の話①:月と星の大陸】 ※ヒロインがアンハッピーエンドです。  痛めつけられた足がもつれて、前には進まない。  爪を剥がされた足に、力など入るはずもなく、その足取りは重い。  執行官は、苛立たしげに私の首に繋がれた縄を引いた。  だから前のめりに倒れても、後ろ手に拘束されているから、手で庇うこともできずに、処刑台の床板に顔を打ち付けるだけだ。  ドッと、群衆が笑い声を上げ、それが地鳴りのように響いていた。  広場を埋め尽くす、人。  ギラギラとした視線をこちらに向けて、惨たらしく殺される私を待ち望んでいる。  この中には、誰も、私の死を嘆く者はいない。  そして、高みの見物を決め込むかのような、貴族達。  わずかに視線を上に向けると、城のテラスから私を見下ろす王太子。  国王夫妻もいるけど、王太子の隣には、王太子妃となったあの人はいない。  今日は、二人の婚姻の日だったはず。  婚姻の禍を祓う為に、私の処刑が今日になったと聞かされた。  王太子と彼女の最も幸せな日が、私が死ぬ日であり、この大陸に破滅が決定づけられる日だ。 『ごめんなさい』  歓声をあげたはずの群衆の声が掻き消え、誰かの声が聞こえた気がした。  無機質で無感情な斧が無慈悲に振り下ろされ、私の首が落とされた時、大きく地面が揺れた。

罰として醜い辺境伯との婚約を命じられましたが、むしろ望むところです! ~私が聖女と同じ力があるからと復縁を迫っても、もう遅い~

上下左右
恋愛
「貴様のような疫病神との婚約は破棄させてもらう!」  触れた魔道具を壊す体質のせいで、三度の婚約破棄を経験した公爵令嬢エリス。家族からも見限られ、罰として鬼将軍クラウス辺境伯への嫁入りを命じられてしまう。  しかしエリスは周囲の評価など意にも介さない。 「顔なんて目と鼻と口がついていれば十分」だと縁談を受け入れる。  だが実際に嫁いでみると、鬼将軍の顔は認識阻害の魔術によって醜くなっていただけで、魔術無力化の特性を持つエリスは、彼が本当は美しい青年だと見抜いていた。  一方、エリスの特異な体質に、元婚約者の伯爵が気づく。それは伝説の聖女と同じ力で、領地の繁栄を約束するものだった。  伯爵は自分から婚約を破棄したにも関わらず、その決定を覆すために復縁するための画策を始めるのだが・・・後悔してももう遅いと、ざまぁな展開に発展していくのだった  本作は不遇だった令嬢が、最恐将軍に溺愛されて、幸せになるまでのハッピーエンドの物語である ※※小説家になろうでも連載中※※

「女のくせに強すぎて可愛げがない」と言われ婚約破棄された追放聖女は薬師にジョブチェンジします

紅城えりす☆VTuber
恋愛
*毎日投稿・完結保証・ハッピーエンド  どこにでも居る普通の令嬢レージュ。  冷気を放つ魔法を使えば、部屋一帯がや雪山に。  風魔法を使えば、山が吹っ飛び。  水魔法を使えば大洪水。  レージュの正体は無尽蔵の魔力を持つ、チート令嬢であり、力の強さゆえに聖女となったのだ。  聖女として国のために魔力を捧げてきたレージュ。しかし、義妹イゼルマの策略により、国からは追放され、婚約者からは「お前みたいな可愛げがないやつと結婚するつもりはない」と婚約者破棄されてしまう。  一人で泥道を歩くレージュの前に一人の男が現れた。 「その命。要らないなら俺にくれないか?」  彼はダーレン。理不尽な理由で魔界から追放された皇子であった。  もうこれ以上、どんな苦難が訪れようとも私はめげない!  ダーレンの助けもあって、自信を取り戻したレージュは、聖女としての最強魔力を駆使しながら薬師としてのセカンドライフを始める。  レージュの噂は隣国までも伝わり、評判はうなぎ登り。  一方、レージュを追放した帝国は……。

宮廷から追放された聖女の回復魔法は最強でした。後から戻って来いと言われても今更遅いです

ダイナイ
ファンタジー
「お前が聖女だな、お前はいらないからクビだ」 宮廷に派遣されていた聖女メアリーは、お金の無駄だお前の代わりはいくらでもいるから、と宮廷を追放されてしまった。 聖国から王国に派遣されていた聖女は、この先どうしようか迷ってしまう。とりあえず、冒険者が集まる都市に行って仕事をしようと考えた。 しかし聖女は自分の回復魔法が異常であることを知らなかった。 冒険者都市に行った聖女は、自分の回復魔法が周囲に知られて大変なことになってしまう。

昨今の聖女は魔法なんか使わないと言うけれど

睦月はむ
恋愛
 剣と魔法の国オルランディア王国。坂下莉愛は知らぬ間に神薙として転移し、一方的にその使命を知らされた。  そこは東西南北4つの大陸からなる世界。各大陸には一人ずつ聖女がいるものの、リアが降りた東大陸だけは諸事情あって聖女がおらず、代わりに神薙がいた。  予期せぬ転移にショックを受けるリア。神薙はその職務上の理由から一妻多夫を認められており、王国は大々的にリアの夫を募集する。しかし一人だけ選ぶつもりのリアと、多くの夫を持たせたい王との思惑は初めからすれ違っていた。  リアが真実の愛を見つける異世界恋愛ファンタジー。 基本まったり時々シリアスな超長編です。複数のパースペクティブで書いています。 気に入って頂けましたら、お気に入り登録etc.で応援を頂けますと幸いです。 連載中のサイトは下記4か所です ・note(メンバー限定先読み他) ・アルファポリス ・カクヨム ・小説家になろう ※最新の更新情報などは下記のサイトで発信しています。  https://note.com/mutsukihamu ※表紙などで使われている画像は、特に記載がない場合PixAIにて作成しています

追放聖女の再就職 〜長年仕えた王家からニセモノと追い出されたわたしですが頑張りますね、魔王さま!〜

三崎ちさ
恋愛
メリアは王宮に勤める聖女、だった。 「真なる聖女はこの世に一人、エミリーのみ! お前はニセモノだ!」 ある日突然いきりたった王子から国外追放、そして婚約破棄もオマケのように言い渡される。 「困ったわ、追放されても生きてはいけるけど、どうやってお金を稼ごうかしら」 メリアには病気の両親がいる。王宮で聖女として働いていたのも両親の治療費のためだった。国の外には魔物がウロウロ、しかし聖女として活躍してきたメリアには魔物は大した脅威ではない。ただ心配なことは『お金の稼ぎ方』だけである。 そんな中、メリアはひょんなことから封印されていたはずの魔族と出会い、魔王のもとで働くことになる。 「頑張りますね、魔王さま!」 「……」(かわいい……) 一方、メリアを独断で追放した王子は父の激昂を招いていた。 「メリアを魔族と引き合わせるわけにはいかん!」 国王はメリアと魔族について、何か秘密があるようで……? 即オチ真面目魔王さまと両親のためにお金を稼ぎたい!ニセモノ疑惑聖女のラブコメです。 ※小説家になろうさんにも掲載

聖女じゃないと追い出されたので、敵対国で錬金術師として生きていきます!

ぽっちゃりおっさん
恋愛
『お前は聖女ではない』と家族共々追い出された私達一家。 ほうほうの体で追い出され、逃げるようにして敵対していた国家に辿り着いた。 そこで私は重要な事に気が付いた。 私は聖女ではなく、錬金術師であった。 悔しさにまみれた、私は敵対国で力をつけ、私を追い出した国家に復讐を誓う!