聖女だけど、偽物にされたので隣国を栄えさせて見返します

陽炎氷柱

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第二章

31.対策

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 村人に感染対策を伝えるのは、それはもう大変だった。

 まず石けんはあるけど、まあまあな高級品。お風呂に入るなら井戸から水をくむか、川にダイブがほとんど。一人だけ水魔法を使える人がいたが、彼は貴重な魔法を仕事か飲むのに使うとのことだ。
 そんなわけで、ちゃんと石けん使うのは家畜世話など汚れ仕事をしたあとだけらしい。

 次に欲しいのは消毒液だが、そもそもその概念がなかった。アルコールが欲しければ酒から錬成するしかないけど、そう簡単に大量に酒を買えるほどこの村も私も裕福じゃない。貴族相手の時は提案してもいいかもしれないが。


(これでポーション頼りなんだから、そりゃ黒い死がこんなに流行るよね)


 ケイン村にいる間、消毒は魔法でなんとか代用するとして。
 なんとか石けんの使用を説得できてよかった。こればかりは黒い死の恐ろしさが広まっていてよかったと思う。


『村人への説明は上手くいってるようだ。石けんがもったいないと顔をしかめる者もいたが、ノラが上手く言いくるめてる』
「偵察ありがとう、フブキ。他に体調悪そうにしてる人はいた?」
『治ったやつらの家族に何人かいたが、丸薬がちゃんと効果を出した。他にも数人かすかに異臭をまとっていたやつはいたが、自覚症状はまだ出ていない段階だ』
「やっぱり感染が早いね。追加の丸薬は間に合いそうだけど、エダさんはまだ帰って来ないよね……」


 私だけで最後まで行くのは不安だが、黒い死を放置することはできない。村人だけなら大丈夫だと思いたいが……。


『大丈夫だ、今のところ大きな混乱は起きてない。今まで真剣に村人と向き合ってきたおかげて、あいつらはちゃんとコハクを一人の薬師として信頼してる』
「そう、だといいな」
『この俺が言ってるんだ。それより、心配すべきことは別にあると思うが?』
「……?」


 さっと思い返してみるが、心当たりがなくて首をかしげる。
 フブキだから気づいたことかなと視線を向ければ、やれやれと呆れた顔をされた。犬なのに器用なことである。


『……コハク、ミハイルになんて言って送り出したか覚えてるか』
「…………基本的な対策を教えたらすぐに帰るので大丈夫です」
『今何時だと思ってる』
「………………太陽が、傾いてますね」
『そういうことだ』
「気づいてるんなら早く教えて!?!?」
「言っても聞かんだろう」


 それはそうだけど!
 ここは相棒が私を理解してくれていることに喜べばいいのか、それとも契約者のピンチを黙っていたことに怒るべきか。少し迷った私は、すぐにこうしてる場合じゃないと思い直す。
 過保護気味なミハイルは怒ると大変面倒くさい。主にまとわりつかれる的な意味で。


「戸締りは必要ないからいいとして……あっ、明日また来るって看板立てとかないと!」
『裏にカルテ用の板が積みあがっていたはずだ。それを使えばいいだろう』


 それだと小さくて見えにくいのではと思ったが、他に使えそうなものはない。内容を簡単にして字を大きく焼き付ければ問題ないだろう。

 そうと決まれば、私はカバンを持ってフブキと薬局の外に出る。
 全て手作りであるため、木の板のサイズは割と自由だ。簡単に取れる中から比較的に大きいものを探し出して文字を焼き付けていれば、突然フブキの様子が変わる。

 背後の森に向かって匂いを確かめるように鼻を鳴らしたかと思えば、その体のサイズをわずかに大きくした。毛も逆立っているせいで、しゃがんでいる私の姿は逆側から見えないだろう。私も向こうが視えないけど。


「フブキ?どうしたの?」
『森の向こうに人がいる。この村の人間じゃないな』
「こんな時間に?」
『男二人____血の匂いがする』


 ケイン村は帰らずの森に近いので、結構な頻度で魔物が出る。
 大抵はフブキの気配に怯えて逃げるので、一緒に居る私はまだ遭遇したことがないけど……狩りに出た村人は頻繁に襲われるらしい。

 稀に命知らずな冒険者が乗り込んでは助けを求めてくることもあるそうだが、それも太陽が高いときだ。日が落ちると魔物の動きが活発になるので、何か事情でもない限りこの時間帯に森を通っる人はいない。
 ただの怪我人なら、治してあげることもできるけど……。


グルルルル来るぞ


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