赱馬燈

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 小樽から白い部屋へ飛ばされた時と同様に、瞬時に視界が切り替わった。
 到着した場所も白い部屋。だがこちらの白は灰色に近いくすんだ色。石を切り出して造ったような前時代的な部屋だった。

「またかよ」
「風情も何もねえな」
「扉はあるみたいだよ?」
「とりあえず出るか?」
「いや、能力の確認が先じゃねえか?」
「どうやんだよ」
「知るか」
「あ。できた」

 事前に能力が判明していた佐藤がタブレット端末を出現させた。特殊能力を意識すると知識として認識できるようになるらしい。技術として修得しているのならそんなものだろうか。
 言われてみればなんとなくわかる。漠然とした感覚に意識を傾けると次第に明瞭になってきた。

「俺は鉄人だった。筋力強化みてえなもんだな。鉄製の道具と相性がいいんだとよ。おめえは?」
「……薬を作れるみたいだ」
「微妙だな」

 どうやら薬効や材料から薬の製法を検索できる脳内事典らしい。使える材料はクロムや水銀などの既知の物質から異世界特有の謎物質まで多岐に及ぶが、材料を揃えられたとしても抽出や蒸留などの工程が増えれば器具の問題やヒューマンエラーのリスクが発生する。手作業では限界があり、手軽に作れる物は少ないだろう。
 能力名は煉丹術。不老不死の研究から派生した、怪しげな薬を作る能力だった。



「お待ちしていました。勇者様」
「は?」
「げっ」
「やっぱりそれ?」

 扉が開き、二人の男が入ってきた。服装は子供の頃にクリスマスのミサで見た牧師に似ている。
 明らかに不法侵入を咎められる状況なのだが、仮称牧師の男は開口一番におかしなことを言い出した。

「魔の森に百年周期で魔王が誕生して災厄を振り撒くのです」
「大変だな」
「勇者様には魔王の討伐と魔物の掃討をしていただきます」
「なんでだよ」
「慣例として、魔王討伐は勇者様が顕現された国が指揮を執ることになっています。当代はこの北の国が主導となり、総力を挙げて勇者様を支援いたします」
「主導で支援ておかしいだろ」

 一方的に話し続ける男たちは牧師ではなく神官らしい。それが事実ならこの男たちは国教の神を祀る施設に勤める国家公務員ということになる。
 この場所は北の国の神殿を統括する中央神殿の秘匿区画。過去にも勇者が顕れたと伝えられている『伝説の地下室』らしい。

「勇者様はいずれかの国の中央神殿に顕れて世界を救ってくださると伝えられています」
「その勇者は三人組なのか?」
「時代によって人数は変わるようです。初代勇者様は一人でしたが、最も多かった先代の勇者様は五人いらっしゃいました」
「先代は戦隊だったのか」
「勇者戦隊エイジュウジャーってか?」
「十代目に当たる先代の勇者様は歴史上最も早く魔王を討伐したとされる偉大な英雄なのです」
「ほう。そんなに強かったのか」
「勿論お強かったようですが、先代魔王との相性もあったのでしょう」
「ああ、特殊能力か」
「先代魔王は常に先陣を切って侵攻してきたようでして。勇者様は一人が囮となって魔王を見通しの悪い場所へ誘い込み、隠れていた四人が背後から奇襲したようです」
「馬鹿すぎるだろそいつ」
「なんでラスボスが最前線に出てきてんだよ」

 どうやら先代の魔王は頭が弱点だったらしく、全く参考にならなかった。
 先代の勇者戦隊は魔王討伐後に統率を失った魔物の掃討に尽力し、魔物の巣窟となっていた多くの領土を解放したらしい。



 聞くところによると、この世界は東西方面に長く伸びた形の大陸らしい。東と西に大国、南と北に横長の小国があり、大陸の中央は魔王の領土になっているらしい。
 魔王領の中心には魔の森と呼ばれる魔境があり、そこから魔物の群が侵攻してくるらしい。
 千年前に初代の魔王が誕生して魔物が活性化し、百年毎に新たな魔王が誕生して魔物を統率するようになった……らしい。

 この男たちは本当に神官なのか。語られていることは事実なのか。ここまで一方的に話し続ける目的は何なのか。疑心暗鬼になるばかりだ。
 どこまで信じていいのかわからない。だが延々と聞かされ続けた話が真実だとすれば、何故かこの世界は、世界の中心を魔王に支配されている……らしい。



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