余命百日の僕は庭で死ぬ

つきの麻友

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毎日の幸せ、永遠の幸せ

03

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「じゃあ、またね」

「うん……」

 店の出入り口で、桜井さんを見送る。名残惜しさが強まってしまうので、店の外には出ないことをマイルールとしている。

 軽のハコバンに乗った彼女は颯爽と去って行く……わけでもなく、ぎこちない発進をしながらハンドルを握る。必要以上のエンジン音は、これでもまだマシになった方だと自分に言い聞かせている。

 ノッキングを繰り返しながら、なんとかハコバンはいつも通りの角を曲がって、俺の視界から消えた。

 引っ越して来る前に取った運転免許。正真正銘の初心者マークである。それでも、慣れるまで安全運転をすれば、対した事ではない筈である。田舎特有の、のんびりした道路事情なのだから、都会の渋滞とは程遠い。ただ、彼女のハコバンがオートマであればの場合だ。

 ───初めて会った日から三日後のことだった。

「女性でマニュアルを運転してたら、只者じゃないって感じするじゃない?」

「そういうチャレンジ的な考え、好きですよ」

 テヘっと唇を少し出して照れ笑いをする。

「やっぱり、オートマの方が楽だったかも、って後悔してるのよ」

 配達用の車を探してて、選んでいる猶予も無かったと彼女は言った。

「だけどね、仕事ですぐにでも欲しいところに、マニュアル車が売れ残ってるなんて、乙女としてはこういう出会いには逆らえないじゃない?」

「……」

 何処を突っ込めば良いのか、それとも本気の大真面目なのか───。

 未だにぎこちない運転は、美人で愛想も良く、作るお菓子も美味しくて、きっと料理なんかも美味しくて手際がいいんだろうな、って勝手に決めつけてしまいそうな雰囲気の彼女を、完璧で雲の上の存在から一気に地上に下ろしてしまいそうなドジっぷりだった。そこがまた、親近感が湧く要素なのだろう。

「おうっ!  夜神!  もう開いてるのか?  モーニング三つだ」

 一日の素敵な時間の余韻に浸ることもなく、出来れば朝からは聞きたくない声がした。救われたのは、彼女が過ぎ去った方向と逆から声が聞こえたことだった。
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