余命百日の僕は庭で死ぬ

つきの麻友

文字の大きさ
6 / 17
目の上のタンコブ様は恋のライバル

05

しおりを挟む
「いろはちゃん、来ないのかな?」

「来るわけないじゃないですか。向こうも仕事中なんだし。なんだったらお店に行けばいいじゃないですか」

「バカ野郎。偶然を装おって会わなきゃ気まずいだろうが!」

「……ですよね」

 知らない人が聞いたら、なんてウブな人なのだろうと思ってしまうセリフである。

 声も大きいが負けじと身体もデカイ。柔道をしていた頃に良い肉を食べまくったからだと本人から何回も聞かされた。

 裕福な家庭にどっぷり浸かったからこそのセリフだろう。聞く人によっては不快に思うかもしれないが、彼がそんな事をいちいち気にして言葉を発することはなかった。

 そんなガタイの良い彼なのに、桜井さんにはどうも逃げ腰になっていた。

 ───去年のことだ。彼女の店を改装している時から、可愛い可愛いと何度もコーヒーを飲みながら俺は聞かされていた。それだけ言われたら、どれだけ可愛いのかと俺の評価も自然と上がって行ったのだが、見てない人を評価するわけにもいかなかった。

 五十嵐さんも三十歳。特に付き合ってる彼女もいなかったし、冗談半分で言ってみた。

「告白したら良いじゃないですか」

「やっぱりそう思うか?」

 まんざらでもない返答に俺は絶句した。

 仕事上で知り合った、ただのお客さんに告白なんて、上手くいくはずないのは明白だった。逆に聞きたい、どれだけ自分に自信があるのですかと。

「その彼女、おいくつなんですか?」

「知らん。けど俺より若いだろうな」

「彼氏とかいないのでしょうかね?」

「知らん。けどいつも一人だからいないのだろう」

 なんてお花畑なのか。仮に彼氏や旦那がいたらきっぱり諦めるのだろうか。毎日同じことを聞かされるこっちとしては、白黒付けてくれた方が助かるのだが。

 いや、旦那ならともかく彼氏位なら俺の方が良いだろうと言い出しかねない。

「もし……付き合ってる人がいたらどうするんですか?」

「引っ越し改装に一度も顔を出さないような男なんざ、とっとと別れた方がいいだろ。この町に住むのなら俺と結婚した方が幸せだろ?」

「彼氏さんには自分の仕事があるのかもしれないし……。ほら、東京の店の片付けとか……」

「やっぱりそうなのかな?」

 デカイ図体を縮め、弱々しい声を出す。なんなんだこの人は。周りお構い無しに豪快で勝手に物事を進めるかと思えば、未確認な情報にうろたえて。人間味があると言えばそうなのだろうが。

「よし、決めた」

 コーヒーを飲みほし、空になったカップを雑に置いて耳障りな音を店内に響かせる。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

離婚する両親のどちらと暮らすか……娘が選んだのは夫の方だった。

しゃーりん
恋愛
夫の愛人に子供ができた。夫は私と離婚して愛人と再婚したいという。 私たち夫婦には娘が1人。 愛人との再婚に娘は邪魔になるかもしれないと思い、自分と一緒に連れ出すつもりだった。 だけど娘が選んだのは夫の方だった。 失意のまま実家に戻り、再婚した私が数年後に耳にしたのは、娘が冷遇されているのではないかという話。 事実ならば娘を引き取りたいと思い、元夫の家を訪れた。 再び娘が選ぶのは父か母か?というお話です。

Husband's secret (夫の秘密)

設楽理沙
ライト文芸
果たして・・ 秘密などあったのだろうか! むちゃくちゃ、1回投稿文が短いです。(^^ゞ💦アセアセ  10秒~30秒?  何気ない隠し事が、とんでもないことに繋がっていくこともあるんですね。 ❦ イラストはAI生成画像 自作

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

完結 愚王の側妃として嫁ぐはずの姉が逃げました

らむ
恋愛
とある国に食欲に色欲に娯楽に遊び呆け果てには金にもがめついと噂の、見た目も醜い王がいる。 そんな愚王の側妃として嫁ぐのは姉のはずだったのに、失踪したために代わりに嫁ぐことになった妹の私。 しかしいざ対面してみると、なんだか噂とは違うような… 完結決定済み

処理中です...