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第二章 此が有れば彼が有り、此が無ければ彼が無い

24 ファミレス2

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 ストローでグラスの中の氷をゆっくり回しながら

「……夢か……」

 呟く様に言って曜子は窓の方に目線をやり、頬杖をついて黙り込んでしまった。

 曜子の横顔を見ながら当然目は合うはずないのに俺は恥ずかしさを覚えパンケーキに助けを求めるように目線を移して頬張った。コーヒーを飲みながら目線を上げると同時に曜子の耳に掛けた横髪がするりと落ちた。

 何を見るでもなく遠くをみる曜子の瞳はどこかもの悲しさを表しているようだった。窓の外には先程の若造五人組が土下座している。とてもシュールな絵だ。

「私のことを知りたいのはあの所長さんにそう言われたからでしょ?素直に言いなさいよ」

 確かにそうなのだ。所長に言われて眼鏡無しで“W”が見える曜子と仲良くなれとは言われたけど、言われなかったらそのままハイ、サヨナラって別れていたのだろうか。偶然会うことはあるかもしれないが連絡先も知らなかったら今後二度と会わないかもしれない。

 曜子に“W”が見えたとしても直接的に被害が無ければスルーしてもよかったことかもしれない。ホントによかったのかな?自問自答してしまう。

 人の人生とは選択の繰り返しなのだ。その後の人生が大きく変化のある選択もあれば影響のない選択もある。

 物理的に選択した方のせいで被害が出れば選択ミスだったとわかるが、結果的にそのミスから生まれた選択で良くなる場合も多々ある。受験戦争で志望校に入れなかったとしても結果的に進学した学校で生涯の友人や恩師に出会えるかもしれないし、志望校に不合格だった事実を受け入れる心が強くなり更に勉強の仕方を改善してより良い進学や就職にありつけるかもしれない。目先の結果で見るか常に未来を見据えるかで選択によって生まれた結果の良いか悪いかが分かれるのだろう。ことわざであったなこういうの。たしか……

「ちょっと聞いてるの?ひょっとして私のこと想像してまたイヤラシイ妄想してたんでしょ?変態ウタル丸!」

「俺は漁船か?」

「そのパンケーキ美味しいでしょ?」

 にっこりしながらパンケーキの同意を求める瞳に人を漁船呼ばわりした悪気は一切感じられなかった。

「私、〇〇学園の三年生なの」

 〇〇学園といえばかなりの進学校だった。三年生なら丁度受験生で大変な時期じゃないか。

「……いろいろあってね、悩んでるの。勉強も遅れがちだし。ついて来れない生徒は置いて行く風習のある学園だから、なんとなくね」

 明るい曜子の時折見せる悲しそうな表情に俺は自分の無力さを感じながら本当の素顔はどっちなのだろうかと思ったが問いただす程俺達の距離は近くなかった。

「夢、聞いてきたじゃん。私ね、看護師になるのが子供の頃夢なの。お母さんが看護師だったから子供の時に憧れて今でも夢なの。大変な仕事だってことは分かっているんだけどね。大学も決めてたけどね」

 けど?過去形になってるのが腑に落ちない。

「私、お兄ちゃんがいるの。すっごく優しくて勉強もできるの。ウタルみたいにイヤラシイ妄想ばっかりしてないんだから」

 どうやら曜子の中では俺は常にイヤラシイ妄想をしているオジサンになってるが、兄がいるならその兄と歳はあまり変わらないはずだぞ?それに妄想は常にしてるがイヤラシイ妄想はたまにしかしてないぞ。
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