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第二章 人生初デートの相手があやかしなんて

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「お兄ちゃん、見て見てこれ可愛い! あ、こっちの色も可愛い!」

「あぁ、そうだな」

「もう、ちゃんと見てよね! あ、あっちのも見たい!」

 腕を引っ張られて店の奥に連れられていく。

 ここはショッピングモールの中にある女性服専門店。俺の人生で限りなく縁のない場所の一つである。

 開店時間と同時に店内で物色中。探しているのは雪実の普段着ときたから乗り気にもなれないのは当然だろう。

 しかも周りは当然女性ばかり。店員も女性なのだが、一躍周りの視線が厳しいのは店内に男が俺だけという理由ではない。

 真っ白な着物に帯、よく見ると雪の結晶の柄が施されている。

 どうやら人に化けるとこの姿にしかなれないというのだ。

 じゃあ、あやかしの時はどんな格好になれるのだろうか。旅館の浴衣がはだけた姿しか見たことないのだが。

 雪実のように見た目若い女性が真っ白な着物で歩いていたら、自然と視線を集めてしまう世の中だ。

 じゃあ若者らしい服が欲しいってことで買いに来たのだが。

 なんでその買い物に俺が同伴しているというのだ。

 朝食だけって自分にも強く言い聞かせたのに……。

    ※

「美味しい! 美味しい! どれもこれも美味しいよこれ!」

「もう少し静かに食べれないのかよ」

 朝食バイキングと言えど食べれる量だけをお皿に盛るのがマナーだ。

 大盛にしたお皿を笑顔でテーブルに持ってくるが、勢いよく食べては喋ってお代わりを繰り返す。口が二つでもあるかのように食事と会話の同時進行をする。

「いつもつまみ食いしてるんだろ? もう二度とするなよな」

「こんなに堂々と食べたことないから、味わって食べると本当に美味しいよね」

「確かにここの料理は抜群に美味しい。それでいてお値段もリーズナブル。これで混雑してないっていうのだから赤字じゃないのかとこっちが心配してしまうくらいだよ」

「じゃあ頑張っていっぱい食べなきゃね」

 バイキングでいっぱい食べても旅館の売り上げには貢献できないんじゃないのか?

 それにしても客は殆どいない。土曜の朝なんだしもう少し居てもよいのではないかと心配してしまう。これが週の中日だったらもっと居ないんじゃないのか?

「遠慮しないでいっぱい食べていってくださいね」

 一つ空席のテーブルを挟んで話しかけてきたのは着物を着た初老の女性。どこか気品のようなものを感じるが物腰が柔らかく、初対面でも壁を作らさない雰囲気に好感が持てる。

「お言葉に甘えて」

 ニコッと軽く会釈をした雪実はその後も食べては美味しいといちいち感想を述べていた。

 その感想が料理家のように、味付けや調理方法についてあれこれ的確に言ったのには正直驚いたのだが。
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