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第二章 人生初デートの相手があやかしなんて

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 駅で乗り換えて目的地へ。

 戴いた商品券は綺麗にきちんと全額使い、少々足らなかったのは俺が支払うことになる。

 ぶつぶつ言ってると、大物になれないよ、と耳元で囁いてくるから参る。

 可愛らしい感じの服を何着か試着しては気に入ったのを選別して購入していた。

「やっぱり若いうちは可愛らしいのを着とかないとね」

「お前、何歳だよ」

「んー、小さい頃に動物を憐れむのが流行ってたような気がする」

 江戸か? 社会の授業で習った江戸時代のことを言っているのか? これ以上聞いても浮世離れなので現実逃避をすることにした。

「レディに歳を聞くのはモラルに欠けるよ、お兄ちゃん」

「お前にモラルという言葉があることに驚くわ」

 ふりふりが付いたと言えばよいのだろうか、白い着物を着ていた時とはイメージが随分変わって見える。

 どこからどう見ても普通に人に見えてしまうからだ。しかもちょっと可愛い……。

「可愛いでしょ。似合う?」

 クルっと一回転して見せる。ふわっとスカートが浮き上がった。

「いいんじゃね?」

 可愛い、やっぱり可愛いぞ。何故だ? 雪実はあやかしだぞ! と脳みそをフル回転して導き出した答えが出た。

 俺がヲタクだからだ。そう、アニヲタに好かれる服を選んでアニヲタが好きそうな顔をしているのだ。アイドルとは違う、そう声優寄りの可愛さなのだ。

 ヲタクという言葉が海外にも広がる程知名度は上がったが、ヲタクを一括りにしてはいけないのだ。

 その分野又は作品を追及し、独自の研究と見解、そして知識を詰め込んで出来上がったのがヲタクなのだ。

 まぁ俺程度のアニヲタなど真のアニヲタからすれば赤子の手をひねる程度のレベルだが、一般人からすれば全部ひっくるめてヲタクなのだろう。

 そんな俺程度のヲタクでも、好きなアニメを追及していけば必ず通るのが声優の選別だ。

 必ず好きな声とキャラと本人と、色々悩んで好みがわかれるというものだ。

 話せば長くなるがとりあえずアニヲタ好みだから、例えあやかしだろうと俺のハートをキュンキュンさせてくるということがわかった。

 絶対、雪実本人には知られてはならないのだが……。

「何を知られてはいけないの?」

「のわっ! な、なんでもない」

 い、いかん。どうも俺は独りで考え込んでいると我を忘れてブツブツと思っていることを言う傾向にある。気を付けねば。

「ちゃんと見て可愛いって言ってよ。お兄ちゃん好みのを選んだんだから」

「俺好みって、ふっ、俺の好みなど何も知らないくせに何を根拠に言っているんだ?」

「お店の人に聞いたの。お兄ちゃん見て好きそうな服を選んでもらったのよ」

「なにー! あの店員さん、やるな。俺を外見だけでヲタクと見抜きしかも! アニヲタが好む服を選ぶ辺り、プロだな」

「やっぱり好みなんじゃん。ドストライク?」

 ぐぬぬぅ、と唸るしかなかったが、声にだして唸るのだけはなんとか制御することができた。
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