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第二章 人生初デートの相手があやかしなんて

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 都会に来た記念に秋葉原に行ってみたいと、雪実たっての希望。

 あやかしにも怯え、人混みにも怯えるあやかしなんて聞いたことがない。

 本来、あやかしとは人を驚かせる生き物だろうに。

 まぁその考え自体が愚かであり、人が作り出したイメージなのかもしれないが。

 少なくとも俺は人とあやかしが共存できるものではないと思っている。ごく一般論であり多数の意見だと信じている。

 しかし、横にいるのはそのあやかしだ。

 女将が言ったように、他人から見れば仲の良いカップルに見える程。

 実際他人なのだが、このあやかしは俺の妹ということで場を上手く切り抜けて今に至っている。

 他人というか人でもないのだが。

 そんな怪訝な事を思い、それが顔に出ていると決まって雪実はこう言う。

「細かい事気にしてたら大物になれないよ。お気楽極楽」

 己の父親が地獄の番人、閻魔大王なのにお気楽極楽とは、親を完全否定になると思うのだけど。それさえも気にしてたらいけないということなのだろうか。

 買い物を終え、さあ解散と思ったところに秋葉原に行きたいなどど。

 これが新宿や渋谷だったら好きにしろと言ってそのまま解散だったのだろうが、行き先が秋葉原となると話は変わる。

 雪実、わかっているじゃないか。と。

 いや、本当は渋谷とかに行きたかったが俺がそんな所に連れていく筈もないと踏んで言わなかった。秋葉原ならワンチャンあると思ったか?

 雪実がそこまで深読みできるかは疑問だが、有給を利用した三連休の中日、俺自身秋葉原に行っても良いなと思ったのは間違いないので仕方なく、仕方なく一緒に行くことにした。

「仕方なくなんだぞ」

「わかってるって、お兄ちゃん」

 そう言っては腕にしっかりと抱きついてくる。

 これが、本当の人間で本当の彼女だったら幸せ絶頂のカップルだろう。

「ほら、もっと楽しそうな顔しなくちゃ」

「実際に楽しかったら楽しそうな顔するよ」

「もう!  雪実は楽しんでるんだからお兄ちゃんも楽しんでよね!  楽しそうにしてたら良いことは向こうからやってくるもんなんだよ」

「そんなもんかねぇ」

「そうよ。明るい所に楽しさは集まってくるの」

 根拠の無いことを言ってはいるなぁと思ったが案外、的を得ているのかもしれない。

 雪実の屈託のない笑顔に釣られてか、人付き合いを苦手とする俺も内心は段々とはしゃいできているのがわかるからだ。

 秋葉原を一通りまわったところで少し休憩をする。

 お洒落なカフェなど似合わず、かといってメイドカフェに行く程の勇気もないので適当にドリンクとハンバーガーを買った。
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