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第十一章 夜明けのホワイトクリスマス

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「私のことを真剣に考えてくれる人、最後まで私を幸せにしてくれる人に私は尽くしたい」

「それって……」

「結婚を前提にお付き合いしてくれる人を選ぶよ」

「正気か?」

「マジ?」

 真剣な表情で話す詩織さんの意外な言葉に他の三人はざわつく気持ちを隠せなかった。

「コイツ、今詩織と付き合いたいって言ったんだぞ?」

 コイツって俺のことかな? コイツって言うの止めてくださーい。

「だから、結婚するほど大切に思ってくれる気持ちがあるのか知りたいの」

「結婚って、付き合ってる最中にも喧嘩別れとかあるのにもっと相手を知ってから考えるものじゃないの?」

「そんなのも全部乗り越えれるくらいの愛情が無いと結婚なんて無理だと思うの。だから、最初から結婚できるくらいの愛情を持った人と育んで行きたいって人を選びたいの」

「まぁ詩織はあんな彼氏でも付き合ったら一途だったからねぇ」

 カオル君は結構思ったことをズバズバいうタイプだというのがわかった。流石付き合いが長いからか詩織さんも気にしていない様子でカオル君の必死の説得も何食わぬ顔で答えていく。

「わかった。詩織は一度決めると案外頑固なとこあるからな。で、今第一候補が目の前にいるけど明君、貴方結婚する程詩織のこと愛してるの?」

「う……、結婚っていきなり言われても、実感湧かないし」

「普通そうだよね。逆にあるって即答した方が軽いっていうか中身ないよね」

 なんだか追い詰めてられているような気がするのだが。結婚……付き合えたら結婚まで行ける可能性が大きいってことだろうけど、それは逆に付き合うハードルが高くなったってことだ。

「しゃしゃり出るけど明君、今の役職は? 将来考えて出世考えてるの? 愛だけじゃ結婚できない、やっぱり収入も大事になるんだし」

「当然、平社員だけど」

「威張って言うことじゃないわね」

 その通り。真面目に働くことだけを考えてきたが出世なんて考えたことがない。真面目だけで評価されるなら高いのは自負しているが、有給を完全に消化してることで不条理にも上司の印象が低くなるのは否めない。係長はそうでもないけどあの課長はそういう昭和な評価をしてきそうだ。

「結婚して家庭を持つつもりなら自分を犠牲にしてでも出世や収入のことも考えなきゃダメよ。明君、貴方にその覚悟は聞いてもよいのかしら?」

「ない。永遠に平社員でしがみつくつもりでいるつもりだったが、それでは結婚どころか詩織さんと付き合う資格がないというのなら俺も男だ。今度の昇格試験に参加して役職を得て出世を目指そうじゃないか!」

「良く言ったわ。じゃあその昇格試験に合格しない限りは詩織に付きまとわないって約束よ」

「おうよ! って、え?」

「当然でしょ。約束守れないのに近い距離にいたら情とかで流されちゃうかもしれないし、他の候補の邪魔になるでしょ」

 今迄通り他人のままか結婚前提に付き合えるのかは俺の試験次第ってことか。

 親友だからってカオル君に主導権を握られたまま話が進み、結果次第では天と地程の差が出るがこれも全て詩織さんを想う気持ちから生まれたことである。
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