令嬢である妹と一緒に寝ても賢者でいられる方法を試してたらチート能力が備わった件

つきの麻友

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追憶 ~回想~

01

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「俺、死ぬのかな」

 息を整えたいのだが、そうもいかず荒々しく息をする度に肺が痛む。剣を持つ手にも力が入らない。なんとか落とさずに持つのがやっとの状態だ。

 左手で傷口を抑えても、座っている辺りは血で染まり、真っ赤に濡れた左手は震えが止まらなかった。

「ウタル、もう逃げようよ」

「ごめんな……」

 逃げるならもっと早くに決断するべきだったと今更ながら後悔している。この状態では逃げようにも捕まってしまうだろう。

 かと言って、最後の力を振り絞っても相打ちにもならないのは、剣を握る手の握力が物語っている。

「死んでも守ってやるって言ってたのに、できそうもない……」

 途中でむせて吐血をしたことで、喋ることも残りわずかであることを覚悟した。

 天を仰ぐ。喉に先程の血が通って行くのがわかる。飲み込みながら血の味が更に死期を現実的に思わせる。

「お前は……逃げろ」

「いや! 私も最後まで一緒にいるよ!」

 助けることも、逃がすこともできない。無力な自分に情けなくて涙がでそうになった。

 だが、この状況で泣いてしまったら余計に不安を募るだけの最低な男で終わってしまうだろう。

 どうせ最低の男で終わるなら、泣いて死ぬより笑って死のう。

「お前に、最後のお願いがあるんだ」

 グホッとむせながら剣を下に落とした。

 城の中に剣の落ちた音が鳴り響く。

「死なないって約束してくれたらお願い、何でも聞くよ」

「ああ、約束だ」

 俺は初めて嘘をついた。

「なんでも言って……」

 嘘がわかっているのか、嘘でも可能性にかけたのか? 言葉に甘えて俺は最後の願いを言った。

「お尻、揉ませてくれないかな?」

「はい?」

「お尻」

 グホッ!

「バカ……」

 血みどろの俺に抱き着いてきたので、震える手をお尻に持っていき、なけなしの力を振り絞り揉んだ。もっと力が残っている時にお願いをすれば良かったと後悔したのが、人生最後の後悔になるのかと思い渾身の力を込めて揉んだ。

 揉んだ。

 揉んだ。

 揉めば揉むほど力が漲ってくるのがわかる。一体どういうことなのだ? むせることも無くなり、左手で押さえていた血もいつの間にか止まっていた。

「これは、もしや!」

 左手もお尻に持っていき、両手で鷲掴みにしてお尻を無造作に揉んだ。

 片手で揉んだ時よりも力の回復が早いのが手に取るようにわかる。

 実際、手に取っているのはお尻で、わかるのはお尻の弾力性である。

 こんなことを落ち着いて分析できるほど脳が回復している証拠である。

「これが火事場のケツ力か!!」

 馬鹿みたいに叫んだ直後、少し離れた場所の壁が吹き飛び、瓦礫の奥から人影が現れた。

 死にそうで隠れていた時にも会いたくなかったが、力は回復してもお尻を揉むことが許された今も会いたくなかった。

「今生の別れは済んだか?」

「まだだと言ったら、時間をくれるのか?」

「死にぞこないが。遅いか早いかの誤差に意味はない」

 俺は物足りない気持ちを必死で抑えて、立ち上がった。

「下がって隠れてろ」

 言葉の意味が思っていたのと違うと気づくのは少し後の事だろう。

 右手を開くと、地に落ちていた剣が浮かび手に収まり、剣の先を敵の顔に向ける。

 同時に炎に包まれた剣を見て敵はニヤリとした。

「成程。貴様が降臨していたのだな」

「悪いが時間がないんでな。昔話はあの世でゆっくりやってくれ」

「小僧がぁ」

 床に映る自分の影を見て、背中に円状の炎が立ち上がっていることを知る。

 その炎は更に大きくなり、高い城の天井にも達するほどで、それが先程の下がって隠れているという言葉の真意でもあったのだ。

 敵は突進し、剣を振りかざしながら襲ってきたが揺れる炎は変わらず、敵の動きだけはスローモーションに見え、その後視界は炎で覆われた。

「また、お前が出てくるのか」

「俺がお前で」

「お前が俺か」

 頭の中で交わした会話が誰なのか見当はついたが後にしてくれという思いで遮り、詠唱をした。

「斬・炎月えんげつ……」

 覆われていた炎に横一文字の光が走ると、視界が開け敵の確認が取れる。敵も俺の確認が取れたところで一瞬ニヤけたが直後に身体は二つに裂かれて炎に包まれた。

 一瞬で灰と化した身体から黒龍が天に立ち昇る。

 城の天井を突き破り、崩れ落ちてくる瓦礫の向こうに輝く月が見える。

「美しい月夜。満月か……」

 身体を覆っていた炎は消え去り、立つこともできなくなった俺はその場に膝を落とす。

「ウタルーー!」

 背中から抱き付かれた俺はよろけながらも天を眺めながら昔を思い出していた。

 非情にも、美しい満月の影に見える黒龍は容赦なく俺達二人を呑み込んだ。

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