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魔王の呪い

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「ところでミゼルのこと、どう思っているん?」

「え?」

 城に帰る馬車の中でルーチェにされた唐突な質問の返事に戸惑いを隠せなかった。

「聞こえてるやろ。ミゼルに対するウタルの気持ちを聞いてるんや」

「それは僕も気になっていたところだね」

「そやろ?  さぁどう思っているんや。本音で言うてや」

「どうって、可愛い妹だろ。ちょっと天然なところはあるけど。キャゼルはかなり賢いところがあるけど」

「そんな答えで誤魔化せる思うてんの?」

 全くご希望に応えてない答えにご立腹の様子である。

「妹っていうのは家族同伴の遠足で使った設定やろ!」

 確かにルーチェの言うとおりだった。しかしその後も城内の国王反対派の風当たりを和らげる為に、兄妹といことにしている。ほとんど疑われたり国王に誹謗中傷が出ているが、完全な外部の者をロイエルーンの側に置くには強引でも貫くしかなかった。

 その設定を続けるおかげか、ミゼル達を自然に妹と思えることに苦労はなかった。

 夜の就寝時を除いて。そこは筋トレで凌いでいるので良しとして。

 ただ、ルーチェの様に本当の兄妹じゃないと知っている者に気持ちを問われると、胸の奥がざわつくような感覚を覚える。

 自分でもそれが何なのか理解できず、説明などできるはずもなかった。

「じゃあ質問変えるけど、元々居た世界で恋人はおらんかったんか?」

「恋人?」

 またしてもルーチェの質問に俺は固まってしまった。それは、恋人といって良いのかどうかという答えを見つけられなかったからだ。

 現世で転移をする瞬間まで一緒に居たのヨーコとは、知り合って数ヶ月。ただ、その間の時間は俺の人生の中で一番充実していたと言っても過言ではない。

 家庭教師という立場もあって、一緒に過ごす日々が続いた。ヨーコに恋人はいなかったが、俺達が付き合っているという確証もなかった。それは俺から告白もしていないし、仮に告白したとして、家庭教師と生徒という間柄を勘違いしているのは俺だけだったとしたら。フラれてからの関係がぎこちなくなる恐れがあるので、やはり告白などできるはずもなかったのだ。

 ヨーコが白血病という事情を知ってからも、なにか力になりたいという気持ちは本当だったし。

 ただ、恋人という関係は俺一人で勝手に決めれることではないのは紛れもない。

「固まってるけど、深刻な質問やったか?」

「ハハハ」

「完全に乾いた笑いだな。しかし安心しろ。そこのルーチェだって恋人はいたことないはずだぞ」

「なんで知ってるんや!  セリカやっておらんかったやろ!」

「僕は作らなかっただけだし、もうすぐカイト様と結ばれるはずだから心配するな」

「誰も心配やしてないわ!」

 どうやらここに居る三人共、今のところ恋人とは無縁のようである。

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