令嬢である妹と一緒に寝ても賢者でいられる方法を試してたらチート能力が備わった件

つきの麻友

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そして……さよならです

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「ウタルさん、時間が来たようです」

 スペンサーは弱々しく教えてくれた。最後になった神の能力が吸いとられていくかのように思えた。

 鏡から放たれた光はやがて部屋を包み込む。

 そして自分の身体も白く光ったと思うと光の中に取り込まれていった。

 また眩しくなって閉じていた眼を開くと、目の前にはロイエルーンの部屋が見えた。

 ただ、自分が鏡の中にいると認知するのに少しだけ時間を要した。

 次の瞬間、勢いよく部屋の扉が開いた。

「お兄ちゃん!」

 中に入って来たのはミゼルだった。

 現世に帰ると決めてからずっと、心残りだったミゼルとの別れ。

 心の中の感情に気付かないフリをしてたのに、ミゼルの顔を見て溢れだしてきた。

「ミゼル!」

「お兄ちゃん!  帰っちゃうの?  帰っちゃ嫌よ!」

 鏡の中の俺に向かって激しく感情をぶつけてくる。

 大粒の涙が止まらないのをお構い無しに。

「なんで黙って帰っちゃうの?  ずっと一緒にいるって約束したじゃん!」

「ごめん……」

 謝ることしかできなかった。

 軽はずみじゃなく、本気でそう思って返事をしたこと。だけど今はその約束を破ってる。本気じゃなかったと言えば嘘になる。

「ズルい。ズルいよ、お兄ちゃん……」

 涙で髪が赤く火照った頬に付く。

「ごめんな、ミゼル。ずっと、迷ってたんだ。だけど、俺が帰らなきゃ、死んじゃう子がいるんだ。死なない可能性が少しでもあるなら追い求めたいんだ。わかってくれとは言えない。一生恨んでくれても構わない。ただ順序が逆だったら俺はミゼルの元に戻ってた。先に出会った人を見殺しにはできないんだ」

 涙と叫びたい声を必死で堪えているのが手に取るようにわかる。

「ミゼル……、いい女になれよ」

 肩で息をするようにして、呼吸を整えてから呟くようにミゼルは小さな口を開く。

「帰るなら最初に言っといてよ……。期間限定のお兄ちゃんだったら、こんなに好きになんかなってないんだもん……」

「ミゼル……」

 内側から触れていた両手に鏡の感触が消える。

 スーっと水の中に手を入れるように鏡をすり抜ける。

 ミゼルはその両手をしっかりと握りしめる。

 確かに俺の両手にはミゼルの手の感触があった。

 俺はミゼルに引き寄せられ、胸元まで鏡から出てしまう。

 ミゼルの両手は俺の頬に触れてから首の後ろに回った。

 地球の重力に引き寄せられながらも、自身の重力でまるで抵抗する月のように距離を保ってきた。

 絶対に縮まってはいけない距離。

 絶対に触れてはならない部分。

 強制的に互いの重力を解除された時に起こること。

 それは未知なること。

 初めて触れた女の子の唇の感触と瞬間を、俺は一生忘れない。

 重なっていた唇が離れてた時、無重力の中に居るかのようにフワリと後方へ身体が流れていく。

 鏡の中からみた最後の景色はまた白く光り輝いていた。

 眩しくて、泣きたいけどそれを堪えて笑っていたい女の子の顔は天使に見えた。

 天使の最後の言葉、一生忘れない。









「……バカ」

 




                        第一部 完
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