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学園祭での密会
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学園祭の喧騒は最高潮に達していた。舞台から響く音楽、楽しげな声が廊下の隅々まで満ちている。
――けれど、その賑やかさの中で、私の胸は少し重たかった。
「会長がどこかの令嬢と婚約するらしい」
繰り返し聞くうちに、心の奥に沈殿していく。
本当かどうかも分からないのに、妙に現実味を帯びて聞こえてしまう。
私は人波を抜け出し、廊下の片隅で息を整えた。
そのとき、ふと視線を感じて顔を上げる。
少し離れたところで、会長がこちらを見ていた。人混みの中でもその姿は自然と目を引く。
そして、彼は控えめに手を上げ、指先でちょいちょいと「こちらへ」と促していた。
胸が小さく跳ねる。
断る理由もなく、私は足を向けていた。
* * *
生徒会室の扉を閉めると、外の喧騒が嘘のように遠のいた。
「お疲れでしょう。少し休んでいきませんか」
そう言って、会長は慣れた手つきで紅茶を淹れ始めた。湯気とともに漂う優しい香りに、自然と深呼吸をしてしまう。
「どうですか?」
差し出されたカップを受け取り、口に含む。
「……とても、いい香りです」
思わず零れた感想に、会長が柔らかく微笑む。
「よかった。今日は特別な日ですから、少し良い茶葉を用意しました」
「特別な日……」
「学園祭は、一年に一度ですから」
ただそれだけのやり取りなのに、胸の奥が温かく満たされる。たった一杯の紅茶に込められた気遣いが、私にとってはこの上なく大切に思えた。
(会長も、忙しいはずなのに……私に気を遣ってくれるなんて)
会長はふと窓の外に目をやり、静かに言葉を落とす。
「こうして落ち着けるのは久しぶりですね。あなたといると、喧騒を忘れられる」
――その一言に、心臓が一際強く跳ねた。
何気ない言葉なのに、まるで自分だけが特別に選ばれたように思えてしまう。
私は気づかぬうちに、この静かな瞬間を「愛おしい」と感じていた。
* * *
しばらく二人きりの時間を過ごした後、会長はカップを置き、真っ直ぐにこちらを見た。
「この後、後夜祭で挨拶がありますので……そろそろ行かなくては」
名残惜しさを隠すように笑顔を返し、私は部屋を後にした。
やがて夜が訪れ、後夜祭の広場は光に包まれる。
壇上に立つ会長が、堂々と挨拶をする声が響き渡った。整然とした姿に、会場中の視線が集まっている。
私は人波の中からその姿を見つめていた。
ほんの少し前まで、彼と二人きりで紅茶を飲んでいたのに。
その優越感が胸を温める。
けれど今は、誰もが憧れの眼差しを向ける舞台の上にいて、手の届かない遠い人のように感じる。
――さっき耳にした噂が、また頭をよぎった。
本当に、私とは違う世界にいる人なのかもしれない。
――けれど、その賑やかさの中で、私の胸は少し重たかった。
「会長がどこかの令嬢と婚約するらしい」
繰り返し聞くうちに、心の奥に沈殿していく。
本当かどうかも分からないのに、妙に現実味を帯びて聞こえてしまう。
私は人波を抜け出し、廊下の片隅で息を整えた。
そのとき、ふと視線を感じて顔を上げる。
少し離れたところで、会長がこちらを見ていた。人混みの中でもその姿は自然と目を引く。
そして、彼は控えめに手を上げ、指先でちょいちょいと「こちらへ」と促していた。
胸が小さく跳ねる。
断る理由もなく、私は足を向けていた。
* * *
生徒会室の扉を閉めると、外の喧騒が嘘のように遠のいた。
「お疲れでしょう。少し休んでいきませんか」
そう言って、会長は慣れた手つきで紅茶を淹れ始めた。湯気とともに漂う優しい香りに、自然と深呼吸をしてしまう。
「どうですか?」
差し出されたカップを受け取り、口に含む。
「……とても、いい香りです」
思わず零れた感想に、会長が柔らかく微笑む。
「よかった。今日は特別な日ですから、少し良い茶葉を用意しました」
「特別な日……」
「学園祭は、一年に一度ですから」
ただそれだけのやり取りなのに、胸の奥が温かく満たされる。たった一杯の紅茶に込められた気遣いが、私にとってはこの上なく大切に思えた。
(会長も、忙しいはずなのに……私に気を遣ってくれるなんて)
会長はふと窓の外に目をやり、静かに言葉を落とす。
「こうして落ち着けるのは久しぶりですね。あなたといると、喧騒を忘れられる」
――その一言に、心臓が一際強く跳ねた。
何気ない言葉なのに、まるで自分だけが特別に選ばれたように思えてしまう。
私は気づかぬうちに、この静かな瞬間を「愛おしい」と感じていた。
* * *
しばらく二人きりの時間を過ごした後、会長はカップを置き、真っ直ぐにこちらを見た。
「この後、後夜祭で挨拶がありますので……そろそろ行かなくては」
名残惜しさを隠すように笑顔を返し、私は部屋を後にした。
やがて夜が訪れ、後夜祭の広場は光に包まれる。
壇上に立つ会長が、堂々と挨拶をする声が響き渡った。整然とした姿に、会場中の視線が集まっている。
私は人波の中からその姿を見つめていた。
ほんの少し前まで、彼と二人きりで紅茶を飲んでいたのに。
その優越感が胸を温める。
けれど今は、誰もが憧れの眼差しを向ける舞台の上にいて、手の届かない遠い人のように感じる。
――さっき耳にした噂が、また頭をよぎった。
本当に、私とは違う世界にいる人なのかもしれない。
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