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準備のひととき
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高等部主催のパーティを翌日に控え、生徒会全体が慌ただしい熱気に包まれていた。
私は資料室で最後の確認作業に追われていた。机の上には招待者名簿や配置図が広がり、記入漏れがないかを一つひとつ確かめる。
窓から射し込む午後の光が、紙面を白く照らしていた。
「熱心ですね、アシュベル嬢」
ふいに聞こえた低い声に、心臓が跳ねる。
顔を上げると、入り口に立っていたのはユリウス会長だった。
黒髪に光が差し込み、瞳が一瞬きらめいて見える。
「会長……」
「ここまで丁寧に確認してくれる生徒会員は珍しい。助かります」
その声音は穏やかで、けれど不思議と私の胸の奥を直撃する。
指先が熱を帯び、ペンを持つ手に力が入った。
会長は私の隣の机に書類を置くと、静かに腰を下ろした。
距離が近い。衣擦れの音さえ耳に届く。
意識しないように目を伏せたのに、鼓動が速まるのは止められなかった。
しばらくの間、私たちは並んで黙々と作業を続けた。紙をめくる音とペン先の走る音だけが、資料室に静かに響く。
その沈黙は妙に甘く、時折ふいに視線がぶつかるたび、胸の奥で小さな波が立った。
やがて会長はペンを置き、私の方へ身体をわずかに傾ける。
「アシュベル嬢」
「……はい」
「明日は長丁場になります。体調に気をつけてください」
ただの気遣いのはずなのに、低い声が耳の奥に残って離れない。
その瞳が真っ直ぐに私を見つめていて、呼吸さえ浅くなる。
「ありがとうございます。会長も、どうかご無理なさらないで」
震えを隠すように言うと、彼はわずかに口元を緩め、柔らかな微笑を見せた。
その一瞬に、視線を逸らすことができなかった。
* * *
資料室を出ると、廊下で待ち構えていたようにカミルが声をかけてきた。
「お嬢様、会長と二人で作業なんて珍しいですね」
「帰ってきてたって知らなかった。びっくりしたわ……」
わざと話を逸らすと、彼はにやりと笑い、「はいはい」と肩をすくめた。
* * *
そして迎えたパーティ当日。
賑わう会場の中で、会長とすれ違った。
ほんの一瞬、視線が合う。彼は多くの視線を集めながらも、私にだけ口元をわずかにほころばせた。
その短いひとときだけで、胸の奥が不思議なほど熱く満たされていく。
――ほんのわずかな時間が、何よりも心を満たした。
私は資料室で最後の確認作業に追われていた。机の上には招待者名簿や配置図が広がり、記入漏れがないかを一つひとつ確かめる。
窓から射し込む午後の光が、紙面を白く照らしていた。
「熱心ですね、アシュベル嬢」
ふいに聞こえた低い声に、心臓が跳ねる。
顔を上げると、入り口に立っていたのはユリウス会長だった。
黒髪に光が差し込み、瞳が一瞬きらめいて見える。
「会長……」
「ここまで丁寧に確認してくれる生徒会員は珍しい。助かります」
その声音は穏やかで、けれど不思議と私の胸の奥を直撃する。
指先が熱を帯び、ペンを持つ手に力が入った。
会長は私の隣の机に書類を置くと、静かに腰を下ろした。
距離が近い。衣擦れの音さえ耳に届く。
意識しないように目を伏せたのに、鼓動が速まるのは止められなかった。
しばらくの間、私たちは並んで黙々と作業を続けた。紙をめくる音とペン先の走る音だけが、資料室に静かに響く。
その沈黙は妙に甘く、時折ふいに視線がぶつかるたび、胸の奥で小さな波が立った。
やがて会長はペンを置き、私の方へ身体をわずかに傾ける。
「アシュベル嬢」
「……はい」
「明日は長丁場になります。体調に気をつけてください」
ただの気遣いのはずなのに、低い声が耳の奥に残って離れない。
その瞳が真っ直ぐに私を見つめていて、呼吸さえ浅くなる。
「ありがとうございます。会長も、どうかご無理なさらないで」
震えを隠すように言うと、彼はわずかに口元を緩め、柔らかな微笑を見せた。
その一瞬に、視線を逸らすことができなかった。
* * *
資料室を出ると、廊下で待ち構えていたようにカミルが声をかけてきた。
「お嬢様、会長と二人で作業なんて珍しいですね」
「帰ってきてたって知らなかった。びっくりしたわ……」
わざと話を逸らすと、彼はにやりと笑い、「はいはい」と肩をすくめた。
* * *
そして迎えたパーティ当日。
賑わう会場の中で、会長とすれ違った。
ほんの一瞬、視線が合う。彼は多くの視線を集めながらも、私にだけ口元をわずかにほころばせた。
その短いひとときだけで、胸の奥が不思議なほど熱く満たされていく。
――ほんのわずかな時間が、何よりも心を満たした。
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