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5話 恐れ
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いくら田舎だとは言っても、流石に自分が住んでる国の王子が勇者に選ばれたのは知っている。
確か名前はルード・カーディアス。
背が高くてカッコよく、誰にでも優しいうえに人柄も良くて完璧で、誰もが待ち望んでいた勇者すぎる勇者が現れたってフィオちゃんが言っていたからだ。
それを聞いた時、まるで物語の中の人のようで現実味がないと思ったのを覚えている。
だけど目の前の姿はまるでストーカー。
「あぁリリス。僕のリリス。熱いんだ。助けてくれ。僕のことを愛しているんだろう? 僕一人だけこんなに辛いのは不公平じゃないか。愛し合った者同士は何でも分かち合わないといけないんだよ? わかるだろう?」
ルードは全身に負った火傷を魔法で回復させながらこちらに向かってゆっくり歩いてくる。その狂気の表情はとてもじゃないけど勇者なんかには見えない。まるで化け物だ。
「こ、来ないでください! 何度も言ったはずです。私は貴方のことなんて愛していませんと」
「キミは馬鹿だっ! 僕に愛されてるんだから僕を愛するのが当然なのに何故それがわからないんだ!」
「ひいっ!」
ルードの独りよがりな叫びにリリスは完全に怯えてしまい、剣を握る手から力が抜けてしまっている。
ここは何かあったら自分が動かないといけないとは思いつつも、貰ったばかりの今まで使ったことも無い魔法と、その魔法を人に向かって撃ってしまったという事実に俺は足がすくんでしまっていた。
(ちっ! ここで前世の倫理観が邪魔するのかよ……)
「わかったよリリス。やっぱり自我なんてものがあるからダメなんだ。キミは僕の可愛いお人形さんでいるのが一番幸せになれるんだ。だから……」
(やっぱり退いてなんてくれないよな)
「キミの心を壊してでも連れていく」
さっきの狂ったように振り回すだけの攻撃とは違い、剣を扱う人の動きでリリスに迫るルード。
俺は二人の間に入ると魔法で障壁を張った。初めて使う魔法だから強度なんてわからない。だから何層も張った。
「レノ様!?」
「お前はさっきからなんなんだ! すごく熱かったんだぞぉぉぉ!」
叫びながら障壁に向かって剣を振り続けるルード。
その度に障壁は少しずつ砕かれていく。
(どうする!? これからどうすれば!?)
今まで簡単なクエストしかやった事がなく、ましてや人間と戦うのが初めてな俺はここからどうすればいいのかわからない。さっきの魔法が当たったのだってきっとマグレだ。
そんなふうに迷っていると、最後の障壁が割られたその瞬間、
「どけよぉぉぉ!」
「ぐぁっ!」
俺は腹を蹴られて吹き飛び、背後の木に全身を打ち付けられてしまう。
息は苦しく、喉の奥からは鉄の匂い。あまりの苦しさに咳き込むと、手のひらには血が付いている。
今まで生きてきてこんなに痛い思いをするのは初めて。だから俺は怖くなった。
手はふるえ、足には力が入らない。
もうこの場から逃げ出したいと思ってしまった。
だけど──
「あぁぁぁっ!」
そんな悲鳴が聞こえ、視線だけを声がした方に向けると、そこではルードが笑いながらリリスの足に剣を刺している姿が見えた。
涙を流すリリス。それを見た瞬間、何かがキレた。
「クソがァァァァ!」
手のひらを向けて叫ぶとルードの足元から水が吹き出す。それはすぐに固まり、首から下がまるで氷像のようになる。
「なにィィィ!?」
俺は腹を押さえながらゆっくりと歩き近づく。そして地面に落ちていたリリスの剣を手に取り、
「僕を殺すのか? お前は勇者を殺すのか!? でも無駄なんだよ! 僕には僕以外の僕が──」
「黙れよ」
ルードの首をはねた。
「レノ様……」
「大丈夫か?」
「はい、でも……」
リリスの視線が俺の後ろに向かう。それにつられて振り向くと、そこには怯えたようにへたり込む兵士がいた。確か王都から村に派遣されていたギルドの職員。
そいつは俺を見ながら呟いた。
「ゆ、勇者殺しだ……」
と。
確か名前はルード・カーディアス。
背が高くてカッコよく、誰にでも優しいうえに人柄も良くて完璧で、誰もが待ち望んでいた勇者すぎる勇者が現れたってフィオちゃんが言っていたからだ。
それを聞いた時、まるで物語の中の人のようで現実味がないと思ったのを覚えている。
だけど目の前の姿はまるでストーカー。
「あぁリリス。僕のリリス。熱いんだ。助けてくれ。僕のことを愛しているんだろう? 僕一人だけこんなに辛いのは不公平じゃないか。愛し合った者同士は何でも分かち合わないといけないんだよ? わかるだろう?」
ルードは全身に負った火傷を魔法で回復させながらこちらに向かってゆっくり歩いてくる。その狂気の表情はとてもじゃないけど勇者なんかには見えない。まるで化け物だ。
「こ、来ないでください! 何度も言ったはずです。私は貴方のことなんて愛していませんと」
「キミは馬鹿だっ! 僕に愛されてるんだから僕を愛するのが当然なのに何故それがわからないんだ!」
「ひいっ!」
ルードの独りよがりな叫びにリリスは完全に怯えてしまい、剣を握る手から力が抜けてしまっている。
ここは何かあったら自分が動かないといけないとは思いつつも、貰ったばかりの今まで使ったことも無い魔法と、その魔法を人に向かって撃ってしまったという事実に俺は足がすくんでしまっていた。
(ちっ! ここで前世の倫理観が邪魔するのかよ……)
「わかったよリリス。やっぱり自我なんてものがあるからダメなんだ。キミは僕の可愛いお人形さんでいるのが一番幸せになれるんだ。だから……」
(やっぱり退いてなんてくれないよな)
「キミの心を壊してでも連れていく」
さっきの狂ったように振り回すだけの攻撃とは違い、剣を扱う人の動きでリリスに迫るルード。
俺は二人の間に入ると魔法で障壁を張った。初めて使う魔法だから強度なんてわからない。だから何層も張った。
「レノ様!?」
「お前はさっきからなんなんだ! すごく熱かったんだぞぉぉぉ!」
叫びながら障壁に向かって剣を振り続けるルード。
その度に障壁は少しずつ砕かれていく。
(どうする!? これからどうすれば!?)
今まで簡単なクエストしかやった事がなく、ましてや人間と戦うのが初めてな俺はここからどうすればいいのかわからない。さっきの魔法が当たったのだってきっとマグレだ。
そんなふうに迷っていると、最後の障壁が割られたその瞬間、
「どけよぉぉぉ!」
「ぐぁっ!」
俺は腹を蹴られて吹き飛び、背後の木に全身を打ち付けられてしまう。
息は苦しく、喉の奥からは鉄の匂い。あまりの苦しさに咳き込むと、手のひらには血が付いている。
今まで生きてきてこんなに痛い思いをするのは初めて。だから俺は怖くなった。
手はふるえ、足には力が入らない。
もうこの場から逃げ出したいと思ってしまった。
だけど──
「あぁぁぁっ!」
そんな悲鳴が聞こえ、視線だけを声がした方に向けると、そこではルードが笑いながらリリスの足に剣を刺している姿が見えた。
涙を流すリリス。それを見た瞬間、何かがキレた。
「クソがァァァァ!」
手のひらを向けて叫ぶとルードの足元から水が吹き出す。それはすぐに固まり、首から下がまるで氷像のようになる。
「なにィィィ!?」
俺は腹を押さえながらゆっくりと歩き近づく。そして地面に落ちていたリリスの剣を手に取り、
「僕を殺すのか? お前は勇者を殺すのか!? でも無駄なんだよ! 僕には僕以外の僕が──」
「黙れよ」
ルードの首をはねた。
「レノ様……」
「大丈夫か?」
「はい、でも……」
リリスの視線が俺の後ろに向かう。それにつられて振り向くと、そこには怯えたようにへたり込む兵士がいた。確か王都から村に派遣されていたギルドの職員。
そいつは俺を見ながら呟いた。
「ゆ、勇者殺しだ……」
と。
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