孤独の魔女と独りの少女

徒然ナルモ

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四章 栄光の魔女フォーマルハウト

82.決戦 栄光の魔女フォーマルハウト

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石化から戻った私に、メルクリウスは少し掻い摘んで状況を教えてくれた

その話によるとやはりフォーマルハウトは暴走しているらしい、エリスとメルクリウスはそれを止める為 私の解放のため共に協力し、各地で戦いながらここまで来れるだけの準備を整え仲間を増やしてくれたらしい

あのグロリアーナさえも味方につけて…だ、余程エリスは頑張ったんだろうな


フォーマルハウトは 国の危機をも見過ごし ただこの宮殿に篭り続けてきたという、私の知るフォーマルハウトなら絶対そんなことはしない、やはりあいつもまた己の魔力によって 正気を失っているのだろう

なら止めなくては、友として 奴の行いを、師としてエリスの思いに応えるために…そう決意し、私は宮殿の外へと歩み出る



「…………」

外に出れば 一陣の風が髪を揺らす、既に空には星が輝いていた

雲を下に見る天上世界 確かここは翡翠の塔の最上階だったか、雲と星の間にある花畑 幻想的な世界の中 そいつは漂いながら現れる

「レグルス…レグルス!レグルス!わたくしの栄光!在りし日の輝き!貴方はいつまでも変わらず美しい!わたくしの記憶の中にある貴方のままだ…!」

金の髪を漂わせる 宛ら女神のようなそれは狂気を零しながらゲタゲタ笑う、お前は変わったな フォーマルハウト…

栄光の魔女フォーマルハウト、…八千年前に名を馳せたヌース家の令嬢であり最後の生き残り、 史上最強の錬金術士にして錬金術の始祖、誰よりも気品と風格を持ち合わせ誰よりも真面目で誰よりも正義を愛し 誰よりも責任を負い誰よりも傷つくことを厭わない女、それが私の知るフォーマルハウトだ

それが今はどうだ…

「酷い有様だ、フォーマルハウト…国を統べる事がお前の責務じゃなかったのか、過去の栄光に縋り付き責務を放り投げるなど、無様極まりないぞ」

「わたくしはわたくしの栄光を追い求める、栄光無きわたくしなどわたくしに非ず!」

「その在り方が既に貴様の栄華から掛け離れていることに何故気がつかん」

花畑のど真ん中に立つフォーマルハウトの方へとゆっくりと歩く、栄光は追い求める物にあらず 常に胸に輝かせる物、そう言ったのはお前だろうに…

私が奴の魔力を消せば 奴もまた元に戻るのだろうか、…分からないが やってみるしかない、その為に私はここに来たんだ

「今 私がお前を昔のお前に戻してやる」

「レグルス!貴方は保管されねばならない!その日まで!満ちる日 開かれる日!否!開くその時!満ちるその時まで!」

「何を言っている!、愚か者が!」

両者の雄叫びは そのまま開戦の嚆矢と化す、空の上にありながら地を揺らす程の魔力が空間を満たし 虚空を歪める

孤独の魔女と栄光の魔女、深淵と有頂の戦いの火蓋が落とされたのだ

「わたくしの栄光を阻むなら 阻むならっ!レグルス!貴方と言えども容赦しません!、痛めつけましょう痛めつけましょう」

フォーマルハウトは躊躇なく攻撃態勢に入った、かつての友 かつての栄光と嘯いておきながら 敵対すれば壊しにかかる、今のお前はこれ以上なく矛盾しているよ!

その手を大きく広げながらフォーマルハウトは叫ぶ、魔力を隆起させ…そして

「『錬成・鏡面惨禍 人形跋扈』」

魔力が フォーマルハウトの周囲を渦巻く、それは時空さえ歪ませ 法則さえ捻じ曲げる

大地が揺れる 大気が震える、それと共に地面から一本 白い棒が生えてくる…否、、棒ではない 手だ…フォーマルハウトの手によく似た白い手が一本 二本 無数と生える、十や二十では効かぬ程に生えたかと思えば

「うふ…うふふふ、あははははは!」

生えてくる…地面からフォーマルハウトが、何十人という裸のフォーマルハウトがワラワラと、錬成したんだ 己自身を錬金術で

「人造人間…ホムンクルスか」

フォーマルハウトの錬金術は最早神の領域だ、限定的ながら人や命を生み出すことが出来る、命を持っているそれは一人一人が思考を持ち 一人一人が魔力を持ち合わせる、つまるところ 今この場に現れた偽フォーマルハウト 全てが魔女と それに比類する力を持つということになり

私は今 魔女級の怪物に全面を包囲されたことになる

「しかし全て己の顔とは、悪趣味だな フォーマルハウト」

右を見ても左を見ても同じ顔、フォーマルハウトの顔ばかりだ、、唯一違う点を挙げるなら服を着ていないこと、そしてその顔に意志が感じられないことか

「あはは…あはははは!、レグルス!レグルスぅ!死んでください!死んでください!わたくしのものにならぬなら死んでください!レグルス!」

刹那 、周囲を囲む無数のフォーマルハウト達が一斉に己の腕を鉄刃に変え 襲い来る、速い…雷鳴さえも超える速度の刺突 斬撃の乱舞、一瞬でも気を抜けば瞬く間に串刺しにされかねないが

思う、アルクトゥルスよりは遅い と


「ふんっ!」

背後から斬りかかるフォーマルハウトの刃を首を傾け避け 一撃 裏拳で首を飛ばす、するとフォーマルハウトの体は石となり砕け 大地に散る、元の石に戻ったか

なんて安心もつかの間、続け様に襲い来るフォーマルハウトの群れ、右から斬撃 受け止め膝を蹴り砕く、前から刺突 手で逸らして返す刀で胴を撃つ

左右から同時に挟撃、屈むと共に蹴りが飛び 瞬く頃には土塊となる、四面から同時に刃が煌めく 叩き落として拳を叩き込む、八方から乱れるような斬撃全て躱して打撃で答える

次は十二面 次は十八 倒す程にフォーマルハウトの群れの練度は上がり、倒す程に私の動きを学習する 、より速く より的確に より隙を突き より正確に殺す、倒した数が百を超えたあたりで無垢な赤子同然だった偽フォーマルハウト軍団は既に立派な殺し屋同然に連携のとれた動きをし始める

群がり 斬りかかり、しがみつき押さえ込み 自らの犠牲を厭う事なく私一人の命を狙う、時として自爆し時として仲間を貫きながら私を刺し殺そうとする、魔女級の身体能力を持った存在によるただただ単純な数の暴力、戦法としては合理的と言えるだろう 

だが…

「今更小細工など通用するか!起きろ紅炎、燃ゆる瞋恚は万界を焼き尽くし尚飽く事なく烈日と共に全てを苛む、立ち上る火柱は暁角となり、我が怒り…体現せよ『眩耀灼炎火法』!」

魔力を一気に爆発させ 周囲ごと炎で焼き払う、立ち上る火柱は天高く広がり 偽のフォーマルハウト達を熱によって融解させる、どれだけ数を揃えても 所詮は偽物 魔術も使わぬ紛い物に押し潰される私ではない

「あはははは、相変わらずデタラメな魔術ですね…ですが、これならどうです 『紅光石化之魔眼』!」

炎を切り裂き フォーマルハウト本体が目を光らせる、赤く輝く魔眼 見ればたちまち体は石となり勝負は決する まさしく一撃必殺の魔眼

その威力は凄まじく 浴びれば魔女とて無事では済まん、事実私はアレに一度敗れている

…しかし

「何度も同じ手を喰らうか!」

手を翳し弾く 、奴の放った光は我が手の先に生まれた障壁に阻まれ霞となり消え去る、当然 我が体は石とならない、何故か?魔眼破りを用いたからだ

魔眼破り 周囲の魔力を操作し、奴の目から放たれる微量の魔力を 掻き乱す事によりその効果を防ぐ術、これを使えば遠視によって見られることもなく透視によって透かされる事もなく、魔眼によって石にされる事もない

自然界にはこれを鱗粉という形で行う魔獣もいるが、これはその原理を魔力だけで再現した物だ、魔眼の仕組みを理解した者なら誰でも使える

「確かに一度、私はその術によって体を石に変えられたが、それは私の隙をついてこそ成り立った一撃必殺、もう一度を私を石に変えたければ また不意を打ち隙をつくんだな、……まぁそんなものもうお前には見せないが?」

「……そんなに、わたくしを拒みますか、レグルス」

一撃必殺とは 来ると分かっていれば対処は容易い、だからこそが不意をつくのだ だからこそ初見殺しなのだ、それを二度もやられて 同じ手に敗れる程魔女は甘くない

自慢の魔眼術を破られメラメラと燃えるように髪を揺らすフォーマルハウト、どうしても私を石に変えたいらしい、だが

「…大人しく石になればいいというのに」

「弟子の手前だ もう格好悪いところは見せられんさ!」

裂帛の気合いと共に一気に距離を詰める、一度の踏み込みで大地がえぐれ 立ち尽くすフォーマルハウトに向かって肉薄する、何とか隙を作って 虚空魔術を叩き込まねば

「私に逆らうというのなら 思いしらせねばならないようですわね!レグルス!」

 「むっ」

なんだ、フォーマルハウトの目つきが変わった さっきまでの狂気に溺れた虚ろな目では無く、昔のような確固たる目つき 確固たる敵意が私に向けられる、なんだ さっきから言動が二転三転したり 物言いや人格が変わったり、まるで フォーマルハウトの中に二人 人間がいるようで……ッッう…くそっ、こんな時に頭痛だと…なんでこんな時に 石化の影響か?


突然の頭痛に失速した私に向けてフォーマルハウトが構える、構えを取る 戦闘態勢だ さっきまでのお遊戯とは訳が違い

来る、史上最強の錬金術師の 極大錬成が…

「『錬成・蛇壊之坩堝』」

刹那、大地が割れ無数の岩の大蛇が現れ私の周囲を囲む、岩の蛇 確かアイツは自律行動をし自動で敵を追尾し喰い殺す恐ろしい代物だ、何より厄介なのはぶつかった衝撃に対応して硬度を上昇させ硬化するという特性だ、つまり普通に殴ったんじゃ絶対破壊できない

壊すなら岩を操作する魔術を使うか…硬度上昇が間に合わない速度で

「ぶん殴る!」

迫り来る大蛇の一匹を その眉間を捉え拳を叩き込む、衝撃に反応して硬くなるよりも速く叩き砕くことでこいつは倒せる、まぁそんなことできるのは私とアルクトゥルスとカノープスくらいしか出来ないだろうがな

「こんなものか!!」

拳を握りなおも増え続ける大蛇を相手に構えると

「『錬成・無限鬼怪之腕』」

「チッ…」

フォーマルハウトの詠唱に反応し、今度は闇を象った枝のような細腕がそれこそ大地を埋め尽くす勢いでワラワラと生え 私の足を掴もうと襲い来る

鬼怪之腕…地面から生えたあの細腕は見掛けによらず怪力であり、魔女の脚さえ握り潰す握力を持つ、それが雑草のように無限に大地を埋め尽くすのだ 慌てて飛び上がり腕から逃れれば 今度は岩の蛇が退路を塞ぐ

「『錬成・空駆葬送駒絡』」

続け様に飛んでくる不可視の牙、いや 空気を錬成して作られた風の走狗だ、風であるが故に不可視 空気であるが故に不可避 気体であるが故に触れることも出来ず防ぐことも出来ない、それが音も立てず岩の大蛇の間を縫って次々飛んで私の体を切り裂いていく、

「『錬成・烽魔連閃弾』」

岩の蛇 風の走狗に続き現れるのは弾丸 いや熱の蜂だ、火を纏い鉄板すら焼き穿つそれが音速以上のスピードで掃射される、着弾すれば爆発するそれを避ければ岩の蛇に直撃するが 当然のごとく無傷

これだ…これなんだ、フォーマルハウト本来の戦い方 石化の魔眼で不意を突くなんて戦い方は普段余程のことがない限り絶対に使わない戦法なんだ

岩の蛇も闇の腕も風の走狗も火の蜂も、フォーマルハウトから生み出された時点でもう奴の手元を離れ勝手に敵を攻撃する、だからフォーマルハウトは何も気にせずただただ錬金術を連発するだけでいい

圧倒的な物量で押し潰す 人海戦術 いや魔海戦術、一度この状況に持ち込みさえすれば勝ちは確定、これが…フォーマルハウトが初見殺しと言われるもう一つの所以、アルクトゥルスが考えに考え抜いた一手で着実に首を取るチェスのような戦法だとするなら フォーマルハウトは海だ 

迫る波を完膚なきまでに全て叩き返すことができる人間がいるか?、払っても払っても海は微動だにせず次の波を送る、波を前にもがくまに いつのまにか首まで水に飲まれ 足をすくわれ溺れ死ぬ 、フォーマルハウトの戦い方はまさにそれだ


「『錬成・雷虎撃王吼』『錬成・犀雲刺突衝』『錬成・穿剣旋回鳥嘴』」

しかもこの錬成…奴にとっては軽い錬成は材料がある限り魔眼術と併せて使うことにより詠唱を唱えずとも発動させられる、時間が経てば経つほど逃げ場がなくなる 打てる手が少なくなり 最後にはロクな抵抗も出来ず圧殺される、さっきまでの人形遊びとは攻撃の密度が段違いだ

単純だからこそ必殺 明快だからこそ抜け道がない、圧倒的だからこそ強い 絶望的だからこそ…フォーマルハウトはこの世界で最強の一角を名乗れるのだ

「天籟よ この叫びを聞き届け給う、その意思 纏て飛廉となり、世界を抱く風を力を 大流を、そしてこの身に神速を『神風瞬統』!」

神風となり周囲を乱れ飛びながら攻撃から逃れる、岩の蛇を砕き 闇の腕を蹴り 風の走狗を衝撃波で霧散させ 炎の蜂を叩き落とす、私に出し得る最高速度で同時に行うがそれでも無尽蔵に追加される戦力を前に私の逃げ場は着実に奪われる

そして

「そろそろですか、…煌めくは天蓋の光芒、燎原の母の抱擁、燃やし砕き…赫焉満る世界に一抹の希望は無し 光は無し 人は無し、押し潰せ『灼天 厭世落胤星』」

空が光る、赤々と燃え盛るように天が輝く…天井を彩る星の光が強くなり こちらへと、ゆっくりゆっくり近づいてくる…、隕石 とでも呼ぼうそれは真っ直ぐ 翡翠の塔最上階 我々のいるこの場に降ってくる

星落とし 否 超高高度で岩石を錬成し、それをただこちら目掛け放つ…たったそれだけだ、岩石が山のように巨大でなければ可愛らしい技じゃないか

「バカ!全員殺す気か!あんなものここに落とせば 我々だけでなく 世界が割れるぞ!」

「良い響きです、世界を割る…」

「何を…チッ」

今私は二択を迫られた 回避に専念し隕石を放置するか、回避を捨て隕石を破壊しにかかるか、どっちを選んでも私は傷を負う 少なからぬ傷を負う…だが

ここにはエリスもいるのだ、あの隕石を放っておく理由はない

「ぐっ!…」

大地に両足をつく、鬼の腕が我が足を握り潰し血が吹き出るが構わない、風の走狗の牙と炎の蜂が我が体を射抜くが捨て置く、岩の蛇を叩き砕き 僅かな隙を作り…

「ッ…ぐぅ…すぅー、玉衡は煌めき 開陽は輝き 揺光は揺蕩う、束ねし三星の光は 暗き天幕にて輝き存在を示す、其れは恵みの天槌、或いは破滅の星剣『覇星 極光天剣』…!」

息を整え 唱える詠唱、激しい痛み渦巻く中作り出す三つの星光、一つでさえ大地を焼き尽くす其れは、渦巻き螺旋を作り一つの柱となって、やがて其れは天へ伸びる一条の光の塔となり 降り注ぐ天の落胤を迎え撃つ

墜つ星と立ち上る星光の激突、遥か上空でぶつかり合った其れはやがて強い光を放ち、次いで地面に爆裂の轟音と衝撃が降り注ぎ 草花を揺らす

「ほう…」

天を仰ぎみれば 超濃密度の魔力が粒子になり 舞うだけで隕石の姿はない、当然だ こちらとて五本の指に入る大魔術を用いたのだ、あの程度の石ころ カケラも残さず吹っ飛ばせる…何代償は多大な魔力消耗くらいなもの、安いもんだ


「星辰魔術…そういえば貴方も使えましたのね」

「本当は使いたくないがな、こんなもの…」

「何故、虚空魔術と並び貴方が 貴方だけに賜ったものだと言うのに」

「だからだよ、これを使えば奴の存在を肯定することに繋がる、この魔術は私の代で終わらせたいからな、なるべく表にも出したくは…ない!」

私の周りに漂う鬼の腕や風の走狗を腕を振り払い消し飛ばす、煩わしい 足は潰され体は傷だらけだが何 この程度なら行動に支障はない、この攻撃の檻も厄介だが私を倒すには至らない 決め手を欠いているのは奴も同じだ

「やはり どれだけ数で攻めても貴方相手には些か攻め手にかけますわね、ここは質も追い求めるべきですわ」

ふむ そう鼻で笑い分析すると共にフォーマルハウトが指を鳴らせば 周囲に蔓延る怪物達は嘘のように 煙のようにふわりと舞って消え去る、数ではなく質か…つまり 魔女の偽物や怪物達で攻め立てるのはやめ、究極の個 即ち奴自身が出るつもりなのだろう

「…その身を刃とし、その魂は鋼と化し 意のままに従う武器となれ、何人たりとも止める事なき気炎の劔よ、今ここに顕れよ『光顕 天断之矛』」

その瞬間フォーマルハウトの足元から再び紛い物のフォーマルハウトがぞろぞろ現れたかと思えば その全員一人残らず、その身が剣に変わる なんの比喩でも例えでもない、本当に偽フォーマルハウト達が身の丈程もある長剣に変わり 周囲に並び始める

光顕 天断之矛…フォーマルハウトの使う魔術の中でも随一の錬金術、効果は単純 対象を剣へ錬成し直すと言うもの、ただ恐ろしいのはその剣は材料の性質をそのままに引き継ぐと言う点にある、炎を剣にすれば刃は熱を纏い水を剣にすれば刃は流体となり

魔女の紛い物を剣にすれば、その刃は魔女の体さえ穿ち斬る

「さぁ、天さえ割りましょう」

再び指が鳴らされる、其れはまるで号令の如き剣達に届き その矛先が一斉に私を向く…

「っあっ!?」

慌てて態勢を変えれば私の頬に一本の赤い筋が走る、飛んできたのだ 剣が、目にも止まらぬ速度で真っ直ぐ私の頭蓋を叩き割ろうと、ダメだな 切れ味が完全に私の肉体を上回っている、さっきまでのように拳で叩き落とそうとすれば私の手がすっぱり切れる

流石は偽物とはいえフォーマルハウトの肉体を材料にしただけはある、凄まじい威力だ

「まだまだ行きますよ」

刹那 空間に幾重にも重なるよう 光の筋が乱立する、キラキラと輝く光の筋は踊るように高速で周囲を飛ぶ、音を抜き去り 光となって放たれる斬撃の雨 、並大抵の存在なら即 細切れだろう、一撃貰えば余波で体が吹き飛びかねない速度で飛び回ってるんだ

私でさえ 冷や汗を舞わせながら避け続けなければならない程だ

「数が多い!焔を纏い 迸れ俊雷 、我が号に応え飛来し眼前の敵を穿て赫炎 爆ぜよ灼炎、万火八雷 神炎顕現 抜山雷鳴、その威とその意が在る儘に、全てを灰燼とし 焼け付く魔の真髄を示せ 『火雷招』」

剣閃を空へ舞い上がり避けると共に放つ炎雷 剣も何もかも溶かし尽くす熱の奔流 、剣ごとフォーマルハウトを打ち砕こうとしたのだが…

走る数閃 、刹那私の魔術が微塵に切り裂かれる、あの剣撃 私の魔術さえも叩き斬るのか わりかし本気で撃ったのだがな…!、しかもどうやら熱如きでは傷一つつかぬようで 剣は相変わらず無傷のままだ

しかし参った、魔術さえも切り裂く剣の檻…どうやって抜け出したものか…


「師匠!師匠!」

「レグルス様!大丈夫ですか!」

宮殿か駆けてくるのはエリスとメルクリウスだ、先ほどの衝撃波を聞きつけてやってきたか、しかし今は取り込み中だ!

「離れていろ!まだ危険だ!」

「え エリスに手伝えることは…」

「無い!師を信じろ!」

なんだエリス、その目は その顔は 私が負けると思ってるのか?私が敗れると思ってるのか!?

…思ってるんだろうな、事実私は負けたから 半年以上もあの子に寂しい思いをさせた、エリスは恐れているんだ また、その孤独が訪れる事を…

なら安心させてやるのが師匠の役目か、もうもったいぶるのはやめだ…一気に決める!

「…すぅ、滅界寂静 涅槃浄土、この手の先には何も無く 我が手の内にも何も無し、虚を携え空を掴む 『虚空双滅掌』」

「ふふふ、使ってきましたね 虚空魔術」


「…虚空魔術?…師匠…」

迫る閃光に向け拳を放つ、普通に叩き落せばその圧倒的な切れ味に我が手がすっぱり行くだろう…だが

我が手が触れた剣がまるでそこだけ削られたかのように 抉り取られたかのようにその部分だけが消え去り、真っ二つにへし折れ制御を失いあらぬ方向へ飛んでいく剣の残骸、殴って壊したのでは無い 文字通り消したのだ

「相変わらず恐ろしいですね、虚空魔術…有から無への転換を一個人の意志で行う、まさしく神の業」

虚空魔術『虚空双滅掌』、この両手で触れた部分を文字通り消し去る魔術、どんな物質でも 何で出来ていても、例え魔女でも消し去る 最悪の魔術…、あまり良い思い出のある魔術では無い、だが使わねば勝てないと言うのなら 躊躇はしない

「私にようやく本気を出してくれるのですね!レグルス!」

「ああ、これ以上は出させてくれるな!」

響く狂笑 共鳴する剣群、隊列を組み矢の如く掃射される其れを虚空を纏う両手で払う、ここからは単純な速さ勝負だ 奴の剣がより速く私の首を叩き斬るか、私がその前に奴の懐に潜り込めるか 、その勝負

「魔女と魔女のぶつかり合い!懐かしい!懐かしいですね!レグルス!、あの時の戦いを思い出しますね!」

「思い出させてくれるな!」

「何を言うんですかレグルス!、私達が成した偉業!其れを否定する事はこの世界の否定に他なりませんよ!」

音を超え 光となって飛ぶ剣を真っ向から拳で叩き砕く、何を言ってるんだフォーマルハウト 、あれを偉業と呼ぶのか!お前は!

「あの戦いを最も悔いていたのはお前じゃないのか!フォーマルハウト!、あの戦いに栄光がないと嘆いたあの時のお前はどこへ行った!」

「さぁ、…どぉ~こへでしょう?ねぇ」

…暴走、なんだよな お前がこうやって狂って私に戦いを挑んでくるのは 暴走しているからなんだよな、なのに…なんだこの感覚は まるで、その目 その顔…なんで重なるんだ

フォーマルハウトと原初の魔女が…何故 フォーマルハウトの口から発せられる言葉が、原初の魔女と重なるんだ

止めなくてはならない、何が何だか分からない 世界で何が起こってるのか分からない、だが止めなくてはならないのは確かだ、ここで止めなければフォーマルハウトは…あの女のように、いや 原初の魔女そのものになってしまう

そんな悪寒が私を突き動かす、剣の雨を虚空で削り飛ばし…空いたその刹那の穴に 一気に飛び込み、ようやく 我が体はフォーマルハウトの目の前まで到達する

「…ヒヒッ!、やっとここまで来れましたね!レグルス!」

「貴様は…なんなんだ!」

背後に迫る剣撃を一蹴、振り払いフォーマルハウトに肉薄する、だと言うのに フォーマルハウトを目の前にしている気がしない、この嫌な感覚 なんなんだ…!

「私を止める?止めるか?止めますか?無理無理!、『錬成・白光戰刃之両翼』」

刹那、我が視界の両端に白い煌めきが映る、と 共に全霊で体を後ろへ逸らし其れを避ける…腕だ、フォーマルハウトの腕 其れが刃に変じていたのだ、これも今飛び交っている剣と同じ 、魔女を材料にした剣…いや『本物の魔女を材料にした刃』だ、この世のいかなる剣よりも鋭い其れはただ振るわれるだけで空を裂き 私の背後に存在する雲海が真っ二つに裂ける

「ああ、止めるさ 今のお前はお前でない!、別の何かに変ずる前に止めなくてはならない!」

「ッハハ!」

振るわれる刃を虚空の手で打ち砕く…が 削った側から刃が修復され無意味 徒労に終わる、フォーマルハウトの手刀に加え未だ我が周囲では剣が舞い 宛ら斬撃地獄と呼べる檻に閉じ込められながらの戦い

高速でぶつかり合う二つの煌めき、孤独の魔女が振るう 虚空の両腕は如何なる物さえ消し去り砕く、栄光の魔女が振るう腕剣はただ振るわれるその余波で斬撃が衝撃波として飛び周囲の雲海ごと細切れにする

一撃でも入れば 命を刈り取るであろう両者の腕が夜空に光芒を残し 二人の間で幾千の残像が舞う、譲らない 双方譲らず寧ろ距離を詰めていく、お互いの息が掛かる程の近接戦 必殺の応酬の中

「……!」

レグルスは見る、フォーマルハウトの瞳を アルクトゥルス同様濁った目を、深い…深い闇だ この世の深淵な接続するような薄暗い瞳の中にレグルスは見る …その闇の根元を

「フォーマルハウト…、栄光とは なんだ…!」

「はぁ?、何を言ってるんですか?私にそんな…ッ!」

「答えろ!フォーマルハウト!」

「がふふぅ!?」

レグルスの咆哮、刹那の隙を見切りフォーマルハウトの両腕を掴み 消し砕く、そのまま攻めと守りを一挙に失ったフォーマルハウトの顎先にレグルスの蹴り上げが一閃 飛び穿ち、その体を宙へと吹き飛ばし

「お前にとって栄光とはなんだ!」

「栄光、わた…くしの、栄光…」

「お前が口にした其れは その姿にあるか!」

宙を舞うフォーマルハウトは混乱したように瞳を四方にワナワナ揺らす、栄光 その言葉はフォーマルハウトの耳ではなく魂に突き刺さる、栄光なき魂に

「わたくしの栄光は…栄光とは、即ち!貴方達です!レグルス!だからわたくしは貴方達を…!」

空中で反転し態勢を直すフォーマルハウト、栄光とは即ち 仲間だと答える、栄光のあるべき姿は 仲間の姿だと答える、その瞳は狂気に飲まれど 確かに芯の通った物であり、故にこそ迷いもない

「レグルス!わたくしは貴方が欲しい!かつての栄光が欲しい!取り戻したい!魔女でないあの頃の光が!皆で笑い合ったあの時の景色が…其れを求めるのは 悪いことですか!レグルス!」

宙に足場でもあるかのように大空に立つフォーマルハウトは より一層強く魔力を隆起させる、その魔力は輝きを伴い 夜空に浮かび上がったもう一つの太陽のようにデルセクトを照らす

「灰は灰に、塵は塵に、水は油に 煤は金に 肉は石に、創り変わる世界 寂静蔓延る万界、我が手の延びる普天率土は今 灰に染まる、極大錬成『遍照流転 石界天満月』!」

フォーマルハウトの周囲に伸びる光は 世界を 周囲を灰色に染める、奴が目から放った石化の光、其れを今度は古式魔術として正式に放ったのだ、その効果範囲は恐らくこの大陸の陸地全てを包んで余りある程

あの魔術が解き放たれれば カストリア大陸にいる全生物は 魔女も含めて石と化し 世界は静寂が満ち 何もかもが静止した灰色の世界になってしまうだろう、其れほどまでに 奴はかつての栄光を手元に置いておきたいのだ、私達魔女を石に変え 永遠という時間を共に過ごしたいのだ

歪だ 歪な願いだ、ただ手元に置いておくだけでは友とは言えない、そこに栄光はない…この過去への栄光が フォーマルハウトの闇の 狂気の根源だ

「レグルス!わたくしと共に居てください!もう離れないで!わたくしを捨てるというのなら 全て全て静止させましょう!、あの時の栄光の日々を…!共に…!」

「くだらないッッ!」

世界を石に変えようと広がる灰色の光を前に、両手を合わせ 魔力を高める

「色不異空 空不異色 色即是空 空即是色、この世は在るようにして無く 無いようにしてまた在る、無とは即ち我であり 我とは即ち全であり 全とは即ち万象を意味し万象とはまた無空へ還る、有は無へ転じ 万の力は未生無の中ただ消え去る」

唱える魔術は虚空魔術、祈るように謡い 訴えかけるように謳う、奴の願いは 或いは我ら魔女全員が胸に持つ願いでもある

あの時に戻りたい 誰だって思ったさ、あの悲劇をなかったことにして…みんなで笑って みんなで喧嘩して みんなで歳をとって みんなで死ねたなら、どれだけ良かったか

魔女なんて名乗って神の如き振る舞いをしたって 魔女だって人間なんだ、振り返りもする 想起もする 、思い出を慈しみ あの時に戻れたらと涙だって流す

だけどな、フォーマルハウト あの戦いを忌避しつつも否定をする権利は私達には無いんだ、私達がそれを否定してしまったら あの戦いで散った仲間達の魂はどこへ行く あの災厄で死んだみんなの無念はどうする 私達に託してくれた師匠の願いは…どうなる!

私達は八千年前から既に 人のあり方を捨てたんだ、それが不老として全てを背負い生きる覚悟だと!、我等に説いたのは他ならぬお前だろう!フォーマルハウト!

「『天元無象之理』!」

放つ 無空の光 、凡ゆる全ての力を消し 無力とする光は、フォーマルハウトの石化の光を切り裂き 無へと変換する、魔術の否定 それこそがこの魔術の真価…されどフォーマルハウト、お前の願いだけは 否定しない

否定はしないが、今は……

「レグルス!、…レグルス!わたくしは…わたくしを…」

「分かっている、もう何も言うな…!一旦消えていろ!紛い物が!」

「くっ…ぁぁぁぁあああああああ!!!!!!」

一度放たれた虚空魔術を防ぐ術はない、天に昇る純白の光はフォーマルハウトを飲み込み 月空へ立ち上り…そして

その日、翡翠の塔最上階 この世で最も高き地にて、白の巨塔が星を突いた



「わたくしの魔力が…消えていく、私が…嗚呼、…そう…そうでしたの、わたくしが……欲した物はもう……」

その最中、薄れる意識の中 フォーマルハウトは呟き、其れもまた 虚空へ帰った

終わっていたんだ、全て 欲する前から全て 全て、これはそう…きっと 、ただの無いもの強請りだったのかもしれないと、そんな呟きさえもまた 虚空の光へと消えていく

…………………………………………

『何が、間違いなのか ではありません

何が、 過ちなのか ではありません


一度決意し行った行動に、正も否もありません、ただ 付き纏うのは責任のみ

歩んだという責任 為したという責任 生きたと言う責任、この身を縛る責任を 全て背負うからこそ栄光は端然と輝くのです


殺したかもしれません、死なせたかもしれません、助けられなかったかもしれません、もっと…別に手はあったかもしれません、だけど我々は今ここに立っている

だから、歩み続ける責任があるんです…振り返るのは きっと もっと ずっと先なのかもしれないですわよ

だから今は前を見ましょう、惨状と地獄をしっかり見つめ その先の繁栄を見据えましょう

我等にはその責任がある、我等魔女が為す贖罪は…これからなのですから』




古い、記憶…遥か古の記憶、其れは人としての終わり 或いは魔女としての始まり、あの時のわたくしは責任を説いた 

荒廃した世界を前に泣き崩れ、皆の後を追おうとするスピカに

最愛の人を失い、流す涙も見つからぬ程に悲しみに暮れるアルクトゥルスに

憔悴しきり、諦めて倒れるアンタレスに

折れた剣を地に突き刺した墓標に祈るプロキオンに

崇める神を見失ったリゲルに

それでも尚 強く腕を組み 立ち続け空を見上げるカノープスに

責任という重圧を与え、この世界の再建を説いたのはわたくしだ、今の魔女世界という歪な形を作ったのはわたくしなんだ、そうでもしないと皆ここで死んでしまいそうだったから みんなと別れるのはとてつもなく寂しかったから

そんな自分勝手な理由で、わたくしは永遠の責任と言う呪いを 皆にかけた

ただ、ただ一人 レグルスにはそれが出来なかった 『それ』を前に立ち尽くすレグルスにかける言葉が 誰も見つからなかったから、この世界の有様に最も責任を感じているのは彼女だ これ以上の責任を彼女に負わせれば、それこそレグルスは壊れてしまうかもしれない

レグルスはこの戦いで一番多くの物を失った、家族を 弟子を 故郷と友を 何もかもを失った、そんな彼女になんて言えばいい …彼女を戦いに巻き込んだのはわたくし達なんだから

もう会うことはないというレグルスに返す言葉はなかった 立ち去るレグルスの背中に誰も何も言えなかった……

それからレグルスの顔を見ることが無くなって、生きているかも分からないまま時間が経って、何が何かも分からないくらい世界が変わって…、皆疲れていた 疲れ切っていた…それでもわたくしの言った責任は皆を縛り続けた

皆を縛ったという責任はいつしかわたくし自身を縛り、永遠の後悔の中何度も身を引き裂き それでも尚責務を全うし続けるうちに、わたくしは そのうち、あの日々を切望するようになった

何も考えず、ただ師の下で修行を積んでいたあの頃を 笑って泣いて 喧嘩して仲直りして、そんな日々が永遠に続くと思っていたあの頃を…責任も何もないあの頃を

そんなわたくしの心の闇がだんだんと大きくなって、…いつ頃でしょうか、その闇に 何かが住み着き始めたのは…

いつ頃からでしょうか、その何かと自分が混濁して …自分が自分でなくなり始めたのは…

このままではきっとわたくしは別の何かになる…、そうなる前に…ああ…どうか、レグルス 貴方の顔をもう一度見たかった、出来るならまたみんなで一緒に…あの頃のように……


…………………………………………………

舞う花びらは 夜空へ飛び立ち、月光を反射し星空と同化する

花畑のど真ん中に力を失い落ちたフォーマルハウト様の様子を伺うように エリスと師匠 そしてメルクリウスさんは駆け寄る、グロリアーナさんは 直ぐには駆け寄らず、何故か遠巻きにその様を眺めていた

「…師匠、フォーマルハウト様は…」

師匠の放った魔術…見たことのないそれはフォーマルハウト様の放った大魔術を切り裂き フォーマルハウトを包み込んだのだ、直撃したはずのフォーマルハウト様には傷一つ見受けられないが…

フォーマルハウト様は意識を失い、先程まで漂わせていた魔力は露と消え、まるで死者のように静かに眠っている、まさか…どうにもならずに殺してしまったのでは、そんな嫌な予感が背筋を這うが

「…彼女の中の魔力を消した、私の推察が正しければフォーマルハウトはこれで己の狂気から解放された筈だ」

解放…あれが、あの白い魔術が師匠の言っていた魔女を暴走から解放する法、確かフォーマルハウト様は虚空魔術と言っていたけれど…、エリスの知らない魔術だ いつかエリスも教えてもらえるのかな

「…………………」

メルクリウスさんは無表情で倒れるフォーマルハウト様を見つめていた、何を考えているかは相変わらず分からないけれど、静かに…静かに…

そんな静寂の中の、目の前で倒れるフォーマルハウト様の体が微かに震える

「ん…ぅ…あ…、わた…くしは…」

「フォーマルハウト様!」

フォーマルハウト様が起きた瞬間 銃を捨て、フォーマルハウト様の体を起こすメルクリウスさん、その表情から正気に戻った事を察したのだろう もう彼女に魔女を警戒する心はない

「フォーマルハウト様、分かりますか?意識は…」

「問題ありませんわ、…貴方は…?」

「…連合銃士隊所属 メルクリウス・ヒュドラルギュルムです、…あの フォーマルハウト様、その…」

「ええ、覚えていますわ…わたくしのした事を、…もう 貴方方に襲いかかろうなんて真似、致しませんわ」

フォーマルハウト様の表情は穏やかだった、穏やかにされど虚無に…夜空を眺めていた、もう先程までのような苛烈な狂気は感じない、…よかった 元に戻ったみたいだ

「わたくしは…ありもしない物を追って、終わったものに縋って…過去の栄光をなんとしてでも取り戻そうとしていたのですね」  

「ああ、無様だったぞ フォーマルハウト」

「レグルスさん…貴方、いえ…わたくしは貴方になんて事を…」

「フッ、気にしていない、油断していた私も悪いからな」

フォーマルハウト様の謝罪を鼻で笑い気にしていないと師匠は言う、師匠が気にしないならエリスもしない、師匠と離れていたのは寂しいけれど またこうして会えたのだから、それでいいんだ

「っ…はぁ、立てませんわ」

「無理もない、私の虚空魔術でお前の力を全て消したのだ 、まぁ暫くすれば魔力も体力も戻る 立ち上がれるようにもなるだろう」
 
「失態を演じ、国や友に迷惑をかけたというのに地に伏しているとは 何という…」

「無理をしてはいけませんフォーマルハウト様、今は休んでください」

「貴方…メルクリウスでしたわね、レグルスを石化から解放し わたくしをこうして狂気から解き放ってくれたのは」

メルクリウスさん、…そうだ 全てはメルクリウスさんの決意から始まった、彼女が決意してエリスを助けてくれなければ全てが終わっていた、師匠は石のままだったしフォーマルハウト様は狂気の最中にいた、彼女が奮起し全てを敵に回す覚悟で戦ってくれたから…全てはこうして解決に至ったのだ

「メルクリウス…なんと礼を言っていいやら、あなたのおかげでわたくしは…」

「私は…ただ、あの夜の出来事を やり直したかっただけです」

「あの夜?…レグルスをわたくしが襲った日の夜のことですか?」

「はい、私は過去を悔いました…あの夜の出来事をなかったことにできればどれだけ良いかと、悔やみ続けていました」

「そう、…わたくしは貴方にも酷い事をしましたわね…、過去はやり直せない 取り戻せない、貴方の傷つけた責任は永遠に…」

「いえ、やり直せます 何度でも取り戻せます、過去に戻る事は出来ません ですが先に進み続ければ いつか栄光を取り戻すことが出来る、その為に戦い続け 過ちを正す事が出来れば良いのですから」

その言葉を受け フォーマルハウト様の瞳は星空からメルクリウスさんに移る、その言葉がフォーマルハウト様にどのように聞こえ どの様に聞こえどのように感じたのかは分からない

ただ、師匠はその言葉を聞きくつくつと笑い フォーマルハウト様は、小さく息を吐くように笑っていた

「過去は取り戻せると?」

「はい、どのように間違えても 進み続ければいつか過去の陰りも栄光に変える事が出来ると、私は信じています…信じてきたからこそ、ここまで歩んでこれました、と言っても私一人ではとても出来ませんでしたがね」

メルクリウスさんがちらりとこちらを見る、…二人だからあの夜の出来事をやり直せた そう言わんばかりに、そうだね メルクさん、どちらか一人でも出来なかった、二人だから変えられた、エリスもそう思います

「信念と責務、それを全うする事こそが…」

「貴方の強さ…ですわね、まるで昔のわたくしを見ているようですわね、昔のわたくしもまた 己の責務と信念を背負い戦っていました、…ですが貴方は信念を背負うのではなく 信念を胸に戦う…」

「その子は強いぞフォーマルハウト、昔のお前より頑固そうだからな」

「が 頑固!?」

頑固だろう、凄い頑固者だ ある意味では厄介とも取れる程に彼女は頑固だ、だが同時に正義を愛する頑固者でもある、…絶対に悪に屈しない 過ちを看過しない、だから彼女はこの国と魔女を変えられたんだ

そんなメルクさんを見てフォーマルハウトは様はすっと、表情を落ち着ける…そしてまるで何かを決意する欲に目を閉じると

「…このような失態を演じたのです、わたくしも責任を取らないといけませんわね」

「そ そんな、フォーマルハウト様 どんな失態も過ちも取り返せます、進み続ければ必ず…!」

「分かってますわよ、ここで全ての役目を辞任して消える なんて言いませんわ、ただ同盟の危機に何もしなかったわたくしよりも 同盟を率いるに足る人物にこのデルセクトを任せた方がより良いと思うのですわ、ねぇグロリアーナ」

「はっ、フォーマルハウト様が望むのであれば」

いつのまにかグロリアーナさんがエリス達の隣に立っていた、呼ばれてここまですっ飛んできたのか?、いやしかしグロリアーナさんの顔は晴れない…悔しそうな顔だ、きっとフォーマルハウト様の穏やかな顔を見て 今まで自分が何もしてこなかった事を悔いているんだろう

対するメルクリウスさんはどうだ、フォーマルハウト様の意図が読めず 首を傾げている、でもエリスは分かる この先フォーマルハウト様が何を言いだすか

「メルクリウス、貴方の活躍は聞き及んでいます、腐敗した同盟を正し 蔓延る悪を打ち払ったとか、わたくしが狂気に苛まれ何もせず傍観してきたというのに、貴方は己を顧みず戦った、誰よりも同盟と正義 そして信念と栄光を愛する者」

「こ 光栄です、フォーマルハウト様」

「わたくしは同盟の危機と腐敗を前に何もしなかった、…対する貴方は私に代わり同盟を救った、…メルクリウス わたくしは同盟を束ねる身を退いて、貴方に全権を任せようと思うのです、わたくし以上に同盟と栄光を愛する者に…」

「ブフゥッ!?」

吹き出す、目を白黒させ頭をクラクラと回し あまりの情報に頭をパンクさせるメルクさん、そりゃそうだ 今は総司令の補佐をやってはいるが、ついこの間まで下っ端の軍人だった彼女が魔女から同盟のトップの座を譲られる、しかもなんの前触れもなく

「無理です!いきなりそんな!」

「勿論今すぐに仕事をしろとは言いませんわ、何より貴方は若い…若過ぎる、軍人としても若いのに各地の王を束ねるなど出来ません…まだ…出来ません、っと」

するとフォーマルハウト様は力の出ない体で無理に起き上がると、しゃがみこむメルクさんを見下ろす

「…ただ、今後似たような事があった時 わたくしでは問題解決に時間がかかり過ぎます、それは実力云々 権威云々の話ではありません、魔女がおいそれと動くわけにはいかないのです…、デルセクトにも 魔女ではない人の指導者がいるのです」

「な ならグロリアーナ総司令は!」

「軍の総司令は務まれど、私には同盟の議長は務まらん」

「そ そんなことありませんよ!、な なぁ!エリス!君も何か言ってくれ!」

「エリスがデルセクトの行く末に口を挟むのはちょっと…」

「そんな…」

エリスに意見を求められても困る、だって今この話し合いの行方次第ではデルセクトという同盟の在り方が決まってしまうのだから、ここはデルセクトの皆さんに決めていただきたい、というか巻き込まないで

「私以外にもきっと適任者はいます!、そんな…こんな…だって」

「聞きなさいメルクリウス、わたくしは何もその場の雰囲気で決めてるわけじゃありませんわ、今デルセクトは過去の栄光を失い わたくしの零落の所為で金と権威が蔓延る下衆な同盟になりつつあります、…失われた栄光を取り戻せるのは過去の人間であるわたくしでも 今のデルセクトを統べたグロリアーナでもありません、心からデルセクトを変えようと戦った貴方を置いて他にいません」

確かに、フォーマルハウト様の統治を失ったデルセクトは金と権威さえあればいくらでものし上がれる国になった、それは逆に金と権威が無ければどこまでも落ちていく場所ということでもある

あの地下はまさしくそれだ、ソニアがいなくなっても国のシステムが変わったわけじゃないから 地下に落ちて死んで行く人間はこれからも増え続ける

それを変えられるのは このシステムを作ったフォーマルハウト様でもなくこの在り方を良しとしたグロリアーナさんでもなく、燃える正義を胸に秘め 根底から変えようと奮戦したメルクさんしかいないんだ

それはカエルムの事件解決とマレフィカルム打倒という結果が示している

「デルセクトを変えたいのですよね?メルクリウス」

「は…はい…」

「なら、トップに立って変えなさい 貴方にはその権利があります」

「ですが!、権利はあっても…私には…力がありません」

確かに、いくら正義感があってもそれで同盟の王達が付いてくるとは限らない、この間まで地下に住んでいた人間に頭押さえつけられるくらいなら 同盟から抜けてやるとデルセクトがめちゃくちゃになることもあり得る、だけど それを解決する方法はある というか多分そっちが本題じゃないか?

「言ったでしょう、今すぐとは言いませんと…、メルクリウス、貴方わたくしの弟子になって、同盟を率いるに足る人物になりなさい、力がないなら得ればいい 認められないなら認めさせればいい、わたくしの弟子 わたくしの後継者なら誰も文句を言いませんわ」

「わ 私がフォーマルハウト様の弟子!?魔女の弟子に私がなるのですか!?」

ひっくり返る、ラグナも確か同じような反応していたな…、でも 確かに弟子になって魔女に比類する人物になれば誰も文句は言うまい、国を率いる人物にはこれからなればいいんだ、大丈夫 きっとなれる

エリスだって奴隷の身からここまで来れたんだ、メルクさんなら同盟率いるくらいわけないだろう、彼女にはそういう素質はあるとエリスは思うし

「いやですか?」

「そ そんな、滅相もありません!」

「なら決まりですね、これからわたくしのことはマスターと呼びなさい、おっほっほっ」

「これから頑張りなさい?メルクリウス、私もちゃんと支えますからね、というか フォーマルハウト様が言いださなくても 私も総司令の座を譲ろうと思ってましたから」

「と…とんでもないことになってしまった…」

メルクリウスさん、顔面蒼白だ 冷や汗がダラダラ吹き出て カタカタ震えている、ともあれ メルクリウスさんはこれから栄光の魔女の弟子としてデルセクト同盟を率いる人物になる為邁進を続ける日々を行くことになるだろう、彼女がデルセクテを率いる立場になったことで いい方へ進むか悪い方向へ進むかは分からない

けれど、きっと デルセクトは大きく変わることになるだろう、彼女が信じる栄光に溢れる同盟へときっと変わるはずだ、ある意味 彼女の願いが叶ったとも言える

「頑張ってくださいねメルクさん」

「エリス!他人事だと思って!…いや、いや!そうだな 私は自らここまで来たんだ なら、最後までやり抜くのが責任というものだ、やってやる!やってやるぞ!エリス!」

「その意気です!メルクさん!」

もはやヤケクソと言わんばかりに雄叫びをあげるメルクさんをエリスも応援する、友として彼女の願いとこの同盟の行く末を、頑張れメルクさん


「仲がいいな、エリス…私がいない間も上手くやれていたようだな」

「師匠…」

そんなやりとりを見て師匠も笑う、…上手くやれていたか…、結果的には上手くいった、結果だけ見るならこれ以上ない大成功だ

中身を見れば、とても上手くやれていたとは思えない、数々の強敵を相手にエリスは苦戦に苦戦を重ねていた 、魔術が効かないという場面も何度か見受けられたし何回も負けた、その都度誰かに助けられた 、何より…

「師匠、エリスにはやっぱり師匠が必要です、今回のデルセクトの戦いでエリスは何度も師匠の教えに助けられました」

「そうか、…いや 私の教えを活かすのはお前の努力次第だ、私の教えを活かせるほどにお前が頑張った証だよ」

「エリス…頑張りました?」

「頑張ったよ、お陰で助かった」

「…なら、改めて抱きついてもいいですか?」

「いいとも、来なさい」

師匠に向き直る、その顔を見れば 師匠は優しくエリスに笑いかけてくれる、この顔を見る為に 師匠の笑顔を見る為に、メルカバにもソニアにもヒルデブランドにもヘットにも、負けることなくエリスは戦えたんだ、戦い抜いてこれたんだ

思い返すデルセクトでの日々、…それを思えば思うほど その時間の長さを理解すればするほど、エリスの目からは涙が溢れる

「師匠…師匠、会いたかったです 師匠」

「寂しい思いをさせたなエリス」

「師匠…師匠…!!」

抱きつけば涙が止まらない、師匠の温もりだ 師匠の匂いだ 師匠の手だ 師匠だあれだけ求めた師匠がここにいる!、涙を押しつけるように師匠にグリグリと頭を押し付ければ師匠がエリスの頭に手を置いてくれる

「…少し大きくなったか?エリス、魔力も私と別れる前から強くなっている キチンと鍛錬は怠ってなかったようだな」

「師匠!、…エリスは…師匠から離れたくないです、一生側にいてください!」

「ああ、いるよ…お前が望むならな」

師匠の奪還、これを以ってエリスのデルセクトの戦いは終わった…


……………………………………………………………

デルセクト同盟国家群の端も端、末端とも言える小国の片隅、路地裏とも言える薄汚い闇の中 蠢く影がある

「っふぅー…っははは、俺もしぶといもんだな」

壁に手をつき へし折れたナイフを手に浅く笑う男…、この国のマレフィカルムを率いていた男 戦車のヘットと呼ばれる男だ、五大王族のソニアと手を組み この国にカエルムを蔓延させ、魔女打倒のための巨大戦艦を建造していた人物、狡猾でズル賢い悪人を自称する彼は 漸く塞がった傷跡を撫で想起する

半年前、ヘットは全てを失った ソニアという強力なスポンサーもカエルムという商売道具も、部下も組織もなにもかも失った…魔女の意志を継ぐ者エリスと戦い敗れたのだ、この命以外の全てを失った

だがまだ生きている、崩壊する戦艦から海に飛び込み 命からがら逃げ延び、この半年間 傷を癒しながらデルセクト中を逃げ回っていたのだ、デルセクトに築いた基地は全部潰されていたし 部下も俺が負けたと知って四方に散っていった 右腕のメルカバも囚われた

だが生きている、生きてりゃなんとかなる 寧ろ気合が入ってきたくらいだ

「くくく、逆境 窮地…逆に燃えるね、昔を思い出す…悪人ってのは生きてる限り悪いもんなのさエリス」

体を起こし思考する、さて傷も塞がった 路地裏でドブネズミみたいに生きるのも終わりだ、組織は無くなったが 無くなったならまた作ればいい、どれだけ時間がかかっても俺はまたこの国に災禍をもたらしてやる

「さてさて、次はなにをしたものかね…その辺の小国全部唆して同盟を割るか?それとも爆弾でも使ってあちこちで騒ぎを起こしてその間に…」

「次…はありませんよ、No.7 戦車のヘット」

「ッ…!誰だ!」

起き上がったヘットに向けて 声が鳴る、ヘットよりも奥の路地裏 闇の中からカツカツと一切乱れない等間隔で靴音が響き なにかがこちらに近づいてくる

「あなたのやり方は我々マレフィカルムの信条に反します、上手く行っている間は見逃しましたが、それもここまでです」

「テメェ…シンか」

白い髪 白い目 、淡い雰囲気を纏った女が闇から現れ ヘットを冷酷な目で見つめているのだ、ヘットはこの女に見覚えがあり そして何より、絶対に会いたくない人物の一人だ

マレウス・マレフィカルムという巨大な魔女排斥機関 その中の実働組織『大いなるアルカナ』、ヘットはそこの幹部だ…そしてこの女もまた、いや

「大いなるアルカナの大幹部様自ら徒歩でここまでトコトコ歩いてきたのか?ご苦労だね」

「全くです、…アリエたる私自ら動かなければならないとは、全く厄介な男ですね、下から七番目とは言え 貴方も幹部の一人なのですからね」

大いなるアルカナのNo.とは数字がデカくなるほど地位がデカくなる、戦車のヘットはNo.7…全部で22人いる幹部の中で下から七番目なのだ、そしてこの女…

審判のシンのNo.は21…つまり、大いなるアルカナという組織において上から二番目の大幹部なのだ、完全実力主義と言われる大いなるアルカナで二番手の地位に就くこの女の実力は…ヘットの目測ではあるが、少なくともグロリアーナに引けを取らない 魔女大国最強の戦力と一戦交えても引けを取らないほどの実力者という事になる

それが、態々ヘットの前に現れたのには意味がある、というよりこいつの仕事は…『審判』のシンの役目は一つ

「粛清に来たか、俺を」

「貴方はマレフィカルムについてベラベラ喋りすぎです、剰え魔女の意志を継ぎしエリスにまで名をバラすとは」

「俺達とエリスは敵同士だ、知らないところから突くなんてスリみたいな小悪党は卒業したんだよ」

「…貴方の流儀に我々を巻き込まないで頂きたいものです、全く」

「それで?、…これから本部におてて繋いで帰りましょってんじゃねぇんだろ?」

「ええ、貴方を粛清するよう命令が下りました、総帥から」

「なっ…総帥だと!?アイツは俺達が何しても知らぬ存ぜぬだったじゃねぇか!、今更俺を粛清する為に態々命令出したってか?」

シンが手を翳す、こう出ることは読めていたが総帥が…マレウス・マレフィカルム全体を統括する人物から直々に命令が来たのが読めない

総帥は一切姿を見せず ただ漠然と存在するとだけ言われるだけの存在だった、命令も下さず 率いることもせず、顔も見せず姿も見せず…そんな人間が態々命令を出してまで俺を殺そうって?…いや違う、そうじゃない

「その前に聞かせろ」
 
「聞くのは私の方です、遺言を」

「俺はアジメクにジョー・レギベリを向かせ ゴーレムのコアを使ってオルクスを誑かすよう命じた、事実ゴーレムは起動しオルクスは反乱を起こしたが…あの後調べてみたら 俺の思い描いたプランとは全く違っていた!」

「…何が言いたいんですか?」

「すり替わってたんだよ!俺の渡したゴーレムとレギベリ自身が!、アジメクで暴れたゴーレムはレギベリと名乗り 魔女の前で正体を現し消しとばされたらしい、なら本物のレギベリはどこへ行った」

ジョー・レギベリは俺の部下の一人だ アルクカースの元傭兵、そいつにゴーレムのコアを渡してオルクスに反乱をするように説得しろと命じた

しかし蓋を開けてみりゃ内容が少し違う、ゴーレムがレギベリにすり替わり 巨大化して街で暴れたらしい、俺の渡したゴーレムはそんなに巨大にならねぇ 何よりゴーレムにすり替わったなら本物のレギベリはどこへ行った?

アジメクの反乱は俺の意図しない部分が多数あった、…おかしいんだあの計画は 、何処かで俺の意図したものではなくなっていた

「つまり…?何が言いたいんですか」

「俺の計画を乗っ取って 代わりに魔女殺しをしようとした謎の人物がいる、魔女殺しをしようってんならマレフィカルムの一員だろ?、…俺に黙って計画乗っ取ったクズ野郎の名前ぐらい聞かせやがれ」

オルクスは死に レギベリは行方不明になった、意図しないゴーレムが暴れ 意図しない形に反乱は落ち着いた、何者かの意志を感じる 俺の与り知らない何者かのだ

「………」

「総帥と繋がってるお前なら何か知ってんだろ」

「知っていますよ、…ウルキ と言っても貴方は分からないでしょうが」

「ウルキ?…誰だそりゃ、聞いたことがねぇ…マレフィカルムの一員か?」

これでも用心深い性格なんでな、マレフィカルム本部にいる連中は分かる限り調べてあるが、ウルキなんて名前聞き覚えが…………いや待て

待て待て、おいおい…ウルキっていや確か…、でもありえねぇ 絶対にそんなことねぇ筈だ

「まさか…あのウルキが総帥の正体なのか?」

「少し違います、…少しね」

「ふざけんじゃねぇよ、ウルキっていやお前…正気かよ」

ウルキ…もし、もしも俺の思い浮かべるウルキと同一人物だとするなら 、マレウス・マレフィカルムという組織は…機関は…、ああそう言うことかい 俺たちは元々……

「何にせよ、貴方はここで死にます…もう関係ないでしょう」

「はっ、バカ抜かせ…悪役ってのはヒーローに負けるもんなんだよ、悪役に殺される悪役が居るかよ!、『マグネティックジフォース』!」

「…愚かな、我らは悪にあらず…絶対の正義だと言うのに」

浮かび上がる鉄材を前に シンは溜息と共に目を瞑り…………




その日、晴れ渡った夜空から 落雷が路地裏に降り注ぐという怪現象が起こったと言われる、がしかし この日同時に起こった魔女と魔女の激突という大事件の陰に隠れ、この怪現象は外に伝わることなく やがて噂にもならず消えたとされる
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