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第十一話

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「こら! 湊! 飲め! 真弓とはデートできてあたしの酒が飲めねってか!」
 あたし、すっかりいい気分だった。
「おい、大丈夫か?」
「あーおいしかった。久々に飲んだあ」
「おい」
 湊の酔いはすっかり覚めているようだった。
 というか、この人飲んでも酔わないみたい。強いんだ。
「湊さん、久々に威勢のいい娘、連れてますね。かわいいじゃないですか」
「よ! 大将! うれしい事言ってくれるじゃん! よし、湊のつけで大将も一緒に飲もう!」
 大将ははっはっはと笑った。
「あたしね、桜っていいまーす。いい名前でしょ?」
「はい、はい、いい名前だな。分かった、分かったから。大将、うるさいからもう連れて帰るよ」
「はい、まいどあり! またどうぞ!」
「えー、嘘ぉ。もう帰るの?」
「はい、はい、帰るよ。桜ちゃん」
「はーい」
 あたし、ぴょんと椅子から立ち上がった。んで、ふらっとした。
 やばい、足にきてる。でもいい気分だあ。
 湊はあたしを抱きかかえ、店を出た。
「大丈夫か?」
「え? うん! 大丈夫! 湊、次はどこに行く? 行こー行こー」
「え、そうだな。だけど、お前、帰らなくていいのか? もう十二時過ぎてるぜ」
「平気! 平気! 飲みに行こう!」
「元気だな」
 あたしはピースサインを出した。
「早くぅ、どこに行くの? あ、カラオケに行く?」
「カラオケはちょっとな。お兄さんはなー」
 湊一也は苦笑した。
「けっけっけ・・・け。う、湊・・・」
「なんだ?」
「気分悪い」
「え? おい、大丈夫か?」
「大丈夫じゃ・・・ない」
「おい、ちょっと待て」
 あたしは立っていられなくて、湊一也の腕にしがみついた。
 彼はもう片方の手であたしの背中をさすってくれたんだけど、
「ゲエッ」
 あたしは湊の胸元にさっき食べたばかりの物を吐き出した。
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