底辺Dランクのおっさんが拾った剣が女子っぽいんだが、魔剣で悪役だった。

猫又

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魔剣と出会うおっさん

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「ちょっと! 痛いっての!」
 と声がした。
「え? わりい、誰?」
 薄暗い洞窟の中で俺は慌てて地面に落ちたままの松明を拾った。
 辺りを照らしてみても誰もいない。
「なぁんだ人間か……」
 とまた声がした。
「え、マジ、誰? え、剣?」
 声は剣から聞こえたような気がして、俺は手に持った剣に松明を近付けた。
「眩しい!」                
「すまん……ってかマジ剣か? 」
「何、お前、私を知らないの?」
 剣から聞こえてくる声は若い女のような甲高い声だった。
 人語を解すしゃべる剣……名がある魔剣に違いない。
 知能が高く、主を選ぶという剣や杖、盾やは存在するが大半は収集されて貴族の持ち物か王家の宝物庫に陳列されている。こんなダンジョンで埋もれているなんて。
「さぞかし名のある魔剣のようだな。人語を解してもほとんど人間なんかとは話さないと聞いてる。あんたのような魔剣を使える剣士に選ばれる人間は稀だと」
「そうよ。それよ。私はヴァレーリオ、世界中の王侯貴族が欲しがり、私を手に入れる為ならいくらでも金塊を積む……恐れいって平伏せなさい!」
 と剣が偉そうに言った。
「あ、そうっすか」
 これだけ美しい剣の上にさっきの魔獣を粉々にしてしまう威力は凄かった。
 かなりな魔力を持っているのだろう。
 世界中の剣士や王族が欲しがるのも無理はない。
「よく分からないんだが、助かったのはあんたのおかげだな。ありがとう」
「あんたのせいで目覚めちゃったわ」
 と宝剣が不愉快そうに言った。
「眠ってたのか……なんでこんなダンジョンの奥で?」
「マスターがここで眠ったからよ」
「マスターって、あんたの持ち主か。え? 持ち主がいたのか? あんたみたいな魔剣はそうそうマスターを持たないって聞いたが……」
「でっかいお世話よ……さあ、もう消えて。私を眠らせて」
「えっと、ちょっといいっすか?」
「何?」
 剣は不愉快そうに答えた。
「すんませんが、地上に出る道を教えてもらったらと……へっへっへ、地下一階で転移の陣を踏んじまって、ここがどこか分からないんで」
「ここは転移の魔法が通るわよ」
「いや、それが俺は魔法はちょっと」
「使えないの? 転移魔法を使えないのにダンジョンに挑んだの? 馬鹿なの? ああ、きっとアホなのね」
 くっそー腹立つ剣だな。
 剣がキラッと光ったと思ったら、
「ケビン、35歳、ランクD、魔法属性なし、魔力なし、剣術SSでなんとかトータルDランクか。いくら剣の腕が良くても、魔法が使えないのによくこのダンジョン攻略しようと思ったわね。逆に感心するわ」
 と言った。
「ほっといてくれ。ここは……まあのぞきにきただけだ……」
「こんな最下層まで? どうせドジって転移陣を踏んでここへ飛ばされたってとこ?」
「え、まあ、そうだけど」
 剣は馬鹿にしたようにケッケッケと笑った。
「そんで帰り道を教えて貰えるのか、貰えないのか?」
「この奥に行く細い道がある。その通りに行けばいいわ」
 と言ったところで、剣が言った方向から大きな黒い瘴気とまた嫌な匂いがしてきた。
 地鳴りがするほどの咆吼がし、俺は思わず耳を塞いだ。
「な、んだこれっ!」
「あれを倒すとめでたくダンジョン攻略。そうしたらダンジョンが消える」
「ええええええええええ? もしかしてボスかよ? でもこのダンジョンは最近出現したばっかだぞ? あんたとマスターはそんな最速でここまで来たのか?」
「……違う。我々は一度ボスを倒し、ダンジョンは壊れた。新たに出現した中で私は眠ってただけ」
「そっか……マスターは死んでお前だけが残されたのか……そりゃ淋しかったな」
「淋しくなんかないわよ!」
「え、そんな怒らなくても」
 そんな事を言い合っているうちに、ボスらしい大きな影が通路の方からやってきた。
 先程の魔獣が可愛らしくみえるほどデカく、そして危険、狂気、この世の厄災を全て背負っているようなやつだった。
「あいつはキングデッドリーベアー。毛皮は分厚く硬い、並大抵な剣では太刀打ち出来ない。また魔法も通り難い。爪先から毒が流れ出ている。それに触れるだけで人間は即死」
「えー、そんなの絶望しかないじゃねえか」
「方法はなくもない」
「え、あいつをやっつける方法?」
「ええ、私が気を惹いているうちにお前は逃げろ」
「え?」
「このボスは私一人でも倒せる。私にはそれだけの力がある。だからお前は逃げてもいい。お前が逃げる間くらいはボスの相手をしてやってもいい。あいつに私は壊せないし、あいつが飽きればまた大人しく塒に戻るだろうしな。だから」
「嫌だ」 
 と俺は言った。
「お前に倒せる相手ではないわよ。まともにいっても爪でえぐられて即死」
「俺は誰も囮にはしない。逃げるならみんなで逃げる」
「別に私はお前の仲間でもないけど」
 と剣が言った。
「それは関係ない。仲間だから助けるとかじゃない。俺が嫌なだけだ」
「Dランクなぞ即死もいいとこよ」
「まーな、それもいい」
 俺は立ち上がった。
「生半可な剣じゃ駄目なんだろ。あんたは綺麗な上に強そうだ。ちょっくら借りる」
 と言って俺はもう一度その剣を握り直した。
 ずしりと重い。
 さすがに強そうだ。
 俺の剣技がどこまで通用するか分からないが、まあ、滅多にないダンジョンのボスに挑むのもいいだろう。どうせ、剣が現れなかったらさっきの奴に食われてた命だしな。
「お前が死んでも私は死なないし、戦ってもお前に何の得もない。お前の屍の前で私はまた眠るだけよ」
「そっか、じゃあさ、戦って勝ったら一緒に外に行こうぜ」
 と俺が言うと剣は「……」無言になった。
「気に障ったならごめん。マスターと一緒にいたいなら、ここがいいのかもしれないな」「そうだ! マスターとこの階層のボスを……マスターは……」
 剣は何か考えこんでしまったが、俺にはそうそう猶予がなかった。
 ボスって奴が俺達を発見してこちらへやって来る地響きがしているからだ。
「いくぞ!」 
 俺は剣を上段に構えて、ボスに向かって突進した。
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