薬毒師

猫又

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目立ちたがりやに効く薬毒

「ねえ、ちょっと、薬屋ってマジ?」
 好戦的な声で呼びかけられてハナは振り返った。
「誰?」
 茶髪を盛大に盛り上げた濃いメイク顔の女生徒だが、ハナには面識がなかった。
「あたしぃ、三組の相川陽菜乃っつんだけど、あんたんち薬屋ってマジ?」
「ええ」
 ハナは歩き出しながら短く返事をした。
 放課後はなるべく早く家に戻らないと、夕刻六時には老婆の姿になってしまう。
 校舎の時計は四時を指していた。
 歩き出したハナに陽菜乃は面倒くさそうについて歩きだした。
「ちょっと待てよ。欲しい薬があんだけど」
「そう」」
「美優から聞いたんだけど」
 と女生徒が言ったので、ハナは足を止めた。
「佐野さん?」
「そ、あたしもさぁ」
 と言いかけた陽菜乃をその場に残してまたハナは歩き出した。
「だから待てって。美優を助けたんっしょ? あたしも助けてくんない?」
 ハナは足を止めて女生徒の方に振り返った。
「友達が少しやんちゃな子で、あ、本当はそんな悪い子じゃなくて、やんちゃが過ぎたっていうか、でもそれで困ってんだよね。ちょっとしたいたずらなのにさあ、炎上しちゃって、名前と顔が出ちゃったんだよね。もう今、街も歩けなくてぇ」
「うちは薬屋だよ? 薬屋。魔法じゃあるまいし、そんなのどうにか出来るわけないじゃん。馬鹿じゃないの」
 ハナの黒い冷たい瞳にじっと見られて、陽菜乃は口をとがらした。
「美優っちの事は助けたじゃん」
「助けてないよ。睡眠不足っぽかったから、漢方のよく眠れる薬をあげただけ。それに何をしたか知らないけど、SNSで拡散されて炎上したって事でしょ? 世間が忘れるまで大人しくしてたら? またどっかの馬鹿が同じような事をやって炎上したら、古い話題は忘れられるよ。それまでは仕方ないんじゃないの。ま、一生名前は残るだろうけどね」
 ハナは冷たく言い放った。
「それが困るから頼んでるんじゃん」
 と陽菜乃は言ったがハナは耳を貸す気にもならず、さっさと足を速めた。 
「えー」
 とその場に残ってふてくされた声を出した陽菜乃に近寄って来た者がいる。
「陽菜乃! どうだった?」
「えー、けんちゃんダメだったよ。そんな魔法みたいなの無理ってぇ」 
 両手を顔の前で合わせて、えへへと笑う陽菜乃に相手の男はむすっとっした顔で、
「マジ、使えねえな、お前!」
 と酷く意地の悪い声で言った。    
「だって最初っから無理っしょ。こんだけ拡散されたけんちゃんの事、何もなかったことのするなんてさぁ。あの子も言ってたよ、魔法じゃないんだからってさぁ」
「そーれはどうかな」
 と真木健司が意味ありげにハナの後ろ姿を視線で追った。
 さらっとした茶髪に細身の長身、着ている制服は市販の物だが、それ以外の時計や靴鞄などの身につける物は高級品でセンスが良い。今風のアイドルばりのさわやかなイケメンだ。成績もそこそこよく、友人も多く、親や教師の受けも良い。
 しかし調子に乗って悪さをしてしまうようなくだけた感情もあり、それが大きな問題に発展してしまっていた。
 SNSにささいないたずらを投稿したつもりが大炎上してしまい、顔写真も学校も住所も特定されてしまったのだった。
 一枚の写真とほんの数行の投稿から、身元を割り出すのは難しい事ではない。
 身元を隠しておけると思い込んでいる世界は案外、抜け目隙間だらけだ。
 顔さえ隠しておけば大丈夫と思い込んでいる無知の多いこと。
 真木健司は最新機種の携帯電話で撮った画像を簡単にSNSへ投稿してしまった。
 野良犬を標的にしたいじめを軽い気持ちで動画を撮ってそれを投稿した。最初は友人達の間で面白おかしく動画が回っていただけだが、愛犬家の目に止まり、あっという間に拡散されてしまったのだ。
 犬や猫と人間との歴史は深く長い。
 身銭を切って野良犬や保護犬を助ける人間がいるのと対局に動物の命を軽んずる者もまだたくさんいる。
 動画では真木の顔は映っていないが、制服の校章から、犬をいじめていた河原などの場所、声、呼び名などから簡単に身元は露見してしまった。
 クラスメイトの一人でも見ればすぐにそれが本人と分かるだろうのに、たかが動画にそこまで真剣に動く人間がいるとも思わず、何の躊躇もなく簡単にあげてしまった結果である。
 そして犬や猫を平気でいじめる人間は普段から人間相手でも平気でいじめの一歩に踏み出してる事が多い。よって、その動画を目にしたクラスメイトに「あいつにいじめられたお返し」という気持ちがあれば、特定されるような書き込みを添えてその動画を拡散し続けるのだ。

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