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山賊の娘 ミラルカ
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「帰った、帰った、お前らに売る物はうちの店にゃあ置いてないよ。出直してきな」
いかにも迷惑そうな顔で果物屋の店主にそう言われ、汚い身なりの年若い娘は頭に血が上った。
「このくそったれ。てめえの店なんて火魔にでも焼かれちまえ!」
そう答えると店の主人はむっとして悪態をついた娘にザバッと水をかけた。
「このピケの街じゃあ妖魔の事を口にするのは御法度なんでえ! とっとと消えちまいな。縁起でもねえ!」
ぺっと唾を吐いて主人は店の奥に消えた。
「ちくしょうめ!」
敏捷な動きで避けたので濡れはしなかったものの、くやしまぎれに娘はそこらへんの荷箱をけとばした。
「ミラルカ、だから言ったろう。馬鹿正直に買うなんていうからさ。この辺りの店は貴族様がすました顔して札束落としていくんだ」
「分かったよ。カリン、ピア、やっちまいな。けったくそ悪い」
仲間に指示をしてミラルカはさっさとピケの森に姿を消した。後方で若い娘達の黄色い声があがる。さっきの店の主人をこずきまわしているのか、なさけなさそうに男の声がする。
「どうした、ミラルカ」
「頭、カリンたちがやってるよ。じきに食い物と酒を持ってくるだろう」
森の出口で待っていた十人ほどの仲間が喜びの声を上げる。
ミラルカは山賊である。女ばかり二十人ほどを引き連れて街や村を襲いおもしろおかしく暮らしていた。
ミラルカはみなしごで、物心ついた時にはすでに山賊の娘をしていた。育ててくれたのが極悪アレゾと名が通った親分で武器の使い方から襲撃の方法までみっちりとミラルカに仕込んでこの世を去った。今なおアレゾの名はローランドに響いており彼の死は信じられていなかった。アレゾの死後、組織は分裂しミラルカもその仲間から抜けた。そして今は女ばかりの山賊の一味にいた。頭はファラ、一番年かさでアレゾの何番目かの妻だった。後は皆十五、六の若い娘で土を耕す暮らしを嫌い村を飛び出してきた者ばかりである。しかし若い娘とはいえアレゾ直伝の略奪法をファラとミラルカに仕込まれ、皆男顔負けの働きをする。
歓声とともに仲間が獲物をどっさり持って引き返してきた。
「さ、すぐに引き上げだよ。さっさとするんだ。今夜はこの先のヤクルの谷で宴会だ」
ファラの声に一味は列をなして動き出した。
「ああ、つまんないね」
ミラルカは空になった酒びんを放り投げてつぶやいた。
「何がつまんないんだい。ミラルカ」
ファラが覗きこんだ。
「何がってえ? 毎日がだよ。盗むか逃げるか食うか飲むかの毎日が」
ミラルカは同じ年ごろの仲間達を見回した。大きなかがり火を中心に輪になり、火酒を回し飲み干し肉をあぶりナイフにさしたまま食べちぎる。芸の心得のある者は笛を吹き、歌い陽気に踊る。彼女達は皮の上着を着用し、短い皮のパンツからはまだ色気にはかけるがすらりとした長い足が見える。色とりどりに染めたヘアースタイルを競い合って派手に形よく結いあげている。腰には軽量のナイフや剣をさし、中には鎖釜や鉄の爪をつけている者もいた。
「みんな楽しそうだ。何が不服なんだい」
「何か面白い事はないかねえ。もうこんな暮らしもあきちまったよ」
「落ち着くかい。どっかの静かな村にさ。土を耕して、子を生んで」
ミラルカはふんと鼻で笑った。
「ばかばかしい。考えただけでもぞっとするね。そんな暮らしとは一生縁がないだろう。あたしはねでっかい仕事がしたいんだ。命かけて知恵と力をふりしぼってさ。どでかい仕事がしたいんだ」
男の子のように短く刈り込んだ髪の毛は元は黒いらしいが真っ赤に染めている。痩せぎすの小さな体からは燃えるようなパワーが感じられるが自分ではそれを持て余していた。 毎日がやるせなく、いらだちと焦りで過ぎていく。自分の未来を考えると悲しい。ザザの国境で国境警備隊に銃殺されたアレゾの様に汚らしく死んでいくのだろうか。略奪と殺人と逃走でこの身は終わるのだろうか。そうかといって、普通の暮らしは出来そうもなかった。
「だから、これからアレゾの遺したお宝を探しにいくんじゃないか、楽しみだね」
「本当にあるの? 宝なんてさ。親父がくたばってもう二年だ。ちりぢりになった子分どもがみいんなかっさらって行ってんじゃないの?」
「あるさ」
ファラは自信ありそうに笑ってから酒の杯を少しだけ持ち上げた。
「あたしはアレゾの最後の妻さ。あの人はあんたの行く末を案じてた。あたしに頼むと頭を下げたのさ。残ったお宝をあんたに渡すのがあたしの役目だ」
「ふーん」
ミラルカは興味なさそうにごろっと草の上に転がった。
「ミラルカ、あんたの踊りを見せてよ」
ピアにせがまれてミラルカは苦笑した。
「いいよ。だれか笛と鈴を」
せまりくる不安を押し殺しながらミラルカは狂気の音に踊り始めた。
「しっ、誰か来るよ」
宴からはずれ一人大樹の陰に身をよせていたファラが鋭く視線を走らせた。仲間達は一斉にしゃべるのを止め、それぞれ武器を手に散らばった。少数の馬のひずめと下劣な男達のはやしたてる声。それに交じって娘の泣き啜る悲鳴があがった。
「ミラルカ、ちょいと見てきな」
「ほっとけば?」
「いきな」
「物好きなんだから」
素早くミラルカが愛馬に飛び乗り駆けだした。 数十メートルもいかぬ間に思惑どおり十人ほどの山賊に行き当たった。男達は一人の奇麗な娘を縛ったまま馬の背に乗せていた。 年の頃は十五、六でプラチナ・ブロンドが陰気な森に冴えている。質の良い布であつらえてあるドレスは品がいいし、知性のうかがえる瞳はどこかの姫かその侍従であろうと思われる。気は進まないがファラは助けろと言うだろう。
「全く今日はろくな事がない。大の男がか弱い娘によってたかってなにやってんだ」
ミラルカは木々の間からさっと走り出ると、馬に乗っていない男らを蹴散らして真ん中に割り込んだ。
「何者だあ?一人で俺達に難癖つけるたあいい度胸だ」
「その娘を離すんだ。痛い目に遭いたくなかったらね」
とミラルカがつまらなそうに言った。
賊の頭らしい男が笑った。
「痛い目にあいたくなかったらね、だとよ。こいつぁ笑わせるぜ。どんな目にあわせてくれるんだい、お嬢ちゃんよ」
ミラルカは溜め息をついて呟いた。
「死んじまいな」
そう言った瞬間にミラルカの手から飛びナイフが離れて、数人の男の目や馬の尻にささった。馬に乗っていた男は馬の背からふりちぎられ地面に落ちた。
「ちくしょう、殺ってしまえ」
「後ろが安全だとはかぎらないよ」
「なにい」
と言って振り返った賊の後ろにはファラがいた。
「かっこいいじゃんか、ミラルカ。ちっと運動不足だったんだ」
「また女かい、でしゃばりやがって」
賊の頭が眉をしかめた。
「女で悪うござんしたね。この辺りはアレゾの縄張りだ。なんのあいさつもなしとはつれないねえ」
「けっ、穴だらけで惨めにくたばっちまった奴になんのあいさつがいるんだね」
その言葉にファラの言葉のトーンが下がった。
「殺っちまいな」
ファラの言葉に乱闘が始まった。しかしほとんどがミラルカの一人舞台であった。飛びナイフが正確に相手の喉を貫き細い剣が前後の敵を切り裂く。もともと少数の相手なのでザコはあっと言う間に終わってしまった。残った頭はさすがに手ごたえがあったが何度か打ちあった後、ミラルカの打ち出す剣の速さについていけず真っ向から切り下ろされ果てた。
「さすがだねえ。アレゾの剣技は生きてるねえ」
ほれぼれするようにファラが言った。
「こんなザコ相手じゃ情けないと言われるさ。ところであんた大丈夫?」
助けられた娘は、彼女の生活にはけっして見られないであろう光景に脅えきっていた。 ミラルカは馬から下りて腰をぬかしている娘を助け起こした。
「は、はい。危ない所をありがとうございました。なんとお礼を申してよいやら。この御恩は一生……」
「分かった分かった。口先の礼なんかいいから。あんた連れの者はいないのかい。こんな所をうろうろしてたら山賊の餌にして下さいって言ってるようなもんさ」
とファラが言った。この先の交渉は頭の仕事で、ミラルカは興味なさそうに聞いていた。
「それが、まあ私としたことが名前も名乗らずに御無礼致しました。私はマックレ-リ国の王女シェリル様の侍女でサラと申します。シェリル様のお供で遠乗りにまいりましたところ急に馬が走りだしまして、私、振り落とされてしまいましたの。あんな恐ろしい目にあったのは初めてでございます。困ってとぼとぼ歩いていましたらあの男達につかまってしまいました。あの者らは私に無礼を働いてから売り飛ばすなどと申しておりましたのでもうどんな目にあうかと恐ろしいやら途方にくれるやらで、死んでしまいたい気分でしたわ」
「あ、そう。よく回る御口だねえ。じゃあこの近くには連れはいないんだね。城に帰っちまったかなあ。困ったねえ、あたいらも先を急ぐしねえ」
問いかけるような、ずるい口調でファラが言うと、
「あ、ここで置いてゆかれては困ります」
サラは泣きそうになる。
「じゃこうしよう、馬を一頭あんたに譲る。しかし馬一頭ってえもあたいらの収入源だ。それなりの代価は払ってもらうよ」
「それは結構でございますが、私、馬に乗れません」
そんな返答は分かっての上でファラは言う。
「じゃあ送って行くしかないか。そうなると助けてやった分も含めてちっと高くなるよ。あんたの御主人様は大事な侍女さんを助けてもらったんだ。けちは言うまいね」
ミラルカがファラをつついて聞く。
「まじでこのお姫様を送って行く気かい」
「なんだい、助けたのはミラルカじゃないか。ここでいまさらしらん顔もできまい。それに今は金を持ってないだろう」
「あたしたちは先を急いでるんだよ。おやじの遺したお宝を取りに行くんだろう。はした金はいいじゃないか」
「あのう、何か問題でもあるのですか。お礼は必ずいたします」
おずおずとサラが声をかけた。
「分かってるよ。黙ってな」
ミラルカが気を悪くしたようだ。
「急がなくてもお宝はにげやしないさ。今夜はこの森で野宿して明日早朝出発するよ。さあ、サラと言ったっけね、あんたもこっちで火にあたりなよ。食い物もあるから」
ファラは上機嫌でサラを仲間の所へ連れて行った。
「毛布を貸してやりな!! 食い物と酒もね! 丁寧におもてなしするんだよ!」
いかにも迷惑そうな顔で果物屋の店主にそう言われ、汚い身なりの年若い娘は頭に血が上った。
「このくそったれ。てめえの店なんて火魔にでも焼かれちまえ!」
そう答えると店の主人はむっとして悪態をついた娘にザバッと水をかけた。
「このピケの街じゃあ妖魔の事を口にするのは御法度なんでえ! とっとと消えちまいな。縁起でもねえ!」
ぺっと唾を吐いて主人は店の奥に消えた。
「ちくしょうめ!」
敏捷な動きで避けたので濡れはしなかったものの、くやしまぎれに娘はそこらへんの荷箱をけとばした。
「ミラルカ、だから言ったろう。馬鹿正直に買うなんていうからさ。この辺りの店は貴族様がすました顔して札束落としていくんだ」
「分かったよ。カリン、ピア、やっちまいな。けったくそ悪い」
仲間に指示をしてミラルカはさっさとピケの森に姿を消した。後方で若い娘達の黄色い声があがる。さっきの店の主人をこずきまわしているのか、なさけなさそうに男の声がする。
「どうした、ミラルカ」
「頭、カリンたちがやってるよ。じきに食い物と酒を持ってくるだろう」
森の出口で待っていた十人ほどの仲間が喜びの声を上げる。
ミラルカは山賊である。女ばかり二十人ほどを引き連れて街や村を襲いおもしろおかしく暮らしていた。
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「さ、すぐに引き上げだよ。さっさとするんだ。今夜はこの先のヤクルの谷で宴会だ」
ファラの声に一味は列をなして動き出した。
「ああ、つまんないね」
ミラルカは空になった酒びんを放り投げてつぶやいた。
「何がつまんないんだい。ミラルカ」
ファラが覗きこんだ。
「何がってえ? 毎日がだよ。盗むか逃げるか食うか飲むかの毎日が」
ミラルカは同じ年ごろの仲間達を見回した。大きなかがり火を中心に輪になり、火酒を回し飲み干し肉をあぶりナイフにさしたまま食べちぎる。芸の心得のある者は笛を吹き、歌い陽気に踊る。彼女達は皮の上着を着用し、短い皮のパンツからはまだ色気にはかけるがすらりとした長い足が見える。色とりどりに染めたヘアースタイルを競い合って派手に形よく結いあげている。腰には軽量のナイフや剣をさし、中には鎖釜や鉄の爪をつけている者もいた。
「みんな楽しそうだ。何が不服なんだい」
「何か面白い事はないかねえ。もうこんな暮らしもあきちまったよ」
「落ち着くかい。どっかの静かな村にさ。土を耕して、子を生んで」
ミラルカはふんと鼻で笑った。
「ばかばかしい。考えただけでもぞっとするね。そんな暮らしとは一生縁がないだろう。あたしはねでっかい仕事がしたいんだ。命かけて知恵と力をふりしぼってさ。どでかい仕事がしたいんだ」
男の子のように短く刈り込んだ髪の毛は元は黒いらしいが真っ赤に染めている。痩せぎすの小さな体からは燃えるようなパワーが感じられるが自分ではそれを持て余していた。 毎日がやるせなく、いらだちと焦りで過ぎていく。自分の未来を考えると悲しい。ザザの国境で国境警備隊に銃殺されたアレゾの様に汚らしく死んでいくのだろうか。略奪と殺人と逃走でこの身は終わるのだろうか。そうかといって、普通の暮らしは出来そうもなかった。
「だから、これからアレゾの遺したお宝を探しにいくんじゃないか、楽しみだね」
「本当にあるの? 宝なんてさ。親父がくたばってもう二年だ。ちりぢりになった子分どもがみいんなかっさらって行ってんじゃないの?」
「あるさ」
ファラは自信ありそうに笑ってから酒の杯を少しだけ持ち上げた。
「あたしはアレゾの最後の妻さ。あの人はあんたの行く末を案じてた。あたしに頼むと頭を下げたのさ。残ったお宝をあんたに渡すのがあたしの役目だ」
「ふーん」
ミラルカは興味なさそうにごろっと草の上に転がった。
「ミラルカ、あんたの踊りを見せてよ」
ピアにせがまれてミラルカは苦笑した。
「いいよ。だれか笛と鈴を」
せまりくる不安を押し殺しながらミラルカは狂気の音に踊り始めた。
「しっ、誰か来るよ」
宴からはずれ一人大樹の陰に身をよせていたファラが鋭く視線を走らせた。仲間達は一斉にしゃべるのを止め、それぞれ武器を手に散らばった。少数の馬のひずめと下劣な男達のはやしたてる声。それに交じって娘の泣き啜る悲鳴があがった。
「ミラルカ、ちょいと見てきな」
「ほっとけば?」
「いきな」
「物好きなんだから」
素早くミラルカが愛馬に飛び乗り駆けだした。 数十メートルもいかぬ間に思惑どおり十人ほどの山賊に行き当たった。男達は一人の奇麗な娘を縛ったまま馬の背に乗せていた。 年の頃は十五、六でプラチナ・ブロンドが陰気な森に冴えている。質の良い布であつらえてあるドレスは品がいいし、知性のうかがえる瞳はどこかの姫かその侍従であろうと思われる。気は進まないがファラは助けろと言うだろう。
「全く今日はろくな事がない。大の男がか弱い娘によってたかってなにやってんだ」
ミラルカは木々の間からさっと走り出ると、馬に乗っていない男らを蹴散らして真ん中に割り込んだ。
「何者だあ?一人で俺達に難癖つけるたあいい度胸だ」
「その娘を離すんだ。痛い目に遭いたくなかったらね」
とミラルカがつまらなそうに言った。
賊の頭らしい男が笑った。
「痛い目にあいたくなかったらね、だとよ。こいつぁ笑わせるぜ。どんな目にあわせてくれるんだい、お嬢ちゃんよ」
ミラルカは溜め息をついて呟いた。
「死んじまいな」
そう言った瞬間にミラルカの手から飛びナイフが離れて、数人の男の目や馬の尻にささった。馬に乗っていた男は馬の背からふりちぎられ地面に落ちた。
「ちくしょう、殺ってしまえ」
「後ろが安全だとはかぎらないよ」
「なにい」
と言って振り返った賊の後ろにはファラがいた。
「かっこいいじゃんか、ミラルカ。ちっと運動不足だったんだ」
「また女かい、でしゃばりやがって」
賊の頭が眉をしかめた。
「女で悪うござんしたね。この辺りはアレゾの縄張りだ。なんのあいさつもなしとはつれないねえ」
「けっ、穴だらけで惨めにくたばっちまった奴になんのあいさつがいるんだね」
その言葉にファラの言葉のトーンが下がった。
「殺っちまいな」
ファラの言葉に乱闘が始まった。しかしほとんどがミラルカの一人舞台であった。飛びナイフが正確に相手の喉を貫き細い剣が前後の敵を切り裂く。もともと少数の相手なのでザコはあっと言う間に終わってしまった。残った頭はさすがに手ごたえがあったが何度か打ちあった後、ミラルカの打ち出す剣の速さについていけず真っ向から切り下ろされ果てた。
「さすがだねえ。アレゾの剣技は生きてるねえ」
ほれぼれするようにファラが言った。
「こんなザコ相手じゃ情けないと言われるさ。ところであんた大丈夫?」
助けられた娘は、彼女の生活にはけっして見られないであろう光景に脅えきっていた。 ミラルカは馬から下りて腰をぬかしている娘を助け起こした。
「は、はい。危ない所をありがとうございました。なんとお礼を申してよいやら。この御恩は一生……」
「分かった分かった。口先の礼なんかいいから。あんた連れの者はいないのかい。こんな所をうろうろしてたら山賊の餌にして下さいって言ってるようなもんさ」
とファラが言った。この先の交渉は頭の仕事で、ミラルカは興味なさそうに聞いていた。
「それが、まあ私としたことが名前も名乗らずに御無礼致しました。私はマックレ-リ国の王女シェリル様の侍女でサラと申します。シェリル様のお供で遠乗りにまいりましたところ急に馬が走りだしまして、私、振り落とされてしまいましたの。あんな恐ろしい目にあったのは初めてでございます。困ってとぼとぼ歩いていましたらあの男達につかまってしまいました。あの者らは私に無礼を働いてから売り飛ばすなどと申しておりましたのでもうどんな目にあうかと恐ろしいやら途方にくれるやらで、死んでしまいたい気分でしたわ」
「あ、そう。よく回る御口だねえ。じゃあこの近くには連れはいないんだね。城に帰っちまったかなあ。困ったねえ、あたいらも先を急ぐしねえ」
問いかけるような、ずるい口調でファラが言うと、
「あ、ここで置いてゆかれては困ります」
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「じゃこうしよう、馬を一頭あんたに譲る。しかし馬一頭ってえもあたいらの収入源だ。それなりの代価は払ってもらうよ」
「それは結構でございますが、私、馬に乗れません」
そんな返答は分かっての上でファラは言う。
「じゃあ送って行くしかないか。そうなると助けてやった分も含めてちっと高くなるよ。あんたの御主人様は大事な侍女さんを助けてもらったんだ。けちは言うまいね」
ミラルカがファラをつついて聞く。
「まじでこのお姫様を送って行く気かい」
「なんだい、助けたのはミラルカじゃないか。ここでいまさらしらん顔もできまい。それに今は金を持ってないだろう」
「あたしたちは先を急いでるんだよ。おやじの遺したお宝を取りに行くんだろう。はした金はいいじゃないか」
「あのう、何か問題でもあるのですか。お礼は必ずいたします」
おずおずとサラが声をかけた。
「分かってるよ。黙ってな」
ミラルカが気を悪くしたようだ。
「急がなくてもお宝はにげやしないさ。今夜はこの森で野宿して明日早朝出発するよ。さあ、サラと言ったっけね、あんたもこっちで火にあたりなよ。食い物もあるから」
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