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北へ北へ
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気が付くとキースは一人で空間でもがいていた。闇の中でしゃがれた声が響く。
「キースよ。無益な争いをするな。何故ジユダを捨てるのだ。ジユダはお主にとって故郷ではないか。共に生死をさまよった仲間やお主にこれまで仕えてきた者がおるのだ。それを何故捨てる。何故それを捨てる事が出来るのだ」
声は遠くなり近くなり、キースにささやきかける。
それは恩あるフレンザ-国王の声に似ていた。
キースの意識は遠くなり、力が抜ける。
「捨てるのではない。ジユダの為には王弟の陰謀を潰さねばならん」
「ジユダが世を支配するのが何故いけないのだ。広大な領土に豊饒、工業や芸術が皆ジユダの為に生きるのだぞ。素晴らしいではないか。お主は恩ある国王に仇なすのだな」
「違う」
キースは力強く否定した。
「では何故だ」
「俺は奴隷の子だ。ずっと蔑まれて生きてきた。何故だ。俺こそが聞きたい。何故あのような能無しの王弟が崇め奉られるのだ。俺は命を賭けて王弟に尽くした。だが分かったのだ。彼に仕える事こそがジユダに不幸を招くのだ。国を富ますには魔道など必要ない。人の汗と喜びが土地を肥やし、愛こそが生きる糧になるのだ」
「なんという事だ。キースよ。一度は忠誠を誓っておきながら、よくそのような事が言えるものだな」
「なんとでも言え。国王の為なら喜んで死ねるが、王弟への忠誠など糞くらえだ。俺は自由に生きる!」
「死ね!」
声は激情し闇が揺らめいた。体中に激痛が走りキースは覚悟をした。
どのようにも体が動かないのだ。四肢が引っ張られる。
体中の骨と筋が悲鳴をあげる。ぎりぎりと音がして、腕も、足も、頭も、一瞬にして飛び散った。
肉は裂け、骨が砕けた。
流血が闇を真っ赤に染め、突然現れた大きな手が転がったキースの首から目をえぐり出した。
手は目玉を握り潰し、ゼリ-のような汁を滴らせた。
そしてキースの口から顔を引き裂く。
哀れなキースは醜い肉塊となりピクピクとうごめいた。
その肉塊に無数の肉食蟻がたかり、キースの肌や汁気たっぷりの肉の上をうごめく。
すでに死んでいるはずのキースには意識があり、潰れたはずの目にも蟻がたかった。
蟻はキースの脳までも食いつくそうとする。
ピシッと風を切る矢の音がして、絶叫と共にキースは意識が戻った。
三人目と四人目の影が細い長い槍で体を貫かれ死んでいた。
「大丈夫?」
心配そうな顔のミラルカがキースを覗きこんでいる。
「ああ、助かった。危うく幻覚に神経を焼き切られる所だった」
キースは地面に横たわったまま大きく息をついた。
「しっかりして。今あんたがやられたらあたし達はどうしていいかわかんないよ」
自分の事は棚に上げて、ミラルカはキースを叱咤する。
キースは照れ臭そうに笑った。
「すまん」
「こいつらはなんなの?」
転がる四つの死体を見てミラルカが聞いた。
「王弟の放った影だ。よほど我らが邪魔なのだろう」
「本当にいけ好かない奴だね」
「さあ、間もなく夜が明ける。出発する」
「大丈夫? ちっとも眠ってないんじゃないの」
「大丈夫だ。皆を起こせ」
一行はまた馬上の人となった。
本格的な冬の風が彼らの行く手を阻み、風にのって妖魔獣の咆哮が聞こえる。
北妖魔は近い。
「キースよ。無益な争いをするな。何故ジユダを捨てるのだ。ジユダはお主にとって故郷ではないか。共に生死をさまよった仲間やお主にこれまで仕えてきた者がおるのだ。それを何故捨てる。何故それを捨てる事が出来るのだ」
声は遠くなり近くなり、キースにささやきかける。
それは恩あるフレンザ-国王の声に似ていた。
キースの意識は遠くなり、力が抜ける。
「捨てるのではない。ジユダの為には王弟の陰謀を潰さねばならん」
「ジユダが世を支配するのが何故いけないのだ。広大な領土に豊饒、工業や芸術が皆ジユダの為に生きるのだぞ。素晴らしいではないか。お主は恩ある国王に仇なすのだな」
「違う」
キースは力強く否定した。
「では何故だ」
「俺は奴隷の子だ。ずっと蔑まれて生きてきた。何故だ。俺こそが聞きたい。何故あのような能無しの王弟が崇め奉られるのだ。俺は命を賭けて王弟に尽くした。だが分かったのだ。彼に仕える事こそがジユダに不幸を招くのだ。国を富ますには魔道など必要ない。人の汗と喜びが土地を肥やし、愛こそが生きる糧になるのだ」
「なんという事だ。キースよ。一度は忠誠を誓っておきながら、よくそのような事が言えるものだな」
「なんとでも言え。国王の為なら喜んで死ねるが、王弟への忠誠など糞くらえだ。俺は自由に生きる!」
「死ね!」
声は激情し闇が揺らめいた。体中に激痛が走りキースは覚悟をした。
どのようにも体が動かないのだ。四肢が引っ張られる。
体中の骨と筋が悲鳴をあげる。ぎりぎりと音がして、腕も、足も、頭も、一瞬にして飛び散った。
肉は裂け、骨が砕けた。
流血が闇を真っ赤に染め、突然現れた大きな手が転がったキースの首から目をえぐり出した。
手は目玉を握り潰し、ゼリ-のような汁を滴らせた。
そしてキースの口から顔を引き裂く。
哀れなキースは醜い肉塊となりピクピクとうごめいた。
その肉塊に無数の肉食蟻がたかり、キースの肌や汁気たっぷりの肉の上をうごめく。
すでに死んでいるはずのキースには意識があり、潰れたはずの目にも蟻がたかった。
蟻はキースの脳までも食いつくそうとする。
ピシッと風を切る矢の音がして、絶叫と共にキースは意識が戻った。
三人目と四人目の影が細い長い槍で体を貫かれ死んでいた。
「大丈夫?」
心配そうな顔のミラルカがキースを覗きこんでいる。
「ああ、助かった。危うく幻覚に神経を焼き切られる所だった」
キースは地面に横たわったまま大きく息をついた。
「しっかりして。今あんたがやられたらあたし達はどうしていいかわかんないよ」
自分の事は棚に上げて、ミラルカはキースを叱咤する。
キースは照れ臭そうに笑った。
「すまん」
「こいつらはなんなの?」
転がる四つの死体を見てミラルカが聞いた。
「王弟の放った影だ。よほど我らが邪魔なのだろう」
「本当にいけ好かない奴だね」
「さあ、間もなく夜が明ける。出発する」
「大丈夫? ちっとも眠ってないんじゃないの」
「大丈夫だ。皆を起こせ」
一行はまた馬上の人となった。
本格的な冬の風が彼らの行く手を阻み、風にのって妖魔獣の咆哮が聞こえる。
北妖魔は近い。
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