復讐された悪役令嬢

猫又

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 ふわっと暖かい空気が頬に触れ、アリシアは目を覚ました。
 室内は薄暗く、アリシアはふかふかしたベッドに横になっていた。
 それだけでここが自分のアパートではないのが分かる。
 アパートの部屋にはベッドが一つしかなく、それは母親が使っていた。
 アリシアはいつも堅いソファで寝起きしていた。 
 しばらくぼーっとしていたが、アリシアははっと先ほどの事を思いだして身体を起こした。
 母親の葬式の後、教会へ来た男に酷く侮辱された事を思い出した。
「誰だったのかしら」
 身体を起こしてベッドから出ようとして身体がふらつく。
 疲れと空腹で頭もくらくらする。
 しかし急いでここを出て行かなければならないと思った。
 酷いいいがかりをつけられて、身の危険すら感じる。
 よろよろと歩きだそうとしたときに、ガチャッとドアが開いた。

「あ」
「どこへ逃げだだすつもりかな?」
 先ほどの男が入ってきた。
 険しい顔でアリシアを睨んでいる。
「ど、どこへって家に帰るんですわ。あなたのいいがかりに付き合っている暇はありません」
「いいがかり? 盗っ人猛々しいとはこのことだな」
 と男が笑った。
「あなたは誰なんです? 何とかの秘宝を私が盗んだとおっしゃってましたが、何のつもりです?」
 アリシアは毅然とした態度で言った。
 頭はふらふらするし喉もからからだが、アリシアは挑むような瞳で相手をにらみ返した。
 男は「ふむ」と言った。
 つかつかとアリシアの前までやってくるとふいにアリシアの顎を掴んで顔を寄せてきた。
「な、何です!」
 驚いたアリシアは手をばたばたとして男の手から逃れようとした。
「アリシア・オーガスタに違いないが、記憶喪失にでもなったのか?」
「確かに私はアリシア・オーガスタですが、あなたに会った事もないし記憶喪失になどなっていません」
 だがアリシアの胸の中は嫌な嵐が吹き荒れていた。
 男はようやくアリシアから手を離し、ソファにどすんと座った。
「確かに以前に会った時とは今の君は全然違うな。昨年の八月、君はエーゲ海にある島国アクアルでバカンスを楽しんだね? その時はやたらと派手に装っていたがな」
「い、いいえ、去年の八月どころかもう何年も家と職場の往復ですわ。私には病気の母がいて、バカンスになど行っている暇はありません。お疑いならK区のセントピリオン小学校にお確かめ下さいな。私はそこの教員ですから。私が昨年、バカンスへなど行っていない事を証言してくれるでしょう」
 アリシアは一生懸命に虚勢をはって答えた。
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