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第十一話 続き
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この世界の古代の書物などによれば、人魚とは女性の場合、上半身が人間で、へそ辺りから下の半身が魚類と同じように鱗に覆われ、そして尾ひれを持った存在である。
女性の人魚は美しい姿をしている。
玉のような滑らかで綺麗な白い肌、ぱっちりとした大きな目に長いまつげ。
髪は艶があり、まるで真珠のような輝きを持った美しい髪だと言われている。
また、人を惑わす美声を持つと言われていた。
そして男の場合は『マーマン』と言い、人の姿に似ていて、ひれの付いた2本の手足を持ち、全身硬い鱗に覆われた姿をしている。
どれだけ年齢を重ねても、姿は若いままであるため、人魚の肉を食べると不死や若さを手に入れることが出来ると言われている。
(これは新発見になるんだろうが、ギルドに引き渡したら見せ物にされるのがおちだろうな……流石にそれはできねぇよ……うーん……勢いで引き上げちまったが、どうする?)
デュランは、引き上げることに成功したが、どうしていいか分らなかった。
(……そうだ、こいつ生きてたよな?)
デュランは、人魚の顔の近くに顔を寄せ、息をしているのか確かめようと顔を近づけた。
(こうして見ると、結構、綺麗さと可愛さを合わせ持った愛らしい容姿をしているんだな……って何を考えてんだ、俺は!)
確かに彼の言う通り、この人魚の女性は、人間の男なら誰でもとは言わないが、それなりの数の人々が魅力的に見える姿をしていた。
優しそうな二重の大きな目、綺麗な髪、整った形の薄い赤色の唇。
デュランが、色々なことを考えながら、息を確認しようとしたとき、僅かだが人魚に動きがあった。
僅かに、寝返りを打つような動作をし、その後、目を薄く開け、目覚めだした。
「……う~ん……!?……あなた……何してるんですか?」
人魚の女性が目を覚ました。
彼女は思ったより、冷静にデュランにこの状況の説明を求めてきた。
デュランはそれもあってか余計に驚いていた。
「うおっ!びっくりした!お前、やっぱ生きてたんだな」
人魚の女性は、半身だけ起き上がると、辺りを見回しデュランに今自分がいる場所について聞いていた。
「えっと……ここは?」
「お前に分るかどうかはわらねぇけど、一応言っといてやるが……ここは、オリディオール島の東側の町バルディバってところだ」
「オリディオール?……バルディバ?」
「……やっぱりお前、分ってなさそうだな」
その時、彼女は突然、焦りだしていた。
「―――はっ!私、この姿のままだった!」
「もうおせぇよ、お前、人魚だろ?」
人魚だと言われた彼女は、呆然とした表情で呟いていた。
「どうしよ、見られてしまったわ……」
デュランは、とりあえず助けられたことに満足していた。
(とりあえず、元気そうで良かったぜ……人魚がいるのには驚いたが……ま、どうするかは、こいつにまかせて俺は予定通り、西に行くことにするか……)
そして気にすることなく、この場を去ろうとした。
「まあ、見られちまったもんはしゃーねぇな!俺は、用事があるからよ、後はまあ、頑張れや!」
そして、歩き出そうと背を向けた瞬間、呼び止められた。
「待ってください、一緒に持ってきた小さな袋を見ませんでしたか?」
「ん、俺は見てねぇな。さっきお前がいた場所の辺りにあるのかもな。ほら、その辺りのはずだ」
デュランは、彼女を引き上げた場所の辺りを指差した。
「そうですか……すみませんが、一緒に探してくれませんか?」
「まあ、それぐらいならいいぜ。けどよ、お前、その足だと向こうまで行けないよな……俺がもう一度海まで運んでやるか……」
「あ、大丈夫です」
そう言うと彼女は、手を合掌させ、なにやらぶつぶつ小さな声で魔法を唱えているようだった。
そして、すぐに完成させ、僅かに光った両手のひらを人間であれば太ももと言われる辺りに、それぞれ別の場所に手を付け、そのあと足先の方へ払い、魔法を発動させていた。
「……バブルトランスフォーム!」
すると、この人魚の魚のように鱗と尾びれがあった下半身部分に泡のようなものがたくさん湧き出てきた。
瞬く間に彼女の半身は、ぶくぶくと音を立てた泡に包まれた。
そして、泡に包まれた部分が一瞬強く光った。
デュランは光の眩しさに一瞬目を閉じ、驚いた。
「今度はなんだよ!」
すると今度は、その泡が地面に落ちていくのと同時に魚のようになっていた部分の鱗が、ぼろぼろと泡と共に剥がれ落ちていった。
そして、2本の綺麗な白くて長い足が交差した状態で現れていた。
人魚だった女性は立ち上がり、軽く会釈すると名を告げてきた。
「そういや、名前聞いてませんでしたね。私の名前は『エリーシャ』と言います。助けてくれてありがとう」
立ち上がるとエリーシャは、デュランより少し背が低かった。
デュランは、目と口を開き驚嘆していた。
「……まじかよ……お前、足あるのかよ!……」
エリーシャと名乗った人魚の女性は、デュランとは違い、冷静に足の理由について説明をしていた。
「私たちの伝承では、神々の戦いの時に、海を任せる者がいなかったので、その時に神がある一族にある約束をし、人の一部を魚に変え、海に放ったのが始まりだと言われています。ですから、元々はあなた達、人間と同じだったんですよ」
彼女の説明を聞きながら、なんとか冷静さを取り戻していたデュランは、思い出していた。
「エルガイアの創世伝説の一つにそんなのがあったな……学校で習ったぜ……だが、本当に人魚なんて存在したのかよ……」
「はい、ここにいます!」
エリーシャはデュランの目の前でくるりと回って見せた。
美しいパールティールの髪がふわりと彼の目の前で踊る。
エリーシャは無邪気な笑顔で愛らしく、太陽の光が当たった髪は美しく、魅力的な女性に見え、一瞬デュランはその光景に心を奪われた。
(人魚って……結構かわいいじゃねーか……)
「あれ、どうかしました?」
デュランは少し顔を赤らめ、顔を見られないように背を向けていた。
「な、なんでもねーよ!それより、袋を探すんだろ」
「あ!そうでした、お願いします……あ、そうだ!名前なんて言うんですか?」
「デュラン、デュラン・マーベリックだ」
「デュランですね。分りました。じゃあ、よろしくお願いしますね」
「ああ、まかせろ」
2人は、彼女の倒れていた付近を重点的に捜した。
辺りは岩場だったが僅かに砂浜もあり、小さな岩の隙間にカニや小魚などがいた。
エリーシャは、熱心に探していた。
そして、しばらくしてデュランが、その袋らしき物を見つけていた。
紐がついていて岩場の浅瀬に引っかかるように落ちていた。
小さな皮袋でデュランが手のひらを広げたより、一回りほど大きいぐらいの大きさしかなかった。
だが、中にはぎっしり何かが入っているようだった。
見た目より重かった。
「おい、これか?」
「―――あっ!それです!ありがとう……良かった……」
エリーシャは凄く嬉しそうに、皮袋を頬に当て喜んでいた。
(大事な物みてぇだな……まあ、何はともあれ、良かった……)
そしてデュランは、もうここにいる理由は無いので、立ち去ろうとした。
「良かったな、んじゃ、あとは頑張れよ!」
「あの、待ってください!」
エリーシャはデュランを呼び止めた。
デュランは振り返った。
「ん、なんだよ?」
「あの、このマント……」
「ああ、どうせお前、あの町に行くんだろ?悪いけど、俺忙しいからよ。服買ったら、オリファンって言う宿屋があるから、そこが俺の家だからよ、そこにいる俺と同じ赤毛の女の人に、デュランから借りましたって言っておいてくれればいいぜ」
「いや、それだけじゃないんですけど……あの、まだ重要な……」
エリーシャは何かを話そうとしたが、それを遮るようにデュランが喋りだしていた。
「んじゃ、俺は行くからよ。じゃあな!」
デュランには聞こえなかったのか、彼はエリーシャの前から立ち去ってしまった。
(まだ、話終わってないのに……よし、こうなったら……)
エリーシャは決意に満ちた表情で、デュランの後を追って行った。
デュランは、やっと馬屋の場所を見つけることが出来たようだった。
「おっ!あそこだったか、よし……」
その場所へ向おうとしたとき、後ろをふと振り返ると、先ほどの人魚の女がデュランの後ろに付いて来ていたようだった。
裸足で水溜りを歩き、ぱしゃぱしゃと音をたて、いつの間にかデュランの近くまで来ていた。
「お前、なんで付いて来るんだよ?」
「私も付いて行きたくは無いんです……はい……」
「じゃあ、来るんじゃねぇよ!」
「あの、まだ話が……」
「俺は、ここで馬を借りてゾイルの町に行って、そこで安い乾物を買わないとダメなんだよ!」
「乾物ですか……だったら、塩クラゲ美味しいですよ!」
「おっ!お前分ってるな!普通乾物で多いのは干し肉とかドライフルーツが多いんだよ。だけど、俺は海の幸で育ったからなぁ。だから、干した魚介類持っていくことも結構あるんだ!嫌いな奴も結構いるんだが、そうかぁー」
「はい!」
「はははっ!」
「うふふふ!」
2人は、やや硬い表情で笑い合っていた。
しかしデュランが、その隙を利用しエリーシャに一瞬で背を向け、この場から去ろうとしていた。
「今だ!あばよ!!」
そしてデュランは、勢い良く走り出し、彼女の前から逃げ出した。
(ほんとに面倒ごとは勘弁して欲しいぜ!俺はすぐにでも西の新大陸に行きたいんでな!悪いな!)
「あっ……逃げた!」
それを見た、エリーシャはやれやれといった表情でデュランを見ていた。
「……はぁ、しょうがない人……こう言う手段は使いたくはなかったのだけど……」
そして、自らの右の手のひらをデュランに向け、魔法を唱え始めた。
「……対象に水の束縛を! ウォーターバインド!」
すると、デュランの近くにあった水たまりから、突然何本もの水の鎖が現れ、デュランの腕や足に絡みつき、動くことが出来なくなった。
ウォーターバインドの魔法
水の魔法。
術者の周囲にある液体から、水で出来た鎖を出現させ、対象にその鎖を飛ばし、絡みつかせ移動や行動を制限させることが出来る魔法。
鎖の数を増やせば増やすほど、魔力の消費は高くなる。
術者の一定範囲内に液体がなければならない。
「くそっ!―――なんだこれは!」
そして、左手の人差し指と中指を右の手の甲へ付け、開いた右手をデュランに向けたまま、エリーシャは近づいてきた。
(これは、水の魔法だ!まだ、水の魔法はほとんど見つかっていないのに……人魚たちは使えるのかよ……)
水の魔法は今のところ、一部の魔物たちが使用してくるだけで、人間達は扱うことはできないのであった。
どうやら、人魚達は水の魔法に長けているようだった。
「ごめんなさい、だけど、話を聞いて欲しくて……聞いてもらわないと困るんです……」
「まずは、これをどうにかしろよ!」
「逃げませんか?話を聞いてくれます?」
デュランは半笑いしながら、答えた。
「……聞く、聞くから……早くしろって」
彼の半笑いした表情を見たエリーシャは、デュランが心を偽っていると判断したようだった。
「―――あっ、なんかうそ臭いです!私、そういうの騙されませんから!」
そう言うと彼女は、先ほどよりいっそう厳しく、水の鎖を増やし締め付けた。
鎖の数が増え、デュランの首の辺りまで鎖が這い回り、締め上げてきた。
「……おい、待て、ほんとに聞くって!……苦しい……逃げたのは悪かった!だから……うわぁ!」
デュランは苦しそうにもがいたが、水の鎖が彼の体にしっかり巻きついていたため、動かすこともままならなかった。
そしてエリーシャは、今度こそ本気で自分の話を聞く気があるのか、疑いの眼差しをデュランに向け、再び聞いていた。
「……ほんとですか?」
デュランは、早くこの苦しさから逃れたいと思い、先ほどより真剣に答えていた。
「ほんとだ!ほんと!」
しばらく、2人は見つめ合った。
「そこまで見つめられたら……ちょっと……恥ずかしいです……」
エリーシャは、少し顔を赤らめ、顔をしばしデュランから背けた。
そして水の鎖が、デュランの首を絞め上げ始めていた。
「……おいっ!死ぬ!死ぬ!」
「あっ、そうでした……」
デュランは、先ほどより苦しそうに叫んだ。
「ほんとに逃げねえから、勘弁してくれ!」
「……分りました」
デュランが心を偽ってないと判断したエリーシャは、水の鎖を解くことにした。
彼女がデュランへ向けていた右手のひらを握ると、鎖だった水は普通の水に戻った。
すると、デュランの体に纏わり付いていたために、彼は水で体中濡れてしまった。
「冷てぇ!」
「あ、ごめんなさい」
ようやく、水の鎖から解放されたデュランは、頭を振り、呟いた。
「……全く、ひでーめにあったぜ……」
そしてデュランは、自分の体が動くかどうか確かめていた。
体をひねり、肩を動かしながら、諦めたようにエリーシャに話し掛けていた。
「……んで、話ってなんだよ?」
「えっと、ですね……」
そう言ってエリーシャは、周りに人がいないか確かめ、誰もいないと分ると話をし始めた。
「デュラン、あなたは、私の本当の姿を見ましたよね?」
「本当って、あれか、人ぎょ……」
そのとき、エリーシャがデュランの口を押さえた。
「言ってはダメなんです!」
「なんだよ、そりゃ」
「私たちには、掟があるんです」
「……掟?」
「はい、それは同属以外の者に、さっきの姿を見られたならば、相手を殺さなければならないんです」
「―――え、まじかよ!じゃあ、お前、俺の敵なのか?」
デュランは警戒し、腰のウェストポーチから短剣を素早く取り出し、構えた。
「待ってください!実はもう一つ条件があるんです」
デュランは眉を寄せた。
「……もう一つ?」
「はい……それは異性の場合、生涯の伴侶とすれば殺さなくて済むんです……」
「なんだよ……その無茶な掟はよ……」
彼女は、怒りを込めてデュランに話した。
「こういう掟が出来たのは、あなた達、人間のせいもあるんですよ!」
「なんでだ?」
「私たち人魚の肉を食べれば不死になるとか、言ってたらしいじゃないですか!」
「ああ、古いおとぎ話なんかに、そういうのあったな」
今度は悲しそうな表情になり、エリーシャは話を続けた。
「そのせいで遥か昔、黒い霧が無かった時代に、私たちの先祖の人魚達は、人間にたくさん殺されたことがあったらしいんです」
「本当にあったのかよ……」
「だから私たちは、人の目にできるだけ触れないようにひっそりと海の世界で生きてきたんです」
デュランは、本当に効果があるのか知りたかったので、彼女に聞いていた。
「んで、実際はどうなんだ?不死になるのか?」
「……なるわけないです……」
「ぶっ、まじかよ……俺は信じてたぜ……ま、不死なんていらねーけどよ」
「だから、人魚族の間でそういった掟ができたんです……」
「そうなのか……大変だったんだな、お前らも……」
そしてエリーシャは、もう一つの条件のこともあったので、間をおかずに聞いてきた。
どうやら、デュランに考える時間を与えたくないようだった。
「で、どっちがいいですか?」
「どっちも嫌に決まってんだろ!」
「我がままなんですね……」
「お前なぁ……はぁ、安心しろ、俺は口は堅いほうなんだ」
「……信用できません!」
「んなこと言ったってなぁ……」
「私のような綺麗な人魚を奥さんに出来るんですよ、どうです?」
そう言ってエリーシャは、髪をたくし上げ、片目を瞑って見せた。
しかし、どこかぎこちない動作だった。
一瞬、彼は警戒した。
(―――人魚たちが使う、魅惑の魔法か!……っと思ったが……こりゃ、ただの馬鹿だな……ああ、そうに違いねぇ)
そしてデュランは、少し青ざめた表情で彼女を見ていた。
「うぇ……お前、そういうの慣れてないだろ」
どうやら彼女がやった、さっきの動作は、初めてやったことのようだった。
「酷い……頑張ったのに!」
「んなもんに騙されるかよ、ふう……じゃあ、こうしようぜ。俺は景色に見とれてて、お前を発見しなかった。お前は、さっきの岩に張り付いたままで……」
今度はエリーシャが、呆れた顔でデュランを見つめ、呟いた。
「何言ってるんですか……あなた……」
「………」
「………」
しばし、2人とも無言で立っていた。
「……すまん。無理があったな……」
「……デュラン、誰しも間違いはあるものです。幸い、私は海のように広く寛大な心を持っています……だから、あなたを許してあげます」
そう言って彼女は、デュランの肩に手をおき、優しく語りかけていた。
「ありがとよ……って」
デュランは何か違う事に気が付いた。
「お前が言うんじゃねーよ!」
そう言って彼女の両方の頬っぺたを両手で軽く摘み上げた。
「なにふるんれふか!」
どうやら、頬を引張られているために口が回らないらしく、上手く喋れないようだった。
デュランは自分の顔を彼女の顔の近くまで近づけ、睨みつけると、やや脅すように話し掛けた。
「お前なぁ……俺は殺されかけたんだぞ?ああっ!?……そんなおっかない女を嫁になんて出来る訳ないだろ!」
そう言って、デュランは摘んでいる頬をそのまま、上下に揺らした。
エリーシャは両手をじたばたさせ、抵抗した。
「はなひてくらはい!」
そして、彼女が目に少し涙を滲ませてきたのを見た、デュランは少し可哀想に思ったのか、引張るのを止めた。
「ったく!これで許してやるか……」
ようやく、苦しみから解放されたエリーシャの両頬は少し、赤くなっていた。
そして、頬を摩り、恨めしそうにデュランに話し掛けていた。
「うう……痛い……身も心も傷つきました……これはもう完全に傷物ってやつですね……責任を取ってもらわないと!」
「そうかよ、言ってろ!」
「けち……」
「うっせえ……んで、お前、わざわざ、人間の相手を探しに来たのか?」
視線を下に落とし、彼女は話した。
「……違います。私は、居なくなった兄を探すためと私たち人魚のいる海域での戦いのため、何か方法や手段が無いか探しに来たんです」
「今度は、泣き落としか?騙されねぇぞ!」
エリーシャは先ほどとは違い、真剣な眼差しでデュランを真っ直ぐ見つめ、話してきた。
「……デュラン、聞いてください。これは本当の話なんです」
エリーシャの顔を見たデュランは、彼女を軽く睨みながら呟いた。
「最初からそうやって喋れよ……どうやらそっちが本題みてぇだな……」
そして、彼女は人魚達がおかれている現状の説明をし始めた。
エリーシャ達の住んでいる海域には、聖なるサンゴ『白銀のサンゴ』があり、それによって黒い霧から守られていた。
そこで、人魚たちはなんとか生きていた。
光の人魚には、2種類あった。
一つは、エリーシャたち『メロウ』と呼ばれる人魚族である。
彼らは、海の底に沈んだ、古代の宮殿に住んでいた。
そして、特徴としては、女性の場合、エリーシャのように美しく魅力的な容姿をもっていて、水の魔法も使いこなすことが出来る。
また、ハープと言う竪琴を鳴らし、歌う事が得意であった。
そして、もう一つは『ハルフゥ』と呼ばれる人魚たちが存在した。
彼らは、メロウとは違い、特定の場所に住むことはしなかった。
群れで移動し、群れで集まって生きていた。
また、こちらの人魚たちは、数が少なく、火に弱く、体の大きさがメロウよりも一回り小さい人魚だった。
しかし、非常に魔力が高く、稀に予知の能力を持った者が生まれることがあった。
両者は仲が良く、争いなどは一切無かった。
だが、光の人魚族がいる海域に最近になって魔物が大勢現れ始めていた。
そこで、ハルフゥ達は、メロウの族長に頼み、共に宮殿の近くに住むことを許された。
そして、エリーシャの兄と自分、それから、ハルフゥの族長の娘『メルリア』と3人で、兄弟のように仲良く暮らしていた。
エリーシャ達の父親はメロウ族の族長だった。
そこで、仲の良かった、エリーシャの兄とメルリアは将来を誓い合うことになった。
エリーシャは本当の妹のように思っていたメルリアが兄と結ばれる事を喜んだ。
そして、全てがうまくいくと誰もがそう思っていた。
しかし、ある日、エリーシャの部屋で眠っていたメルリアが、予知夢を見た。
それは、「まもなく強大な何かが現れる」と言うものだった。
そして、「それによって闇のもの達が現れ、戦いが始まるだろう」と彼女は言った。
それを聞いた人魚達は驚いた。
急遽、メロウとハルフゥの大人たちが集り、話し合い、そして、戦う準備を進めていた。
人魚達の武器は水の魔法が主になる。
だが、水の魔法は防御や回復系統の魔法が多く、戦うには正直心もとなかった。
そこでエリーシャの兄は、黒い霧の外へ出て、人間達に助けを求めるべきだと言っていた。
だが、誰もこの黒い霧の向こうに人間達がいるとは信じていなかった。
また、多くの者が古代に人間達が行った蛮行を恐れていた部分もあり、それもあって余計行きたいと言う者はいなかった。
しかし、自分たち人魚が住んでいる海域に、人間たちが使っていると思われる道具などがたまに流れてくることがあった。
それらを見た兄は、人間たちは必ずいると信じていた。
だが、それだけでは多くの者は信じることはしなかった。
しかし、ある日、たくさんある小さな島の一つの砂浜に船の一部が打ちあげられていたことがあった。
それを見たエリーシャの兄は、確信した。
(人間たちは必ずいる!この黒い霧の向こう側のどこかに!)
そして、彼は白銀のサンゴを手に持ち、黒い霧の中へ入って行った。
だが、何日経っても兄が帰ってくることは無かった。
そして、数ヶ月が経った。
メルリアが予知した事態は、起こらなかった。
しかし、人魚達は警戒はしていた。
また、エリーシャの兄はその後、帰ってくることは無かった。
だが、エリーシャとメルリアは必ず兄は帰ってくると信じていた。
彼は、人魚族の中でも一番の水の魔法の使い手だった。
それだけに、そうそうやられることはないと思っていた。
そして、何事も起こらないまま、更に数年の月日が経った。
たまに海の魔物がいくつか現れる程度で、その回数も最近は減っていた。
人魚達の警戒は薄れ、今までと同じように平和に日々を過ごしていた。
人魚達は、予知も外れることがあると思うようになっていた。
そして、エリーシャも兄が帰ってこないのは悲しかったが、平穏な毎日を送っていた。
人魚たちのいる海域には小さな白い砂浜で出来た島々がたくさんある場所だった。
そして彼女は、ほとんど真っ白い砂浜しかない小さな島の一つに上陸し、中が黄色で花びらの部分が真っ赤な『ハビス』と言われる花の匂いをかぎながらハープを弾き、歌うのが好きだった。
曲の内容は、この自然豊かで美しい場所に感謝すると言う内容だった。
竪琴の音色と歌声が、辺りに響き渡る。
広く青く、続く大空、マリンブルーの海、白い砂浜、ハビスの香り、そしてさんさんと降り注ぐ太陽の光が海の中に入り、海中をより一層美しく見せていた。
女性の人魚は美しい姿をしている。
玉のような滑らかで綺麗な白い肌、ぱっちりとした大きな目に長いまつげ。
髪は艶があり、まるで真珠のような輝きを持った美しい髪だと言われている。
また、人を惑わす美声を持つと言われていた。
そして男の場合は『マーマン』と言い、人の姿に似ていて、ひれの付いた2本の手足を持ち、全身硬い鱗に覆われた姿をしている。
どれだけ年齢を重ねても、姿は若いままであるため、人魚の肉を食べると不死や若さを手に入れることが出来ると言われている。
(これは新発見になるんだろうが、ギルドに引き渡したら見せ物にされるのがおちだろうな……流石にそれはできねぇよ……うーん……勢いで引き上げちまったが、どうする?)
デュランは、引き上げることに成功したが、どうしていいか分らなかった。
(……そうだ、こいつ生きてたよな?)
デュランは、人魚の顔の近くに顔を寄せ、息をしているのか確かめようと顔を近づけた。
(こうして見ると、結構、綺麗さと可愛さを合わせ持った愛らしい容姿をしているんだな……って何を考えてんだ、俺は!)
確かに彼の言う通り、この人魚の女性は、人間の男なら誰でもとは言わないが、それなりの数の人々が魅力的に見える姿をしていた。
優しそうな二重の大きな目、綺麗な髪、整った形の薄い赤色の唇。
デュランが、色々なことを考えながら、息を確認しようとしたとき、僅かだが人魚に動きがあった。
僅かに、寝返りを打つような動作をし、その後、目を薄く開け、目覚めだした。
「……う~ん……!?……あなた……何してるんですか?」
人魚の女性が目を覚ました。
彼女は思ったより、冷静にデュランにこの状況の説明を求めてきた。
デュランはそれもあってか余計に驚いていた。
「うおっ!びっくりした!お前、やっぱ生きてたんだな」
人魚の女性は、半身だけ起き上がると、辺りを見回しデュランに今自分がいる場所について聞いていた。
「えっと……ここは?」
「お前に分るかどうかはわらねぇけど、一応言っといてやるが……ここは、オリディオール島の東側の町バルディバってところだ」
「オリディオール?……バルディバ?」
「……やっぱりお前、分ってなさそうだな」
その時、彼女は突然、焦りだしていた。
「―――はっ!私、この姿のままだった!」
「もうおせぇよ、お前、人魚だろ?」
人魚だと言われた彼女は、呆然とした表情で呟いていた。
「どうしよ、見られてしまったわ……」
デュランは、とりあえず助けられたことに満足していた。
(とりあえず、元気そうで良かったぜ……人魚がいるのには驚いたが……ま、どうするかは、こいつにまかせて俺は予定通り、西に行くことにするか……)
そして気にすることなく、この場を去ろうとした。
「まあ、見られちまったもんはしゃーねぇな!俺は、用事があるからよ、後はまあ、頑張れや!」
そして、歩き出そうと背を向けた瞬間、呼び止められた。
「待ってください、一緒に持ってきた小さな袋を見ませんでしたか?」
「ん、俺は見てねぇな。さっきお前がいた場所の辺りにあるのかもな。ほら、その辺りのはずだ」
デュランは、彼女を引き上げた場所の辺りを指差した。
「そうですか……すみませんが、一緒に探してくれませんか?」
「まあ、それぐらいならいいぜ。けどよ、お前、その足だと向こうまで行けないよな……俺がもう一度海まで運んでやるか……」
「あ、大丈夫です」
そう言うと彼女は、手を合掌させ、なにやらぶつぶつ小さな声で魔法を唱えているようだった。
そして、すぐに完成させ、僅かに光った両手のひらを人間であれば太ももと言われる辺りに、それぞれ別の場所に手を付け、そのあと足先の方へ払い、魔法を発動させていた。
「……バブルトランスフォーム!」
すると、この人魚の魚のように鱗と尾びれがあった下半身部分に泡のようなものがたくさん湧き出てきた。
瞬く間に彼女の半身は、ぶくぶくと音を立てた泡に包まれた。
そして、泡に包まれた部分が一瞬強く光った。
デュランは光の眩しさに一瞬目を閉じ、驚いた。
「今度はなんだよ!」
すると今度は、その泡が地面に落ちていくのと同時に魚のようになっていた部分の鱗が、ぼろぼろと泡と共に剥がれ落ちていった。
そして、2本の綺麗な白くて長い足が交差した状態で現れていた。
人魚だった女性は立ち上がり、軽く会釈すると名を告げてきた。
「そういや、名前聞いてませんでしたね。私の名前は『エリーシャ』と言います。助けてくれてありがとう」
立ち上がるとエリーシャは、デュランより少し背が低かった。
デュランは、目と口を開き驚嘆していた。
「……まじかよ……お前、足あるのかよ!……」
エリーシャと名乗った人魚の女性は、デュランとは違い、冷静に足の理由について説明をしていた。
「私たちの伝承では、神々の戦いの時に、海を任せる者がいなかったので、その時に神がある一族にある約束をし、人の一部を魚に変え、海に放ったのが始まりだと言われています。ですから、元々はあなた達、人間と同じだったんですよ」
彼女の説明を聞きながら、なんとか冷静さを取り戻していたデュランは、思い出していた。
「エルガイアの創世伝説の一つにそんなのがあったな……学校で習ったぜ……だが、本当に人魚なんて存在したのかよ……」
「はい、ここにいます!」
エリーシャはデュランの目の前でくるりと回って見せた。
美しいパールティールの髪がふわりと彼の目の前で踊る。
エリーシャは無邪気な笑顔で愛らしく、太陽の光が当たった髪は美しく、魅力的な女性に見え、一瞬デュランはその光景に心を奪われた。
(人魚って……結構かわいいじゃねーか……)
「あれ、どうかしました?」
デュランは少し顔を赤らめ、顔を見られないように背を向けていた。
「な、なんでもねーよ!それより、袋を探すんだろ」
「あ!そうでした、お願いします……あ、そうだ!名前なんて言うんですか?」
「デュラン、デュラン・マーベリックだ」
「デュランですね。分りました。じゃあ、よろしくお願いしますね」
「ああ、まかせろ」
2人は、彼女の倒れていた付近を重点的に捜した。
辺りは岩場だったが僅かに砂浜もあり、小さな岩の隙間にカニや小魚などがいた。
エリーシャは、熱心に探していた。
そして、しばらくしてデュランが、その袋らしき物を見つけていた。
紐がついていて岩場の浅瀬に引っかかるように落ちていた。
小さな皮袋でデュランが手のひらを広げたより、一回りほど大きいぐらいの大きさしかなかった。
だが、中にはぎっしり何かが入っているようだった。
見た目より重かった。
「おい、これか?」
「―――あっ!それです!ありがとう……良かった……」
エリーシャは凄く嬉しそうに、皮袋を頬に当て喜んでいた。
(大事な物みてぇだな……まあ、何はともあれ、良かった……)
そしてデュランは、もうここにいる理由は無いので、立ち去ろうとした。
「良かったな、んじゃ、あとは頑張れよ!」
「あの、待ってください!」
エリーシャはデュランを呼び止めた。
デュランは振り返った。
「ん、なんだよ?」
「あの、このマント……」
「ああ、どうせお前、あの町に行くんだろ?悪いけど、俺忙しいからよ。服買ったら、オリファンって言う宿屋があるから、そこが俺の家だからよ、そこにいる俺と同じ赤毛の女の人に、デュランから借りましたって言っておいてくれればいいぜ」
「いや、それだけじゃないんですけど……あの、まだ重要な……」
エリーシャは何かを話そうとしたが、それを遮るようにデュランが喋りだしていた。
「んじゃ、俺は行くからよ。じゃあな!」
デュランには聞こえなかったのか、彼はエリーシャの前から立ち去ってしまった。
(まだ、話終わってないのに……よし、こうなったら……)
エリーシャは決意に満ちた表情で、デュランの後を追って行った。
デュランは、やっと馬屋の場所を見つけることが出来たようだった。
「おっ!あそこだったか、よし……」
その場所へ向おうとしたとき、後ろをふと振り返ると、先ほどの人魚の女がデュランの後ろに付いて来ていたようだった。
裸足で水溜りを歩き、ぱしゃぱしゃと音をたて、いつの間にかデュランの近くまで来ていた。
「お前、なんで付いて来るんだよ?」
「私も付いて行きたくは無いんです……はい……」
「じゃあ、来るんじゃねぇよ!」
「あの、まだ話が……」
「俺は、ここで馬を借りてゾイルの町に行って、そこで安い乾物を買わないとダメなんだよ!」
「乾物ですか……だったら、塩クラゲ美味しいですよ!」
「おっ!お前分ってるな!普通乾物で多いのは干し肉とかドライフルーツが多いんだよ。だけど、俺は海の幸で育ったからなぁ。だから、干した魚介類持っていくことも結構あるんだ!嫌いな奴も結構いるんだが、そうかぁー」
「はい!」
「はははっ!」
「うふふふ!」
2人は、やや硬い表情で笑い合っていた。
しかしデュランが、その隙を利用しエリーシャに一瞬で背を向け、この場から去ろうとしていた。
「今だ!あばよ!!」
そしてデュランは、勢い良く走り出し、彼女の前から逃げ出した。
(ほんとに面倒ごとは勘弁して欲しいぜ!俺はすぐにでも西の新大陸に行きたいんでな!悪いな!)
「あっ……逃げた!」
それを見た、エリーシャはやれやれといった表情でデュランを見ていた。
「……はぁ、しょうがない人……こう言う手段は使いたくはなかったのだけど……」
そして、自らの右の手のひらをデュランに向け、魔法を唱え始めた。
「……対象に水の束縛を! ウォーターバインド!」
すると、デュランの近くにあった水たまりから、突然何本もの水の鎖が現れ、デュランの腕や足に絡みつき、動くことが出来なくなった。
ウォーターバインドの魔法
水の魔法。
術者の周囲にある液体から、水で出来た鎖を出現させ、対象にその鎖を飛ばし、絡みつかせ移動や行動を制限させることが出来る魔法。
鎖の数を増やせば増やすほど、魔力の消費は高くなる。
術者の一定範囲内に液体がなければならない。
「くそっ!―――なんだこれは!」
そして、左手の人差し指と中指を右の手の甲へ付け、開いた右手をデュランに向けたまま、エリーシャは近づいてきた。
(これは、水の魔法だ!まだ、水の魔法はほとんど見つかっていないのに……人魚たちは使えるのかよ……)
水の魔法は今のところ、一部の魔物たちが使用してくるだけで、人間達は扱うことはできないのであった。
どうやら、人魚達は水の魔法に長けているようだった。
「ごめんなさい、だけど、話を聞いて欲しくて……聞いてもらわないと困るんです……」
「まずは、これをどうにかしろよ!」
「逃げませんか?話を聞いてくれます?」
デュランは半笑いしながら、答えた。
「……聞く、聞くから……早くしろって」
彼の半笑いした表情を見たエリーシャは、デュランが心を偽っていると判断したようだった。
「―――あっ、なんかうそ臭いです!私、そういうの騙されませんから!」
そう言うと彼女は、先ほどよりいっそう厳しく、水の鎖を増やし締め付けた。
鎖の数が増え、デュランの首の辺りまで鎖が這い回り、締め上げてきた。
「……おい、待て、ほんとに聞くって!……苦しい……逃げたのは悪かった!だから……うわぁ!」
デュランは苦しそうにもがいたが、水の鎖が彼の体にしっかり巻きついていたため、動かすこともままならなかった。
そしてエリーシャは、今度こそ本気で自分の話を聞く気があるのか、疑いの眼差しをデュランに向け、再び聞いていた。
「……ほんとですか?」
デュランは、早くこの苦しさから逃れたいと思い、先ほどより真剣に答えていた。
「ほんとだ!ほんと!」
しばらく、2人は見つめ合った。
「そこまで見つめられたら……ちょっと……恥ずかしいです……」
エリーシャは、少し顔を赤らめ、顔をしばしデュランから背けた。
そして水の鎖が、デュランの首を絞め上げ始めていた。
「……おいっ!死ぬ!死ぬ!」
「あっ、そうでした……」
デュランは、先ほどより苦しそうに叫んだ。
「ほんとに逃げねえから、勘弁してくれ!」
「……分りました」
デュランが心を偽ってないと判断したエリーシャは、水の鎖を解くことにした。
彼女がデュランへ向けていた右手のひらを握ると、鎖だった水は普通の水に戻った。
すると、デュランの体に纏わり付いていたために、彼は水で体中濡れてしまった。
「冷てぇ!」
「あ、ごめんなさい」
ようやく、水の鎖から解放されたデュランは、頭を振り、呟いた。
「……全く、ひでーめにあったぜ……」
そしてデュランは、自分の体が動くかどうか確かめていた。
体をひねり、肩を動かしながら、諦めたようにエリーシャに話し掛けていた。
「……んで、話ってなんだよ?」
「えっと、ですね……」
そう言ってエリーシャは、周りに人がいないか確かめ、誰もいないと分ると話をし始めた。
「デュラン、あなたは、私の本当の姿を見ましたよね?」
「本当って、あれか、人ぎょ……」
そのとき、エリーシャがデュランの口を押さえた。
「言ってはダメなんです!」
「なんだよ、そりゃ」
「私たちには、掟があるんです」
「……掟?」
「はい、それは同属以外の者に、さっきの姿を見られたならば、相手を殺さなければならないんです」
「―――え、まじかよ!じゃあ、お前、俺の敵なのか?」
デュランは警戒し、腰のウェストポーチから短剣を素早く取り出し、構えた。
「待ってください!実はもう一つ条件があるんです」
デュランは眉を寄せた。
「……もう一つ?」
「はい……それは異性の場合、生涯の伴侶とすれば殺さなくて済むんです……」
「なんだよ……その無茶な掟はよ……」
彼女は、怒りを込めてデュランに話した。
「こういう掟が出来たのは、あなた達、人間のせいもあるんですよ!」
「なんでだ?」
「私たち人魚の肉を食べれば不死になるとか、言ってたらしいじゃないですか!」
「ああ、古いおとぎ話なんかに、そういうのあったな」
今度は悲しそうな表情になり、エリーシャは話を続けた。
「そのせいで遥か昔、黒い霧が無かった時代に、私たちの先祖の人魚達は、人間にたくさん殺されたことがあったらしいんです」
「本当にあったのかよ……」
「だから私たちは、人の目にできるだけ触れないようにひっそりと海の世界で生きてきたんです」
デュランは、本当に効果があるのか知りたかったので、彼女に聞いていた。
「んで、実際はどうなんだ?不死になるのか?」
「……なるわけないです……」
「ぶっ、まじかよ……俺は信じてたぜ……ま、不死なんていらねーけどよ」
「だから、人魚族の間でそういった掟ができたんです……」
「そうなのか……大変だったんだな、お前らも……」
そしてエリーシャは、もう一つの条件のこともあったので、間をおかずに聞いてきた。
どうやら、デュランに考える時間を与えたくないようだった。
「で、どっちがいいですか?」
「どっちも嫌に決まってんだろ!」
「我がままなんですね……」
「お前なぁ……はぁ、安心しろ、俺は口は堅いほうなんだ」
「……信用できません!」
「んなこと言ったってなぁ……」
「私のような綺麗な人魚を奥さんに出来るんですよ、どうです?」
そう言ってエリーシャは、髪をたくし上げ、片目を瞑って見せた。
しかし、どこかぎこちない動作だった。
一瞬、彼は警戒した。
(―――人魚たちが使う、魅惑の魔法か!……っと思ったが……こりゃ、ただの馬鹿だな……ああ、そうに違いねぇ)
そしてデュランは、少し青ざめた表情で彼女を見ていた。
「うぇ……お前、そういうの慣れてないだろ」
どうやら彼女がやった、さっきの動作は、初めてやったことのようだった。
「酷い……頑張ったのに!」
「んなもんに騙されるかよ、ふう……じゃあ、こうしようぜ。俺は景色に見とれてて、お前を発見しなかった。お前は、さっきの岩に張り付いたままで……」
今度はエリーシャが、呆れた顔でデュランを見つめ、呟いた。
「何言ってるんですか……あなた……」
「………」
「………」
しばし、2人とも無言で立っていた。
「……すまん。無理があったな……」
「……デュラン、誰しも間違いはあるものです。幸い、私は海のように広く寛大な心を持っています……だから、あなたを許してあげます」
そう言って彼女は、デュランの肩に手をおき、優しく語りかけていた。
「ありがとよ……って」
デュランは何か違う事に気が付いた。
「お前が言うんじゃねーよ!」
そう言って彼女の両方の頬っぺたを両手で軽く摘み上げた。
「なにふるんれふか!」
どうやら、頬を引張られているために口が回らないらしく、上手く喋れないようだった。
デュランは自分の顔を彼女の顔の近くまで近づけ、睨みつけると、やや脅すように話し掛けた。
「お前なぁ……俺は殺されかけたんだぞ?ああっ!?……そんなおっかない女を嫁になんて出来る訳ないだろ!」
そう言って、デュランは摘んでいる頬をそのまま、上下に揺らした。
エリーシャは両手をじたばたさせ、抵抗した。
「はなひてくらはい!」
そして、彼女が目に少し涙を滲ませてきたのを見た、デュランは少し可哀想に思ったのか、引張るのを止めた。
「ったく!これで許してやるか……」
ようやく、苦しみから解放されたエリーシャの両頬は少し、赤くなっていた。
そして、頬を摩り、恨めしそうにデュランに話し掛けていた。
「うう……痛い……身も心も傷つきました……これはもう完全に傷物ってやつですね……責任を取ってもらわないと!」
「そうかよ、言ってろ!」
「けち……」
「うっせえ……んで、お前、わざわざ、人間の相手を探しに来たのか?」
視線を下に落とし、彼女は話した。
「……違います。私は、居なくなった兄を探すためと私たち人魚のいる海域での戦いのため、何か方法や手段が無いか探しに来たんです」
「今度は、泣き落としか?騙されねぇぞ!」
エリーシャは先ほどとは違い、真剣な眼差しでデュランを真っ直ぐ見つめ、話してきた。
「……デュラン、聞いてください。これは本当の話なんです」
エリーシャの顔を見たデュランは、彼女を軽く睨みながら呟いた。
「最初からそうやって喋れよ……どうやらそっちが本題みてぇだな……」
そして、彼女は人魚達がおかれている現状の説明をし始めた。
エリーシャ達の住んでいる海域には、聖なるサンゴ『白銀のサンゴ』があり、それによって黒い霧から守られていた。
そこで、人魚たちはなんとか生きていた。
光の人魚には、2種類あった。
一つは、エリーシャたち『メロウ』と呼ばれる人魚族である。
彼らは、海の底に沈んだ、古代の宮殿に住んでいた。
そして、特徴としては、女性の場合、エリーシャのように美しく魅力的な容姿をもっていて、水の魔法も使いこなすことが出来る。
また、ハープと言う竪琴を鳴らし、歌う事が得意であった。
そして、もう一つは『ハルフゥ』と呼ばれる人魚たちが存在した。
彼らは、メロウとは違い、特定の場所に住むことはしなかった。
群れで移動し、群れで集まって生きていた。
また、こちらの人魚たちは、数が少なく、火に弱く、体の大きさがメロウよりも一回り小さい人魚だった。
しかし、非常に魔力が高く、稀に予知の能力を持った者が生まれることがあった。
両者は仲が良く、争いなどは一切無かった。
だが、光の人魚族がいる海域に最近になって魔物が大勢現れ始めていた。
そこで、ハルフゥ達は、メロウの族長に頼み、共に宮殿の近くに住むことを許された。
そして、エリーシャの兄と自分、それから、ハルフゥの族長の娘『メルリア』と3人で、兄弟のように仲良く暮らしていた。
エリーシャ達の父親はメロウ族の族長だった。
そこで、仲の良かった、エリーシャの兄とメルリアは将来を誓い合うことになった。
エリーシャは本当の妹のように思っていたメルリアが兄と結ばれる事を喜んだ。
そして、全てがうまくいくと誰もがそう思っていた。
しかし、ある日、エリーシャの部屋で眠っていたメルリアが、予知夢を見た。
それは、「まもなく強大な何かが現れる」と言うものだった。
そして、「それによって闇のもの達が現れ、戦いが始まるだろう」と彼女は言った。
それを聞いた人魚達は驚いた。
急遽、メロウとハルフゥの大人たちが集り、話し合い、そして、戦う準備を進めていた。
人魚達の武器は水の魔法が主になる。
だが、水の魔法は防御や回復系統の魔法が多く、戦うには正直心もとなかった。
そこでエリーシャの兄は、黒い霧の外へ出て、人間達に助けを求めるべきだと言っていた。
だが、誰もこの黒い霧の向こうに人間達がいるとは信じていなかった。
また、多くの者が古代に人間達が行った蛮行を恐れていた部分もあり、それもあって余計行きたいと言う者はいなかった。
しかし、自分たち人魚が住んでいる海域に、人間たちが使っていると思われる道具などがたまに流れてくることがあった。
それらを見た兄は、人間たちは必ずいると信じていた。
だが、それだけでは多くの者は信じることはしなかった。
しかし、ある日、たくさんある小さな島の一つの砂浜に船の一部が打ちあげられていたことがあった。
それを見たエリーシャの兄は、確信した。
(人間たちは必ずいる!この黒い霧の向こう側のどこかに!)
そして、彼は白銀のサンゴを手に持ち、黒い霧の中へ入って行った。
だが、何日経っても兄が帰ってくることは無かった。
そして、数ヶ月が経った。
メルリアが予知した事態は、起こらなかった。
しかし、人魚達は警戒はしていた。
また、エリーシャの兄はその後、帰ってくることは無かった。
だが、エリーシャとメルリアは必ず兄は帰ってくると信じていた。
彼は、人魚族の中でも一番の水の魔法の使い手だった。
それだけに、そうそうやられることはないと思っていた。
そして、何事も起こらないまま、更に数年の月日が経った。
たまに海の魔物がいくつか現れる程度で、その回数も最近は減っていた。
人魚達の警戒は薄れ、今までと同じように平和に日々を過ごしていた。
人魚達は、予知も外れることがあると思うようになっていた。
そして、エリーシャも兄が帰ってこないのは悲しかったが、平穏な毎日を送っていた。
人魚たちのいる海域には小さな白い砂浜で出来た島々がたくさんある場所だった。
そして彼女は、ほとんど真っ白い砂浜しかない小さな島の一つに上陸し、中が黄色で花びらの部分が真っ赤な『ハビス』と言われる花の匂いをかぎながらハープを弾き、歌うのが好きだった。
曲の内容は、この自然豊かで美しい場所に感謝すると言う内容だった。
竪琴の音色と歌声が、辺りに響き渡る。
広く青く、続く大空、マリンブルーの海、白い砂浜、ハビスの香り、そしてさんさんと降り注ぐ太陽の光が海の中に入り、海中をより一層美しく見せていた。
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