Dark world~Adventurers~

yamaken52

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第十一話 続き3

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そして、水中でそれを確認しようと潜った瞬間、その大きな何かが凄い勢いで、エリーシャの方に向ってきた。

彼女は、その大きな物体が起した、凄い勢いのある水流に巻き込まれ、そして飛ばされ、エリーシャは意識を失った。

彼女は、そのまま流され、ある島に着いた。

その場所は岩場だった。

そして岩場に頭を軽く打った時に意識が少しだけ戻ったが朦朧としていた。

そのまま、近くの岩にしがみつき、回復を待とうと思い、再び意識を失った。

そして、気づいたときに目の前にいたのが、赤毛の青年デュラン・マーベリックであったのだった。

「……という訳なんです」

説明し終わったエリーシャは、真剣な表情でデュランを真っ直ぐ見つめていた。

「なるほど、そう言うことかよ……だったら、俺が冒険者ギルドまで案内してやるぜ。そこで、訳を話せば、恐らく審議会にも話がいって共闘してもらえるはずだ」

「今は、話せません……」

「なんでだ?」

「私たちには、先ほども言ったように、掟があるんです……」

「んなこと、言ってる場合じゃねぇだろ!」

「それだけじゃないんです、実は魔法のギアス(魔法の誓約)がかけられているんです。これは、族長のみが使用及び、解除できるんです……だから、掟を破ると待っているのは死なんです」

そのギアスは、発動すると体が全身凍りつき、砕け散ると言うものだった。

エリーシャは、そのことについては話さなかった。

「じゃあ、お前こっちに来てどうするつもりだったんだ?」

「信用できる人を探すつもりでした」

「それで、その人物に言ってもらうつもりだったのか?」

「いえ、私たちの海域とあなた達の海域の間にある、黒い霧に包まれた場所には、大嵐が吹き荒れているんです。だから、そこの嵐をなんとか出来れば……」

「例えば、俺がギルドに報告したらダメなのか?」

「それでどうするんですか?」

「それで、聖石を使ってそこまで行ければいいが……嵐があるんじゃあなぁ……」

彼女は立て続けに質問した。

「私は人魚だと言って人前には出れませんよ?証拠も無いのに誰が信用するんですか?場所もまだ分かっていないんですよ?」

デュランは、エリーシャの質問にうろたえた。

「う、確かにそうだな……うーん……だけどよ、場所ぐらいは分からねぇのか?」

「北の方へ泳いでいたんですけど、途中から西へ流されていたのを覚えています。だから私が流されてきたのは、恐らく、ここから南東方向からだと思います……恐らくですけど……」

デュランは再び、2本の指で顎を弾きながら考えていた。

「南東か……確か、ゴレア群島から南の海域は、海が荒れて入れないとか聞いたぜ……そうなると、お前の言っている事と一致するな……」

「そうなんですか?」

「ああ、ギルドの報告にそう書いてあった。だから、あとは、その謎の大嵐をなんとか出来れば……」

「それは、昔いた、ハルフゥの予言の一つに、4つの神殿のうち、3つの神が目覚めれば……特に風の神殿の神が目覚めれば大嵐は無くなると、聞いたことがあるんですけど……」

「そんなのがあったのか……んー、今のところ、目覚めいているのは、大地の神イディスのみだから、あと2つか……お前のさっき言ってた水の神殿を解放することが出来れば、あと一つになるんだがな……」

それを聞いたエリーシャはダゴンたちの事を思い出し、やや声を荒げ、話していた。

「絶対に無理です!闇の人魚達とダゴンやハイドラたちを相手にしないとだめなんですよ?」

「そうだな……もう少し情報が必要なのかもな……そういやお前、もう一つの掟の伴侶ってのに俺はなっていないんだが、大丈夫なのか?」

「それは、一定の範囲内に、その対象者がいれば大丈夫なんです……」

「なんだ、そうなのか」

エリーシャは頬を少し赤らめ、両手を胸のところで組み、小刻みに体を左右に振りながらデュランに話していた。

「けど、永遠の愛を誓い合えば……範囲外にいることも出来ますよ!」

デュランは適当にあしらった。

「わかった、わかった」

「あー!なんか誤魔化した!」

「うっせぇ!俺は忙しいの!」

「……じゃあ、報酬を払えばいいんですか?」

報酬という言葉を聞いたデュランは、しばし考えてから答えた。

「……そうだな、俺は冒険者だからな。『クエスト』を俺に依頼するなら、そうなるな。だが、俺の雇い賃は高いぜ!」


クエスト

本来は探求や探索を意味する言葉だったが、この世界では冒険者が数多くクエストをこなしていくうちに、いつしか、冒険者や人々に寄せられる様々な仕事の依頼などを意味するようになっていた。


「じゃあ、これでどうですか?」

そう言って彼女は、袋から何かを取り出しデュランに渡した。

それを見たデュランは驚いた。

「―――これは!?」

「ピンクパールです。これの聖なる力のおかげで、霧のある海を渡ることが出来ました」

デュランの手のひらには、鶏の卵より、二回りほど小さい薄桃色の真珠があった。

「お前……こんな色の真珠、見たことねぇぞ……しかもこの大きさ……これは、相当の値段がするもんだ……キャラック船が何隻か買えちまうぐらいだぞ、きっと……」

「報酬はそれで、いいですか?」

だが、デュランはその真珠を見つめながら、しばらく考えた後、その真珠を彼女に返した。

「…………悪いが、これは貰えねぇ」

それを見たエリーシャは、彼を睨み、強い口調で尋ねていた。

「なんでですか?報酬が必要なんでしょ?―――それとも、私と戦う気ですか!」

「そうじゃ、ねえよ!……お前……これ大切なもんだろ?」

彼女は、目を一瞬見開いた。

そして、心の内を悟られないように澄ました顔でデュランに、なぜそう思うのか聞いた。

「……なんでそう思うんですか?」

デュランは、手のひらにある真珠を見つめながら、人魚の娘に話していた。

「これ、お前の住んでいた場所でも、相当珍しいもんだろ。さっきも言ったが、この大きさに色、どう考えても簡単に手に入る物には見えないんだよ。俺をなめんなよ!それに、俺に渡すとき、凄い寂しそうな目で見てたぜ、これ……大事なもんなんだろ?そんなもん貰えるかよ!」

エリーシャは観念したように本当のことを話した。

「……祖母の形見なんです……」

「やっぱりな……」

そしてデュランの呆れた顔を見た彼女は目に涙を滲ませて、デュランに話し掛けていた。

「……じゃあ、一緒に手がかりを探しては貰えないんですか?……」

(そんな目で俺を見るなよ……)

彼女の悲しそうな顔を見たデュランは、その時思い出した。

母や妹が、父のことで人知れず、泣いていた事を。

だから自分だけは、あんな人間にはなりたくないと思っていた。

それを思い出した彼は、怒気を帯びた表情で海の先にある水平線を睨みつけ、両手を握り締めていた。

(大切な女を泣かせる奴は最低の野郎だ!……ずっとあんな奴の様にはならないって決めてただろ……そうだっただろ?デュラン・マーベリック!)

デュランの気持ちは決まった。

「……しょうがねぇな、分ったよ!これも何かの縁なんだろうな……いいぜ、やってやろうじゃねぇか!光の人魚族からのクエスト、俺が受けて立つ!!」

「本当ですか?」

「ああ、まかせろ!」

「……良かった……」

安堵した表情でエリーシャは、静かに泣いていた。

デュランは、この島で恐らくたった一人の人魚の娘に近づいた。

「おいおい、泣くなよ……意味が無くなるだろ……」

彼女は、みんなを守るために一人、命を賭け、暗黒世界へ飛び込み、この異国の地へたどり着いた。

厳しい魔法の誓約を背負って。

それは心細く、つらいものもあったはずだった。

そして、偶然出会ってしまったデュランに、なれない色仕掛けや、自分の大切にしていた形見を渡してみたり、色々信用に足る人物なのか試してみた。

欲に溺れた者でないかを。

だが、彼はどうやら、口調は少し乱暴な所があったが、良い心根の持ち主のようだった。

(デュラン、あなたに感謝します……ほんとうに……ありがとう)

しばらくして、エリーシャは泣き止んだ。

いや、途中で思い止まり、泣きたい気持ちをぐっと堪え我慢した。

(今は、泣いている時じゃない!みんなを早く助けられるようにしないと!ローレライたちがずっとあのままでいるとは思えない!それに、私がここに流れ着いたってことは兄さんもこっちにいるのかもしれない……まだ始まったばかりだもの、やってみるわ、みんな待ってて!)

エリーシャが涙を拭き、立ち上がるのを見たデュランは、2人の旅の始まりを告げようとした。

「よし、じゃあ、行くぜ!って、その前にお前の服を買うか……いったんバルディバに戻るか……せっかく格好良く出てきたんだがな……まあ、いいか……それより、お袋に見つからないようにしないとな……マント一枚の裸の女連れて歩いているのばれたら、何言われるかわかったもんじゃねぇ……」

考え込んでいるデュランを尻目に、彼女は何かを思い出した。

「……あ、そうだ!お金って真珠以外に、これも持ってるんですけど、お金になります?」

そう言って袋から、何かを取り出しデュランに渡した。

彼はすぐにそれを見た。

「これは……宝石サンゴだな。―――この色は!『オックスブラッド』!!」

「あれ、ダメですか?こっちもありますけど?」

そう言って先ほどより少し色の違うサンゴも出してきた。

それを見たデュランは再び驚いていた。

「おいおい!こっちは『エンジェルスキン』かよ!どっちも最高級品だぜ……」

宝石サンゴ

海の深い場所に生息し、希少価値の高い綺麗で艶やかな肌を持ったサンゴ。

サンゴは加工され様々な物に利用される。

護符や工芸品、宝石のような扱いをすることもある。

この世界では、装備品などに使われる場合、雷のダメージを軽減できるとも言われている。

オックスブラッドは、深みのある赤色のサンゴで血赤珊瑚とも言われる最高等級のサンゴの一つである。

また、エンジェルスキンは透明感のある淡いピンク色のサンゴで、これも最高級品であった。

オリディオール島付近や、ラスケルク近海では、採れないため、市場に出回っているのは、主に冒険者が冒険をしている中で見つけた古代の物がほとんどだった。

しかも、これほど大きい未加工の物は無かった。

「これも、形見じゃねぇだろうな?」

デュランは疑いの目を向けながら、人魚の娘に聞いていた。

「え、違いますよ!これは、たくさん採ってはダメなんですけど、私たちのいる海域には一杯あるんですよ。それで、人間たちは昔、人魚狩りのついでに、これも採っていたって聞いたんで、一応持ってきたんですよ。だから、たくさん持ってます!ふふっ」

そう言って彼女は、袋の中身を見せた。

そこには、たくさんの宝石サンゴや綺麗な貝殻などが入っていた。

「これだけあれば、しばらくお金に関しては困ることはなさそうだな……よし、一つだけ鑑定士のところへ持っていって金にするか!」

「デュランにもあげますよ!おひとつ~」

そう言ってエリーシャは、もう一つサンゴを渡そうとした。

それを見たデュランは呆れると共に、この人間の世界について説明をし始めた。

「お前なぁ……軽々しく渡すんじゃねぇ。いいか?お前の今いる場所はな、悪いやつもいるんだ。騙して来る奴が、たくさんいるんだ……それに、これからの旅がどれぐらい長くなるのかも分らないんだぞ?急に大金が必要になる場合だってあるんだ。だから、お金はいつでも必要な時に必要なだけ使えるように準備して持っておくんだ、いいな?」

赤毛の青年の説明を不思議そうに彼女は聞いていた。

「同じ人間同士なのにですか?」

「そうだ、俺たち人間は、お前らみたいに綺麗な存在じゃねえんだ。騙し騙され、切った張ったやってんだ。身内同士でもあるし、古代にはお前が言うように、同じ光の種族である、人魚たちも狩ったんだろ……今思うと、救いの無い生き物だな……闇の種族とどう違うんだ?」

「でも、でもデュランは私に協力してくれます!」

「俺をそんなに信用するんじゃねぇ!お前……俺が今逃げたらどうする?」

2人は、静かに見つめあった。

エリーシャが、先ほど彼を試したようにデュランもまた、彼女を試した。

(今度は、お前に遅れはとらねぇぜ……)

そしてエリーシャは迷うことなく、真っ直ぐ彼を見つめ答えた。

「その時は、死にます」

それを聞いたデュランは、彼女を睨みつけた。

「……簡単に言うんじゃねえよ!」

彼女は再び、目に涙を滲ませ、切なげに答えた。

「適当に決めたわけじゃないです。さっきデュランは、行くって言ってくれました。ちゃんと真剣に思って……少なくとも私はそう感じました。だから、私は信じます……」

デュランは、黙ってエリーシャの顔を見ていた。

(そんなことで俺を信頼するのかよ……はぁ……やっぱこいつ分っちゃいねぇな……だけど……こいつをこの世界に一人で行かせるわけには……あ~あ、損な性格だぜ……全く……)

そう思った彼は深く息を吐き、ゆっくり目を瞑り、下を向いたあと、エリーシャの方へ顔を向けると諦めたように話し掛けた。

「……分った、俺の負けだ!……ふぅ……もうこの話はよそうぜ、疲れるだけだ」

デュランの予想した答えとは違ったようだったが、彼女の真剣な思いに、彼は降参したようだった。

(それに……泣かすわけには、いかねぇよ……もう、これ以上は……見たくねぇぜ……)

それを聞いた彼女は安心したのか、顔にまた明るさが戻っていた。

そして涙を拭き、どうするか聞いていた。

「はい……そうですね……分りました!じゃあ、これからどうしますか?」

デュランは本格的に、これからどうするか考えた。

「……そうだな、服を買ったら、色々調べに行った方がいいのかも知れんな……魔物の正体や弱点なんかも知る必要があるだろうしな……なら、ゾイルの中心地『レイアーク』の町の大図書館に行った方がいいか……それから、島の外に出る事もあるだろうからな……そうなると、お前の身分証も必要になるな……そのまま、「人魚です」なんて言えねぇからな……うーん、お前、水の魔法使えたって事は魔道師なのか?」

「海で遭遇する、魔物とか獰猛なサメとかに、ちょっと使ってただけですし、そう言うの良く分らないです……」

「そうか……それに、魔法学院出てないと貰えないんだったか……他には、なんかねぇのか?」

正確には、魔法学院を出た者はデュランの言う通り、『魔道師』の資格を獲得することができる。

しかし、お金が無く、独学で魔法を使いこなす者も稀に存在した。

そう言った者は、ギルドの認定試験に合格すれば、『魔道士』の資格を得ることはできるのであった。

『師』と『士』の違いは、魔道師の方は魔法以外の様々な知識を身に付けるため、教職の道にも就くことが出来た。

また魔道士の方は、冒険者としてのみ、魔法を扱うことを専門とすることができるクラスと言うことになっている。

試験は年に1回ほどしかないため、彼らにはそんな時間的余裕は無かった。

それ故、この選択を取ることはできなかった。

少し考えを巡らせたエリーシャは、自分の好きだったことを思い出した。

「そうだ!ハープを弾きながら歌を歌うのは好きです!」

デュランは、彼女の言った事から閃くことがあった。

「歌か……。―――そうだ!『バード(吟遊詩人)』で登録すればいいか!」

それを聞いたエリーシャは、なぜか驚いていた。

「飛ぶんですか!」

「うっせぇ、こっちは真剣に考えてんだ、ちょっと黙ってろ」

デュランは、そう言って顎を指で弾きながら、海を見つめていた。

彼女は少し、しゅんとなっていた。

「……はい(真剣だったのに……)」

吟遊詩人(bard bird【鳥】ではない)

各地を回り、路上や酒場など、人が集まる所で歌や曲を聞かせて、お金を貰い、生活している者。

また、冒険者として行く場合は、楽器や歌声が聞こえる範囲にいる仲間に対して様々な補助の効果を与える歌などを歌うこともできる。

使われる曲は、自ら詩や曲を作ることもあれば、昔から歌い継がれてきた曲、神話や伝承、歴史を元にしたもの、他には誰か有名な名のある人物に付き従い、その人物の英雄譚を作り、それを曲にすることなどがある。

それ以外にも、魔法のような効果のある、歌や音楽があると言われている。

このクラスは、他のクラスに比べて身分証は比較的取り易い。

いくつかの曲を歌い、実演して見せ、お金が取れるレベルの実力があると判断されれば、すぐに承認されることになっている。

「お前、言うからには上手いんだろうな?」

「えーっと、周りの人魚たちは上手いって言ってくれましたよ!」

「お前な……俺たち人間の基準で上手くないとダメなんだよ!」

「あー、なるほどー」

「とりあえず、どんなものか、まずは俺が判断してやるぜ、こっちの岩場の方で海に向って歌ってみてくれ」

「はい」

2人はあまり人目につかない場所へ移動した。

デュランは、辺りを見回した。

そして、誰もいないことを確認すると、エリーシャに歌うよう促した。

「……よし、ここでいいだろ。歌ってみてくれ」

「……わかりました。ほんとはハープが必要なんですけど……とりあえず無しで歌ってみます」

そしてエリーシャは、一呼吸してから両手を組み、握り締め、胸元まで持っていくと、歌い始めた。

静かな歌い出しだった。

また彼女の声は、美しく透明感のある声だった。

ゆっくりと辺りにエリーシャの声が広がっていくようだった。

静かに穏やかに、そして時に力強く、彼女は歌った。

人魚の娘の歌と景色が見事に調和しているように見えた。

日の光を浴びて輝くエリーシャの髪と海面、歌声に誘われるかのように、辺りに飛んでいた鳥たちもこちらに集まってきた。

デュランは一瞬で彼女の声に魅了され、辺りの景色を見ながら、穏やかで落ち着いた気持ちになった。

(なんて……なんて、いい声で歌いやがるんだ……こんな綺麗な声、聞いたことがないぜ……こいつ、本当に歌が好きなんだな……それに……)

そして彼は、エリーシャの方へ視線を向けた。

歌っている彼女の姿は、眩しく気高く、そして凄く魅力的に見えた。

(や、やるじゃねぇか……ちょっとドキドキしてしまったぜ……)

そして、彼女の歌は終わった。

歌い終わったエリーシャは満足げな顔をしていた。

その表情のまま、デュランに感想を尋ねた。

「デュラン、どうでした?わたしの歌でバードに吟遊詩人になれますか?」

デュランは、まだ胸の動悸がおさまらなかったが、なんとか平静を装い答えた。

「ま、まあ、それなりにできるみてぇだな。これだったら恐らく、合格するだろうぜ」

それを聞いたエリーシャは、少しだけ飛び上がって喜んでいた。

「本当ですか?やったー!」

彼女の嬉しそうな表情を見たデュランは、自分の心を偽るのをやめ、素直に自分の思ったことを言うことにした。

「いい歌声だったぜ、バードだけでも食っていけそうだな……そういや、聞いたことの無い歌だったな。なんて名前の歌なんだ?」

「これは、『僥倖(ぎょうこう)の海』と言います。僥倖とは偶然や思いがけない幸運を言います。私は、海を渡ってこの幸運に出会いました。だから、ちょうどいい歌かなって思って頑張りました!」

それを聞いた赤毛の青年は、これから始まる旅を思い、軽く笑いながら人魚の娘に話し掛けていた。

「へへっ、この先、幸運が待っているといいんだがな」

「私、頑張ります!そして、またあの故郷の海へ帰ります!」

「そうか、さっきより、らしくなってきたじゃねーか!よし、んじゃ、行くか!エリーシャ!」

「はい!わたしもなんか、冒険者って気持ちになってきました!行きましょう、デュラン!」

そして、2人が歩き出そうとしたとき、エリーシャのお腹が鳴った。

グウゥゥゥ………

「……おい、やっぱお前、ダメじゃねーか!」

「ううっ……だって、ずっと何も食べてなかったんですもん……」

どうやら、ここに来るまでほとんど何も口にしていなかったようだった。

デュランは頭を軽く振り、深くため息をつきながら呟いていた。

「はぁ……締まらねぇ、始まりだぜ……俺としてはもっとこう、びしっと決めたかったんだがな……」

彼にとって始まりは、重要なものだったようだったが、そんなことを気にすることなくエリーシャは、元気に話し掛けていた。

「デュラン、まずは食事にしましょう!人間たちの食べ物ってどんなのだろー。さあ!」

「まずは服だろ!それからだな……」

「はい!」

エリーシャは町に向って歩き出した。

晴れやかな表情だった。

進むべき道、信頼できる人。

それらが、すぐに揃うことが出来た。

これほどの幸運は早々無いと思った。

(……これは、きっと運命なのかな?こんな幸運初めて!なぜか、なんでもできる気がするわ……きっとあなたのおかげ……デュラン、ありがとう!)

そして水溜りの水が跳ねる音がした。

水溜りから跳ねた水は、水滴となって宙に浮き、太陽の光を受けると、一瞬、真珠のように輝き、そして地面に落ちた。

彼女は水溜りを気にすることなく軽快に、そして自信を持って歩き出していた。

その音は、最初に追いかけた時に踏んだ、不安げで自信の無い小さな音ではなく、彼女の今の気持ちを表しているかのように軽快で、かつ、力強い響きがある音がしていた。

デュランは、そんなエリーシャに引張られるかのように後に付き、慌てて追いかけた。

「おい、お前、場所わからねぇだろ!ちょっと待てよ!」

パールティールの髪の娘を追いかけながらデュランは、ふと西の空を見た。

そして、ユラトのことを思った。

(すまねぇ、ユラト。そっちに行くのもう少しかかりそうだ。それまで、お互い頑張ろうぜ、相棒!)

赤毛の青年と人魚の娘の旅は、なんとか始まったようだった。
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