Dark world~Adventurers~

yamaken52

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第十二話 森と不思議

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ある人物が、眠っていた。

その人物は、夢を見ていた。

そしてその夢は、古い記憶だった。

笑い声が聞こえる。

「はははっ、エル!楽しいだろー?」

少女と少年が、どこまでも続く草原の丘を高いところから丘の下辺りにある村の方までソリで滑っていた。

少女の方は青ざめた顔で、滑り降りていた。

「こ、これ怖い……」

対照的に少年の方は目を輝かせ、ひたすら陽気な笑い声をあげながら滑り降りていた。

草原の草と砂を舞い上げながら、2人は結構な速度で丘を下っていた。

「ははっ、大丈夫だって!すぐに着くから!見てろー」

どうやら少年が滑る速度を上げたようだった。

「ユラト!そんなに速度出したら……」

ユラトと呼ばれた少年は、みるみるエルと呼ばれた少女から離れていった。

「ひゃっほーーー!」

暖かい太陽の日差しの下で笑い声を響かせ、故郷の風や匂いを感じた。

(この時は、なんとも思わなかった……これが普通だったから……)

そして、しばらくすると2人の前に、馬や牛を飼っている場所が見えてきた。

そこに先にたどり着いた少年は、先ほどの笑顔が消えていた。

どうやら少年は速度を出しすぎたらしく、操作がうまく出来ないようだった。

「うわああ!」

馬の足の下をすごい速度で一気に潜り抜けていた。

そして、その先には馬小屋があった。

「ユラト!」

思わず少女は叫んだ。

そして、少年はそのまま、馬小屋へ突っ込んだ。

ドンッと鈍い音がしたように聞こえた。

しばらくして、その場所へたどり着いた彼女は血相を変えて、その小屋へ入った。

「ユラト!大丈夫?」

少年は干草の中へ全身を埋めていた。

そして、少女の方へ振り返った。

「うへ……」

彼は間の抜けた表情で口一杯に干草を頬張っていた。

それを見た少女は、思わず吹き出していた。

「……プッ」

「なんだよ、エル!俺は酷い目にあったんだぞ!」

少女は両手を口に当て笑っていた。

「ふふ……だって……おかしいし……それに、これは自業自得……」

「ちぇ……今日はうまくいかないや……」

その時、遠くから声が聞こえた。

「おーい!昼飯だぞー」

「はーーい!」

2人は元気良く、家に向かって行った。

(こんなこともあった……懐かしい……だけど、もうすぐ……)

彼女は朝の日差しと、鳥の鳴き声を聞いた。


「ユラト後ろだ!」

ダリオがユラトに向って叫んでいた。

ここはウッドエルフ達の領域となっていく、深い深い森の中。

たまに雲のように立ち上る靄がある森の中で、ユラトは冒険を続けていた。

彼には目的があった。

一つは、自分の左手の甲にある、謎の青い模様を消すため。

もう一つは、ハイエルフの国を探すためである。

今日は聖石を4つ使い、最後の一つを使った後、ダリオがマナサーチを唱えていた。

そして、彼が辺りの様子探った。

するとダリオは、いくつか魔物の反応を感じたようだった。

「―――ん!?」

そして顔をしかめ、ユラトたちに話しかけていた。

「ちっ!結構いやがるな……なんだろうな……この反応は……今までになかったな……サーチの範囲ぎりぎりのとこだから、わかりづれぇぜ……大きさは、犬っコロぐらいか?……」

ジルメイダは、すぐにダリオに敵の強さについて聞いていた。

「倒せそうかい?」

バルガの女戦士にそう言われた彼は、辺りを深く感じようとした。

そして、何かを見つけたようだった。

嬉しそうに叫んでいた。

「どうだろうな……。―――おっ!近くに小さいお宝の反応だぜ!」

ユラトは、ダリオの話を聞いたが、嬉しさよりも不安を感じていた。

(何かお金になる物があるのか……だけど、敵がいるんじゃあ……)

そうユラトが心の中で思ったとき、またしても、中年の魔道師の男が何かを感じたようだった。

再び嬉しそうに、叫んでいた。

「おっ……こりゃあ、うまく避けて通ればなんとか、お宝だけ手に入れられそうだ!」

ここで、マナサーチの効力が切れた。

レクスは、あまり乗り気ではない様子だった。

表情を曇らせ、ダリオに尋ねていた。

「ほんとうなのか?」

「ああ、結構離れていやがったからな。大丈夫だろ」

ユラトたちのパーティーは、話し合った。

そしてここ2~3日、ユラトのパーティーは、まともな報酬を得ることができていなかったためと、ダリオの強い要望もあって、彼らは行くことに決めた。

そしてジルメイダが、最終的な決断を下した。

「その魔物たちのいるところに、金目の物があるみたいだからね。行くことにするよ!」

ユラトの不安は消えることは無かった。

(本当に大丈夫なんだろうか……?)

レクスが、ダリオにユラトが思ったことを聞いていた。

「本当に大丈夫なのか?」

「ま、そう強い魔力は感じなかったからな。退路さえ確保しておけば、大丈夫だろ」

「そろそろ、報酬が欲しいところだからね。この程度で毎回逃げていたら、あたしらは商売上がったりだよ」

冒険者はある程度の危険を冒してでも、報酬を取りに行かなければならない時がある。

それが、「冒険者」と言われる所以である。

人間たちとの旅を通して、その意味を最近悟ったレクスは少し考えた後、ジルメイダの意見に従うことにした。

「……そういうものか……わかった。だが、慎重に行こう」

「ユラトたちもそれでいいかい?」

「うん、うまく避けて通ればいいんでしょ?」

「わたしも、なんとか頑張ってみます!」

「そんなに心配すんな。迂回して行けばいいだけだ」

そう言ったリュシアだったが、心配そうな表情でメイスを両手で握り締め、自分なりにどうするか考えていた。

(……だけど、一杯いたら……すぐに逃げよ……)

白い髪の女戦士が、開始を告げた。

「じゃあ、行くよ!」

ユラトたちは、その場所へ向かった。

彼らがその場所辺りにたどり着いたのは、日があと少しで傾くぐらいの時刻だった。

この辺りの森は、最初ユラトたちが聖石を使用し、黒い霧を払った場所の木々よりもやや大きめの木のある場所だった。

硬い木で、分厚い樹皮に包まれ、手のひらよりも大きい葉の茂る木がいくつも存在していた。

その樹皮を剥ぎ、搾ると僅かに油が出てくるのだと、レクスが目的地へ向かう中でユラトたちに説明していた。

膝ぐらいまでの高さのある草の中をかき分けながら、彼らは歩いていた。

そして、ユラトとリュシアは興味深く、ウッドエルフの話を聞いていた。

最近のレクスは、ユラト達を信用し始めたのか、森のことに関してよく説明や助言をしてくれていた。

ユラト達は、それを好ましく、そして嬉しくも思っていた。

「へぇ……そうなんですか」

「松明や焚き火の火種を燃やすときに使うといい」

「覚えておきます!」

楽しげに話していた3人だったが、前方を歩いていた、ダリオが突然ユラト達の方へ振り向くと、真面目な表情で話しかけてきた。

「……おい、喋るのはそこまでだ。この辺りから静かに行くことにするぜ」

どうやら、目的の場所に着いたようだった。

ユラトたちはそれを理解し、短く答えると辺りに気を配り歩くことにした。

「はい……」

「わかった……」

そして、彼らは無言で息を潜め歩き出した。

進んでいくと、すぐに何か地面を這いずり回るような音が聞こえた。

(……ん、なんだろ……?)

最初に気づいたのは、リュシアだった。

そして、音のする方向を見た。

どうやら、茂みの中のようだった。

その茂みは、リュシアの肩ぐらいまである草が生えた茂みだった。

そして、彼女は皆を呼びとめ、音について話した。

「あのっ!なんかあっちから、音が聞こえるんですけど……」

「……ん、どうしたんだい、リュシア?」

ジルメイダがリュシアを見ると、彼女は茂みを指差していた。

「あっちから、なんか引きずるような音が聞こえたんです!」

それを聞いたダリオは、眉にしわを寄せ、リュシアの方へ振り向いていた。

そして、その茂みを見つめた。

「音だと……?……何にも聞こえねぇな……」

レクスはウッドエルフの長い耳に手を当て辺りの音を聞いていた。

そして、リュシアに尋ねていた。

「リュシア、聞き間違いではないのだな?」

「はい、ほんとに聞こえました」

ユラトも耳を澄ませながら、辺りを見回していた。

(特に変わった様子は……ないような……ん、)

そのときユラトは、茂みの近くに地肌が見えているところがあり、そこが濡れていることに気がついた。

「……なんか、あそこの地面って……―――!?」

そして、そのことをパーティーに知らせようとしたとき、茂みの中から何かが現れた。

ウヴォオオオオ……

低いうねり声を上げながら、それは現れた。

それに、気づいたユラトたちは、すぐに武器を構えた。

「―――なんだ、あいつは!」

リュシアは、すぐにユラトたちの後ろへ回り、叫んでいた。

「やっぱりいた!」

それは、泥で出来たナメクジのような形をした魔物だった。

大きさは大型犬と同じぐらいだった。

全身黒に近い茶色で、その魔物が動くたびに辺りの砂や落ち葉などを自らの体に巻き込んでいた。

そして、いつでも突きを放てるように槍を構えていたレクスが構えを解き、右手を水平に伸ばし、手のひらを仲間に向け、動こうとしていたパーティーを静止させていた。

「―――待て!大丈夫だ」

ジルメイダは目線だけを送り、剣を構えたまま、ウッドエルフの男に聞いていた。

「……本当だろうね?」

レクスは、表情を変えずに答えていた。

「ああ、あいつは、『フォレスト・ウーズ』と呼ばれる魔物だ」

レクスは魔物のことについてパーティーに話した。

【フォレスト・ウーズ】

森に生息するウーズ

粘り気のある水分を多く含んだ体を持った、ナメクジに似た姿の魔物である。

ウーズは、湿気の多い場所に生息する。

雨の後、血だらけの戦場跡、湖沼や川などに生息し出現する。

人を襲うことはほとんど無く、地面に存在する液体を舐めて生きているだけの存在で、『大地の掃除屋』の名前を持つ。

摂取する液体によって色や名前、能力が変わる魔物である。

ナメクジに似た魔物を見ながら、ダリオは構えを解き、呟いていた。

「こいつがウーズってやつなのか……初めて見たぜ……」

「見ろ、私たちに興味は無いようだ」

レクスの言ったとおり、ウーズはすぐに、向きを変えると再び茂みの中へゆっくり入っていった。

ユラトは名前で、新発見で無い事を思い出していた。

「ギルドの新情報で名前だけ見た覚えがある……あれはもう見つかっている奴だ……」

ダリオは残念そうにユラトに話しかけていた。

「ああ、そうだ……なかなか、新しい発見ってのは無いもんだな……」

ウーズが去るまで、武器を構えていたジルメイダだったが、泥の魔物が去ったのを確認すると、警戒を解き、冷静に対処したレクスに近づき、礼を言っていた。

「戦わずにすんで良かった。レクス、助かったよ」

レクスは、無表情のまま、歩き出していた。

「気にするな。それより、先を急ごう」

「ああ、そうだね。みんな行くよ」

ジルメイダは小さな声で目的地へ行くことを再開させた。

そして、ユラトたち冒険者一行は、目的の場所へ着いていた。

森の木々が生えている所に、苔の生えた石の壁がある場所だった。

何かを囲っているように見えた。

壁の高さは、レクスやジルメイダより、やや高いぐらいだった。

そして壁の一部に、大きな木の根が張っている場所があり、そこは壁が一部崩れていた。

その木の根の辺りに小さな虫が、いくつか飛んでいるのが見える。

「おい、こりゃあ、なんかの遺跡じゃねぇか?」

ジルメイダは両腕を組み、壁を見上げていた。

「……そうだね。ダリオ、お宝はこの壁の内側かい?」

「ああ、その中だ」

「じゃあ、あたしが見てみるよ」

「わかった。頼んだぜ、ジルメイダ!」

ジルメイダは壁の崩れた場所に、人が一人なんとか通れる空間があったため、そこから入ることにした。

彼女は、注意深く穴を見た。

濃い緑色の苔がいたるところに生えた壁の石が崩れ、辺りに転がっていた。

また壁の中はここと同じく、日の光りが入り、明るいようだった。

(大丈夫そうだね……ここから、入るか……)

ジルメイダがその穴から入ろうとしたとき、レクスが壁に根を張っている木に素早い動作で一気に飛び上がっていた。

そして、ユラト達にその場所から木の枝にぶら下がり、見下ろすかたちで話しかけていた。

「私もここから、調べてみよう」

ユラトは、レクスにも頼むことにした。

「お願いします!レクスさん!」

リュシアは、ジルメイダに注意を喚起していた。

「ジルメイダも気をつけて!」

そして、2人は壁の中へ入っていった。


壁の中に入ったジルメイダとレクスは、蜘蛛の巣の多さに困っていた。

辺り一面、蜘蛛の巣が張り巡らされている場所だった。

真っ白な糸が、あたり一面に存在し、所々木が生え、大きな岩のようなものもあったが、糸によって視界が遮られ、詳しくは分からなかった。

「こりゃ、ちょっとやっかいだね……」

「……そうだな、まずは、この糸をこれで巻きながら、進むか……」

そう言ってレクスは、地面に落ちている少し長めの木の枝を取り、蜘蛛の巣をその木で巻き取っていた。

すると、何人か入れる空間が出来た。

「こりゃ、2人でするより、みんなでやった方がいいね」

「……そうだな……よし、私が呼んでこよう」

そう言って、レクスは、ユラト達の所へ来たときと同じように木に飛び乗り向かった。

そして、すぐに座っていたユラト達3人に、状況を説明した。

「わかった。2人とも行くぞ」

ダリオはすぐに、そう答え、ユラトとリュシアもそれに従った。

「はい」

そして、ユラトは壁の中に入り、蜘蛛の糸を除去する作業を開始した。

壁の囲まれた範囲は、ユラトが住んでいた家を少し広くした程度の広さだった。

辺りには、所々何体か人のような形の石像が崩れたまま横たわっていた。

そして4割ほど中を進んだとき、囲まれた場所の真ん中辺りに、特に糸が絡みついて、丸く球体になっている場所があった。

「なんじゃ……こりゃ……」

「蜘蛛の卵でもあるのかな?」

「これが蜘蛛の卵だったら、相当でかい蜘蛛だぞ……」

それを聞いたリュシアは怯え、ジルメイダの後ろに隠れていた。

「こ、怖い……」

ジルメイダは、そんなリュシアの頭に手を置き、ダリオに話しかけていた。

「ダリオ、一応サーチしてくれるかい?」

「ああ、いいぜ。調べたほうがいいからな……範囲を絞って使うか……」

そしてダリオは、普段よりも魔力を抑えたマナサーチを唱えた。

「……マナサーチ!」

すると、すぐに反応が返ってきた。

「―――おおっ!こりゃ、卵じゃねぇ!金属の反応だ!」

「ほう……」

「とにかく、調べてみましょう」

ジルメイダとユラトが乾いた糸を剣で切っていった。

すると、中から現れたのは木をベースに作られ、金属の板が張られた箱だった。

「宝箱!」

リュシアが、ジルメイダの後ろから出てきて期待に満ちた表情で思わず叫んでいた。

「何が入ってやがるんだろうな……」

「まずは、罠がないか調べようかね……」

そして、ジルメイダは箱を調べ始めた。

大きさは両手のひらに、やや収まりきらないぐらいの大きさの箱だった。

彼女は前回と同じように、舐めるように全体をゆっくり慎重に箱を見ていた。

そして、何かに気づいた。

「―――ん、すぐに開けなくて良かったよ。罠があるね……」

罠と聞いた他の4人の表情が曇った。

「罠があるのか……」

「どんな罠なんだろ……」

「ジルメイダ、なんの罠か分かるか?」

ジルメイダは、箱の蓋辺りを見つめながら答えていた。

「これは……恐らくだけど、あんまりやばいやつじゃないと思うよ。あそこを見てみな」

そう言って彼女は、蓋の継ぎ目の場所を指差していた。

すると、そこからなにやら草のようなものが僅かに出ていた。

ユラトは、そこを見た。

「ほんとだ、何か挟まっているみたいだ……」

その僅かに出た草を見たレクスは、何かに気づいた。

「この草は、知っている……『ジャグディハ』と言う魔力を含んでいるマメ科の毒草だ。我々が狩りをするときに弓矢に塗ったりすることがある……熱に弱く、熱せられれば毒は無くなる」

「毒草か……」

「ってことは……毒が噴出すトラップか……」

「見た感じだと、あんまり高度な罠じゃないみたいだね」

「場合によっちゃあ、毒針が出てくることもあるからな」

「草のツルでも使って縛って遠くから開ければ、恐らく大丈夫だよ」

「わかった。私がそのツルを作ろう……」

レクスがそう言い、すぐに行動に移すと、草のツルをどこからか取ってきて紐を作ると、箱の上部分を縛った。

「よし、開けようぜ!」

「みんな壁の外へ出るよ!」

パーティーは壁の外へ出た。

そして、ダリオがそのツルをゆっくり引っ張った。

宝箱が金属の擦れるような音を出し、開いた。

ユラトたちは、何が起こるか固唾を呑んで壁に開いた穴から覗き見ていた。

(どうなるんだろう……)

しかし、一向に何も起こらなかった。

「おかしいな……何も起こらねぇな……」

その時、レクスが何か異常に気づいた。

「これは―――!?」

怪訝な表情でジルメイダがレクスにたずねていた。

「どうしたんだい?レクス!」

ウッドエルフの男はすぐに、箱のもとへ向かった。

「おい!まだもう少し様子を見た方が……」

ダリオが呼び止めようとしたが、レクスは既に開けられた宝箱のところまで来ていた。

そして、箱の中を見ていた。

他の4人のメンバーもすぐに、レクスの後を追い、箱の場所まで来ていた。

「一体どうしちまったんだい?」

レクスは、箱の中から先ほど挟まっていた草を取り出して見ていた。

そして、何か記憶を辿っている様子だった。

レクスが見ていた草は、見たことの無い形をしている草で先端の部分が折れることなく曲げられていた。

「それより、箱の中はどうなってるんだ?」

そんなレクスとは違い、ダリオは楽しそうに箱に近づいていた。

そして、すぐに箱の中を見た。

すると、箱の中には金貨が数枚、それからいくつかのカメオ(貝殻や大理石やメノウを使用し、浮き出て見えるような彫り込みを入れた工芸品や装飾品)や宝石の付いた指輪があった。

「おおっ!やったぜ、こりゃあ、結構な報酬になりそうだぜ!」

そして奥を調べると、一番底に一冊の本があった。

「……この本は……」

ダリオが本を手に取ろうとしたとき、レクスが突然叫んだ。

「思い出したぞ!これは、虫笛だ!」

皆、一斉にウッドエルフの男を見た。

そしてレクスの叫びから、不安を感じたジルメイダが、彼に尋ねていた。

「どうしたんだい、レクス?」

レクスはユラト達に向かって説明を始めた。

「この草をこの形で結び、魔力を込め、風に触れさせると虫を呼ぶ草笛に変わるんだ!」

そう言って彼は、手に持った草を握り潰した。

「……っと言うことは虫を呼び込む罠だったってことですか?」

リュシアは不安な面持ちで辺りを見回しながらレクスに尋ねていた。

(特に音は聞こえなかった気がするけど……)

ユラトも彼女と同じように辺りを見回していた。

そして、レクスがユラト達に再び説明をした。

「箱が開いた瞬間、僅かに聞こえたんだ。この音は虫たちだけが聞こえるんだ。もしくは、我々のように鍛えた者だけが僅かに聞こえるようになるぐらいなんだ。……だが、虫たちにとっては大きな音になっているはず……」

ユラトは、レクスの説明を聞き、息を呑み考えた。

(辺り一帯に響いているってことか?……)

事態を把握したジルメイダはすぐに、ダリオに向かってマナサーチをするように頼んだ。

「ダリオ!辺りを調べておくれ!」

「ああ、わかってる……」

ダリオは、静かにマナサーチを唱えた。

「……マナよ……四散し、魔力を感知せよ!……マナサーチ!」

マナサーチの青白い光が4つの方角へ放たれた。

そして、目を閉じ辺りの様子を伺った。

しばらく無言でパーティーはダリオの報告を待っていた。

そして、それはすぐに来た。

「―――っ!?これは!」

ダリオが、何かを感じ取ったようだった。

すぐに叫ぶように、このパーティーが今おかれている状況について話していた。

「凄え速度で、こっちに何かが向かってきやがる!」

「退避できる方向はあるかい?」

ジルメイダにそう聞かれたダリオは、焦りながら答えていた。

「……だめだな……くそっ、集団で囲むように来てやがる!戦いは避けられねぇ!」

それを聞いたリュシアは、恐怖に支配されていた。

青ざめた表情でメイスを両手で握り締めていた。

「怖い……」

それを見たジルメイダは、リュシアの頭に手を置き、やさしく撫で彼女に囁くように話しかけていた。

「リュシア……大丈夫さ。あんたもダリオに鍛えてもらったんだろ?ユラトも成長したんだから、あんたも成長してるさ。このパーティーであんたは貴重な戦力になったんだよ。自信を持ちな!……それに、このバルガの戦士であるジルメイダ・バルドがいるんだ。どんな相手にだって遅れはとらないよ!きっちり、あたしが守ってやるから、あんたはあんたに出来ることをしっかりやるんだ。……いいね?」

そこで、彼女は落ち着きを取り戻した。

リュシアは、自分に課された旅の目的を思い出し、自らを奮い立たせた。

「うん……わかった。頑張ってみる!」

彼女のやる気を見たジルメイダは、嬉しそうに彼女の肩に手を置くと、すぐに離れた。

「いい子だ!頼んだよ(ふふっ……それが、成長ってもんだ、リュシア!)」

そして、剣を抜き放った。

彼女の顔は先ほどの母親のようなやさしい表情から、戦場に身を投じる戦士の顔になっていた。

そして、隣にいる若き黒髪の剣士に向かって叫んだ。

「ユラト!あんたには、前へ出てもらうよ!」

ユラトはそれを聞き、自分のなすべきをこと理解した。

「ああ、わかってる」

彼もまた、成長していた。

ジルメイダは、この状況の中、なぜか楽しんでいる自分がいることに気がついた。

(ふふっ……おかしなもんだね……やばいってのにさ……だけど、楽しいね!)

ダリオは、自分たちの周りにある、苔の生えた石の壁を見ながら呟いていた。

「敵が多いのなら、へたに動くより、この壁を利用するか……」

その呟きを聞いたジルメイダも、その考えに賛同していた。

壁に近寄り、手で押さえ、強度を確認していた。

「そうだね……敵にもよるんだろうけど……結構頑丈そうな壁だからね」

他に出来ることは無いか考えていたユラトは、何かを閃いていた。

「……そうだ、敵は確実に虫が来るのが分かっているのなら、この辺りの木の樹皮を使って火をおこしておいたらいいんじゃないかな?」

ユラトの考えにレクスは無言で頷き、独り言を言い放った。

「虫は炎を嫌うか……」

「いい考えだユラト、だが時間が無ねえ。もうすぐ来るはずだ……」

ダリオが、そうユラトに言い終わったとき、森の木々からたくさんの鳥たちが声を出し、羽ばたいて行った。

そして壁の外側から、音が聞こえ始めた。
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