Dark world~Adventurers~

yamaken52

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第十二話 続き

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それは茂みをかき分ける音で、すべての方角から聞こえた。

(……何が来たっていうんだ?)

「私が、見てこよう」

そう言って、レクスが壁の上へ飛び乗った。

そして彼は、すぐに叫んだ。

「―――蜘蛛だ!大量の大きな蜘蛛がいるぞ!」

レクスの叫びを聞いたジルメイダは、どうするかすぐに答えを出していた。

「ギルドの報告にあった、『ジャイアントスパイダー』か……こりゃあ、逃げることを考えたほうがいいね……」

(この森で見た、大きめの蜘蛛より、さらに大きい奴か……)

【ジャイアントスパイダー】

毒々しい緑色と黄色と黒の縞模様の大きな蜘蛛。

大きさはユラトたちが先ほど見たウーズと同じぐらいか、それよりもさらに大きい体を持つものもいる。

口には鋭い牙があり、咬んだ相手の部分を麻痺させる効果を持っている。

また、2種類の乾いた糸と粘性のある糸を使い分けて吐いてくる。

それを聞いた、ダリオはすぐに、リュシアに話しかけていた。

「リュシア、お前はファイアーボールを使って、壁の上に上がってきた敵を撃て」

「はい!」

リュシアは、ダリオにファイアーボールの魔法を教わっていた。

そして、彼女はその魔法のセンスの高さから、すぐにファイアーボールの魔法を習得していたのだった。

すぐに、敵は襲ってきた。

周りの壁から、小さい毛が生えた蜘蛛の足が見えた。

そして、正面から3体が現れた。

「レクス、こいつらはやっちまうぞ、いいな!」

「ああ、分かっている……生き残らねばならんからな……それに、あの目を見ろ」

ユラトたちは、蜘蛛の目を見た。

その目はいくつもあり、そして赤々としていた。

「完全に我々を捕食対象か敵として見ている証だ……ああなっては、もはや無理だ……」

そして、ユラト、ジルメイダ、レクスの3人がその蜘蛛へ向かった。

すると、今度は右の方からも敵が2匹、壁から這い上がってきた。

「リュシア!右の奴らは俺たちでやるぞ!」

「はい!」

そして、戦いが始まった。

先制攻撃をしたのはレクスだった。

すぐに敵の近くまで素早く近づくと槍で蜘蛛の敵を貫いた。

そして、後を追うようにジルメイダが剣を横になぎ払い、2匹の蜘蛛を一気に切った。

「はあ!」

蜘蛛は避ける暇も無く、バルガの女戦士に倒された。

そして休む暇も無く、正面から再び2匹の蜘蛛が現れたかと思うと左の壁からも3匹の大きな蜘蛛の魔物が現れていた。

ユラトは、すぐに正面へ走って向かうと、蜘蛛に跳躍して近づき、壁を上りきった蜘蛛をジルメイダと同じように剣を横になき払い、蜘蛛の胴体を足ごと切った。

「―――登らせるか!……はあ!」

彼に切られた2匹の蜘蛛は、黄色い体液を飛び散らしたまま、壁の向こう側へ落ちていった。

ユラトが動いたのを確認したジルメイダとレクスは、すぐに左の蜘蛛のとこへ向かっていた。

「こりゃあ、きりがないね!……はあ!」

「かなりの数がいるぞ!私たちだけで対処しきれるのか?」

レクスとジルメイダの後ろから、魔法を放つリュシアとダリオの声が聞こえた。

「……敵に炎の一撃を!ファイアーボール!」

魔法によって生み出された炎に焼かれ、蜘蛛は糸を吐きながらそのまま動かなくなっていた。

そして、ダリオが白い髪のバルガの女戦士に向かって叫んだ。

「ジルメイダ!どうする?」

「ある程度倒したら、隙を見て逃げるよ。どこか囲みが薄い場所が出来ているはずさ。ダリオ!隙を見てマナサーチをしておくれ!……ふんっ!」

ジルメイダに向かって蜘蛛の魔物が糸を吐いていた。

彼女はそのまま、その糸に向かって縦に剣を振った。

糸は乾いた糸であったため、左右に綺麗に分かれると、ゆっくり地面に落ちた。

そして、ジルメイダは軽く飛び上がり近づくとジャイアントスパイダーに鋭い突きを放ち、一撃でしとめていた。

それを見たダリオは、すぐに答えていた。

「わかった!」

そして、ユラトたちは壁の中で蜘蛛としばらく戦っていた。

しかし、一向に敵が減る気配はなかった。

ジャイアントスパイダーは相変わらず、彼ら冒険者たちに休む隙を与えることなく襲ってきていた。

忌々しげに蜘蛛の魔物を見つめながらダリオは叫んでいた。

「どうなってやがるんだ!全然勢いがなくならねぇ……くそったれめ!」

ユラトは、粘性のある糸を拳に受けていた。

その糸は彼と蜘蛛とを繋いでいた。

一瞬、ユラトは敵に引き込まれそうになった。

それを察知した彼は、すぐに剣で切り上げ、糸を断った。

そして剣を素早く振り、地面に糸を叩きつけるように剣についた糸を落とした。

(全然、敵が減る気配がない……ダリオさんたちの魔力もじきに枯渇してしまうだろうし……いつまで持ちこたえられるか……)

両手に糸を絡みつかされていたジルメイダが、力で強引にそれを引き剥がし、糸を手に持ち、敵をそのまま壁へ叩きつけるように投げ飛ばした。

「日がもうすぐ沈み始めそうだね……こりゃあ、強制的に退路を作るしかないね……」

レクスが4匹の蜘蛛に囲まれ、一斉に糸を吐かれたが、素早く槍を回し、それを回避し、正面の敵に鋭い突きを放つと今度は返す形で、後ろの蜘蛛にも、槍を当て、敵を押し下げると、そのまま今度は横に振り、右の蜘蛛を叩くと、間髪を入れずに左の蜘蛛を刺し倒した。

そして、ジルメイダに叫んでいた。

「夜になると不味いぞ!」

リュシアがレクスの後ろにいた蜘蛛にファイアーボールを放ち、悲痛な叫びをあげていた。

「でもどうやって!」

(そうだ、あれをやったらどうだろう……)

ユラトは、自分が思いついた事をダリオに聞いた。

「サンドフェッターで、敵を足止めするってのはどうです?」

ダリオは飛び上がって向かってきた、ジャイアントスパイダーにロックシュートの魔法を当て、敵を後方へ飛ばすと相手を忌々しげに見つめながら、ユラトに話していた。

「……だめだ、この数を見ろ……それにこいつら蜘蛛どもは、大地の抵抗力が高いんだ。使ったとしても恐らく……すぐに引き剥がされるだろうな……」

この世界で存在している生命を持つ者は、何らかしらの属性を持っている。

属性を持つことで、抵抗力や自らの属性の力を使用する場合は、その威力を少しだが増すことが出来るのだった。

人間は、主に大地の属性を持ち、ハイエルフは風、人魚は水といった具合に、より強く影響や加護を受ける。

そして、さらに生まれた時の季節によって僅かだが、属性が付与されるとも言われていた。

例えば人間であれば、メインに大地の属性があり、夏に生まれればそれに加え、炎の属性も僅かだが加わると言われている。

ジャイアントスパイダーなどの蜘蛛は、大地の抵抗力を持つと言われていた。

無言で戦っていたジルメイダが、あることに気づき、すぐにダリオに話しかけていた。

「……ダリオ……あそこの壁の根元を見ておくれ……」

ダリオは、彼女が指差した場所を見た。

「……あれは……」

その壁の場所だけ亀裂が入り、脆くなっていて何人かで押せば、倒せそうなほどだった。

その時、ジャイアントスパイダーがバルガの女戦士に向かって糸を吐いた。

しかし、ジルメイダは粘性のある蜘蛛の糸を僅かに肩だけを動かし、それをかわすと、何事も無かったかのように、ダリオに話しかけていた。

「どうだい、あれが出来るんじゃないかい?」

ダリオはジルメイダに言われ、何かを思い出したようだった。

「……ん、ああ……そうか!その手でいくか!」

「なら、早速やってもらうよ!」

「ああ、少々魔力を使っちまうからな、守りは頼むぜ」

そのとき、ユラトがジャイアントスパイダーの一匹に腕を咬まれていた。

「―――うっ!」

咬まれた腕が痺れ、剣を落としてしまった。

石の地面に落ち、音がした。

その音を聞いた4人はユラトの方を見た。

「ちっ!油断するんじゃねえ、ユラト!」

「ユラトさん!」

すぐに、ジルメイダが走り、ユラトの剣を拾うと、彼の近くにいた蜘蛛を壁の方へ蹴り上げた。

しかし、ジャイアントスパイダーは、壁に叩きつけられようとした瞬間、糸を吐き、近くの木にぶら下がった。

「ちっ、すばしっこいのもいるみたいだね……」

バルガの女戦士は敵を睨み付けながら、ユラトのもとへきていた。

そして、そんなジルメイダの背中を見つめながら、ダリオはリュシアに話しかけていた。

「リュシア、お前も行って魔法をかけてやれ」

「はい!」

力強く答えたリュシアは、すぐにユラトのところへ向かった。

「レクス、悪いが魔法の詠唱中は頼むぜ」

そしてリュシアが向かったのを確認したダリオは、魔法の詠唱に入った。

「ああ、まかせろ!」

レクスは槍を回し、周囲にいた蜘蛛を下がらせると、辺りを警戒しながら構えた。

そして、ユラトはバルガの女戦士に守られながら、リュシアの治療を受けていた。

咬まれた右手の腕を左手で支えながら、しゃがみ込んでいた。

「どんな状態ですか?」

「腕が痺れるんだ……これじゃ剣が握れない……」

傷口を見ると、薄く赤くなった場所が、少しだけ腫れていた。

「麻痺の毒ですね……」

ユラトとリュシアの近くにいる蜘蛛を片っ端から、倒していたジルメイダが隙を見て振り向き、ヴァベルの娘に尋ねていた。

「治せそうかい?」

「うん、これぐらいなら、出来ると思う」

「そうかい、じゃあ、頼んだよ!」

ジルメイダは再び、敵に切り込んでいった。

そして咬まれたユラトは、痛みと熱を感じながら苦痛に顔を歪め、クレリックの女の子に治療を頼んだ。

「頼むよ、リュシア……」

「はい!」

力強く答えたリュシアは、すぐにしゃがみこみ、彼の腕に手のひらを軽くのせると目を閉じ、治療の魔法を唱え始めた。

「……主たる光の神ファルバーンよ、我がマナを供物とし、主に捧げます……我に力と加護を……神の御愛と慈悲をもって、この者に巣食う病魔を祓い清め給え!……『キュアー』!」

リュシアの手が光り、ユラトの腕は柔らかな光に包まれた。

そして、すぐに効果は現れていた。

「……痺れが……無くなっていく……」

リュシアが心配そうに彼に尋ねていた。

「ユラトさん、大丈夫ですか?」

キュアーの魔法

光の魔法。

毒や麻痺状態にある者を治療することが出来る魔法。

ただし、より強い毒の場合、術者の技量が問われる。

彼の腕の咬まれた部分の腫れが、痛みや痺れと共に、すぐになくなっていった。

そして、ユラトは手のひらを握り締めたり、緩めたりを何度か繰り返し、感覚を確かめた。

「……凄い……なんともなくなっている……」

それを聞いたリュシアは、やさしい笑みを浮かべ喜んでいた。

「良かった……」

ユラトは、すぐに剣を握り立ち上った。

「リュシア、ありがとう!」

彼女は、胸元に手をあて、軽く息をついていた。

「いえ、無事にできてほっとしてます……実際に使用したのは初めてだったので……」

(あの蜘蛛の魔物とそれなりに戦えていたから、俺は少し油断してたんだろうな……気をつけないと……)

ユラトは、剣を力強く握りなおすと、大蜘蛛たちと戦っているジルメイダを見つめながら、リュシアに話しかけていた。

「そうか……だけど、リュシア、君は凄いよ……ほんとに……だから、頑張ってここをなんとか切り抜けよう!」

「はい!」

リュシアもメイスを握ると立ち上がり、力強く答えた。

そして、呪いを背負った剣士とヴァベルの娘は、ジャイアントスパイダーとの戦闘に復帰した。

ユラトはジルメイダと共に、壁から次々這い上がってくる蜘蛛の魔物と戦い、リュシアはダリオの近くで、レクスの援護をしていた。

そしてそんな中、ダリオは魔法を完成させた。

「……大地の峻厳を、ここに示せ!……」

ロッドを腰に挿し、両手のひらを自分に向け、目を閉じた。

すると彼の両手の肘から手のひらにかけ、落ちている小さな石や砂が吸い込むように張り付きだした。

そして両手は、一瞬のうちに包まれ、固まったようになっていた。

そして、その両手から石や砂で固まった隙間から、僅かに黒に近い青色の霧状のものが流れ落ちていた。

ユラトは、蜘蛛を一匹倒したところで、ダリオを一瞬見た。

(あの魔法はなんだろう……初めて見るな……)

レクスも気になったのか、ダリオを見ていた。

(大地の魔法か……何をする気だ?……)

ダリオは、両手のひらを広げたまま、自分以外のメンバーに聞こえるように叫んだ。

「魔法をやるぜ!こっちへ来い!」

それを聞いた一番遠いところにいたジルメイダは、蜘蛛の敵を切り散らしながら、ダリオの所へ走った。

「みんな、ダリオの所へ集まりな!」

「説明している暇はねぇ、いいか、魔法が発動したら走れ!」

「―――え、どこへ?」

「見ればわかるさ!」

「やるぞ!」

そう言うとダリオは、両手のひらを壁につけた。

「イディスよ、冷厳なる大地の涙を流せ!―――『グリムロック』!!」

すると、一瞬のうちにダリオが手をつけていた壁面が、緑色のゆらゆらとした帯のようなものに包まれ出した。

そして、ダリオはそのまま、その壁を力いっぱい前へ押した。

その瞬間、両腕に張り付いていた石や砂が弾け飛んだ。

すると壁の石が折れるような音がし、そのすぐ後、今度は擦れる音が出始めた。

そしてユラト達の目の前にあった、壁の一部が大地を伝うように動き始めたのだった。

ダリオとジルメイダ以外のパーティーメンバーは驚いていた。

「―――これは!?」

すぐにダリオは叫んでいた。

「今だ!その壁の後について走れ!」

そして、壁の動き合わせて走り出していた。

ジルメイダも動き出した壁のすぐ後ろにつき、振り返ると叫んでいた。

「みんなここを出るよ!」

グリムロックの魔法。

大地の魔法。

大きな岩や石を魔法の力で地面に沿って動かすことができる魔法。

魔力の消費は、動かす距離やその岩や石の大きさに比例する。

どうやら、ジルメイダとダリオが考えた策は、この石の壁を利用して退路を無理やり作り、逃げるという方法のようだった。

その意味を悟った他の3人は、すぐにダリオやジルメイダのように壁の方へ向かい走った。

動き出した壁の隙間からジャイアントスパイダーたちが現れ始めた。

その敵を次々ジルメイダが倒していた。

そして、到着したユラトとレクスも必死なって蜘蛛の魔物と戦った。

蜘蛛の魔物も糸を吐き、飛び上がったりしながら、攻撃してきていた。

それをなんとかかわすと、反撃しながら壁の後についた。

また、動いた壁はジャイアントスパイダーを弾き飛ばしたり、轢き殺しながら、軽く走るぐらいの速度で森の中を進んでいた。

時刻は夕刻に入っており、森の中に夕日が差し込み始めていた。

そして、ある程度敵を蹴散らし、僅かに敵の攻勢が緩んだのを確認した彼らは、周囲を見回した。

「……よし、なんとか行けそうだぜ!」

周囲を確認したダリオはすぐに壁につかまり、ぶら下がりながら、声を出していた。

「お前らも、壁につかまれ!そろそろ速度が出るぞ!」

ユラトとレクスは、驚きながら壁の速度にあわせて走っていた。

「こんな、魔法があったなんて……」

「うまくいけばいいが……」

「あんたたちも、早くつかまりな」

ジルメイダは、すでに壁に手をかけ、つかまっていた。

そしてユラトとレクスが壁につかまったとき、後ろから声が聞こえた。

なんとリュシアが息をつき走りながら、先ほどの宝が入っていた箱を頭の上に乗せ、両手でそれを支えながら、彼らに向かって叫んでいたのだった。

「はぁはぁ……あ、あの!これ!」

それを見たユラトたちは、慌てて叫んでいた。

「リュシア!」

どうやら彼女は、壁が動き出した瞬間を見計らって宝の入った箱を取りに行っていたようだった。

それを見たジルメイダが、すぐにリュシアへ向かって走り出した。

「不味いね……このままだと、あの子だけ置いていっちまうよ……」

ジルメイダは、すぐに彼女のもとへ駆け寄り、箱を持ったリュシアごと片手で抱きかかえ、走り出した。

「きゃ……」

「ちょっと我慢するんだよ……」

「うん……これ、みんなで見つけたから……」

「リュシア、話はあとだ……」

そう言うとジルメイダは、無言で彼女を抱え走った。

後ろにはジャイアントスパイダーの群れが、すぐ後ろから追いかけてきていた。

それを見たダリオは、疲れた目で、2人を見ていた。

「くそっ!魔力を使い過ぎて……壁にぶら下がるのがやっとだぜ……このままだと……あの2人は……」

壁につかまりながら見ていたレクスも目を細め、隣にいたユラトに話しかけていた。

「ユラト、ジルメイダを援護するぞ」

「はい!」

2人は壁から降り、ジルメイダが来るのを待った。

そして、すぐにジルメイダは蜘蛛の一団を引き連れてやってきた。

後ろでダリオが、精一杯の力を振り絞って叫んでいた。

「おい、お前ら早くしろよ!じきに速度が上がり始めるぞ!」

ユラトとレクスは、ジルメイダの後ろにいる、蜘蛛の大群を見ていた。

「この数を押さえるのは、かなり厳しいな……」

「……そうですね……これは……」

そう言って2人は武器を構えた。

そして女の子を抱えながら走っているバルガの女戦士が、わらわらとジャイアントスパイダーたちを引き連れて到着した。

レクスは、すぐに叫んだ。

「ジルメイダ!先に行け!」

「ああ、頼むよ!」

彼女は、一瞬ユラトとレクスを横目で見るとそのまま、真っ直ぐ走って行こうとしたが、何かを思い出し、立ち止まるとすぐにリュシアが持っていた宝箱から何かを取り出すと、ユラトの方に親指でそれを弾いて飛ばした。

「ユラト、もしものときは、これを使いな。あんたなら出来るだろ!」

そして、ジルメイダは壁を追いかけて行った。

ユラトはそれを片手で受け取っていた。

そして、その渡された物を手を開いて見た。

それは何かの貝殻で出来ていてブローチ程の大きさで、金の枠があり、横顔で美しい貴婦人がたくさんの花や宝石のついた優雅な大きい帽子をかぶり、手のひらを口元に寄せ、息を吹き、花びらを舞い上がらせている絵が掘られたカメオだった。

(これを……どうするんだ?)

ユラトは更に詳しく、そのカメオを見た。

すると、貴婦人の目の部分が僅かに淡く黄色に光っているのが見えた。

(―――これは!?)

ユラトはそこで、このカメオになんらかの魔力が宿っていることを悟った。

そして、ジルメイダの意図を理解した。

(……つまり、禁呪を使えってことか……)

ユラトは、迫り来るジャイアントスパイダーの群れを見た。

(……この数じゃ確かに、俺とレクスさんだけじゃ無理だな……だけど、詠唱に少し時間がいるな……)

そしてレクスが正面の敵を睨み付け、槍を構えながらユラトに話しかけてきた。

「ユラト、敵が来るぞ、武器を構えろ!」

「レクスさん、俺に考えがあります」

レクスは、すぐに聞いてきた。

「……言ってみろ」

「このカメオを使って禁呪を放ちます」

レクスが口を開こうとした瞬間、ジャイアントスパイダーの群れは、辺りに糸を撒き散らしながらやって来た。

「……敵が来た。考えている時間は無いようだ……ユラト、任せたぞ!……」

レクスは、槍を水平にし、両手で持つと、そのまま敵に突っ込んだ。

すると、群れの先頭にいた2匹の大蜘蛛に当たり、頭部を破壊され、後方へ吹っ飛んだ。

そして、後ろにいた蜘蛛の群れに当たっていた。

敵の群れが、一瞬止まった。

それを見たレクスは、叫んだ。

「ユラト、走るぞ!」

「はい!」

2人は、その叫び声と共に走り出した。

そしてジャイアントスパイダーたちが、左右に分かれ追いかけてきた。

いくつもの糸が、彼ら2人を捕らえようと足元へ飛んできた。

「うわぁ!」

「くっ!」

2人は、その糸を避けるように左右に飛び跳ねながら走った。

しばらくすると何体かの蜘蛛が、糸を吐きながら森の木々を利用し、移動し始めた。

そして、ユラトとレクスに追いつくと左右から、糸にぶら下がりながら襲ってきた。

「―――蜘蛛め、考えたな……」

それを、2人は武器を振り、なんとか仕留めながら走った。

夕日が入り、辺りは暗くなり始めていた。

そして、壁が通った後の地面はいくつもの草や木々がなぎ倒されていた。

それを見たレクスは、沈痛な面持ちで走っていた。

「ああ……森が……これだけの木々が再生するのにどれだけの年月がいると思っているんだ……ダリオのやつめ……こんなことなら……」

「やはり人間たちとは分かり合えないのか」そう思ったレクスだった。

しかし、彼はそこで思いとどまった。

(いや、奴の魔法がなければ助からなかったか……)

そう一瞬思った。

しかし、更にレクスは考えを変えた。

(……そうじゃない、そもそも、あいつが金目当てで行こうと言ったからではないか!)

しかし、最終的には人と余り変わらない選択を自分もした事を思い出し、その怒りは自分自身に向けることになっていた。

(……だが、それに同意した私も同罪か……すまぬ……森の木々よ……)

一方ユラトは、禁呪を使うタイミングを完全に失っていた。

(これじゃ、魔法の詠唱どころじゃない……)

そして、なんとか敵の攻撃をかわしながら、剣士の青年とウッドエルフの男は、走っていた。

しばらくするとジルメイダたちが見えてきた。

それを見たレクスが、ユラトへ向け叫んだ。

「壁に着いたら、俺がおとりになる。隙を突いて禁呪とやらをやるんだ!」

「(それしかなさそうだ……)はい、お願いします!」

そして2人は、なんとか地面に沿って動く壁にかなり近づくことが出来た。

どうやら、壁は先ほどよりも移動の速度を上げているようだった。

ユラトとレクスに気づいたダリオは叫んでいた。

「お前ら……早くつかまれ!もう時間がねぇぞ!」

茂みを掻き分け、肩に木の小枝が当たりながらも2人は必死に走り、追いつこうとしていた。

「はぁはぁ……(さっきより、速度が上がっている……)」

「つかまりな!」

壁が目の前まで来たとき、ジルメイダが手を伸ばし、ユラトがまずは壁につかまった。

そして、レクスもつかまろうとしたとき、蜘蛛の糸が彼の右足を捕えた。

レクスが、一瞬足をとられ、少し後ろに下がった。

「しまった!奴らも追いついてきたか!」

そして、今度は左右からも壁につかまっているユラトたちにも蜘蛛が襲い掛かってきた。

一匹は壁に乗り、もう一匹は糸にぶら下がったまま、奇襲してきた。

壁の真ん中でぶら下がっていたダリオが、苦々しくそれを疲れた目で見ながら叫んでいた。

「くそっ!逃げ切れるかと思ったのによ!こいつらも早いじゃねぇか……」

奇襲してきた蜘蛛に対して、ジルメイダが素早く両手で壁をつかみながら、両足で蹴り飛ばした。

「はあ!……全く、しつこいね!」

そしてレクスが後方へ振り返り、正面にいた蜘蛛に槍の一撃を放とうとしたとき、敵が炎で包まれた。

「―――これは!?」

リュシアが、ファイアーボールの魔法でレクスの足へ糸を飛ばしていたジャイアントスパイダーへ魔法を放っていた。

蜘蛛は焼き焦げ、倒されていた。

「リュシア、礼を言うぞ!」

リュシアは、自信に満ちた表情で答えていた。

「はい!(いつも守ってもらってばっかりだったから……良かった……当たって……)」

そして、レクスは再び素早く走ると、飛び上がり、壁に乗っていた蜘蛛を刺した。

「―――ハッ!」

そして壁につかまった。

ジャイアントスパイダーは一撃で仕留められ、赤い目の色を失っていた。
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