Dark world~Adventurers~

yamaken52

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第十二話 続き 2

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そして、素早く敵の群れにその刺さった蜘蛛を投げた。

またしても敵が一瞬止まり下がったが、すぐにまた追いかけてきた。

ユラトは右手で壁につかまりながら、そしてもう一方の手でカメオを握り締め、目を閉じ禁呪を唱えていた。

「……太古の神が創りし……千古不朽の神気の力……ここに解放せよ!」

そして、詠唱が終わった。

閉じていた目を開け、握り締めた拳も軽く少しだけ開いた。

ユラトはぼんやりと手のひらを見つめながら更に魔力を込めるか考えた。

(魔力をたくさん込めるか?…………いや、あの吸い込まれるような感覚を抑えきる自信はない……ここでもし、魔力を全て奪われてしまったら、壁につかまる力も無くなってしまう……今回は極力押さえて使ってみるか……)

「―――サクリファイス!」

そう叫び、魔力を軽く込める。

魔力の制御がうまくいき、腕が少し痺れ、体から魔力が僅かに流れ込んでいく感覚があった。

(……よし、このまま……)

すると、ユラトの左手の甲が赤黒く光った。

そして、手のひらを広げると赤黒い光りに包まれたカメオが現れた。

(―――やった!この前より、上手く制御できたぞ!)

ダリオが目を薄くさせながら、それを隣で見ていた。

彼はその色に、良い印象を持たなかったようだった。

(……これが、禁呪ってやつか……しっかし、なんの根拠もねえが、こりゃあ、きっとやべぇもんだな……そんな気にさせる色だぜ……こいつはよ……)

ジルメイダも眉を寄せ、彼の手のひらを見ていた。

(随分と禍々しい色じゃないか……ユラトには、これに頼る戦い方をさせてはいけないのかもしれないね……)

そしてユラトは、前方を見ていた。

ジャイアントスパイダーが先ほどよりも、集まってきていた。

奥の方からも赤い無数の光が見えた。

(少し、遠いかな……?)

壁は速度を増していたため、彼ら冒険者の髪やマントが風で揺れていた。

ユラトの禁呪の光に刺激されたのか、蜘蛛たちは警戒を解き、走る速度を上げると一斉に近づいてきた。

レクスは、ユラトを見ずに敵の方を見ながら、たずねていた。

「ユラト、敵が今にも集団で一気に襲ってきそうだ。その魔法できるのか?」

「はい、だけど魔力を今回は少しだけ込めただけなんで、出来る限り敵を引き付けないと……」

しかし、敵が都合良く来ることは無かった。

先頭にいた何匹かの蜘蛛が、再び左右に分かれ、攻撃を仕掛けてきていた。

ダリオがユラトへ向かって叫んだ。

「出し惜しみしている暇はねえ!後方の奴らだけでもいいから使え!」

「(……そうだ、やるしかない!)わかりました!」

そのとき、レクスが敵の襲撃を察知し、パーティーに知らせた。

「―――来るぞ!」

蜘蛛たちが再び、壁につかまっている彼ら冒険者に襲い掛かってきた。

今度は左右から2匹ずつ、そして後方からも走る速度を上げた蜘蛛が3匹同時に壁へ向けて粘性のある糸を吐き、上へ飛び上がり襲ってきた。

両端にいたジルメイダとレクスがそれぞれ左右の蜘蛛に素早く動き、対処した。

ジルメイダは、2匹の蜘蛛のうち一匹をブロードソードで素早く切り倒すと、もう一匹の蜘蛛にも攻撃を仕掛けようとしたが、相手が一気に距離を縮めてきた。

そして彼女の腕に張り付いた。

「―――っ!?」

ジルメイダは咄嗟に、腕を動かし、自分がつかまっている壁へ蜘蛛ごと叩きつけた。

どんっと言う音がし、ジャイアントスパイダーは潰れ、地面に落ちた。

「あぶない、噛まれるところだったよ……」

そして、レクスの方は片手で槍を持ち、素早い動きで突きを繰り出し、空中で蜘蛛を2匹とも仕留めていた。

「―――ハッ!」

ウッドエルフを襲った2匹の蜘蛛も地面に落ち、動かないまま後続の蜘蛛の集団に踏まれていった。

そして、真ん中の蜘蛛は無傷なまま、ユラトたちのつかまっている壁へ、たどり着いていた。

そして、着地すると同時に3匹の蜘蛛はユラトたちに向かって一斉に糸を吐いた。

壁の真ん中辺りにいたユラトやダリオ、リュシアは蜘蛛の糸に包まれだした。

「うお!」

「きゃあ!」

「―――これは!?」

慌ててリュシアが敵の一匹にファイアーボールを放った。

「燃えちゃえ!」

敵の一匹が炎に包まれ燃えた。

そして、炎は蜘蛛の糸にも移り、近くにいたダリオにも火が少しだが点いた。

僅かに彼の着ていたローブが焦げる。

そして、熱が彼にも伝わった。

「あちちっ!……おい!」

リュシアは、口を空けて驚いていた。

「あっ……」

そして、すぐにダリオは自分の体を叩き、火を止めた。

ヴァベルの娘は、申し訳なさそうに謝っていた。

「ううっ……ごめんなさい」

「ふう、あぶなかったぜ……てめぇ、リュシア!いつも魔法を放つときは、タイミングを考えろと……」

ダリオがリュシアに怒りをぶつけようとしたとき、レクスとジルメイダが壁に上り、後に残った2匹の蜘蛛を退治しようと一気に近寄った。

2人はほぼ同時に手に持っていた武器を横に振った。

ブンッ―――

しかし、2人の攻撃は当たらなかった。

空を切る音がした。

2匹のジャイアントスパイダーは、同時に飛び上がり、ジルメイダとレクスの攻撃をかわすと、自分たちの下にある壁へ、糸をクロスさせ吐いた。

そして、2匹は糸を壁につけたまま、下へ飛び込んだ。

ジャイアントスパイダーは遠心力を利用し、くるっと一回転した。

そのとき、一瞬ジルメイダの腕とレクスの頬辺りを、蜘蛛の足が僅かに触れた。

「―――っ!?」

大蜘蛛の足先に鋭い刺があったため、2人の腕と頬が切れ、血が僅かに流れた。

「……これは……」

「へぇ……やるじゃないか……」

以外な方法での反撃にバルガの女戦士と森のエルフは驚いていた。

そして、2匹の蜘蛛はほぼ同時に再び、壁の上へ戻ってきていた。

ジルメイダが蜘蛛を睨み付けると、何かに気が付いたのか、僅かに表情を緩めた。

「おや……この2匹は少し、他の蜘蛛どもと色が違うね……」

彼女の言うようにこの蜘蛛は、黄色の部分がオレンジ色になっていた。

体も他の蜘蛛に比べるとやや大きいように見えた。

「少し、違う種類もいるようだな……面倒なことだ……」

「なかなか、やりがいがありそうじゃないか」

ジルメイダとレクスが武器を構え、再び蜘蛛に向かって行こうとしたとき、ユラトの叫びが聞こえた。

「―――リファイスブラスト!!」

後方で爆発が起こった。

規模は、彼が魔力を抑えたためか、あの時の洞窟内で起こったものよりも小規模であった。

だが、後方にいた大蜘蛛の集団には効果があった。

いくつものジャイアントスパイダーたちが砕け散り、大きな穴を地面に生み出していた。

ダリオは、禁呪の威力に驚いていた。

(初めて見たが……すげぇ威力じゃねぇかよ……なんて魔法だ!……こいつ、ほとんどリスク無しに、こんな魔法が使えるのかよ……どうなってやがるんだ?)

リュシアも眉をひそめ、爆発を見ていた。

(あの色に、この威力……ユラトさん……)

そして空気の振動が訪れた後、爆風と共に煙と僅かな熱が、移動する壁に乗っている彼らのところにも運ばれてきていた。

また、追いついてきた煙と熱にユラトたちが包まれようとしたとき、壁の速度が上がり始めた。

それに気づいたダリオが、皆に向かって叫んだ。

「―――お前ら、つかまれ!」

彼の叫びを聞いたユラトたちは、すぐに壁にしがみ付いた。

速度が上がる瞬間、壁が一瞬、前後に素早く揺れ出した。

「……う、うわぁ!」

ユラトは一瞬、手が外れそうになり、両手でしっかりと壁につかまった。

そして、そのときの揺れのせいで2匹の蜘蛛は、宙に少しだけ浮き上がったまま、後方へ落ちた。

煙の中へ消えていく2匹の蜘蛛。

それを見たダリオは、嬉しそうに後方へ向かって叫んでいた。

「ははっ、落っこちやがったぜ!ざまあみろ!」

しかし、それも一瞬のことだった。

煙の中から、2本の糸が真っ直ぐ彼ら冒険者がつかまっている壁へ向け飛ばし、張り付いた。

それを見たダリオの顔から笑顔が一瞬で消えた。

「―――なんだとっ!」

ジルメイダに押さえられながら、それを見ていたリュシアも悲鳴をあげた後、叫んでいた。

「ひぃ……また来た!」

木々があまり無い開けた場所に、彼らは来ていた。

そして壁はついに、最も早い速度を出した。

まるで食器の上を滑る氷のように、滑らかな滑りを見せながら速い速度で、壁は蜘蛛の集団を一気に引き離し進んだ。

ユラトたちは、つかまるだけで精一杯だった。

髪やマントは逆立つように波うち、声はかき消され、壁は直進していた。

そんな中、2匹のジャイアントスパイダーは宙に浮き、糸を取り込みながら赤い目を輝かせ、ゆっくり冒険者たちのいる壁へ近づいてきた。

壁につかまりながら、頭を少しだけなんとか動かし、後方の迫り来る蜘蛛をユラトは見ていた。

(……くっ、このままだと……良い様にされてしまうぞ……)

そして、蜘蛛はじりじりと寄ってきていた。

大きな上顎が動いているのが見える。

(……飛び出してやるか?)

ユラトがそう思い、剣に手をかけようとした瞬間、今度は壁がぐらぐらと揺れ始めた。

「やべぇ、そろそろ込めた魔力が切れるみたいだ。お前ら、上手く降りろよ!」

ユラトはダリオの方へ向き、慌てて聞いていた。

「―――ええっ!?どうやってですか!?」

ユラトがそう聞いたとき、レクスが前方を見つめながら皆に聞こえるように大声で叫んでいた。

「―――進路に尖った岩があるぞ!」

そして、蜘蛛が一気に距離を縮めてきた瞬間、壁は岩に衝突した。

壁の砕ける音がし、真ん中辺りで、左右に壁は割れた。

割れる寸前に、レクスは飛び上がり、近くの木の枝にぶら下がった。

ジルメイダは、リュシアを抱えながら草の茂った場所へ飛んだ。

ダリオは、疲労からか、砕けた壁にしがみ付いたままだった。

だが、壁がうまくソリのように地面に沿って移動したため無傷のようだった。

そして、ユラトは、壁が壊れる寸前に彼の上空から襲ってきた蜘蛛に対処するために、体を横に回転させ、同時に剣を抜きながら壁を蹴った。

(―――当たれええぇぇ!)

すると、見事にユラトの抜いた剣は、空中で蜘蛛を真っ二つに切り裂いていた。

(……やったぞ!)

そして、倒れるように茂みに落ちた。

―――ドサッ

ユラトは、暗くなった空を見上げながら、思わず安堵の声を漏らした。

「……ふぅ……あぶなかった……いてて……だけど、倒せた!」

そして彼は、皆が無事なのか気になり、すぐに体を起こし、辺りを見回した。

「みんな!大丈夫なのか!」

辺りは、すでに暗くなっていた。

(もう夜になっていたのか……)

木々の間隔が広い場所で、少しだが虫の声が聞こえ、空には無数の星の見える夜空が広がっていた。

また、彼らがたどり着いた場所のすぐ近くには、暗黒世界の黒い霧が僅かだが確認できた。

(……あと少しで、黒い霧の中へ行くところだったのか……)

そう思うと一瞬、悪寒のようなものが走った。

(ううっ……とにかく、他の人たちをさがさ……!?)

そのとき、近くで声が聞こえた。

「おい!誰かいねぇか?」

(……あの声はダリオさんだ)

ユラトはすぐに立ち上がり、その場所へ向かった。


そこはユラトが倒れた所から、目と鼻の先の場所だった。

ユラトは、声のあった場所を見た。

すると、ダリオが最後の蜘蛛の一匹に糸を吐かれ、包まれようとしているところだった。

「―――ダリオさん!」

ユラトは、慌てて剣を抜き放ち、魔道師の男の所へ急いだ。

そして、ダリオの目の前まで来た。

「大丈夫ですか?」

ダリオは、壁につかまったまま、糸で包まれていた。

そして、苦しげにユラトに向かって叫んでいた。

「そいつを早くなんとかしてくれ!」

「はい!」

ユラトは剣を両手で構え、切り込んだ。

大蜘蛛はそれをすぐに察知し、ダリオに糸をつけたまま、上へ飛び上がり、ユラトの攻撃をかわした。

「素早いな……」

ユラトは、どうするか考えた。

(フェイントをかけて……そうだ、ジルメイダに教わった、あれをやってみるか……)

すぐに彼は行動に移した。

敵に近づき、剣を横に片手で強く振り払う。

蜘蛛はその攻撃にすぐに感づくと、再び飛び跳ね、彼の攻撃をかわした。

(―――よし、思った通りだ!)

そしてユラトは、横に払った力を利用し、宙に浮いた蜘蛛に回し蹴りを放った。

「どうだ!」

見事、彼の読みは当たり、回し蹴りがヒットした。

鈍い音をたて、蜘蛛は飛ばされた。

しかし、ダリオと糸で繋がっていたため、彼の体が少し引っ張られる。

ダリオは苦痛に顔を歪め、思わず声を上げた。

「……いてえ!……おい、俺もいることを忘れるなよ!」

「はい!だけど、こいつすばしっこくて……」

蜘蛛は地面に着地していた。

良く見ると、体から少し体液が流れ出ていた。

ユラトが放った回し蹴りが効いているようだった。

(……なんとかやれそうだ!)

ジャイアントスパイダーは糸を切り、ユラトの方へ向くと少しだけ両足を屈め、戦闘態勢にはいった。

ユラトは、先手を取るためにすぐに動いた。

(こいつを倒すには、常に先手を取って相手に攻撃させないことだ!)

そして、走ると今度は、敵に向けて鋭い突きを放った。

すると、蜘蛛はまたしても、上へ飛び上がった。

(やっぱりそうだ、こいつは、そういう習性があるのか!)

そしてユラトは片手で剣をそのまま、真っ直ぐ上へ切り上げた。

「喰らえ!」

しかし、蜘蛛は飛び上がった瞬間にユラトの肩へ向け糸を吐いていた。

(―――しまった!)

ジャイアントスパイダーは、吐いた糸を吸い込み、彼の元へ一気に近づいた。

(くそっ!やられる!)

そして、ジャイアントスパイダーが目前に迫ったとき、真上から槍が飛んできた。

「―――させるか!」

レクスが上空に飛び上がり、槍を投げていた。

―――ザシュ!

ユラトの頬に少しだが、飛び散った黄色い体液が付いた。

ウッドエルフの投げた槍は見事に蜘蛛の胴を貫き、槍ごと地面に突き刺さっていた。

最後のジャイアントスパイダーは体に槍を受けたまま、しばらく動いていたが目の輝きを失うと、やがて動きを止め、動かなくなった。

敵が動かなくなったのを確認したレクスは、辺りを警戒しながら2人の所へ来た。

そして、ユラトに話しかけた。

「大丈夫か?」

ユラトは、頬に付いた液体を手で軽く拭いながら自分がまだ未熟であることを悟った。

(まだまだ……だな……だけど、もう一匹の蜘蛛は倒せたし、禁呪もなんとか扱えたし……一気に全てをこなすことは、無理か……)

そして彼は、やや浮かない顔つきでレクスに礼を言っていた。

「はい、ありがとうございます……助かりました」

ユラトの表情から、彼の思っていることを悟ったのかレクスは、表情を緩めながら話していた。

「……気にするな。今の自分に出来ることと出来ないこと、それを知ることもまた重要なことだ……それにお前の禁呪のおかげで私たちは助かったんだ。我々はパーティーを組んでお互い足りないものを補いながら、この危機を乗り越えた。それでいいんだ……それより……ダリオ、お前も大丈夫か?」

ダリオは、壁の残骸にうつ伏せに倒れたまま、糸を全身に絡みつかせていた。

そして、少しだけ顔をユラトとレクスの方へ動かすと、力の無い声で答えていた。

「……ああ、ひでぇ目にあったが……なんとか無事だぜ……早く助けてくれ……」

「はい!」

そして、ダリオを蜘蛛の糸から引き剥がそうとしたとき、後方から声が聞こえた。

「みんなー!大丈夫?」

リュシアが血相を変え、ジルメイダを伴って小走りにやってきていた。

「……ん、来たか」

そして、それに気づいたレクスが歩み寄ると、彼女を安心させようと話しかけていた。

「リュシア。安心しろ、みんな無事だ」

レクスの言葉を聞いて、リュシアは胸をなでおろした。

「ふぅ……良かった……凄い衝突だったから……」

隣にいたジルメイダも、辺りを見回しながらユラトたちのところへ来ていた。

「……どうやら、大丈夫そうだね」

そして、ユラトがダリオに絡みついた糸を取り除き、肩を貸し、彼を立たせていた。

ダリオは疲労困憊といった感じで呟いていた。

「はあ……全く……今日は大変な目にあったぜ……」

そんなダリオの姿を見たジルメイダは、にやりと軽く笑みを浮かべながら彼に話しかけていた。

「ふふっ……ダリオ、なかなか色男になっているじゃないか」

ジルメイダの話の聞いた他の3人は、彼の顔を見た。

「ん、……」

すると、リュシアが突然吹き出した。

「ぷっー!」

そして彼に悪いと思ったのか、すぐに両手で口元を覆いながら、必死に笑いを堪えていた。

なんと、ダリオの眉や口のあたりから顎にかけて、白い糸が大量に付着していたのだった。

それはまるで繋がった眉を持ち、見事な白い口ひげを蓄えた老人のような顔になっていたからであった。

ダリオ以外のメンバーは思わず笑い声をあげていた。

「はははっ!」

笑われたベテランの魔道師の男は、パーティーメンバーを忌々しげに睨み付けていた。

「俺様は、ひでえ目にあったってのに……てめぇら……」

笑い声を彼らは、しばらく夜空に響かせていたという。

そして、彼らはリュシアが必死になって守った宝箱の中身を調べることにしていた。

ユラトが箱を持ち、ダリオとリュシアのロッドとメイスにマナトーチの魔法かけ、周囲を明るくすると宝箱を囲むように座っていた。

「しかし、良く気づいて持って来れたね、リュシア」

「うん!」

リュシアは短い草の生えた地面に、うつ伏せに倒れこみ、両手で頬づえをついて、足を軽く動かしながら、箱が開くのを楽しげに待っていた。

レクスが箱を見ながら、今日の出来事を振り返り、呟いていた。

「蜘蛛どもに、意識が集中してしまっていたからな……」

そしてジルメイダは、リュシアの隣で胡坐をかいて腕を組み、座っていた。

「お宝を逃すなんて冒険者としてあるまじき事さ……そういう意味じゃ、お手柄だよ」

ダリオは、地面に魔法の光を放つロッドを地面に差し込むと、箱を覗き込むように見ていた。

「ま、お前もこれで少しは冒険者らしくなったってことだな」

いつもダリオに厳しく教わっていたリュシアは、褒められたことが嬉しかったのか、上半身を起こし、元気に返事をしていた。

「はい!」

「とにかく、中身を良く見てみましょう」

ユラトが箱を開け、一つ一つ取り出し、地面に置いていった。

箱の中には金貨や指輪がいくつかあり、そして一番底には、白い布で包まれた古めかしい本があった。

「これは、何の本なんだろ……」

ユラトが本を手に取った。

布をめくると、表紙が見え、題名が書いてあった。

「『世界の七不思議』……著者は……『フェイ・ファディアス』……うーん、どこかで……」

皆、その名前を口にしていた。

「フェイ・ファディアス……」

記憶を辿っていたユラトは、すぐに思い出した。

「あっ!白蓮のフェイ!」

ユラトからそのことを聞いたジルメイダも、その者について思い出していた。

「……確か、氷の魔法が得意だった……有名な古代の冒険家の名前だね……」

フェイ・ファディアス

氷の魔法を自在に操ったと言われる古代の冒険家。

古代世界の様々な場所へ行き、数々の発見と冒険の日々を過ごしたと言われている。

真っ白な蓮の花が好きで、自らの背中に白い蓮の刺青を入れていたことから『ホワイトロータス』や『白蓮のフェイ』とも言われていた。

オリディオール島にも、少年たちが憧れるような冒険の日々を書き綴った本がいくつか存在している。

「そいつの書いた本ってわけか……ちょっと貸してみろ」

ダリオは、ユラトから本を取るとぱらぱらと適当に目を通していた。

「古代の世界には七不思議ってのがあったみてぇだな」

「七不思議……」

(そんなものがあるのか……)

ダリオは少し興味に惹かれたのか、今度は丁寧にページをめくり始めた。

「なになに……ドワーフの災禍の巨人像、砂漠の大ピラミッド、アレクシャの町のフヴァルの灯台、リバイアの迷宮………おっ、ゾロスの霊廟も載っているぞ」

ユラトは気になったので、ダリオに尋ねていた。

「ゾロスの霊廟って?」

ジルメイダが会話に加わり、情報を追加していた。

「そこは確か、ゼグレムたちが見つけた場所だったね」

「ああ、そうだ。確か、ラスケルクから北の方にあったとか聞いたぜ」

「そんなところに……」

「しかもあいつら、すげえ装備を手に入れたとか聞いたな……くそっ、羨ましいぜ!」

「……らしいね。古代の強力な武器や防具を……」

そしてダリオは再び、本に目を通し始めた。

すると彼は、何かに気づいた。

「えーっと、それから………!?―――これは……」

興味深く聞いていたレクスが思わずダリオに尋ねていた。

「どうした、何かあったのか?」

ダリオは、目線を本からリュシアへ向け、話しかけていた。

「リュシア……これは、お前が目指している場所じゃねぇか?」

突然そう言われたリュシアは神妙な顔になった。

「……えっ?どういうことですか?」

中年の魔道師の男は再び目線を戻し、本に書かれていることを話した。

「遥か昔、ヴァビロニアって国があったらしいな」

その言葉を聞いたリュシアは立ち上がると、みんなに自分が昔、聞いた覚えのある事を話した。

「ヴァビロニア…………そう言えば小さいころに、おばあちゃんから聞いたことがあります。……確か、古代の私たちの先祖は、ある国の王族でもあったと……」

ダリオは、その本に書かれていたヴァビロニアについて話した。

ヴァビロニアの周りに大きな門のある高い壁があり、その壁は青い釉薬が塗られており、さらに575体の魔物の絵が魔よけのために画かれているということだった。

そして、その壁を抜けると、その中に国があり、その中心に非常に大きな空中庭園が存在すると言うのだ。

その空中庭園が6番目の七不思議でもあった。

そして、最後の七不思議として書かれていたのは、その空中庭園の中にある塔が最後の七不思議であると彼は言った。

「……その塔の名前は、『ヴァベルの塔』だ」
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