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第十八話 4
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しばらく、道を進むと、目の前に森があり、左右に道が分かれた場所が見えてきた。
そして、人の悲鳴が聞こえた。
「きゃああーー!」
声のした場所を見ると、そこに白い骨の魔物がいた。
そして他にも大量にその魔物は、森の木々の隙間から続々と町の中へ姿を現しているところだった。
それを見たシュリンは、エルディアの事を思った。
「もう、あんなに出てきてる……エル先輩……」
デュランは、その魔物の正体を知っていた。
「スケルトンってやつか……見たところ、動きはそれほどでもなさそうだな……(俺でも十分やれそうか?……)」
エリーシャは、始めて見るスケルトンに驚いていた。
(……骨の魚は見たけど……あんなのもいるんだ……)
デュランは、腰から短剣を抜き、骨の集団に襲われそうになっている女性に近づくと、声をかけた。
「―――おい、町の東へ逃げろ!」
「は、はい!」
女性はデュランの声で我に返り、急いで逃げて行った。
デュランは、辺りを見た。
「結構居やがるじゃねーか!」
「兄貴、墓地の入り口は、こっち!」
シュリンは、左右に分かれた道を左へ曲がった。
2人はそれに付いて行った。
そして、3人はしばらく無言で辺りを警戒しながら、走っていた。
左側には、古民家のある場所で、右側は森の広がる場所だった。
そして、町の北西の森の中を切り開いて出来たのが、この町の墓地のある場所だった。
走っていると、向かっている先の方から、人の声が聞こえた。
どうやら、誰かが戦っているようだった。
「くそ!増援はまだか!?」
「隊長!スケルトンウォーリアーが3体、そして後方にスケルトンアーチャーが5体いるもようです!」
「他はいないのか?」
「その様です!」
「よし!殲滅するぞ!―――団員、前へ出ろ!!」
「―――オオォー!!」
5人ほどの武装した戦士風の男たちが、スケルトンと戦っていた。
どうやら、自警団員たちのようだった。
団員たち3人が楯を構え、骸骨戦士のとこまで放たれた矢を弾きながら突進すると、後ろの2人が左右に分かれ、後方にいる弓矢を持ったスケルトンに攻撃を仕掛けた。
すると、前の3人も構えを解き、骸骨の戦士をこん棒や剣で頭を殴りつけ、頭を飛ばすと踏み付け、一撃で粉砕していた。
そして、残った弓矢を持ったスケルトンも、すぐにその5人によって倒されていた。
彼らは一息つくと、団員の1人がデュランたちに気が付いた。
「ボルウィン自警尉どの!東の道から誰か来ます!」
「……ん」
名を呼ばれた厳つい顔の大きな男が振り向き、東の道を見ていた。
この男は団員の『ボルウィン・ハーシュ』と言う男だった。
彼は元冒険者で、『シールドソード』と言う、楯の先に鋭い刃が付いた楯を武器に戦う戦士だった。
全身を金属の鎧で身を包み、自分の背丈と同じぐらいの大きなシールドソードを構え、先頭に立って戦っていた。
そしてその楯を良く見ると、僅かに赤色のオーラが流れ出ていることから、どうやらレアな楯のようだった。
また彼は、高齢のため、現役の冒険者を引退したところだった。
デュランたちは、墓の入り口に辿り着いていた。
「……ここが入り口か……」
3人が近づくなり、ボルウィンが野太い声で話しかけてきた。
「君たち!ここは魔物が現れて危険だ!町の東か、北にある大地の神殿へ行きなさい」
デュランがボルウィンに説明をした。
「悪いが、この奥に仲間がいるんだ。そして、そいつらを助けたいんだ!」
ボルウィンは、「仲間」という言葉に反応した。
「……仲間?………ああ、君たちは、彼らの知り合いか……」
シュリンがすぐに尋ねていた。
「知っているんですか!?」
「我々の団員と共に、悪魔に取り憑かれたクリス・ヴィガルの元へ行くために、墓地の奥へと向かったよ」
それを聞いてシュリンは少しだけ安堵した。
(……良かった!とりあえず、今のところは無事みたい!)
「よし、んじゃ、俺たちもそこへ行くか!」
「うん!」
「はい!」
デュランたちは門を通り、墓地に入った。
すると、ボルウィンが声をかけてきた。
「―――待つんだ!」
ボルウィンは、楯を持ち上げ、3人に近づいてきた。
「君たちだけだと、危険だろうからな。この辺りのスケルトンは、粗方倒したし、ここは部下に任せて、私もその場所まで行くことにしよう!」
「いいのかよ、おっさん」
デュランにそう言われた、ボルウィンはその言い方が気に食わなかったのか、眉をひそめ叫んだ。
「わたしは、おっさんと言う名前ではない!ボルウィンと言う名前があるんだ!」
すかさず妹のシュリンがボルウィンに謝っていた。
「すいません、ボルウィンさん。うちの兄が礼儀知らずで……」
「てめぇ、シュリン!」
ボルウィンは豪快に笑っていた。
「わはっはっは!良い妹さんを持っておるな、お前さん。わたしは、ちゃんと名前を読んで欲しかっただけだ、構いはせんよ。それより、早く行くことにしよう!」
「はい!」
「デュラン、行きましょう!」
「わーかったよ!」
少しだけ、膨れっ面になり、デュランは3人の後に続いて行った。
墓地の中は、いつもなら手入れがされており、あたり一面に故人が眠る場所の上に、白い石や木を十字にした物が綺麗に並べられて置かれ、整然とした場所であった。
しかし、悪魔によって故人たちが墓から呼び出されたため、木や石で出来た墓は壊され崩れ、荒れ果てていた。
その景色を見たデュランは、思わず呟いていた。
「酷いもんだ……」
辺りに散らばった骨を、ボルウィンは悲痛な表情で見ていた。
(全てが終わるまでは……どうか許されよ……)
そんな場所を進んでいくと、今度はなだらかな丘が見え始めた。
木の一本も生えてない丘で、丈の短い草が生えている場所だった。
そしてそこに墓がたくさんあるのが見えた。
彼らはそこへ向かって歩いた。
すると月の光の差し込む丘の上に、一階建ての白い建物が見えた。
ボルウィンが、その白い建物を指差した。
「あそこが、確か一番奥の場所だったはずだ」
ボルウィンは、レイアークの町の西のエリアを中心に巡回することが多かったため、墓地の内部まで詳しく知っていた。
「あれか……すぐに着きそうだな!」
デュランは、そこを見つめながらすぐに歩き出そうとした。
すると、建物のある場所から、光と共に爆発音が聞こえた。
ボルウィンが叫んだ。
「―――誰か戦っておるようだ!」
シュリンは、不安げな表情でその場所を見ていた。
「………きっと、エル先輩たちだ」
「よし、行こうぜ!」
「行きましょう!」
そして、進もうとしたとき、彼らの進む道を阻むように、スケルトンたちが、近くの森の中から、ぞろぞろとたくさん出てきていた。
「くそっ、邪魔だぜ!」
デュランは、目の前にいたスケルトンに攻撃を仕掛けた。
手に持った短剣で、首をはねた。
頭蓋骨は、ボルウィンの近くに転がり落ちた。
ボルウィンは、大きな楯を頭蓋骨の上に乗せた。
「御免!」
すると、骨の砕く音がし、一瞬で頭蓋骨は粉々になっていた。
エリーシャとシュリンは、感心していた。
「凄い楯……」
「ほんと……」
「このボルウィン、この楯がある限り、誰にもやられはせんよ!」
「……だがボルウィンのおっさん。敵は、あの丘まで、結構いるみたいだぜ?」
デュランの言うとおり、丘には目的なくうろついているスケルトンたちがいるのが見えた。
彼の言葉を聞いたボルウィンは、楯を構え叫んだ。
「私が、先頭に立つ!君たちは、付いて来なさい!」
「わかった!」
「はい!」
そして、彼らが進もうとしたとき、シュリンの叫び声が聞こえた。
「きゃああ!」
デュランたちは、慌てて振り返った。
「―――シュリン、どうした!?」
シュリンを見ると、彼女の足に地面から出た手が纏わりついていた。
それは、死人の手だった。
「……こいつは、『ゾンビ』だ!」
【ゾンビ】
腐敗した肉体を持ったアンデッドの総称。
肉が無くなっていないまま、アンデッドとして甦ったもの。
人が死に、肉体が朽ち果て、そして肉が無くなって骨となったときに甦ったものは、スケルトンとなる。
動作はスケルトンよりも遅く、そして知能も低い。
しかし腐肉がある分、スケルトンよりは耐久力がある。
生者の匂いに反応し、その肉を求めて攻撃してくる。
すぐにデュラン達は、妹を救うために動いた。
エリーシャは、シュリンの手を握り、引っ張った。
「シュリン!」
デュランは、短剣でゾンビの手に攻撃を加えた。
「妹から離れやがれ!」
敵の手首が切れ、シュリンはゾンビの手から逃れることが出来た。
しかしゾンビは、そのまま土の中から低いうめき声を上げながら這い上がってきた。
―――ウー……ウー………ウウッ……。
「こいつから、倒しちまうか」
デュランとボルウィンが、そのゾンビに近づいたとき、彼らの周りから同じようなうめき声が聞こえ、地面から何体ものゾンビが現れ始めていた。
シュリンがデュランの後ろに隠れ、周りを見ていた。
「ここ辺りは、新しい死体が埋めてある場所みたい!」
「まずは、ここからやるしかねぇな!」
デュランは、そう叫ぶとすぐに、投げナイフを腰のポーチから取り出し、一本をゾンビへ目掛け投げた。
彼のナイフは見事にゾンビの額の中心に刺さった。
しかし、ゾンビには特にダメージを与えているようではなかった。
腐った肉体を持ったアンデッドは、その歩みを止める事無く、デュランたちに近づいてきた。
近づいてくるゾンビに、シュリンは兄に抗議の声を上げた。
「うわっ!ちょっと、兄貴!全然、効果ないじゃない!」
「タフな野郎だぜ……」
そしてボルウィンが動いた。
彼はシールドソードの刃の部分でゾンビの頭部を刺し、そして間を置かずに肘を使い、楯の部分を押すと敵を殴り飛ばした。
ゾンビの肉体が砕け散り、そして倒れた。
「ここは私に任せて、君たちは……」
ボルウィンがそう言おうとした時、何体かのゾンビが突然倒れた。
「―――どうした!?」
皆、驚いた。
そして、ゾンビが倒れた場所の奥を見ると、そこはデュラン達がやって来た道で、そこから誰かがやって来ていたようだった。
人の気配を感じたデュランは叫んだ。
「―――おい、誰だ!?」
暗闇の中から、2人の人物が現れていた。
1人は、黒い髪で全身をその髪と同じ黒い色の服で身を包み、首に赤紫のストールを巻き、そして手には握る所と先端が十字になった銀製のメイスを持っていた。
丁度、成長期に入ったぐらいの年齢の少年だった。
そしてもう1人は、ロングソードを手に持ち、青いスケイルメイルを着たブルーアッシュの髪の青年だった。
そう彼は、クフィン・ダルグレンだった。
クフィンに気付いたシュリンは、すぐに彼の元へ駆け寄った。
「クフィンさん!」
クフィンは、シュリンがいたことを知るとすぐにエルディアの事を尋ねていた。
「シュリン、エルディアやカーリオはどこだ?」
「恐らくですけど……あそこだと……」
シュリンは、丘の上にある白い建物を指差した。
クフィンは、そこを見つめた。
「あそこか……」
ボルウィンもこの町を守る同じ自警団員だったため、クフィンの事を知っていたようだった。
「……ダルグレン自警曹!君は確か、自警将殿とマキュベル邸のパーティーに出席していたのではなかったのか?」
クフィンは、先ほどのやり取りを思い出しながら、忌々しげに答えていた。
「ボルウィン自警尉……団員は、さっき辞めて来ましたよ……だから俺はもう、誰の命令も受けなくていいんだ……」
ボルウィンは、驚いていた。
「―――なんと!?」
ボルウィンは、その訳を聞こうとしたとき、クフィンと共にやって来た少年が遠慮しながら、話しかけてきた。
「えっとー、あの……とりあえず、このゾンビをみんなでどうにかしません?」
すでに、デュランは、ゾンビと戦っていた。
「あんたら、喋ってないで戦ってくれ!」
赤毛の青年は、素早く動き、ゾンビの首や頭に短剣を突き立てダメージを与えていた。
「……そうだったな」
「クフィンさん、あの子は?」
シュリンが尋ねていた。
「見れば分かるはずだ」
クフィンはそう言うと、少年に話しかけた。
「ベルフレード!俺たちで、奴らの動きを鈍らせる。止めは、お前がやれ」
デュランやボルウィンから攻撃を喰らい、ふらついた足取りのゾンビに、その少年はぼやきながら、近づいて行った。
「はぁ……酷いよ、父さん……帰ってきたところだったのに……まいったなー。それにまだ僕は見習いみたいなもんなんだけど……いいのかなぁ……」
そして少年は、魔法を唱え始めた。
「シュリン、とにかく、今はここをどうにかするぞ!」
「はい!」
クフィンとシュリンもゾンビに攻撃を開始していた。
デュランやボルウィン、クフィンは、それぞれの武器でゾンビを攻撃し、相手の体の部分を切り落とし、動きを鈍らせていた。
シュリンは、魔道師として魔法を使っていた。
エリーシャは、水の魔法を使うか決めかねていた。
(どうしよう……デュランに、あまり使ってはいけないって言われたけど……だけど、みんなが戦っているのに……私だけ……)
人魚の娘がおろおろしている内に、ベルフレードと言う名の少年の魔法が発動していた。
しかし彼は、ゾンビに向けてではなく、自身が持っているメイスに魔法を発動させていた。
「―――グレアハンド!」
両端にある十字架の部分を左右の手でそれぞれ握りしめていたため、メイスが浄化の光で包まれた。
そして、光が落ち着くと、彼はメイスを左右に素早く引っ張った。
すると、メイスが溶けるように伸び、そして分かれた。
彼の手には、2本の尖った短剣が握られていた。
(何、あの武器……)
シュリンは、見たことのない武器に驚いていた。
デュランは、彼が手に持つ武器の形状を知っていた。
「ありゃ、『スティレット』だ……すげえな、形状が変わりやがったぜ……」
【スティレット】
短剣の一種。
十字架のような形状で、刃が無い。
その代わり、先端が針のように尖っている。
鎧などの隙間に突き刺すことが出来る。
また、騎士に誇りある死を与えるために、止めに使われることもあったと言う。
少年は、その光る短剣を手に持ち、彼の左右にいたゾンビの頭を刺した。
すぐに魔法が発動し、刺さった部分が発光すると、僅かに膨張し、皮袋に空気を入れすぎた時に起こるような「ボンッ!」と言うような爆発音が鳴ると、一瞬のうちに頭部を破壊した。
そして、彼はすぐに左右の手に持ったスティレットの針ようになっている部分を重ね合わせた。
すると銀の短剣は、最初に見た一本のメイスへと形状を元に戻した。
(―――よし、うまくいった!これなら、なんとか出来そうだ!)
ベルフレードと言う名の少年は、再びグレアハンドの魔法を唱えた。
「―――グレアハンド!」
その様子を見たボルウィンは、感心しているようだった。
(なるほど……あのメイス……1回の魔法で2回分の効果を発揮させること出来るのか……考えてあるな……)
シュリンは、彼の戦い方から、何かを思い出していたようだった。
「クフィンさん、あの人ってひょっとして………」
ゾンビを一体倒したところで、クフィンは、シュリンに答えていた。
「あいつは、エクソシストだ……まだ見習いらしいが……ここに来る途中で、ヴァベルの教会に寄ったんだ。そして中に入ったが……」
「彼しかいなかったと?」
「そう言うことだ……心得があると言うことだったから連れて来た……」
「なるほど……(大丈夫なのかな?……)」
不安に思っている妹とは違い、デュランはボルウィンと同じように感心して見ていた。
(……あれがエクソシストか……始めて見たが……面白れぇ戦い方するんだな)
そして彼らは、大勢現れた腐肉の肉体を持った不死者を本格的に倒し始めた。
オリディオール島の中央にある町、レイアークの町の中にある墓地の敷地内の丘で戦っている者たちがいた。
その丘には白い建物があった。
月の光をその白い建物は、反射し、少しだけ辺りを明るくさせていた。
そして、その明るくなったところで、何人かの人が骨の魔物たちと戦っているようだった。
褐色の肌の戦士の女が両手で長剣を握りしめながら、荒い息を付き、仲間に話しかけていた。
「………はあ……はあはあ……ちょっと不味いことになってきたね……体が重くなってきたよ……」
女戦士の隣にいたのは、朱色のクロークを着てロッドを手に持った優男風の魔道師だった。
彼もまた、女戦士と同じような肌と髪の色をもっていた。
そして、疲労した顔つきで、後ろにいる人物に話しかけた。
「私も魔力を使い過ぎたかもしれません……腕が痺れてきました……エルちゃんは、大丈夫ですか?」
白い髪の優男に尋ねられたのは、青い髪の魔道師の女だった。
彼女は、ちょうど魔法を詠唱し終わったところで、その魔法を放つ相手を睨みつけながら、優男に答えていた。
「さっきのファイアーボールで……」
そこで彼女は、しゃがみ込んでしまった。
彼らは、クリスを追って墓地の奥深くへ向かったエルディアたちであった。
「君、大丈夫か!?」
自警団の男がエルディアに駆け寄ろうとしたとき、建物の入り口にいた人物が彼らの周りにいたスケルトンに命令を下した。
「……邪魔な人間め……殺れ!」
エルディアの周りにいたスケルトン達は、手に木の杖を持っていた。
そして、命令を聞いたスケルトンたちは、握り拳ほどの大きさの火の玉を放った。
ミレイが叫んだ。
「―――みんな、来るよ!」
エルディア達は力を振り絞り、立ち上がると、敵の放ったファイアーボールを避けた。
一発が自警団の男の腕に命中する。
彼の腕が炎に包まれ、一瞬燃えた。
「―――くっ!……」
男は苦痛に顔を歪め、地面に手に持っていたショートソードを落とした。
落とした剣の近くには、別の自警団員が倒れていた。
その人物は冷たい体になっていて、命はすでに無いようだった。
しかし、体には傷一つ無かった。
そして、スケルトンメイジの放った火の玉をなんとか避けることが出来たエルディアも、すぐにファイアーボールの魔法を打ち出し、見事相手を倒していた。
「あれがある限り、うかつに近寄れませんね……」
カーリオの目線の先には、クリスが片手で持っている鏡があった。
鏡は禍々しい赤黒い妖気を放ち、そして鏡の部分から青白い手が出ていた。
エルディアはその手の名称を呟いた。
「カロンの手……」
魔女メディアの手紙に書いてあったセット効果の事で、その手に少しの間触れられると、魂を握りつぶされ、即死すると言うことだった。
倒れている自警団員の男は、その効果によって、冥界へと旅立って行ったのだった。
ミレイが、魔法を使用してくるスケルトンを1体倒すと、視線をクリスの方へ向け、隙を伺っていた。
「―――はっ!………あの鏡を破壊しないとダメだね……」
「私が、なんとか隙を作ってみます!」
詠唱を終えたカーリオが魔法を唱えようとしたとき、後ろから叫び声とうめき声を合わせた様な声が聞こえた。
「……ん?」
その声は、この辺り一帯に響き渡った。
するとエルディア達の体が、重くなるような感覚があった。
声を聞いたエルディア達は、顔をしかめた。
「くそっ!またあいつか……」
ミレイは、その魔物を睨んでいた。
魔物は、どうやら若い女のゾンビのようだった。
ボロボロの布を体に巻き、両手を広げ、声を出すたびに、なぜか体が半透明になっていた。
エルディアが敵の名前を口に出した。
「『バンシー』……」
【バンシー】
ゾンビの一種。
若い女性が死ぬと稀に出現することがある。
特に失恋や裏切りなど、強い思いや恨みを持ったまま、命を失った者がなりやすいと言う。
金切り声、叫び声、うめき声などが合わさったような声を出す。
それらは、若くして命を失った彼女たちの心の叫びだと言われている。
声を出すと体が半透明になり、声を聞いた者の足を重くさせ、自身の移動速度が一瞬増す能力がある。
指には鋭く長い赤い爪があり、攻撃を喰らうと、炎症を起こすことがあるという。
また、その声を聞いた者には死が訪れると言うことや、近しい者に死人が出る時などに現れることもあると言う、様々な言い伝えが残っている。
バンシーが複数現れた場合などは、名のある人物が死ぬときだとも言われていた。
「あいつらから倒す!2人は、クリスの相手を頼むよ!」
ミレイは、バンシーの隣りにいた、スケルトンメイジへ一気に近づき、長剣を真横に振りぬいた。
彼女の剣は、骨の魔法使いの体を捕らえた。
骨の魔物はバラバラに砕かれ、そしてその隣りにいたバンシーにも、ミレイの長剣が襲った。
しかし、バンシーは金切り声を出し、体を薄い色にさせるとふわりと一瞬浮いて素早く移動し、バルガの女戦士の攻撃を避けた。
「ゾンビのくせに素早いね!」
ミレイは、すぐに両手で長剣を持ち、今度は走りながら鋭い突きを放った。
「―――はあっ!!」
するとゾンビの女は、またしても声を出した。
そして、声を利用した素早い回避行動をするかと思われた。
だが、バンシーは前へ進み、ミレイの真横に来た。
(―――何!)
そして腕を振り、攻撃を仕掛けてきた。
バンシーの攻撃は、鋭い爪の攻撃だった。
(……やるね。―――だけど!)
ミレイは自らが放った突きを地面へ向け行い、長剣を大地に刺した。
そして彼女は空中へ飛び上がり、バンシーの攻撃を回避した。
着地と同時に、剣を水平に振った。
バンシーは移動しそれを避け、後ろに回り込むと腕を振り、彼女の露出していた腕へ攻撃をしかけた。
「―――うっ!」
ミレイの腕に、鋭い爪で攻撃された痕ができた。
しかし、彼女はその瞬間を逃さなかった。
ミレイはしゃがみ込んだまま、敵に足払いを放っていた。
そしてバンシーにその攻撃は当った。
すると敵は転倒し、地面に片手をついた。
ミレイは、その隙を逃すまいと長剣を首目掛けて振りぬいた。
そこでバンシーは、一番大きな声を張り上げた。
―――ギギャア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!
すると、彼女の体は、ふわりと一瞬宙に浮き、ミレイの攻撃をかわしていた。
若きバルガの女戦士は大きな声に顔をしかめながら、驚いていた。
「……なんて……奴なんだい!」
そして、バンシーは両腕をミレイへ向け、伸ばしてきた。
首を掴れ、爪がめり込んだ。
「う、ううう……」
一瞬、意識を失いそうにミレイはなった。
そして、バンシーが腐って醜くなった顔を近づけてくる。
強い腐臭を感じた。
「―――くそっ!」
そして、バンシーが噛み付こうとした時、ミレイは長剣を手放し、敵の頭を殴りつけた。
「―――はあ!」
ゾンビの女は飛ばされた。
ミレイは匂いと苦痛から不快感をあらわにしながらも、己の未熟さを実感していた。
「はあ……はあ……あたしは、ほんとにまだまだ未熟なんだね……まだ母さんのようになるには程遠いね……」
そして彼女は首や腕から血を流しながら長剣を手に取り、立ち上がった。
「……だけど、必ず……たどり着くよ!」
敵を睨みつけ走ろうとした、その時、爆発音と共に連続で炎が辺りに立ち上がっていた。
「―――これは!?」
振り返ると、エルディアたちがクリスとスケルトンメイジの集団と魔法を撃ち合っている姿が見えた。
(さっさと終わらせないと不味いね……)
ミレイは、再び攻撃を開始した。
そして、人の悲鳴が聞こえた。
「きゃああーー!」
声のした場所を見ると、そこに白い骨の魔物がいた。
そして他にも大量にその魔物は、森の木々の隙間から続々と町の中へ姿を現しているところだった。
それを見たシュリンは、エルディアの事を思った。
「もう、あんなに出てきてる……エル先輩……」
デュランは、その魔物の正体を知っていた。
「スケルトンってやつか……見たところ、動きはそれほどでもなさそうだな……(俺でも十分やれそうか?……)」
エリーシャは、始めて見るスケルトンに驚いていた。
(……骨の魚は見たけど……あんなのもいるんだ……)
デュランは、腰から短剣を抜き、骨の集団に襲われそうになっている女性に近づくと、声をかけた。
「―――おい、町の東へ逃げろ!」
「は、はい!」
女性はデュランの声で我に返り、急いで逃げて行った。
デュランは、辺りを見た。
「結構居やがるじゃねーか!」
「兄貴、墓地の入り口は、こっち!」
シュリンは、左右に分かれた道を左へ曲がった。
2人はそれに付いて行った。
そして、3人はしばらく無言で辺りを警戒しながら、走っていた。
左側には、古民家のある場所で、右側は森の広がる場所だった。
そして、町の北西の森の中を切り開いて出来たのが、この町の墓地のある場所だった。
走っていると、向かっている先の方から、人の声が聞こえた。
どうやら、誰かが戦っているようだった。
「くそ!増援はまだか!?」
「隊長!スケルトンウォーリアーが3体、そして後方にスケルトンアーチャーが5体いるもようです!」
「他はいないのか?」
「その様です!」
「よし!殲滅するぞ!―――団員、前へ出ろ!!」
「―――オオォー!!」
5人ほどの武装した戦士風の男たちが、スケルトンと戦っていた。
どうやら、自警団員たちのようだった。
団員たち3人が楯を構え、骸骨戦士のとこまで放たれた矢を弾きながら突進すると、後ろの2人が左右に分かれ、後方にいる弓矢を持ったスケルトンに攻撃を仕掛けた。
すると、前の3人も構えを解き、骸骨の戦士をこん棒や剣で頭を殴りつけ、頭を飛ばすと踏み付け、一撃で粉砕していた。
そして、残った弓矢を持ったスケルトンも、すぐにその5人によって倒されていた。
彼らは一息つくと、団員の1人がデュランたちに気が付いた。
「ボルウィン自警尉どの!東の道から誰か来ます!」
「……ん」
名を呼ばれた厳つい顔の大きな男が振り向き、東の道を見ていた。
この男は団員の『ボルウィン・ハーシュ』と言う男だった。
彼は元冒険者で、『シールドソード』と言う、楯の先に鋭い刃が付いた楯を武器に戦う戦士だった。
全身を金属の鎧で身を包み、自分の背丈と同じぐらいの大きなシールドソードを構え、先頭に立って戦っていた。
そしてその楯を良く見ると、僅かに赤色のオーラが流れ出ていることから、どうやらレアな楯のようだった。
また彼は、高齢のため、現役の冒険者を引退したところだった。
デュランたちは、墓の入り口に辿り着いていた。
「……ここが入り口か……」
3人が近づくなり、ボルウィンが野太い声で話しかけてきた。
「君たち!ここは魔物が現れて危険だ!町の東か、北にある大地の神殿へ行きなさい」
デュランがボルウィンに説明をした。
「悪いが、この奥に仲間がいるんだ。そして、そいつらを助けたいんだ!」
ボルウィンは、「仲間」という言葉に反応した。
「……仲間?………ああ、君たちは、彼らの知り合いか……」
シュリンがすぐに尋ねていた。
「知っているんですか!?」
「我々の団員と共に、悪魔に取り憑かれたクリス・ヴィガルの元へ行くために、墓地の奥へと向かったよ」
それを聞いてシュリンは少しだけ安堵した。
(……良かった!とりあえず、今のところは無事みたい!)
「よし、んじゃ、俺たちもそこへ行くか!」
「うん!」
「はい!」
デュランたちは門を通り、墓地に入った。
すると、ボルウィンが声をかけてきた。
「―――待つんだ!」
ボルウィンは、楯を持ち上げ、3人に近づいてきた。
「君たちだけだと、危険だろうからな。この辺りのスケルトンは、粗方倒したし、ここは部下に任せて、私もその場所まで行くことにしよう!」
「いいのかよ、おっさん」
デュランにそう言われた、ボルウィンはその言い方が気に食わなかったのか、眉をひそめ叫んだ。
「わたしは、おっさんと言う名前ではない!ボルウィンと言う名前があるんだ!」
すかさず妹のシュリンがボルウィンに謝っていた。
「すいません、ボルウィンさん。うちの兄が礼儀知らずで……」
「てめぇ、シュリン!」
ボルウィンは豪快に笑っていた。
「わはっはっは!良い妹さんを持っておるな、お前さん。わたしは、ちゃんと名前を読んで欲しかっただけだ、構いはせんよ。それより、早く行くことにしよう!」
「はい!」
「デュラン、行きましょう!」
「わーかったよ!」
少しだけ、膨れっ面になり、デュランは3人の後に続いて行った。
墓地の中は、いつもなら手入れがされており、あたり一面に故人が眠る場所の上に、白い石や木を十字にした物が綺麗に並べられて置かれ、整然とした場所であった。
しかし、悪魔によって故人たちが墓から呼び出されたため、木や石で出来た墓は壊され崩れ、荒れ果てていた。
その景色を見たデュランは、思わず呟いていた。
「酷いもんだ……」
辺りに散らばった骨を、ボルウィンは悲痛な表情で見ていた。
(全てが終わるまでは……どうか許されよ……)
そんな場所を進んでいくと、今度はなだらかな丘が見え始めた。
木の一本も生えてない丘で、丈の短い草が生えている場所だった。
そしてそこに墓がたくさんあるのが見えた。
彼らはそこへ向かって歩いた。
すると月の光の差し込む丘の上に、一階建ての白い建物が見えた。
ボルウィンが、その白い建物を指差した。
「あそこが、確か一番奥の場所だったはずだ」
ボルウィンは、レイアークの町の西のエリアを中心に巡回することが多かったため、墓地の内部まで詳しく知っていた。
「あれか……すぐに着きそうだな!」
デュランは、そこを見つめながらすぐに歩き出そうとした。
すると、建物のある場所から、光と共に爆発音が聞こえた。
ボルウィンが叫んだ。
「―――誰か戦っておるようだ!」
シュリンは、不安げな表情でその場所を見ていた。
「………きっと、エル先輩たちだ」
「よし、行こうぜ!」
「行きましょう!」
そして、進もうとしたとき、彼らの進む道を阻むように、スケルトンたちが、近くの森の中から、ぞろぞろとたくさん出てきていた。
「くそっ、邪魔だぜ!」
デュランは、目の前にいたスケルトンに攻撃を仕掛けた。
手に持った短剣で、首をはねた。
頭蓋骨は、ボルウィンの近くに転がり落ちた。
ボルウィンは、大きな楯を頭蓋骨の上に乗せた。
「御免!」
すると、骨の砕く音がし、一瞬で頭蓋骨は粉々になっていた。
エリーシャとシュリンは、感心していた。
「凄い楯……」
「ほんと……」
「このボルウィン、この楯がある限り、誰にもやられはせんよ!」
「……だがボルウィンのおっさん。敵は、あの丘まで、結構いるみたいだぜ?」
デュランの言うとおり、丘には目的なくうろついているスケルトンたちがいるのが見えた。
彼の言葉を聞いたボルウィンは、楯を構え叫んだ。
「私が、先頭に立つ!君たちは、付いて来なさい!」
「わかった!」
「はい!」
そして、彼らが進もうとしたとき、シュリンの叫び声が聞こえた。
「きゃああ!」
デュランたちは、慌てて振り返った。
「―――シュリン、どうした!?」
シュリンを見ると、彼女の足に地面から出た手が纏わりついていた。
それは、死人の手だった。
「……こいつは、『ゾンビ』だ!」
【ゾンビ】
腐敗した肉体を持ったアンデッドの総称。
肉が無くなっていないまま、アンデッドとして甦ったもの。
人が死に、肉体が朽ち果て、そして肉が無くなって骨となったときに甦ったものは、スケルトンとなる。
動作はスケルトンよりも遅く、そして知能も低い。
しかし腐肉がある分、スケルトンよりは耐久力がある。
生者の匂いに反応し、その肉を求めて攻撃してくる。
すぐにデュラン達は、妹を救うために動いた。
エリーシャは、シュリンの手を握り、引っ張った。
「シュリン!」
デュランは、短剣でゾンビの手に攻撃を加えた。
「妹から離れやがれ!」
敵の手首が切れ、シュリンはゾンビの手から逃れることが出来た。
しかしゾンビは、そのまま土の中から低いうめき声を上げながら這い上がってきた。
―――ウー……ウー………ウウッ……。
「こいつから、倒しちまうか」
デュランとボルウィンが、そのゾンビに近づいたとき、彼らの周りから同じようなうめき声が聞こえ、地面から何体ものゾンビが現れ始めていた。
シュリンがデュランの後ろに隠れ、周りを見ていた。
「ここ辺りは、新しい死体が埋めてある場所みたい!」
「まずは、ここからやるしかねぇな!」
デュランは、そう叫ぶとすぐに、投げナイフを腰のポーチから取り出し、一本をゾンビへ目掛け投げた。
彼のナイフは見事にゾンビの額の中心に刺さった。
しかし、ゾンビには特にダメージを与えているようではなかった。
腐った肉体を持ったアンデッドは、その歩みを止める事無く、デュランたちに近づいてきた。
近づいてくるゾンビに、シュリンは兄に抗議の声を上げた。
「うわっ!ちょっと、兄貴!全然、効果ないじゃない!」
「タフな野郎だぜ……」
そしてボルウィンが動いた。
彼はシールドソードの刃の部分でゾンビの頭部を刺し、そして間を置かずに肘を使い、楯の部分を押すと敵を殴り飛ばした。
ゾンビの肉体が砕け散り、そして倒れた。
「ここは私に任せて、君たちは……」
ボルウィンがそう言おうとした時、何体かのゾンビが突然倒れた。
「―――どうした!?」
皆、驚いた。
そして、ゾンビが倒れた場所の奥を見ると、そこはデュラン達がやって来た道で、そこから誰かがやって来ていたようだった。
人の気配を感じたデュランは叫んだ。
「―――おい、誰だ!?」
暗闇の中から、2人の人物が現れていた。
1人は、黒い髪で全身をその髪と同じ黒い色の服で身を包み、首に赤紫のストールを巻き、そして手には握る所と先端が十字になった銀製のメイスを持っていた。
丁度、成長期に入ったぐらいの年齢の少年だった。
そしてもう1人は、ロングソードを手に持ち、青いスケイルメイルを着たブルーアッシュの髪の青年だった。
そう彼は、クフィン・ダルグレンだった。
クフィンに気付いたシュリンは、すぐに彼の元へ駆け寄った。
「クフィンさん!」
クフィンは、シュリンがいたことを知るとすぐにエルディアの事を尋ねていた。
「シュリン、エルディアやカーリオはどこだ?」
「恐らくですけど……あそこだと……」
シュリンは、丘の上にある白い建物を指差した。
クフィンは、そこを見つめた。
「あそこか……」
ボルウィンもこの町を守る同じ自警団員だったため、クフィンの事を知っていたようだった。
「……ダルグレン自警曹!君は確か、自警将殿とマキュベル邸のパーティーに出席していたのではなかったのか?」
クフィンは、先ほどのやり取りを思い出しながら、忌々しげに答えていた。
「ボルウィン自警尉……団員は、さっき辞めて来ましたよ……だから俺はもう、誰の命令も受けなくていいんだ……」
ボルウィンは、驚いていた。
「―――なんと!?」
ボルウィンは、その訳を聞こうとしたとき、クフィンと共にやって来た少年が遠慮しながら、話しかけてきた。
「えっとー、あの……とりあえず、このゾンビをみんなでどうにかしません?」
すでに、デュランは、ゾンビと戦っていた。
「あんたら、喋ってないで戦ってくれ!」
赤毛の青年は、素早く動き、ゾンビの首や頭に短剣を突き立てダメージを与えていた。
「……そうだったな」
「クフィンさん、あの子は?」
シュリンが尋ねていた。
「見れば分かるはずだ」
クフィンはそう言うと、少年に話しかけた。
「ベルフレード!俺たちで、奴らの動きを鈍らせる。止めは、お前がやれ」
デュランやボルウィンから攻撃を喰らい、ふらついた足取りのゾンビに、その少年はぼやきながら、近づいて行った。
「はぁ……酷いよ、父さん……帰ってきたところだったのに……まいったなー。それにまだ僕は見習いみたいなもんなんだけど……いいのかなぁ……」
そして少年は、魔法を唱え始めた。
「シュリン、とにかく、今はここをどうにかするぞ!」
「はい!」
クフィンとシュリンもゾンビに攻撃を開始していた。
デュランやボルウィン、クフィンは、それぞれの武器でゾンビを攻撃し、相手の体の部分を切り落とし、動きを鈍らせていた。
シュリンは、魔道師として魔法を使っていた。
エリーシャは、水の魔法を使うか決めかねていた。
(どうしよう……デュランに、あまり使ってはいけないって言われたけど……だけど、みんなが戦っているのに……私だけ……)
人魚の娘がおろおろしている内に、ベルフレードと言う名の少年の魔法が発動していた。
しかし彼は、ゾンビに向けてではなく、自身が持っているメイスに魔法を発動させていた。
「―――グレアハンド!」
両端にある十字架の部分を左右の手でそれぞれ握りしめていたため、メイスが浄化の光で包まれた。
そして、光が落ち着くと、彼はメイスを左右に素早く引っ張った。
すると、メイスが溶けるように伸び、そして分かれた。
彼の手には、2本の尖った短剣が握られていた。
(何、あの武器……)
シュリンは、見たことのない武器に驚いていた。
デュランは、彼が手に持つ武器の形状を知っていた。
「ありゃ、『スティレット』だ……すげえな、形状が変わりやがったぜ……」
【スティレット】
短剣の一種。
十字架のような形状で、刃が無い。
その代わり、先端が針のように尖っている。
鎧などの隙間に突き刺すことが出来る。
また、騎士に誇りある死を与えるために、止めに使われることもあったと言う。
少年は、その光る短剣を手に持ち、彼の左右にいたゾンビの頭を刺した。
すぐに魔法が発動し、刺さった部分が発光すると、僅かに膨張し、皮袋に空気を入れすぎた時に起こるような「ボンッ!」と言うような爆発音が鳴ると、一瞬のうちに頭部を破壊した。
そして、彼はすぐに左右の手に持ったスティレットの針ようになっている部分を重ね合わせた。
すると銀の短剣は、最初に見た一本のメイスへと形状を元に戻した。
(―――よし、うまくいった!これなら、なんとか出来そうだ!)
ベルフレードと言う名の少年は、再びグレアハンドの魔法を唱えた。
「―――グレアハンド!」
その様子を見たボルウィンは、感心しているようだった。
(なるほど……あのメイス……1回の魔法で2回分の効果を発揮させること出来るのか……考えてあるな……)
シュリンは、彼の戦い方から、何かを思い出していたようだった。
「クフィンさん、あの人ってひょっとして………」
ゾンビを一体倒したところで、クフィンは、シュリンに答えていた。
「あいつは、エクソシストだ……まだ見習いらしいが……ここに来る途中で、ヴァベルの教会に寄ったんだ。そして中に入ったが……」
「彼しかいなかったと?」
「そう言うことだ……心得があると言うことだったから連れて来た……」
「なるほど……(大丈夫なのかな?……)」
不安に思っている妹とは違い、デュランはボルウィンと同じように感心して見ていた。
(……あれがエクソシストか……始めて見たが……面白れぇ戦い方するんだな)
そして彼らは、大勢現れた腐肉の肉体を持った不死者を本格的に倒し始めた。
オリディオール島の中央にある町、レイアークの町の中にある墓地の敷地内の丘で戦っている者たちがいた。
その丘には白い建物があった。
月の光をその白い建物は、反射し、少しだけ辺りを明るくさせていた。
そして、その明るくなったところで、何人かの人が骨の魔物たちと戦っているようだった。
褐色の肌の戦士の女が両手で長剣を握りしめながら、荒い息を付き、仲間に話しかけていた。
「………はあ……はあはあ……ちょっと不味いことになってきたね……体が重くなってきたよ……」
女戦士の隣にいたのは、朱色のクロークを着てロッドを手に持った優男風の魔道師だった。
彼もまた、女戦士と同じような肌と髪の色をもっていた。
そして、疲労した顔つきで、後ろにいる人物に話しかけた。
「私も魔力を使い過ぎたかもしれません……腕が痺れてきました……エルちゃんは、大丈夫ですか?」
白い髪の優男に尋ねられたのは、青い髪の魔道師の女だった。
彼女は、ちょうど魔法を詠唱し終わったところで、その魔法を放つ相手を睨みつけながら、優男に答えていた。
「さっきのファイアーボールで……」
そこで彼女は、しゃがみ込んでしまった。
彼らは、クリスを追って墓地の奥深くへ向かったエルディアたちであった。
「君、大丈夫か!?」
自警団の男がエルディアに駆け寄ろうとしたとき、建物の入り口にいた人物が彼らの周りにいたスケルトンに命令を下した。
「……邪魔な人間め……殺れ!」
エルディアの周りにいたスケルトン達は、手に木の杖を持っていた。
そして、命令を聞いたスケルトンたちは、握り拳ほどの大きさの火の玉を放った。
ミレイが叫んだ。
「―――みんな、来るよ!」
エルディア達は力を振り絞り、立ち上がると、敵の放ったファイアーボールを避けた。
一発が自警団の男の腕に命中する。
彼の腕が炎に包まれ、一瞬燃えた。
「―――くっ!……」
男は苦痛に顔を歪め、地面に手に持っていたショートソードを落とした。
落とした剣の近くには、別の自警団員が倒れていた。
その人物は冷たい体になっていて、命はすでに無いようだった。
しかし、体には傷一つ無かった。
そして、スケルトンメイジの放った火の玉をなんとか避けることが出来たエルディアも、すぐにファイアーボールの魔法を打ち出し、見事相手を倒していた。
「あれがある限り、うかつに近寄れませんね……」
カーリオの目線の先には、クリスが片手で持っている鏡があった。
鏡は禍々しい赤黒い妖気を放ち、そして鏡の部分から青白い手が出ていた。
エルディアはその手の名称を呟いた。
「カロンの手……」
魔女メディアの手紙に書いてあったセット効果の事で、その手に少しの間触れられると、魂を握りつぶされ、即死すると言うことだった。
倒れている自警団員の男は、その効果によって、冥界へと旅立って行ったのだった。
ミレイが、魔法を使用してくるスケルトンを1体倒すと、視線をクリスの方へ向け、隙を伺っていた。
「―――はっ!………あの鏡を破壊しないとダメだね……」
「私が、なんとか隙を作ってみます!」
詠唱を終えたカーリオが魔法を唱えようとしたとき、後ろから叫び声とうめき声を合わせた様な声が聞こえた。
「……ん?」
その声は、この辺り一帯に響き渡った。
するとエルディア達の体が、重くなるような感覚があった。
声を聞いたエルディア達は、顔をしかめた。
「くそっ!またあいつか……」
ミレイは、その魔物を睨んでいた。
魔物は、どうやら若い女のゾンビのようだった。
ボロボロの布を体に巻き、両手を広げ、声を出すたびに、なぜか体が半透明になっていた。
エルディアが敵の名前を口に出した。
「『バンシー』……」
【バンシー】
ゾンビの一種。
若い女性が死ぬと稀に出現することがある。
特に失恋や裏切りなど、強い思いや恨みを持ったまま、命を失った者がなりやすいと言う。
金切り声、叫び声、うめき声などが合わさったような声を出す。
それらは、若くして命を失った彼女たちの心の叫びだと言われている。
声を出すと体が半透明になり、声を聞いた者の足を重くさせ、自身の移動速度が一瞬増す能力がある。
指には鋭く長い赤い爪があり、攻撃を喰らうと、炎症を起こすことがあるという。
また、その声を聞いた者には死が訪れると言うことや、近しい者に死人が出る時などに現れることもあると言う、様々な言い伝えが残っている。
バンシーが複数現れた場合などは、名のある人物が死ぬときだとも言われていた。
「あいつらから倒す!2人は、クリスの相手を頼むよ!」
ミレイは、バンシーの隣りにいた、スケルトンメイジへ一気に近づき、長剣を真横に振りぬいた。
彼女の剣は、骨の魔法使いの体を捕らえた。
骨の魔物はバラバラに砕かれ、そしてその隣りにいたバンシーにも、ミレイの長剣が襲った。
しかし、バンシーは金切り声を出し、体を薄い色にさせるとふわりと一瞬浮いて素早く移動し、バルガの女戦士の攻撃を避けた。
「ゾンビのくせに素早いね!」
ミレイは、すぐに両手で長剣を持ち、今度は走りながら鋭い突きを放った。
「―――はあっ!!」
するとゾンビの女は、またしても声を出した。
そして、声を利用した素早い回避行動をするかと思われた。
だが、バンシーは前へ進み、ミレイの真横に来た。
(―――何!)
そして腕を振り、攻撃を仕掛けてきた。
バンシーの攻撃は、鋭い爪の攻撃だった。
(……やるね。―――だけど!)
ミレイは自らが放った突きを地面へ向け行い、長剣を大地に刺した。
そして彼女は空中へ飛び上がり、バンシーの攻撃を回避した。
着地と同時に、剣を水平に振った。
バンシーは移動しそれを避け、後ろに回り込むと腕を振り、彼女の露出していた腕へ攻撃をしかけた。
「―――うっ!」
ミレイの腕に、鋭い爪で攻撃された痕ができた。
しかし、彼女はその瞬間を逃さなかった。
ミレイはしゃがみ込んだまま、敵に足払いを放っていた。
そしてバンシーにその攻撃は当った。
すると敵は転倒し、地面に片手をついた。
ミレイは、その隙を逃すまいと長剣を首目掛けて振りぬいた。
そこでバンシーは、一番大きな声を張り上げた。
―――ギギャア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!
すると、彼女の体は、ふわりと一瞬宙に浮き、ミレイの攻撃をかわしていた。
若きバルガの女戦士は大きな声に顔をしかめながら、驚いていた。
「……なんて……奴なんだい!」
そして、バンシーは両腕をミレイへ向け、伸ばしてきた。
首を掴れ、爪がめり込んだ。
「う、ううう……」
一瞬、意識を失いそうにミレイはなった。
そして、バンシーが腐って醜くなった顔を近づけてくる。
強い腐臭を感じた。
「―――くそっ!」
そして、バンシーが噛み付こうとした時、ミレイは長剣を手放し、敵の頭を殴りつけた。
「―――はあ!」
ゾンビの女は飛ばされた。
ミレイは匂いと苦痛から不快感をあらわにしながらも、己の未熟さを実感していた。
「はあ……はあ……あたしは、ほんとにまだまだ未熟なんだね……まだ母さんのようになるには程遠いね……」
そして彼女は首や腕から血を流しながら長剣を手に取り、立ち上がった。
「……だけど、必ず……たどり着くよ!」
敵を睨みつけ走ろうとした、その時、爆発音と共に連続で炎が辺りに立ち上がっていた。
「―――これは!?」
振り返ると、エルディアたちがクリスとスケルトンメイジの集団と魔法を撃ち合っている姿が見えた。
(さっさと終わらせないと不味いね……)
ミレイは、再び攻撃を開始した。
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