Dark world~Adventurers~

yamaken52

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第十八話 3

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淡い水色の半透明の膜を幾重にも重ねたようなものが現れ、エルディアの体を包み込んだ。

そして、スケルトンの放った刃は、その膜にあたると、一瞬止まり、その後、振り回す速度を落とし、弾かれた。

エルディアは、すぐに敵から離れた。

(……あぶなかった……)

追いついたミレイが、敵を後ろから攻撃していた。

「―――喰らいな!」

しかし、スケルトンは横に飛び、それを回避する。

―――ブンッ

そして、敵はカーリオを攻撃しようと彼に近づいた、そのとき、彼は魔法を完成させた。

カーリオもまた、バルガの血を引いているためか、母や妹と同じように嬉しそうに笑みを浮かべながら、魔法を発動させようとしていた。

「(今宵は祭りの夜……舞い踊るのも……また……ふふ……)……大地よ、跳舞せよ!」

そう唱えると、彼の持っていたロッドの赤い玉の部分が、黄緑色の光を放った。

そしてカーリオは、敵の足元へ飛び込んだ。

飛び込むと同時に、光るロッドの玉の部分を地面へ押し付け、彼は叫んだ。

「―――『グラウンド・ライジング』!!」

すると、カーリオの周囲の地面が揺れた。

そして、彼の周りの地面が盛り上がり始めると、今度はそこから無数の円柱状の土の柱が空へ向かって突き出るように、道に敷き詰められた石を打ち出しながら出現していた。

カーリオの背と同じぐらいの高さの、いくつもの土の柱がスケルトンを襲った。

顔や体、足や腕など、様々な場所に柱は現れては砂となって崩れ消え、敵の体全てを、殴りつけるように骸骨の戦士に、容赦なくダメージを与えていた。

なんども体制を立て直そうとするが、次から次へと襲ってくる土の柱の前に、為す術もなかった。

そして剣闘士だった骸骨の戦士は、もがきながら、魔法の効果範囲外へ出ようと試みた。

しかし、その時ミレイが飛び上がり、長剣を敵の頭目掛けて、振り下ろしていた。

「……古代の英雄よ、安らかに眠りな!」

かつて名を轟かせた闘技場の英雄は、白い髪のバルガの女戦士によって、頭蓋骨を真っ二つに割られた。

割れた部分から、黒に近い青紫の気体があふれ出ていた。

そして、それはカーリオの放った魔法の効果と共に、消えてしまった。


【グラウンド・ライジング】

大地の魔法。

術者の周囲に、土や石の柱を出現させる事ができる。

柱の攻撃は、打撃に近いダメージを与えると言われている。

また、込める魔力の量によって、範囲や効果時間などが変わる。


敵を倒したミレイのもとに、エルディアとカーリオは近づき、その亡骸を見ていた。

かつて闘技場で名を馳せた英雄の骨は、バラバラになって地面に散らばっていた。

それを見たエルディアは、哀れに思った。

「静かに眠らせてあげたいけど……」

「……そうですね。しかし、今は……」

ミレイは、奥に倒れているデニスを調べていた。

「……だめだね……この男……死んでるよ」

「……そうですか……あまり面識はありませんでしたが……」

カーリオは、彼に近づくとデニスを仰向けに寝かせ、片手をみぞおちあたりに添えさせた。

そして目を閉じ、3人はこの自警団の男の冥福を祈った。

すると、墓地の奥から、何か音が聞こえ始めていた。

「―――何!?」

エルディアは、音のする場所を見つめた。

音は、乾いた木の棒同士を擦ったり、軽く叩き合ったりしている時に出るような音だった。

ミレイが何かに気づき、叫んだ。

「2人とも、奥からたくさん何か来るよ!」

3人が武器を構え、警戒しながら見つめていると、墓地の奥からぞろぞろと、スケルトン達が現れていた。

そしてその数は、列を成すほどだった。

「……これは、また……多いですね……」

「だけど、どれも普通のスケルトンみたい……」

「これは元を断たなきゃ、だめみたいだね!」

「自警団がじきに到着するはずですが……」

「待っていたら、増えていくだけだわ……ここは本来、故人が安らからに眠る場所……」

「なら、ここを強行突破して、一気にクリスの元へ行こう!普通のスケルトンなら、3人で倒せるよ!」

ミレイの提案に、エルディアは反対した。

「……だめよ、危険だわ!何が甦らされているか分からないのよ?」

反対されたミレイは、敵の群れを睨みながら、長剣を握りしめ、墓地の奥へと歩き出そうとしていた。

「待つのは、あたしの性分じゃない!」

カーリオがすぐに妹に近づき、肩に手を置き、諭す様に話しかけた。

「ミレイ……逸る気持ちは分かりますが、エルちゃんの言うとおり、ここは、町に広がるのをここで抑えながら、自警団の到着を待つべきです。あなたの欲望を満たすために、我々はここに来たのではないはずですよ……」

2人から言われたミレイは、渋々といった感じで承諾した。

「………わかったよ。(さっきのスケルトンと戦って、少し遅れをとったから、ちょっと熱くなったみたいだ………戦いにおいて、冷静さは、何よりも必要だったね……特にあたしには……)」

ミレイは母親のジルメイダに、よくそのことについて指摘されていた事を思い出していた。

そして、「常に冷静である兄を少しは見習わなければ無いらない」、と彼女は思った。

ミレイは落ち着きを取り戻すと、今度は落ち込んだように表情が少し沈んでしまった。

(母さんみたいになるには、まだまだだね……)

そんなミレイを見たカーリオは、冗談交じりに両腕を広げ、話しかけていた。

「……ミレイ、兄の腕の中で泣いてもいいんですよ?私の腕は美女を抱擁するだけのものではありませんからね、さあ!」

そんな兄の姿を見たミレイは、すぐにカーリオを睨み付けた。

「……叩き切るよ?」

妹の表情が元に戻ったのを見たカーリオは、笑顔でそれに答えた。

「おー怖いですねぇ……ふふっ(あなたは、その表情の時が一番、実力を出せるはず……本当は、何気ない笑顔がいいんですが……)」

どうやら、兄として彼なりに元気付けたようだった。

そして、エルディアが何かに気づき、バルガの兄弟に向かって叫んだ。

「―――2人とも、骨の集団が来るわ!」

カーリオはロッドを、ミレイは長剣を構えた。

「はぁ……たくさんいますね……」

気持ちを元に戻したミレイは、仕返しとばかりに兄に話しかけていた。

「カー兄、美女だった人がいるかもよ?ははっ!」

妹の言葉を聞いた彼は、骨の集団を眺めた。

「元美女ですか……見る影もありませんね……」

そしてエルディアが、敵の集団にファイアーボールを放っていた。

「―――ファイアーボール!」

炎の玉は勢い良く飛んでいくと、集団の先頭にいたスケルトンに命中し、小さな爆発が起こった。

炎と煙が出て、辺りの草を焼いていた。

どうやらエルディアは、通常よりも魔力を込めて放っていたようだった。

エルディアの魔法の威力を見たミレイは感心していた。

「やるね、エルディア!」

「なんとか、ここを守らないと……」

「私も、援護します!ミレイ、前衛を頼みますよ!」

「ああ、まかせなよ!」

3人の戦いが、再び始まった。


場所は変わって、ここは、クフィンやエレーナ達がいるマキュベル邸。

様々な場所から明かりが漏れているこの豪邸から、光だけではなく、優雅な曲も溢れ出ていた。

その豪邸の中で、クフィンはエレーナの手を握り、音楽に合わせて踊っていたのだった。

ゆったりとした、緩い曲調の音楽が響き、2人以外にも男女がペアとなって、会話を楽しむかのように舞い遊んでいた。

エレーナは、終始嬉しそうに目を輝かせ、この時間を楽しんでいた。

「フフッ、クフィン!この曲は男性が女性を優しくリードする曲よ、がんばって!」

対照的にクフィンは、相変わらず無表情だった。

そして、目の前にいる女のことを思った。

(………こいつは、なぜそこまで楽しめるんだ?……今日の俺の態度を見れば、分かるだろう……こんな所に来たくは無かったのを、お前は知っているはずだ……悪魔のような女め……)

そこで、クフィンは奇妙なことを思った。

(―――まさか……こいつ!……悪魔に取り憑かれているのか?)

クフィンは、エレーナの手を強く握り、彼女の顔へ自分の顔を近づけ、そして深紅のドレスを着た女の目を強く見つめた。

「―――えっ!ちょっと、どうしたのクフィン?」

突然のことでエレーナは驚いた。

そして恥ずかしさから、顔を少し赤らめ、愛する男の視線から逃れるように顔を背けた。

エレーナのそんな態度を見たクフィンは、自分の考えが杞憂だった事を悟った。

(そんなはずは、無いか……)

そして、部屋の入り口から、慌てた様子の自警団員が入ってきた。

「ダルグレン自警将!大変です!」

音楽の演奏が止まった。

ジェラルドは、入ってきた部下を睨みつけた。

「もう少し、静かに入って来れんのか?」

「……あっ!これは申し訳ありません!しかし、緊急事態なのです!」

「……どうかしましたか?」

団員の慌てふためく姿を見たチェスターが、表情を曇らせ、ジェラルドに尋ねていた。

ジェラルドは、部屋にいる人々を安心させるために笑顔で叫んだ。

「部下が驚かせようで申し訳ありません。ですが、みなさん、ご安心ください!ここは特に治安の良い、安全な島の中央の町です。起こることなど、たかが知れています!そして、私はこの地域の安全を守る最高責任者でもあります!みなさんの安全は、この私、ジェラルド・ダルグレン自警将が保障致します!ですから、どうかご安心を!」

そして、楽器を持っている者のところへ行き、演奏の再開を頼んでいた。

曲が再び奏でられ、部屋を満たした。

人々は、不安な表情から解放され、元の賑わいを取り戻していた。

「ちょっと失礼します……」

チェスターにそう言うとジェラルドは、部屋の隅に部下を呼び寄せ、話を聞いていた。

団員の表情から胸騒ぎを覚えたクフィンは、エレーナから離れ、小さな声で話している二人に近づいた。

「―――あ、クフィン!(……もうっ!)」

(………何かあったのか?)

近づくと、冒険者を引退した初老の団員が、興奮気味にジェラルドに話しかけていた。

「先ほど、通報が何件かありまして……内容は町の西側で魔物を見たと言うことです!」

その報告を聞いたジェラルドは驚いていた。

「―――モンスターだと!?この島の中央のレイアークの町でか?」

「はい、話によると、スケルトンが多数だと言うことです!」

「大勢いるというのか?」

「はい!」

「この島に……信じられん……どういうことだ?……」

ジェラルドは目を左右に揺らし、動揺しながら考えていた。

そして、あることに気が付いた。

「………町の西側と言ったな?」

「はい!しかし、それが何か?」

そのやり取りを聞いたクフィンも気が付き、思わず口に出していた。

「西には、墓地がある……」

ジェラルドは、息子を見た。

「そうだ……お前の言うとおりだ。そこ以外に特に思いつかんが……しかし、どうやって……」

「それなんですが、通報者の1人にシュリン・マーベリックと言う、魔法学院の学生がいまして、その者が話していたんですが……」

その名を聞いたクフィンの表情が変わった。

そして、その団員のもとへ近づいた。

「―――おい!その話、詳しく聞かせてくれ!」

「ああ、かまわんよ」

自警団の男は、話し始めた。

その人物が言うには、ヴィガル商会のクリス・ヴィガルが死者を甦らせる事ができる杖『死者の杖』を持ち、墓地へ向かった可能性が高いと言うことを、その女の子の学生が話していたとの事だった。

そして、自分の仲間がそこへ向かったと。

クフィンは、その説明を聞いて、すぐにエルディアの事が頭をよぎった。

「―――エルディア!!」

クフィンは、すぐに歩き出した。

しかし、後ろから声がかかった。

「クフィン!お前はここに居ろ!」

父親のジェラルドだった。

彼はすぐに、クフィンに近寄り、小さな声で話しかけた。

「お前はここに居て、このマキュベル邸を守り、エレーナを安心させてやれ」

「ここには、入り口に団員が守りに付いているでしょう……俺は必要ないはず……」

「クフィン、マキュベルの人々は、お前に守って欲しいと思っているんだ。……少しは点数を稼ぐ事を覚えろ」

クフィンは、すかさず反論していた。

「しかし、スケルトンが確認されたのは西です。つまり、この東の端にある場所に魔物の姿が現れたならば、もうそれは、町全体が魔物に占拠されているのと同じではないのですか?」

いつの間にか、エレーナがクフィンの隣にいた。

「クフィン、お義父さまの言う通りよ。あなたは、ここに居て……そうしてくれれば、みんな安心するわ!」

「エレーナ、俺は自警団員だ。町を守るのが俺の仕事だ」

「そんな危険で泥臭い事、他の人に任せればいいじゃない。クフィンが怪我をしたらどうするの!?」

「エレーナ、町の西には、仲間がいるんだ。恐らく、戦闘状態にあるだろう……だから、俺は行く」

エレーナは去ろうとするクフィンの手を掴み、尋ねた。

「エルディアの名前を叫んでいたけど……もしかして、そこにいるの?」

振り返るとクフィンは、その問いかけに迷う事無く答えた。

「ああ、そうだ。いるはずだ!」

「(―――またあの女……)………だめよ……クフィン……行ってはだめ……」

「離せ、エレーナ……」

エレーナは、手を掴んだまま離さなかった。

そして、彼女は心に秘めていた思いを語った。

「クフィン!私達と彼らじゃ、生きる場所が違うのよ。食べる物や着る物、住んでいる場所。そして生活する中で生まれる価値観や物の見方、全部違うのよ!……彼らはみっともなく、その日その日を生きるだけの人々……でも、あたし達は違う!なに不自由なく絢爛豪華で豊かな毎日を送りながら、世の趨勢を眺めることができるわ!それは、より高きに立つということ……つまり、選ばれた人なのよ!ここ以外にあたなが満たされることなんてないわ!だから、あんなラーケルの田舎娘なんて放っておいて……」

エレーナの熱い思いに答える事無く、クフィンは冷たく言い放っただけだった。

「手を離せ、エレーナ……」

強引にエレーナの手を離したクフィンに、父親のジェラルドが、息子に向ける目とは思えない冷酷な目を向けながら近づき、叫んだ。

「クフィン・ダルグレン自警曹………君は、このマキュベル邸を魔物から守る任に就きたまえ!―――これは命令だ!」

「…………」

しばし、この親子は睨み合った。

(俺は……俺は、どうしたいんだ?……)

クフィンは自問していた。

様々なことを考えた。

今まで生きてきた事やこの流れに身を任せた後の事、これまでに出会った人々。

色々な言葉や映像が脳裏をかすめる。


「……あなたが、満たされることなんてない」


そして、先ほどのエレーナの言葉の中に、クフィンの心に変化をもたらす言葉があったことに、彼は気付いた。

(………俺は……)

クフィンは、漠然とだが自分の進むべき道を見たような気がした。

ブルーアッシュの髪を持つ自警団員の青年の目に、僅かだが光が戻った。

彼は、その目でエレーナを見つめ、話しかけた。

「エレーナ、お前の食している物や身に着けているものは、誰かが一生懸命、汗を掻いて作り上げた物だ……より高き者ならば、それを忘れるべきではないはずだ。そして、この町の治安が維持されているのもそうだ。命を賭け戦っている者がいるからだ……最後にお前から良いことを聞いた……それは、俺の心が何によって満たされるのかと言うことだ。俺は、お前が言う暮らしで満たされることはないんだ……俺が満たされるのは………あの女の笑顔を見た時だ……」

クフィンは、今回のクエストのことを思い出していた。

(……そうだ……俺は、彼女といることで、初めて満たされたんだ。理屈じゃない温かい何かで、心が埋まり、そして満たされたんだ……だから………俺は……)

この時、クフィン・ダルグレンの心は決まった。

彼の目に、クエストから帰ってきた時のような、力ある生気の宿った鋭い眼差しが戻った。

そしてクフィンは、その眼差しを父親に向けた。

「父よ、俺は今をもって、自警団を辞める……」

彼は、サーコートの胸元に付いていた自警団の証である、『ガーゴイル』と言われる魔物をかたどったバッジを外し、テーブルに置いた。

ジェラルドは、表情を変える事無く、息子に尋ねていた。

「クフィン、生活はどうするつもりだ?」

クフィンは、近くの壁へ向かって歩いた。

「生活か……俺と俺の愛した人と……あと、1人2人が食べていけるだけの糧は、俺自身が稼ぐさ……これでな!」

そして彼は部屋の隅の壁に、かけていた自らの剣を手に取り、父に見せた。

「クフィン!」

エレーナの声を無視し、彼はそのまま、部屋を出て行った。

部屋には、泣き崩れるエレーナがいた。

そして、ジェラルドは、エレーナに近づき、彼女の肩に手を置き、話しかけた。

「エレーナ、大丈夫だよ……」

「うう………でも、お義父さま……彼は……ううっ……」

泣き続けるエレーナとは違い、ジェラルドは笑みを浮かべていた。

「あいつは必ず戻ってくるよ……ふふふ……私には分かるんだ……あいつは、戻ってくる……」

エレーナは泣くのを止め、ジェラルドを見た。

「………本当ですか?」

「ああ、本当さ。私と彼は同じ血を持った親子だからね。あいつの事はわかるんだ」

「……でも……」

「エレーナ、クフィンと君は、まだ若い。だから、少しだけ、あの男に時間を与えてやってくれないか?」

「クフィンが戻ってくるのなら……」

渋々承諾したエレーナを見たジェラルドは、静かに立ち上がると、息子が去っていった場所を見つめていた。

(我が息子よ……暗黒世界へ赴き、絶望して来るがいい……それまで、お前は自由だ……ふふ………)

そして、ジェラルドも部下を伴い、部屋を出て行った。

自ら陣頭指揮を執り、レイアークの町を魔物から守るために。


町の中央辺りで、デュランとエリーシャは、歩いていた。

「おい、エリーシャ……お前、さっき言ってた事、嘘だろ?」

エリーシャは、振り返った。

「ふぇ、にゃにがべふか?」

「食いながら喋るんじゃねぇ。何言っているか分からねえだろ!」

彼女は、かぶりついていたパンに揚げた肉とハーブが挟まった物を口から離した。

「あ、すいません……それで、何がですか?」

「お腹が減るのは魔力を使うってやつだ」

「本当ですよ、本当です!」

「単に腹が減ってるだけだろ?」

「そんなことないです!」

彼女は、この人間の世界が珍しいらしく、様々な物に興味を示していた。

特に、食べ物に興味があるようだった。

露店で、美味しそうな物を見つけては、デュランにせがんで買ってもらっていたのだった。

力強くデュランを睨んできたため、彼はこれ以上言うのを諦めることにした。

「……ああ、もうわかった。面倒くせえし、そう言うことにしておいてやるぜ……」

それを聞いた人魚の娘は表情を元に戻すと、頭を左右に振り、辺りを見ていた。

「そう言えばデュラン。シュリン、見つかりませんねぇ」

「……そうだな。寮に行っても居なかったし……あいつ、どこに居やがるんだ?」

「あのシュリンが居た建物。なんだか騒がしかったですねー」

「……ああ。学生どもが、騒いでいたな……ありゃ、祭りで騒いでいる感じじゃなかったな……」

そして、2人が、西の方へ向かって歩いていると、遠くの方から走ってくる者がいた。

その者は、デュランとエリーシャに気付いたらしく、大きな声で叫びながら、2人のところまで走ってきた。

「あーにきー!」

デュランは、その人物の声で誰なのか分かった。

「……シュリンだ。あいつ、どこに居やがったんだよ……兄として、ちょっと説教でもしてやるか……」

そして、シュリンが荒い息を付きながら、2人の所へやって来た。

「……はぁ、はぁ……」

「おい、お前……そんなに走って……えらく楽しんでいるな、この祭り……」

能天気な言葉を聞いたシュリンは、キッと兄を睨みつけ、叫んだ。

「―――そうじゃないわよ、馬鹿!」

デュランは突然、妹に喧嘩腰で言われたために怒った。

「……なんだと、てめぇ!」

シュリンは、そんな兄のことを気にする事無く、必死の形相でデュランに話しかけた。

「兄貴、大変なの!」

妹に、何か言おうとしたデュランだったが、彼女の普段とは違う真剣なその表情から、彼は何かを感じ取っていた。

(……シュリン……こりゃあ、何かあったな……)

デュランは緊急の事態を察知し、すぐに尋ねた。

「シュリン、どうした。言ってみろ!」

「実は……」

シュリンは、ここに来るまでの事を短くまとめて説明した。

それを聞いたデュランは驚いていた。

「―――本当かよ!それは、不味いな……」

「自警団には連絡したの!だけど、到着を待っていられないのよ!エル先輩が……」

「……先輩?お前の大切な人か?」

「一緒の部屋の人で、いつもとても良くして貰っているの……だから!」

「よし、分かった!俺もそこへ行くぜ!」

デュランの隣にいたエリーシャもまた、真剣な表情でシュリンに尋ねた。

「シュリン、場所はわかりますか?」

「うん!だけど、エリーシャさんは……」

2人が離れられないことを知らないシュリンは、エリーシャには、ここに残るように言おうとしたが、エリーシャは、パンをすぐに食べ終え、水の入った皮袋で喉を潤すと、決意に満ちた表情で、デュランの妹に話しかけた。

「いいえ、行きます!あたしでも、何かきっと役に立てることがあるはずです!」

「……そうだな……悪いが、エリーシャも来てくれ!」

いざとなった時、いつも必死に何かをしてくれた、変わらぬ兄のことを思い出したシュリンは、笑顔で感謝の気持ちを述べた。

「兄貴、ありがとう!エリーシャさんも!」

「すぐに、行こうぜ!場所を教えろ!」

「―――こっちよ!」

叫ぶと、彼女はすぐに走り出した。

そしてデュランとエリーシャは、シュリンの後に付いて行った。
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