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第十八話 2
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そして、そこへたどり着くと、今日集めた情報から、どうするか考えていた。
分かったことと言えば、水の神殿のある島にいた魔物のことだった。
そして魔物に関しては、弱点などの見つかるものもいた。
しかし、問題のダゴンに関しては、これといった打開策があるわけではなかった。
「ローレライの奴らは、俺たち人間が、お前の住んでいた海域まで、行くことが出来れば、なんとかなるはずだが……問題はダゴンとハイドラって奴らだ……」
「今のところ、何も分かりませんでしたね……」
デュランは、顎を指先で弾きながら考えていた。
「何か、別の方法を考えたほうがいいのか……」
そしてその時、エリーシャのお腹が鳴った。
その音を聞いたデュランは、エリーシャを睨み付けた。
「おい……お前……さっき、露店で食べただろ……」
「ううっ……あれじゃ、足りません!」
「はぁ……お前らってそんなに食う種族なのか?……」
「……足を維持するのに、魔力を使うんです……」
「そうか……そうだったな……わかった。俺も腹減ったし、行くか!」
「はい!」
元気に返事をしたエリーシャは、何かを思い出した。
「……あ、そうだ。シュリンと食べませんか?」
「……ん、ああ、そうだな……」
「私、シュリンともう少しお話したかったんです……だめですか?」
デュランは、少し考えてから、エリーシャに答えた。
「………わかった。だけど、余計なことは喋るんじゃねぇぞ?」
「はい!」
「よし、んじゃ、行こうぜ!」
2人は、本を仕舞うと、シュリンと食事を取るために、外へ出て行った。
エルディアとカーリオは、その後、様々な本を見てみたが、特にこれと言ったものは見つけることが出来なかった。
そして、時間が経ったため、「食事を取りに行こう」と、カーリオが言ってきたので、エルディアは承諾し、2人は大図書館から外へ出た。
外は、すでに暗くなっていた。
そのため、かがり火から出た炎と橙色の煙が、夜の闇に美しく現れていた。
耳を澄ますと、どこからか、楽器の演奏と共に歌声が聞こえ、人々の声も聞こえた。
カーリオは目を閉じ、満足げな表情なった。
そして、祭りの音を味わうように聞いていた。
「祭りは、いいですね……心がはしゃぎます」
「そうね……」
エルディアも、なんとなくその風景や音を聞いていた。
そして、シュリンとの約束を思い出した。
「……そうだ……カーリオ。シュリンと会う約束をしているの」
「ええ、確かミレイもいるんでしたね?」
「うん」
「わかりました……はぁ……しかし、本当は……」
「分かってる……出会いを求めたいんでしょ……」
「ははっ!ばれてましたか……」
2人は歩き出した。
そして、エルディアが話しを続けようとしたとき、夜空から一羽の黒い鳥が、羽音を立てることなく、2人の前に突然舞い降りた。
「……ん?」
「……おや……?」
それは見覚えのある鳥だった。
全身を真っ黒な羽で覆われ、そして青く澄んだ星空のような輝きのある大きな瞳をもったフクロウだった。
思わずエルディアは驚き、その鳥の名前を叫んだ。
「―――ラウルス!」
カーリオも驚いていた。
「……これは……!?」
「どうして……ここに?」
そして、エルディアがあることに気が付いた。
「―――あ、カーリオ、見て!……ラウルスの足」
カーリオは、エルディアが言った場所を見た。
するとラウルスの足に手紙が括り付けてあった。
「……手紙ですね……我々にでしょうか……」
エルディアは、ラウルスに近づいた。
「とにかく、見てみよう……」
そして、手紙を手に取った瞬間、後ろから声がかかった。
「エルせんぱーーい!」
エルディアは、名を呼ばれたので振り返った。
すると、シュリンとミレイが必死の形相で走って来るのが見えた。
「シュリン……」
「ミレイもいますね……」
そして、シュリンとミレイが二人のもとへたどり着いた。
シュリンは、息を切らせていた。
「……はあ……はあ……はぁ……エル先輩……大変です……」
ミレイはあまり疲れていないようだった。
シュリンの背中を擦りながら、落ち着いて話しかけていた。
「シュリン、少し落ち着いてから喋りなよ」
「はあはあ……うん、寮からずっと……走っていたから……」
そして、息を整えると、シュリンは話し始めた。
「……なんか、クリスの父親が麻薬になる植物を栽培してたとかで、学生寮にある、息子の部屋にも自警団の人が来て、あの人が1人で独占して住んでいる部屋を調べたんです……そしたら……」
そこで、シュリンは息を呑み、そして大きな声で話した。
「……先輩、あのクリスって人………―――女だったんです!!」
その事実にエルディアとカーリオは驚いた。
「……えっ!?」
「―――なんと!」
「部屋から、女物の服やら色々出てきたみたいで、父親も認めたらしいんです」
そこで、エルディアはあることに気が付いた。
「……ということは……呼び出された悪魔は、クリスに最初から取り憑いていたってこと?」
「男は、銀製品などを身につけなくていいですからね」
ミレイは、怪訝な顔をして話した。
「だけど、なんですぐに悪魔の奴は、行動を起こさなかったんだろうね?」
カーリオは、腕を組みながら考えていた。
「うーん、そこは分かりませんね……」
シュリンは、話を続けた。
「それで、捕まった父親がクリスが、居なくなったって言っていたんです」
「どう言う事?……」
「悪魔に乗っ取られた、クリスは……」
そして、カーリオが手紙の事を思い出した。
「エルちゃん、なんだか悪い予感のようなものを感じます……手紙も読んでみましょう」
「……そうだった。読んでみよう……」
手紙は、魔女メディアからだった。
エルディアは、みんなに聞こえるように読み上げた。
「大地の迷宮に行くことばかり考えていて、あんた達に言うのを忘れていた事があったよ。クフィンって奴がニトクリスの鏡を見たってことを何となく、迷宮に入る前に思い出したんだ。そしてその時に、カロンの杖の鑑定ってのを学院長に頼まれていた事も思い出したんだ。カロンの杖ってのは、レジェンドユニークアイテムで魔力を使って、死者を呼び起こす事ができる『死者の杖』とも呼ばれるもんだ。そして、他にも強い霊力を持つ物から、『カロンの手』と言われるものを出すことも出来るんだ。これは、特に注意しなければならないよ!この手には、魂を砕く、即死効果があるんだ。だから少しの間、触れられると、すぐにあの世行きさ。鏡と合わさることでセット効果のようなものを生み出すんじゃないかって、ふと思ったから、あんたたちに、この手紙を書くことにしたのさ。これを悪魔が利用してなきゃいいけどね……。あたしは、これから大地の迷宮に挑むから、協力はできないよ。あとは、あんた達でなんとかしな。それじゃあね!」
手紙を聞き終えたカーリオは、自分の頭の中にあった断片が、いくつも合わさったようで何度も頷いていた。
「……なるほど、なるほど……エレーナ嬢から鏡を奪い、学院長からも杖を奪ったのは、クリスだったと言う訳ですか……そしてラドラー学院長は、カロンの手で殺害されたと言うことですね……その後、鏡の強い霊力に反応し、呼び寄せられたか、もしくは、ニトクリスの鏡の中からか……ポルターガイストが現れ、あの部屋に漂っていたと……」
「……と言うことは、学院長を殺したのは、アルプに乗っ取られたクリスと言うこと?」
腕を組み、鋭い目で話を聞いていたミレイが答えた。
「そうだろうね」
ようやく落ち着いたシュリンは服や髪を整えると、エルディア達に聞いていた。
「じゃあ、死者の杖は、クリスが持っているってことですよね?」
シュリンの問いにカーリオが答えた。
「恐らくは……しかし、何をするつもりでしょうか?」
「当然、死者を甦らせるつもりじゃない?」
「クリスが居なくなったってことは、もう行動に移しているってことよね……」
皆の話を聞いて、シュリンは楽しみにしていた祭りが台無しされたように思えたようだった。
かがり火を見つめながら嘆く様に呟いた。
「なんか物騒なことになりそうですね……。あ~あ、せっかく今日は、祭りだったのに……」
シュリンの呟きを何となく聞いたカーリオが、そこで何かに気が付いた。
「―――あっ……そう言う事ですか!エルちゃん、これは不味いことになりそうですよ!」
妹のミレイが、エルディアの代わりに聞いていた。
「突然どうしたんだい、カー兄?」
「今日はヴァルブルギスです。ヴァルブルギスの夜には、豊穣の祭りだけではなく、生者と死者の境が弱くなるときでもあるんです」
そこでエルディアもカーリオの言いたいことに、気が付いたようだった。
「……そうか……今日は死者を甦らせるには、うってつけの日……」
「少ない魔力で、死者を呼び出すことが出来るってことですよね……」
「つまり、悪魔は、この日を待っていたってことかい?」
「そうです!」
「じゃあ、どこに行ったのさ?」
エルディアは考えた。
「死者の多い場所……」
そこで全員、気が付いた。
「―――あっ!」
そして、同時に叫んだ。
「―――墓地だ!!」
「とにかく、急いで行きましょう!」
「シュリンは、自警団に連絡をお願い!」
エルディアにそう言われたシュリンは、両手の拳を握り締めて、答えていた。
「はい!」
ミレイは背中に背負った長剣に触れ、叫んだ。
「じゃあ、あたしは2人に付いて行くよ!」
「そうですね……戦士である、あなたの力を借りなければならないかもしれませんからね……(そんな事態にならなければいいんですが……)」
「それじゃ、行こう!」
「3人とも気をつけて!」
エルディア達は、シュリンを見ると、無言で頷いた。
すると彼女は、急いで自警団のいる場所まで、走っていった。
エルディアが、走り去るシュリンを見送ると、今度はラウルスが飛び去った。
彼女は、館に帰る盲目のフクロウに、礼を述べた。
「ラウルス、ありがとう……」
ラウルスは、エルディアの言葉に反応したのか、「ホー」っと一回だけ鳴くと、速度を上げ、夜空に吸い込まれるようにこの場を去った。
それを見た彼女は表情を引き締め、杖を手に持ち、歩き出した。
「墓地は、町の西だったわ……行こう!」
そして、エルディアたち3人は、墓地へ向かって走った。
レイアークの町の至るところから、橙色の煙が立ち昇り、ぼんやりとその色で町を包み込んでいた。
そして走りながら、カーリオは辺りを見ていた。
町の中は、彼らの思いとは違い、賑やかで和やかな雰囲気だった。
人々が、エールを片手に歌い、踊り、そして、楽しそうに、みな笑顔で話をしたり、食事をしていた。
「呑気なものですねぇ……」
「知らないのだから、当然さ」
「それに、まだ、決まったわけじゃないわ」
エルディアたちが、走ることで、煙の帯に穴が開いたようになり、形を変えていた。
そして、そんな中をしばらく走っていると、カーリオが突然、2人を止めた。
「エルちゃん、ミレイ、そろそろ墓地に着くはずです。ここからは、歩いていきましょう」
この辺りは人気がほとんど無い場所で、薄暗く、森の木々が見えていた。
慎重に行動したほうが良いと、バルガの若き魔道師は、そう判断したようだった。
「うん……(ちょっと疲れた……息を整えないと……)」
「あたしが、前に出るよ」
ミレイを先頭に、エルディアたちは進んだ。
進む方向の右には森があり、左には古い石造りの家が連なる住宅街があった。
彼らは、その間にあった石で出来た道を慎重に歩いていた。
この辺りの家には、人気がないようで、どうやら空き家が多い場所のようだった。
そして、そこを進んでいくと、大きな木の板の柵で覆われている場所が見え始めた。
この辺りには、かがり火は無いようで、明かりといえば月明かりしか無いような場所だった。
しかし、今日の夜空は、雲がほとんど無かったため、月や星々の光がその場所を照らしていたため、真っ暗と言うわけではなかった。
そして、入り口が見え始めた。
すると、先頭にいたミレイが何かに気づき、無言で後ろにいた2人の歩みを止めさせた。
そんな妹の姿を見たカーリオは、すぐに小さな声で尋ねていた。
「ミレイ、どうしたんですか?」
「早速、入り口に何かいるよ」
「……え?」
ミレイは、2人の手を引っ張った。
「隠れて、様子を見よう!」
3人は、近くの木に隠れた。
そして、入り口の様子を伺った。
入り口には、2本の大きな白い石の柱があって、その柱にらせん状に穴が開けられていて、そこに火の灯ったロウソクが入っており、入り口付近をその光でぼんやりと照らしているのがわかった。
そして、その光は近くにいる、白い大きな何かを照らしていた。
それは良く見ると、人の骨で構成され、金属の鎧をていた。
エルディアは、それが何であるか知っていた。
「―――あれは……スケルトン!……だけど……」
「そのようですね……」
「ふーん、あれがスケルトンって奴か……聞いたことがあるけど、ほんとに骨だけだね……」
そして骨の魔物を良く見たエルディアは、何か違和感を覚えた。
「……?……あの柱って……カーリオより、大きかったよね?」
「ええ……そのはずです……」
「ってことは、あいつ……」
エルディアたちの視線の先にいるスケルトンは、入り口の柱よりも頭2つほど大きかった。
「何あれ……相当大きいわよ……」
カーリオは、他にも気づいたことがあったようだった。
「何か武器を持っていますね……」
スケルトンは、何か剣のような物を持っていた。
そして、ほとんど微動だにせず、入り口を守っていた。
それは、まるで、この墓地の番人のように見えた。
骨の番人を見ながら、カーリオは更に詳しく敵について考えていた。
「……しかし、あの大きさから考えると、恐らく、昔、闘技場で活躍したグラディエイター(剣闘士)の骨の可能性が高いですね」
「スケルトンウォーリアーってこと?……」
「聞いた事があるんです……はるか昔の闘技場で名を馳せたと言う、巨漢の戦士のことを……」
「じゃあ、不味いんじゃないのかい?」
エルディアは、この町でずっと眠ってきた人々の事を考えた。
「もし……あそこの墓に眠っている人々が、全て出てきたら……」
エルディアの呟きを聞いたカーリオは、ロッドを握りしめ、敵を見つめた。
「……これは、自警団を待っている暇は、無さそうですね……」
ミレイは束ねられた長い髪を揺らし、振り向くと、背中にある剣の柄に手をかけた。
「カー兄、やろう!」
「乗っ取られたクリスを、止めないと……」
「まずは、あの入り口を守るものをどうにかしますか……」
エルディアは、スケルトンの対処法を知っていたので、そのことをミレイに話すことにした。
「ミレイ、スケルトンの頭を砕けば、とりあえずは、活動を停止させることができるわ……やれる?」
それを聞いた、バルガの若き女戦士は、嬉しそうに答えていた。
「ああ、大丈夫、やってやるさ!母さんに買ってもらったこの剣は、少しだけど、光の属性が付与されているんだ。だから、他の物よりは砕きやすいし、あとはあたしの腕で、なんとかするよ!」
「それで、少しだけ黄色に光っていたのね……」
妹の表情を見たカーリオは、なぜか困ったような表情になっていた。
「母がミレイが学校に入ったときに買った、レアアイテムなんですよ……。普通はみんな、可愛らしい服とか言うんですがね……」
兄を見たミレイは、小さな声で笑っていた。
「ははっ!あたしは、早く母さんのような戦士になりたかったのさ!」
「はあー……困った妹です……」
軽くため息ついたカーリオは表情を元に戻すと、ロッドを両手で握りしめ、軽く息を吐き、心を落ち着かせた。
「ミレイ、私が魔法をかけたらあなたは、敵に向かってください。エルちゃんは、援護を頼みます」
「わかった……」
兄にそう言われたミレイは、獲物を捕らえる肉食獣のような目で、敵を見ながら柄に手をかけ、厚めの唇の端を僅かに歪ませ、笑みを浮かべながら答えていた。
「ああ……わかったよ」
そんな妹を見たカーリオは、心で呟きながら目を閉じた。
(……全く、母と同じ反応をするんですから……年頃の娘が剣を振り回すことに喜びを感じるなんて……兄としては……おっと、今は戦いに……)
そして、彼は戦いに意識を向けると、魔法の詠唱を開始した。
カーリオが詠唱するのを見たエルディアも、魔法の詠唱を始めることにした。
(まずは……ロックシュートで……)
辺りは、スケルトンがいなければ、いつもと変わらぬ平和な夜の町の光景が広がっていた。
そして、カーリオが魔法を完成させた。
「まずは、敵の動きを鈍くします!」
カーリオは、隠れていた場所から飛び出た。
それに、合わせてミレイも剣を両手に持ち、敵に向かった。
そして、少しの間をおいてエルディアも魔法を完成させ、後に続いた。
かつて、闘技場を賑わせていたと言う大きなスケルトンウォーリアーとの戦いが始まった。
敵の視界に、エルディア達は入った。
そして、スケルトンが頭を動かし、3人を見た。
頭蓋骨の目の部分の奥に僅かに赤く光る鬼火のようなものがあった。
そして、その目で捉えた人間たちを、墓地へ侵入する敵だと、認識した。
スケルトンは、動き出した。
しかし、カーリオが、すぐに魔法を唱えた。
「―――サンドフェッター!」
すぐに効果は現れ、骸骨の戦士は足元から膝ぐらいにかけて、纏わり付く砂で、覆われた。
すぐに仕留められると判断した、ミレイは敵に一気に近づいた。
すると、スケルトンはその砂を引き剥がした。
ミレイとカーリオは、驚いた。
「―――なんだって!?」
「まさか!?」
そして、スケルトンは手に持った剣で、ミレイを攻撃した。
ミレイは、すぐに長剣で、その攻撃を受け止める。
しかし敵の攻撃が思いの外、重い一撃であったため、ミレイは軽く膝を落とした。
「―――くっ!見た目より、重い攻撃だ……カー兄、どうなってるのさ!」
敵の武器をカーリオは、よく見た。
この巨漢のスケルトンが持つにしては、細く短い剣に思えた。
「あの武器は……あの形状……どこかで………どうやら、抵抗を持っているようですね……」
そのとき、エルディアが叫んでいた。
「スケルトンの後ろを見て、誰か倒れているわ!」
2人は、彼女の言う場所を見た。
すると、そこには戦士風の男がうつ伏せに倒れていた。
カーリオは、その男をよく見た。
「この男は…………」
どこかで見たことがあった。
そしてその男を見ながら、カーリオが記憶を辿っていると、スケルトンが再び攻撃をし始めた。
スケルトンの重い、横になぎ払う攻撃を後ろに飛びながら、ミレイは剣で受け止めた。
金属のぶつかる音と小さな火花が出た。
後ろに滑るように着地すると、エルディアがロックシュートを放った。
「魔弾を解き放て!―――ロックシュート!」
スケルトンの骨がむき出しになっている肩に、命中した。
かつての剣闘士は、僅かによろめいた。
しかし、特にダメージを与えているようではなかった。
そしてミレイに近づき、間合いを詰めようとしていたスケルトンは、進むのをやめ、警戒しながら剣を構えた。
そして倒れている男を見ていたカーリオが思い出していた。
「あの武器、シャムシールですね……それに良く見れば、倒れている人物の片腕が無い……―――思い出しました!……クフィンの同僚の方ですね。名はデニスだったか……」
彼が思い出している中、ミレイは再び切り込んでいた。
そしてエルディアも次の魔法の詠唱を始めていた。
「レアな武器だと、クフィンに自慢していたのを思い出しました!」
「それは、少し厄介だね!―――はあ!」
ミレイは、連続で何度か切りつけた。
しかし、スケルトンウォーリアーは、その攻撃の全てを、シャムシールで弾いた。
すると、今度はエルディアが、炎の魔法を放った。
「敵に炎の一撃を!―――ファイアーボール!」
魔法を放った時には、骸骨の戦士はすでに動いていた。
ぎりぎりのところで、それをかわすと、近くにいたミレイに切り込んだ。
ミレイは、長剣でそれを受け止めると、今度は力強く前へ踏み込み、シャムシールを持っている相手の右手を上へ切り上げた。
再び火花が散り、スケルトンの腕が打ち上げられ、体に隙が生まれた。
ミレイは、その隙を逃さなかった。
(―――逃さないよ!!)
鋭い目つきで、口元に笑みを浮かべ、両手で長剣を握りしめ、敵の頭に向かって鋭い突きを放った。
しかし、敵は左手で彼女の体を殴りつけていた。
(―――何っ!?)
敵の顔に剣が届く寸前で、ミレイは飛ばされた。
「―――くっ!」
思わず、エルディアはミレイの名を叫んだ。
「―――ミレイ!」
ミレイは、すぐに答えた。
「これぐらいなんともないよ!」
その時、ミレイに近づこうとしたスケルトンに、カーリオがファイアーボールを放ち、牽制していた。
全てを防がれたのにもかかわらず、ミレイは先ほどと変わらぬ表情をしていた。
「ふふっ……やるねぇ……あたしも段々調子が出てきたよ」
敵は隙を見せる事無く、再び武器を構えた。
妹の攻撃を一発も喰らっていない相手の強さに、カーリオは驚いていた。
「骨の戦士となっても、この強さとは……やはり、名のある剣闘士だったんでしょうね……」
エルディアも同じく、なかなか倒せない相手に驚き、そして墓地の奥へ、進めない事に焦りを感じていた。
(……まだ、入り口にさえ入っていないのに……不味いわ……)
そして、カーリオが石の地面にロッドを突き立て、両手で握りしめると目を瞑った。
「少し魔力を消耗しますが、あれを使いますか……」
エルディアは、特に策が思いつかなかったため、カーリオに任せることにした。
「カーリオ、まかせる……」
「エルちゃんは、援護を!ミレイは、注意をひきつけて下さい!」
「わかった!」
「……あたし1人でこいつと決着をつけたかったけど……時間がないんだったね……わかったよ!」
そして、ミレイは切り込んでいった。
「―――はっ!」
スケルトンウォーリアーは、その攻撃を受け止めた。
そしてすぐに、ミレイを押し返した。
ミレイは注意を引くために、横へ飛んだ。
しかし、スケルトンは、ミレイを見る事無く、真っ直ぐに進んだ。
その先にはエルディアとカーリオがいた。
「―――しまった!」
エルディアは、魔法を詠唱し、それを終わらせた瞬間だった。
すぐに、彼女は魔法を使用するかと、思われた。
しかし、エルディアは片手で杖を構えた。
そして、敵が近づいてきた。
彼女は杖で突きを放った。
スケルトンは横に回転し、シャムシールでエルディアの杖を水平になぎ払い、回転した力を利用し、もう一度切りつけようとした。
ミレイが叫びながら走っていた。
「―――エルディア!」
骸骨戦士の刃が、彼女を襲う。
しかし、エルディアはそこで、もう一方の空いた手で自らの体に触れ、魔法を発動させていた。
「―――マナシールド!」
分かったことと言えば、水の神殿のある島にいた魔物のことだった。
そして魔物に関しては、弱点などの見つかるものもいた。
しかし、問題のダゴンに関しては、これといった打開策があるわけではなかった。
「ローレライの奴らは、俺たち人間が、お前の住んでいた海域まで、行くことが出来れば、なんとかなるはずだが……問題はダゴンとハイドラって奴らだ……」
「今のところ、何も分かりませんでしたね……」
デュランは、顎を指先で弾きながら考えていた。
「何か、別の方法を考えたほうがいいのか……」
そしてその時、エリーシャのお腹が鳴った。
その音を聞いたデュランは、エリーシャを睨み付けた。
「おい……お前……さっき、露店で食べただろ……」
「ううっ……あれじゃ、足りません!」
「はぁ……お前らってそんなに食う種族なのか?……」
「……足を維持するのに、魔力を使うんです……」
「そうか……そうだったな……わかった。俺も腹減ったし、行くか!」
「はい!」
元気に返事をしたエリーシャは、何かを思い出した。
「……あ、そうだ。シュリンと食べませんか?」
「……ん、ああ、そうだな……」
「私、シュリンともう少しお話したかったんです……だめですか?」
デュランは、少し考えてから、エリーシャに答えた。
「………わかった。だけど、余計なことは喋るんじゃねぇぞ?」
「はい!」
「よし、んじゃ、行こうぜ!」
2人は、本を仕舞うと、シュリンと食事を取るために、外へ出て行った。
エルディアとカーリオは、その後、様々な本を見てみたが、特にこれと言ったものは見つけることが出来なかった。
そして、時間が経ったため、「食事を取りに行こう」と、カーリオが言ってきたので、エルディアは承諾し、2人は大図書館から外へ出た。
外は、すでに暗くなっていた。
そのため、かがり火から出た炎と橙色の煙が、夜の闇に美しく現れていた。
耳を澄ますと、どこからか、楽器の演奏と共に歌声が聞こえ、人々の声も聞こえた。
カーリオは目を閉じ、満足げな表情なった。
そして、祭りの音を味わうように聞いていた。
「祭りは、いいですね……心がはしゃぎます」
「そうね……」
エルディアも、なんとなくその風景や音を聞いていた。
そして、シュリンとの約束を思い出した。
「……そうだ……カーリオ。シュリンと会う約束をしているの」
「ええ、確かミレイもいるんでしたね?」
「うん」
「わかりました……はぁ……しかし、本当は……」
「分かってる……出会いを求めたいんでしょ……」
「ははっ!ばれてましたか……」
2人は歩き出した。
そして、エルディアが話しを続けようとしたとき、夜空から一羽の黒い鳥が、羽音を立てることなく、2人の前に突然舞い降りた。
「……ん?」
「……おや……?」
それは見覚えのある鳥だった。
全身を真っ黒な羽で覆われ、そして青く澄んだ星空のような輝きのある大きな瞳をもったフクロウだった。
思わずエルディアは驚き、その鳥の名前を叫んだ。
「―――ラウルス!」
カーリオも驚いていた。
「……これは……!?」
「どうして……ここに?」
そして、エルディアがあることに気が付いた。
「―――あ、カーリオ、見て!……ラウルスの足」
カーリオは、エルディアが言った場所を見た。
するとラウルスの足に手紙が括り付けてあった。
「……手紙ですね……我々にでしょうか……」
エルディアは、ラウルスに近づいた。
「とにかく、見てみよう……」
そして、手紙を手に取った瞬間、後ろから声がかかった。
「エルせんぱーーい!」
エルディアは、名を呼ばれたので振り返った。
すると、シュリンとミレイが必死の形相で走って来るのが見えた。
「シュリン……」
「ミレイもいますね……」
そして、シュリンとミレイが二人のもとへたどり着いた。
シュリンは、息を切らせていた。
「……はあ……はあ……はぁ……エル先輩……大変です……」
ミレイはあまり疲れていないようだった。
シュリンの背中を擦りながら、落ち着いて話しかけていた。
「シュリン、少し落ち着いてから喋りなよ」
「はあはあ……うん、寮からずっと……走っていたから……」
そして、息を整えると、シュリンは話し始めた。
「……なんか、クリスの父親が麻薬になる植物を栽培してたとかで、学生寮にある、息子の部屋にも自警団の人が来て、あの人が1人で独占して住んでいる部屋を調べたんです……そしたら……」
そこで、シュリンは息を呑み、そして大きな声で話した。
「……先輩、あのクリスって人………―――女だったんです!!」
その事実にエルディアとカーリオは驚いた。
「……えっ!?」
「―――なんと!」
「部屋から、女物の服やら色々出てきたみたいで、父親も認めたらしいんです」
そこで、エルディアはあることに気が付いた。
「……ということは……呼び出された悪魔は、クリスに最初から取り憑いていたってこと?」
「男は、銀製品などを身につけなくていいですからね」
ミレイは、怪訝な顔をして話した。
「だけど、なんですぐに悪魔の奴は、行動を起こさなかったんだろうね?」
カーリオは、腕を組みながら考えていた。
「うーん、そこは分かりませんね……」
シュリンは、話を続けた。
「それで、捕まった父親がクリスが、居なくなったって言っていたんです」
「どう言う事?……」
「悪魔に乗っ取られた、クリスは……」
そして、カーリオが手紙の事を思い出した。
「エルちゃん、なんだか悪い予感のようなものを感じます……手紙も読んでみましょう」
「……そうだった。読んでみよう……」
手紙は、魔女メディアからだった。
エルディアは、みんなに聞こえるように読み上げた。
「大地の迷宮に行くことばかり考えていて、あんた達に言うのを忘れていた事があったよ。クフィンって奴がニトクリスの鏡を見たってことを何となく、迷宮に入る前に思い出したんだ。そしてその時に、カロンの杖の鑑定ってのを学院長に頼まれていた事も思い出したんだ。カロンの杖ってのは、レジェンドユニークアイテムで魔力を使って、死者を呼び起こす事ができる『死者の杖』とも呼ばれるもんだ。そして、他にも強い霊力を持つ物から、『カロンの手』と言われるものを出すことも出来るんだ。これは、特に注意しなければならないよ!この手には、魂を砕く、即死効果があるんだ。だから少しの間、触れられると、すぐにあの世行きさ。鏡と合わさることでセット効果のようなものを生み出すんじゃないかって、ふと思ったから、あんたたちに、この手紙を書くことにしたのさ。これを悪魔が利用してなきゃいいけどね……。あたしは、これから大地の迷宮に挑むから、協力はできないよ。あとは、あんた達でなんとかしな。それじゃあね!」
手紙を聞き終えたカーリオは、自分の頭の中にあった断片が、いくつも合わさったようで何度も頷いていた。
「……なるほど、なるほど……エレーナ嬢から鏡を奪い、学院長からも杖を奪ったのは、クリスだったと言う訳ですか……そしてラドラー学院長は、カロンの手で殺害されたと言うことですね……その後、鏡の強い霊力に反応し、呼び寄せられたか、もしくは、ニトクリスの鏡の中からか……ポルターガイストが現れ、あの部屋に漂っていたと……」
「……と言うことは、学院長を殺したのは、アルプに乗っ取られたクリスと言うこと?」
腕を組み、鋭い目で話を聞いていたミレイが答えた。
「そうだろうね」
ようやく落ち着いたシュリンは服や髪を整えると、エルディア達に聞いていた。
「じゃあ、死者の杖は、クリスが持っているってことですよね?」
シュリンの問いにカーリオが答えた。
「恐らくは……しかし、何をするつもりでしょうか?」
「当然、死者を甦らせるつもりじゃない?」
「クリスが居なくなったってことは、もう行動に移しているってことよね……」
皆の話を聞いて、シュリンは楽しみにしていた祭りが台無しされたように思えたようだった。
かがり火を見つめながら嘆く様に呟いた。
「なんか物騒なことになりそうですね……。あ~あ、せっかく今日は、祭りだったのに……」
シュリンの呟きを何となく聞いたカーリオが、そこで何かに気が付いた。
「―――あっ……そう言う事ですか!エルちゃん、これは不味いことになりそうですよ!」
妹のミレイが、エルディアの代わりに聞いていた。
「突然どうしたんだい、カー兄?」
「今日はヴァルブルギスです。ヴァルブルギスの夜には、豊穣の祭りだけではなく、生者と死者の境が弱くなるときでもあるんです」
そこでエルディアもカーリオの言いたいことに、気が付いたようだった。
「……そうか……今日は死者を甦らせるには、うってつけの日……」
「少ない魔力で、死者を呼び出すことが出来るってことですよね……」
「つまり、悪魔は、この日を待っていたってことかい?」
「そうです!」
「じゃあ、どこに行ったのさ?」
エルディアは考えた。
「死者の多い場所……」
そこで全員、気が付いた。
「―――あっ!」
そして、同時に叫んだ。
「―――墓地だ!!」
「とにかく、急いで行きましょう!」
「シュリンは、自警団に連絡をお願い!」
エルディアにそう言われたシュリンは、両手の拳を握り締めて、答えていた。
「はい!」
ミレイは背中に背負った長剣に触れ、叫んだ。
「じゃあ、あたしは2人に付いて行くよ!」
「そうですね……戦士である、あなたの力を借りなければならないかもしれませんからね……(そんな事態にならなければいいんですが……)」
「それじゃ、行こう!」
「3人とも気をつけて!」
エルディア達は、シュリンを見ると、無言で頷いた。
すると彼女は、急いで自警団のいる場所まで、走っていった。
エルディアが、走り去るシュリンを見送ると、今度はラウルスが飛び去った。
彼女は、館に帰る盲目のフクロウに、礼を述べた。
「ラウルス、ありがとう……」
ラウルスは、エルディアの言葉に反応したのか、「ホー」っと一回だけ鳴くと、速度を上げ、夜空に吸い込まれるようにこの場を去った。
それを見た彼女は表情を引き締め、杖を手に持ち、歩き出した。
「墓地は、町の西だったわ……行こう!」
そして、エルディアたち3人は、墓地へ向かって走った。
レイアークの町の至るところから、橙色の煙が立ち昇り、ぼんやりとその色で町を包み込んでいた。
そして走りながら、カーリオは辺りを見ていた。
町の中は、彼らの思いとは違い、賑やかで和やかな雰囲気だった。
人々が、エールを片手に歌い、踊り、そして、楽しそうに、みな笑顔で話をしたり、食事をしていた。
「呑気なものですねぇ……」
「知らないのだから、当然さ」
「それに、まだ、決まったわけじゃないわ」
エルディアたちが、走ることで、煙の帯に穴が開いたようになり、形を変えていた。
そして、そんな中をしばらく走っていると、カーリオが突然、2人を止めた。
「エルちゃん、ミレイ、そろそろ墓地に着くはずです。ここからは、歩いていきましょう」
この辺りは人気がほとんど無い場所で、薄暗く、森の木々が見えていた。
慎重に行動したほうが良いと、バルガの若き魔道師は、そう判断したようだった。
「うん……(ちょっと疲れた……息を整えないと……)」
「あたしが、前に出るよ」
ミレイを先頭に、エルディアたちは進んだ。
進む方向の右には森があり、左には古い石造りの家が連なる住宅街があった。
彼らは、その間にあった石で出来た道を慎重に歩いていた。
この辺りの家には、人気がないようで、どうやら空き家が多い場所のようだった。
そして、そこを進んでいくと、大きな木の板の柵で覆われている場所が見え始めた。
この辺りには、かがり火は無いようで、明かりといえば月明かりしか無いような場所だった。
しかし、今日の夜空は、雲がほとんど無かったため、月や星々の光がその場所を照らしていたため、真っ暗と言うわけではなかった。
そして、入り口が見え始めた。
すると、先頭にいたミレイが何かに気づき、無言で後ろにいた2人の歩みを止めさせた。
そんな妹の姿を見たカーリオは、すぐに小さな声で尋ねていた。
「ミレイ、どうしたんですか?」
「早速、入り口に何かいるよ」
「……え?」
ミレイは、2人の手を引っ張った。
「隠れて、様子を見よう!」
3人は、近くの木に隠れた。
そして、入り口の様子を伺った。
入り口には、2本の大きな白い石の柱があって、その柱にらせん状に穴が開けられていて、そこに火の灯ったロウソクが入っており、入り口付近をその光でぼんやりと照らしているのがわかった。
そして、その光は近くにいる、白い大きな何かを照らしていた。
それは良く見ると、人の骨で構成され、金属の鎧をていた。
エルディアは、それが何であるか知っていた。
「―――あれは……スケルトン!……だけど……」
「そのようですね……」
「ふーん、あれがスケルトンって奴か……聞いたことがあるけど、ほんとに骨だけだね……」
そして骨の魔物を良く見たエルディアは、何か違和感を覚えた。
「……?……あの柱って……カーリオより、大きかったよね?」
「ええ……そのはずです……」
「ってことは、あいつ……」
エルディアたちの視線の先にいるスケルトンは、入り口の柱よりも頭2つほど大きかった。
「何あれ……相当大きいわよ……」
カーリオは、他にも気づいたことがあったようだった。
「何か武器を持っていますね……」
スケルトンは、何か剣のような物を持っていた。
そして、ほとんど微動だにせず、入り口を守っていた。
それは、まるで、この墓地の番人のように見えた。
骨の番人を見ながら、カーリオは更に詳しく敵について考えていた。
「……しかし、あの大きさから考えると、恐らく、昔、闘技場で活躍したグラディエイター(剣闘士)の骨の可能性が高いですね」
「スケルトンウォーリアーってこと?……」
「聞いた事があるんです……はるか昔の闘技場で名を馳せたと言う、巨漢の戦士のことを……」
「じゃあ、不味いんじゃないのかい?」
エルディアは、この町でずっと眠ってきた人々の事を考えた。
「もし……あそこの墓に眠っている人々が、全て出てきたら……」
エルディアの呟きを聞いたカーリオは、ロッドを握りしめ、敵を見つめた。
「……これは、自警団を待っている暇は、無さそうですね……」
ミレイは束ねられた長い髪を揺らし、振り向くと、背中にある剣の柄に手をかけた。
「カー兄、やろう!」
「乗っ取られたクリスを、止めないと……」
「まずは、あの入り口を守るものをどうにかしますか……」
エルディアは、スケルトンの対処法を知っていたので、そのことをミレイに話すことにした。
「ミレイ、スケルトンの頭を砕けば、とりあえずは、活動を停止させることができるわ……やれる?」
それを聞いた、バルガの若き女戦士は、嬉しそうに答えていた。
「ああ、大丈夫、やってやるさ!母さんに買ってもらったこの剣は、少しだけど、光の属性が付与されているんだ。だから、他の物よりは砕きやすいし、あとはあたしの腕で、なんとかするよ!」
「それで、少しだけ黄色に光っていたのね……」
妹の表情を見たカーリオは、なぜか困ったような表情になっていた。
「母がミレイが学校に入ったときに買った、レアアイテムなんですよ……。普通はみんな、可愛らしい服とか言うんですがね……」
兄を見たミレイは、小さな声で笑っていた。
「ははっ!あたしは、早く母さんのような戦士になりたかったのさ!」
「はあー……困った妹です……」
軽くため息ついたカーリオは表情を元に戻すと、ロッドを両手で握りしめ、軽く息を吐き、心を落ち着かせた。
「ミレイ、私が魔法をかけたらあなたは、敵に向かってください。エルちゃんは、援護を頼みます」
「わかった……」
兄にそう言われたミレイは、獲物を捕らえる肉食獣のような目で、敵を見ながら柄に手をかけ、厚めの唇の端を僅かに歪ませ、笑みを浮かべながら答えていた。
「ああ……わかったよ」
そんな妹を見たカーリオは、心で呟きながら目を閉じた。
(……全く、母と同じ反応をするんですから……年頃の娘が剣を振り回すことに喜びを感じるなんて……兄としては……おっと、今は戦いに……)
そして、彼は戦いに意識を向けると、魔法の詠唱を開始した。
カーリオが詠唱するのを見たエルディアも、魔法の詠唱を始めることにした。
(まずは……ロックシュートで……)
辺りは、スケルトンがいなければ、いつもと変わらぬ平和な夜の町の光景が広がっていた。
そして、カーリオが魔法を完成させた。
「まずは、敵の動きを鈍くします!」
カーリオは、隠れていた場所から飛び出た。
それに、合わせてミレイも剣を両手に持ち、敵に向かった。
そして、少しの間をおいてエルディアも魔法を完成させ、後に続いた。
かつて、闘技場を賑わせていたと言う大きなスケルトンウォーリアーとの戦いが始まった。
敵の視界に、エルディア達は入った。
そして、スケルトンが頭を動かし、3人を見た。
頭蓋骨の目の部分の奥に僅かに赤く光る鬼火のようなものがあった。
そして、その目で捉えた人間たちを、墓地へ侵入する敵だと、認識した。
スケルトンは、動き出した。
しかし、カーリオが、すぐに魔法を唱えた。
「―――サンドフェッター!」
すぐに効果は現れ、骸骨の戦士は足元から膝ぐらいにかけて、纏わり付く砂で、覆われた。
すぐに仕留められると判断した、ミレイは敵に一気に近づいた。
すると、スケルトンはその砂を引き剥がした。
ミレイとカーリオは、驚いた。
「―――なんだって!?」
「まさか!?」
そして、スケルトンは手に持った剣で、ミレイを攻撃した。
ミレイは、すぐに長剣で、その攻撃を受け止める。
しかし敵の攻撃が思いの外、重い一撃であったため、ミレイは軽く膝を落とした。
「―――くっ!見た目より、重い攻撃だ……カー兄、どうなってるのさ!」
敵の武器をカーリオは、よく見た。
この巨漢のスケルトンが持つにしては、細く短い剣に思えた。
「あの武器は……あの形状……どこかで………どうやら、抵抗を持っているようですね……」
そのとき、エルディアが叫んでいた。
「スケルトンの後ろを見て、誰か倒れているわ!」
2人は、彼女の言う場所を見た。
すると、そこには戦士風の男がうつ伏せに倒れていた。
カーリオは、その男をよく見た。
「この男は…………」
どこかで見たことがあった。
そしてその男を見ながら、カーリオが記憶を辿っていると、スケルトンが再び攻撃をし始めた。
スケルトンの重い、横になぎ払う攻撃を後ろに飛びながら、ミレイは剣で受け止めた。
金属のぶつかる音と小さな火花が出た。
後ろに滑るように着地すると、エルディアがロックシュートを放った。
「魔弾を解き放て!―――ロックシュート!」
スケルトンの骨がむき出しになっている肩に、命中した。
かつての剣闘士は、僅かによろめいた。
しかし、特にダメージを与えているようではなかった。
そしてミレイに近づき、間合いを詰めようとしていたスケルトンは、進むのをやめ、警戒しながら剣を構えた。
そして倒れている男を見ていたカーリオが思い出していた。
「あの武器、シャムシールですね……それに良く見れば、倒れている人物の片腕が無い……―――思い出しました!……クフィンの同僚の方ですね。名はデニスだったか……」
彼が思い出している中、ミレイは再び切り込んでいた。
そしてエルディアも次の魔法の詠唱を始めていた。
「レアな武器だと、クフィンに自慢していたのを思い出しました!」
「それは、少し厄介だね!―――はあ!」
ミレイは、連続で何度か切りつけた。
しかし、スケルトンウォーリアーは、その攻撃の全てを、シャムシールで弾いた。
すると、今度はエルディアが、炎の魔法を放った。
「敵に炎の一撃を!―――ファイアーボール!」
魔法を放った時には、骸骨の戦士はすでに動いていた。
ぎりぎりのところで、それをかわすと、近くにいたミレイに切り込んだ。
ミレイは、長剣でそれを受け止めると、今度は力強く前へ踏み込み、シャムシールを持っている相手の右手を上へ切り上げた。
再び火花が散り、スケルトンの腕が打ち上げられ、体に隙が生まれた。
ミレイは、その隙を逃さなかった。
(―――逃さないよ!!)
鋭い目つきで、口元に笑みを浮かべ、両手で長剣を握りしめ、敵の頭に向かって鋭い突きを放った。
しかし、敵は左手で彼女の体を殴りつけていた。
(―――何っ!?)
敵の顔に剣が届く寸前で、ミレイは飛ばされた。
「―――くっ!」
思わず、エルディアはミレイの名を叫んだ。
「―――ミレイ!」
ミレイは、すぐに答えた。
「これぐらいなんともないよ!」
その時、ミレイに近づこうとしたスケルトンに、カーリオがファイアーボールを放ち、牽制していた。
全てを防がれたのにもかかわらず、ミレイは先ほどと変わらぬ表情をしていた。
「ふふっ……やるねぇ……あたしも段々調子が出てきたよ」
敵は隙を見せる事無く、再び武器を構えた。
妹の攻撃を一発も喰らっていない相手の強さに、カーリオは驚いていた。
「骨の戦士となっても、この強さとは……やはり、名のある剣闘士だったんでしょうね……」
エルディアも同じく、なかなか倒せない相手に驚き、そして墓地の奥へ、進めない事に焦りを感じていた。
(……まだ、入り口にさえ入っていないのに……不味いわ……)
そして、カーリオが石の地面にロッドを突き立て、両手で握りしめると目を瞑った。
「少し魔力を消耗しますが、あれを使いますか……」
エルディアは、特に策が思いつかなかったため、カーリオに任せることにした。
「カーリオ、まかせる……」
「エルちゃんは、援護を!ミレイは、注意をひきつけて下さい!」
「わかった!」
「……あたし1人でこいつと決着をつけたかったけど……時間がないんだったね……わかったよ!」
そして、ミレイは切り込んでいった。
「―――はっ!」
スケルトンウォーリアーは、その攻撃を受け止めた。
そしてすぐに、ミレイを押し返した。
ミレイは注意を引くために、横へ飛んだ。
しかし、スケルトンは、ミレイを見る事無く、真っ直ぐに進んだ。
その先にはエルディアとカーリオがいた。
「―――しまった!」
エルディアは、魔法を詠唱し、それを終わらせた瞬間だった。
すぐに、彼女は魔法を使用するかと、思われた。
しかし、エルディアは片手で杖を構えた。
そして、敵が近づいてきた。
彼女は杖で突きを放った。
スケルトンは横に回転し、シャムシールでエルディアの杖を水平になぎ払い、回転した力を利用し、もう一度切りつけようとした。
ミレイが叫びながら走っていた。
「―――エルディア!」
骸骨戦士の刃が、彼女を襲う。
しかし、エルディアはそこで、もう一方の空いた手で自らの体に触れ、魔法を発動させていた。
「―――マナシールド!」
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