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第十八話 ヴァルブルギスの夜
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レイアークの町は、昼から夕刻へと、時が移っていた。
町の中心部にある広場には、たくさんの人が集まり、祭りの始まりを待っていた。
大きく組み上げられたラオルバの木を囲むように、期待に満ちた表情で、これから火を灯す人々を見ていた。
その人々は、公募で選ばれた人たちで、手に火の付いたたいまつを持ち、いつでも火をつけられるように立って待機していた。
そしてその時、杖をついた老人が現れた。
彼は威厳のある顔で、口全体を覆う長い髭を持ち、大地の色である、緑を基調とした色のローブを身に纏った者だった。
彼は大地の神殿の神官長フォルゴン・ゾール。
そして、その隣には、聖女と言われる人物、マテル・ベリトがいた。
フォルゴンは大きな声で、これからかがり火が焚かれる木材が組まれた場所の前で叫んだ。
「これより、毎年恒例の春の豊穣を祝う祭りを執り行う……皆よ、今宵は日々の疲れを癒し、そして今年も実りある年にしようではないか!」
そしてフォルゴンは跪き、両手を大地に付け、目を閉じ叫んだ。
「……地母神イディスよ、今年も我ら大地の民に、豊穣と繁栄を!」
少しの間をおいて、彼は立ち上がった。
そして手に持った杖を使い、一回だけ強く地面を叩き、一番大きな声で叫んだ。
「―――これより、ヴァルブルギスの夜を始める!!」
「オオーー!」
人々は喜びの声を上げた。
そして何人もの人々が、組み上げられた木材のところへ近寄り、そして火の付いたたいまつを次々と投げ入れた。
人々はしばらく黙って、その様子を見守っていた。
すると、ラオルバの木に火が付き始めた。
そこから白い煙とラオルバの木が燃えたときに出す橙色の煙、それに炎が混ざり出ていた。
そして更に火は大きくなると、その3色の色が何層もの帯を重ねるかのように、ゆっくりふわふわと煙が立ち昇り、ラオルバの甘い香りと共に、町を覆い始めた。
人々は歓声を上げた。
ヴァルブルギスの夜の始まりである。
町は、沈みゆく太陽から発せられた光と、燃えるラオルバの木から生み出された橙色の煙が混ざり合い、独特の幻想的な雰囲気を作り出し、賑わっていた。
あちこちに小さなかがり火が焚かれ、そこを囲むように座って楽器を奏でる人や、露店を出し、そこから何かを焼いた食べ物の匂いが漂い、それを食する人々。
エールを飲みながら談笑している者。
様々な人が行きかい、皆楽しそうに、春の祭りを楽しんでいた。
シュリン・マーベリックとミレイ・バルドの2人もそんな人々の1人となっていた。
「ミレイちゃん、何か食べよう!」
「エルディアが来るまで、待つんじゃなかったのかい?」
「……あ、そうだった……だけど、匂いを嗅いでたらお腹減ったー!」
「じゃあ、ちょっとだけ食べて待つかい?」
「うん、そうしよ!」
何か食べたい物はないか、町の中を2人は歩いていた。
あの事件があったせいか、町の中は例年とは違い、自警団員の数が多かった。
「あんなことがあったから、なんかちょっと厳重だ……」
「そうだね……ま、何かあれば、それはそれで、あたしは少し嬉しいかもね」
それを聞いたシュリンは、すぐに不安な表情になっていた。
「だめだよ!……何も無いほうがいい……」
シュリンの顔を見たミレイは、笑っていた。
「ははっ!冗談だって、シュリン」
「もうっ!」
どうやらミレイは冗談のようだったが、まんざらでもないようだった。
「(ふふっ、だけど、ちょっとは……ね……)それより、どこの店にするんだい?」
「うん……えーっと、どこがいいかなー」
すると、その時、彼女たちの近くを通りかかった学院の学生らしき者たちの話が聞こえた。
「おい、寮でなんかあったみたいだぞ!寮母のリーネさんが騒いでいたぞ!」
「どうせ、大したことじゃないだろ」
「いや、いつもとは様子が違うみたいなんだ」
「そうなのか?……じゃあ、ちょっと見に行くか!」
学生たちは、寮へ向かって走っていった。
話を聞いていたシュリンとミレイは、顔を見合わせた。
「……ミレイちゃん、何があったんだろうね?」
「さあ、でも……楽しそうな話だったね」
「ひょっとしたら事件と何か関係があるのかな?」
それを聞いたミレイは、にやりとすると背中にある剣に手をかけた。
「……シュリン、あたしらも見に行くかい?あんたは、あたしがこれで守ってやるから安心しなよ」
シュリンは、エルディアに言われた事を思い出した。
(危険だから、あまり近づくなって言われてたけど……でも、ちょっとだけなら……先輩疲れてたし……少しは私もお手伝いしないと……)
そして、シュリンは行くことに決めた。
「ちょっとだけ、見に行こう!だけど、危険だと思ったらすぐに出よう!」
「ああ、わかったよ!」
シュリンとミレイも、学生寮へと向かって行った。
クフィンは、父親のジェラルドと共に、エレーナ・マキュベルのいるパーティーに出席していた。
2人とも自警団の正装である、白と青を基調としたサーコートを鎧の上に着ていた。
そしてエレーナの家の大広間に、多くの人々が集まっていた。
審議会のメンバー、様々な商会の人々、有名な芸術家や学者など、どの人物もそれなりに裕福な者たちだった。
季節の食材を用いた、いろとりどりの料理がテーブルに置かれ、楽器の演奏もあり、優雅な音楽で広間を満たしていた。
中でも一番目を引いたのは、広間の中央に置かれた人よりも大きい、大地神イディスの氷の彫刻だった。
このレイアークの北部にある、島最大の山、アルフィス山にある氷をバルガ族に運ばせ、それを有名な彫刻家に一夜限りの芸術として、ここに作らせていた。
2人が広間に入るなり、すぐにエレーナの父親と母親が声をかけてきた。
「やあ、ジェラルドさん。お待ちしておりましたよ、どうぞ中へ」
「まあ!クフィンも来てくれたのね。とっても嬉しいわ!きっとエレーナも喜ぶはずよ!」
エレーナの父親の名前はチェスター・マキュベルと言い、彼は代々あったマキュベル宝石を受け継いだ人物だった。
口ひげを蓄え、身長の高い、紳士風の品のある男だった。
そして母は、太った体系をしていたが、元々はダンサーだった。
彼女は、アデラ・マキュベルと言った。
厚めの化粧をし、上等そうな服に身を包み、たくさん宝石の付いたアクセサリーを様々な場所に着けていた。
ジェラルドは笑顔で、エレーナの両親に話しかけていた。
「この度は、息子共々お招き頂きまして、ありがとうございます」
そして、クフィンにも挨拶するように、視線を送った。
クフィンは、表情の無い顔で短く挨拶をしていた。
「どうも……」
「……おい、クフィン!」
ジェラルドが、注意しようとすると、それをエレーナの父親が制止させた。
「ジェラルドさん、かまいませんよ。ほとんどの者が私の前では媚びへつらうんです……だけど、彼は違う……思ったことを言えるんだ。それは良い事だよ。ふふっ……はっはっは!」
「そうですよ、クフィンは、私にとっては息子みたいなもの。だから気にしないで下さいな」
どうやら、エレーナの両親もクフィンの事を気に入っているようだった。
そんな夫婦を見たジェラルドは安堵した。
「……そうですか……(この夫婦のおおらかさに感謝するんだな……)」
そして、ジェラルドはエレーナが居ない事に気が付いた。
「……娘さんが、いないようですが?」
エレーナの父親が困った顔になっていた。
「エレーナは、今は準備中なんです……」
そして彼女の母親が、理由について話した。
「あの子、クフィンが来るって聞いたら張り切っちゃって、まだどのドレスにするか悩んでるみたいなんですよ!もう、困ったわ……」
「そうですか……」
そして、アデラは「エレーナを見てくる」と言って、広間から出て行き、ジェラルドとチェスターが、ワインを片手に小さな声で表には出せない話をしていた。
クフィンは、ラプルの果汁の入ったグラスを手に取り、ちびちびと飲みながら、2人の話をなんとなく聞いていた。
(ふんっ!……下らん……)
ジェラルドとチェスターは、それぞれの立場から手に入った情報を出し合い、お互いの利益になるようしていたようだった。
しばらく、クフィンは表情を変えることなく、話を聞いていたが、ある話をジェラルドがしたため、彼は一瞬、目を大きくさせると、すぐに睨むように、父親を見つめながら話を聞いていた。
「……チェスターさん、ここからが重要な話なんですが……」
そう言うと、ジェラルドは軽く辺りを見回した。
そして、小さな声で話し始めた。
「……実は今日、ヴィガル商会に強制捜査を命じたんです」
それを聞いたチェスターの顔から笑みが消えた。
「……ほう、ついに踏み切られたのですか」
「ええ、証拠が見つかりましてな……あの商会、『ベラフォラ』と言う麻薬になる植物を栽培していたんです」
それは、クフィンも知っていたものだった。
(……確か、古代時代の戦争中にあったハイエルフとドワーフが休戦協定を結ぶきっかけになったものだったな)
古代の資料によると、長引く戦争の中、両方の陣営に、この麻薬がどこからかもたらされ、流行った。
そして、多くの中毒者を出した。
この薬は中毒性があり、幻覚、酩酊や多幸感を感じさせるだけではなく、魔法の抵抗力も無くしてしまうものだった。
そして特に、安全な場所にいる町の中で、流行ることが多かったため、国力は低下の一途をたどった。
あまりの広がりの速さから、「漁夫の利を得ようとした、闇の種族の仕業ではないか?」と言う結論に両国は達し、事態を重く見たそれぞれの王は、休戦をすることになったと言うことだった。
(そんな物を……どこで手に入れたんだ?)
ジェラルドは話を続けた。
「今頃、彼の所有している様々な建物に、団員が向かっているはずです」
「……なるほど……」
「ですから、彼らの権益のいくつかが空くはずです……ふふっ……動かれるなら、お早めに……」
ジェラルドから情報を聞いたチェスターは、満足げな顔になり、再び笑みを浮かべていた。
「……そう言う事ですか……はっは!これはありがたいですな。分かりました。早々に部下に申し付けておきましょう」
そして、エレーナが姿を現した。
彼女は、髪を結い上げ、花の髪飾りをし、マキュベルの宝石を身に付け、そしてこの空間で一番目立つ、深紅のイブニングドレスを着ていた。
この場を支配する女王のような、そんな雰囲気をエレーナはもって、悠然と歩きながら部屋に入ってきた。
彼女が現れると、すぐに若い男たちが何人か近づき、話しかけていた。
「おおっ!これはまた、お美しい……」
「エレーナさん、今宵は私と踊っていただけませんか?」
「あたなのために、曲を作って参りました」
皆、彼女に取り入ろうとしていた。
しかし、エレーナは、そんな男たちに、澄ました顔で軽く挨拶をしただけだった。
「ごきげんよう……(ふんっ!どうせ、家のお金目当てなんでしょ……どうでもいい男たち……それより……)」
そして、周囲に目を配り、クフィンを見つけると、表情を一変させた。
「クフィン!」
エレーナは、笑顔を浮かべ、彼に近づいた。
クフィンは、先ほどの父親がしていた話を考えていた。
だが、エレーナに声をかけられられると、仕方なくといった感じで彼女を見ていた。
「ん……エレーナか……」
エレーナは、クフィンが来てくれたことが嬉しかったのか、はしゃいでいた。
「クフィン、パーティー楽しんでる?あなたの好きな料理もあるはずよ、たくさん食べて!」
クフィンは気の無い返事を返した。
「ああ……」
そこで、エレーナはクフィンの目の輝きが失われていることに気が付いた。
(……クフィン……どうしたの?……すごく落ち込んでいるわ……何かあったみたい……)
いつもクフィンを見ていた彼女には、分かった。
最近の彼は、目に輝きがあった。
(……エルディアと何かあったのかしら……今度、デニスの奴から……いや、カーリオから聞いた方がいいかしら?……だけど、あの男……こういうことに関しては口が堅いのよね……とにかく、誰かから聞いた方がいいわね……)
そして、エレーナはクフィンの目の前で両手を広げ、回って見せた。
「どう、クフィン!ふふっ、このドレス!」
ジェラルドの視線を感じたクフィンは、先ほどと変わらぬ表情で、エレーナに答えていた。
「(ちっ……面倒なことだ……)……ああ、似合っているぞ……」
それを聞いたエレーナは、嬉しそうにしていた。
「ふふふっ……そう、良かった!(長い時間をかけて選んだ甲斐があったわ!)」
娘の笑顔を見たチェスターは、ジェラルドからもたらされた情報もあってか、満面の笑みを浮かべていた。
そして手を叩き、叫んだ。
「さあ、みなさん!好きな物を食し、良いお酒を飲み、今日は大いに盛り上がってください!我々のヴァルブルギスの始まりです!」
マキュベル邸でのパーティーは本格的に始まったようだった。
一方、寮を出たエルディアは、そこでカーリオと合流し、クフィンがエレーナのパーティーに出席するために、来ることができない事を聞くと、2人で大図書館へと向かっていた。
「……カーリオ。私達のクエストは、この事を報告するだけで終わりだったけど……」
そこでカーリオが、話しかけてきた。
「ええ、分かっていますよ。最後まで見届けたいんですよね?ふふ、私もそうなんです」
「そう……」
「まあ、きっとクフィンもそう思っているはずですよ……とにかく、私が調べた限りでは、この町以外で、鑑定を頼んでいたみたいですね。どこで聞いても分かりませんでした」
「あの部屋に杖もなかったし……」
「そうです……恐らく、犯人が持ち去ったのでしょう……」
「何か手がかりがないか、大図書館へ行こう……」
「ええ……あるといいですが……」
そして、2人は大図書館の中へ入った。
中は、入るとすぐに円形の大きな広間のような場所になっていて、上を見上げるとステンドグラスの大きな天窓があった。
そして光が当たることで、ステンドグラスの絵が大図書館の床に、鮮やかな色と共に出現していた。
絵は、エルガイアの神々をモチーフにしたものだった。
そして奥へ続く通路を見ると、木で出来た丈夫そうな本棚に、所狭しと様々な書物があった。
書物は元々あった物や、暗黒世界で冒険者が旅をする中で見つけた物だった。
そして、書物だけではなく、調べ終わった資料やグリモワール(魔道書)なども、閲覧することが出来た。
エルディアとカーリオは、すぐに奥へ進んだ。
中を進むと、いくつもある窓から夕日が差し込み、天井には神々の戦いを描いた絵が一面にあった。
そして館内が暗くなってきていたので、所々ランプが置かれ、中を照らし明るくしていた。
入り口の広間からいくつも通路があったことから、かなりの広さがありそうだった。
しかし、場所によっては、本の無い場所もあるようだった。
どうやら、これから見つかったときのための空間として、残されているようだ。
地下にも資料などがあったが、厳重な警備で守られている物もあるようで、一般の者は入ることはできなかった。
政治、経済、歴史、他種族の文化、音楽や芸術、宗教、魔法、武器や防具、自然や動植物、モンスター、料理に関するものなど、様々な書物があった。
エルディアたちは、アイテムに関する場所へ向かっていた。
「エルちゃん、確かアイテム関連は、こっちでしたよね?」
「カーリオ、こっちよ……」
エルディアが、指を指した場所へ歩いていると、本をたくさん手に持った人物と遭遇した。
顔が見えないほど、その人物は本を積み上げ、移動していた。
そして、その人物とぶつかりそうにカーリオがなった。
「―――おっと、これは失礼……」
本が崩れ、床に何冊か散らばった。
「ああ、ごめんなさい!」
その人物は、編みこまれた髪に緑がかった青色の鳥の羽飾りをしていて、草色の革の服に身を固め、メガネをかけた女性だった。
背丈は、エルディアよりも少し低いぐらいだった。
そして、カーリオとその女性、エルディアも加わり、すぐに落ちた本を拾っていた。
すると、カーリオがその人物が誰なのか、すぐに気が付いた。
「……ん、よく見ればあなたは……レビア、『レビア・クレール』じゃないですか」
そう呼ばれたその女も、少しずれたメガネを元に戻し、彼を見た。
そして相手がカーリオだと分かると笑顔になっていた。
「……カーリオ!珍しいわね、あなたがこんな所にいるなんて」
「ははっ、そうですね。普段の私なら書物よりも実際に見る方が好きですからね。ですが、今回は少し用事がありましてね」
「そうなんだ」
「それより、あなたの方こそ、西のエルフィニアへ調査に行っていたのではなかったのですか?」
「そうよ!それなんだけど……」
「あ、エルちゃん。紹介しますね、彼女は、私の研究室の隣の部屋の人です。名前は、レビア・クレールと言います」
「レビアって呼んで!」
レビアは、明るい声でエルディアに手を差し出した。
「エルディア・スティラートです。よろしく……」
エルディアも手を差し出し、2人は軽く握手を交わした。
そして、カーリオがレビアについて話出した。
「彼女は、かつて古代に冒険者として存在したクラス……『ビーストテイマー』と言われた者たちが扱っていた技術を研究しているんです」
「ビーストテイマー……確か、魔獣を操る……クラス……だったかな……?」
聞き覚えのあったその名称をエルディアは、呟きながら思い出そうとしていた。
「そうね……大体そんな感じかしら」
彼女の呟きを聞いたレビアは、軽く頷いた。
そして、それだけでは満足できなかったのか、ビーストテイマーについて説明を始めた。
【ビーストテイマー】
正確には、魔獣だけでなく、様々な魔物たちを従えることが出来るクラス。
このクラスが使う特殊な魔法の契約を、対象となるものと交わすことで、自らの支配下に置き、冒険や生活を共にすることが出来る。
伝説によれば、小さな小動物から大きな火を吹く魔獣、翼を持ち、大空を飛翔する幻獣、海の魔物たち、そして上級者になれば竜を従えた者も存在したと言うことだった。
しかし、このクラスの情報に関しては、現在、何も見つかってはいなかった。
説明をしているレビアは、目を輝かせていた。
「人以外のものたちと、生活できるなんて、素敵だと思わない?」
エルディアもイシュト村にいるときは、白いウサギを飼っていたことがあった。
だから、彼女の言いたいことも理解できた。
「……そうですね……わかります」
「そうでしょ!……あ、エルディア、私には普通に喋って!」
「うん、わかった……」
そして、彼女はビーストテイマーの魅力について語っていた。
人は、「自分の好きなことを話すときは、皆、ああなるものだ」と、カーリオはレビアを見て思った。
(……ふふっ、レビア……相変わらず、この話題になると嬉しそうですね……私も石の時はあんな感じなんでしょうか?……)
そして、一通り話し終えた彼女は、穏やかな表情になった。
「今日は朝から色々ここの本や資料を見ていたんだけど……特に目新しいものはなかったわ……ふぅ……やっぱり、ここじゃだめみたいね……」
「その様子だと、あまり進展はなかったみたいですね」
「うん……西の大陸で、ユニコーンを見たぐらいかな。他は、これといってなかったかな」
「ほう、ユニコーンですか……」
「レビア、角はあった?」
「うん、あった、あった、あったわよ!たてがみも綺麗でさー」
彼女の話が長くなりそうだと、思ったカーリオは、ここで話を切り上げることにした。
「レビア、申し訳ないんですが、我々は、これから調べものでしてね……」
「……あ、そうだったね。ごめん、私、喋りすぎたね……」
「また今度、話を聞かせて……」
「うん、いいよ!私はお腹が減ったから、この本仕舞ったら、何か食べに行くね。2人とも、それじゃ、また今度!」
レビアは笑顔で、山のように本を抱え、どこかへ向かっていった。
「元気な人……」
「ええ、いつも彼女は、あんな感じですよ。彼女は小さなときから動物に好かれると言っていましたけど、きっと、あの人柄が好かれる理由なのかもしれません」
「そう……(ちょっと羨ましいかも……)」
そしてエルディアとカーリオは、しばらく何か手がかりになる本がないか、探していた。
武器や防具などのアイテムは、まだまだ未知な部分が多いようで、本格的なものは、あまり無いようだった。
「新しい物も、ほとんど入っていないみたいですね……うーん、これでは……」
「そうね……」
2人の視線の先にある本棚は、空いていた。
そして、エルディアが隣の本棚に移動し、本を手にしようとしたとき、突然、隣に歩いてきた人物が彼女が手にしようとした本へ手を伸ばした。
そして手が、ぶつかりそうになった。
「―――あっ……」
「―――おっと、すまねぇ!」
その人物は、赤い髪をもった青年だった。
男は、手を引っ込めると、エルディアに話しかけてきた。
「……あんたも、その本読むのか?」
その本は、『海の魔物』と書かれていた。
エルディアは、今調べている事とは関係ないと思い、男に譲ることにした。
「いえ、どうぞ……」
「そうか、悪いな!」
そう言うと、赤毛の青年は軽く笑顔を見せ、本を手に取った。
そして、ページをパラパラとめくりながら、呟いていた。
「これじゃないな……くっそー……なかなかないもんなんだな……」
本を閉じ、また次の本に手を出そうとした。
すると、横から声が聞こえた。
「デュラーン!これに、載っていました!」
珊瑚色のポンチョを着た女性が現れ、赤い髪の青年に話しかけていた。
「一つ目の魔物の事なんですけど、多分これだと思うんです……」
この2人は、デュランとエリーシャだった。
デュランは、隣で本を見ているエルディアを気にしながら、小さな声でエリーシャに話しかけた。
「……おい、ここは大きな声を出しちゃいけねぇ場所だって言っただろ、静かに話しかけろ!」
「……あ、そうでした……ごめんなさい……」
「とりあえず、向うに行くぞ」
デュランは、モンスターに関する本を手に取り、エリーシャと共に机と椅子がある場所へ向かった。
町の中心部にある広場には、たくさんの人が集まり、祭りの始まりを待っていた。
大きく組み上げられたラオルバの木を囲むように、期待に満ちた表情で、これから火を灯す人々を見ていた。
その人々は、公募で選ばれた人たちで、手に火の付いたたいまつを持ち、いつでも火をつけられるように立って待機していた。
そしてその時、杖をついた老人が現れた。
彼は威厳のある顔で、口全体を覆う長い髭を持ち、大地の色である、緑を基調とした色のローブを身に纏った者だった。
彼は大地の神殿の神官長フォルゴン・ゾール。
そして、その隣には、聖女と言われる人物、マテル・ベリトがいた。
フォルゴンは大きな声で、これからかがり火が焚かれる木材が組まれた場所の前で叫んだ。
「これより、毎年恒例の春の豊穣を祝う祭りを執り行う……皆よ、今宵は日々の疲れを癒し、そして今年も実りある年にしようではないか!」
そしてフォルゴンは跪き、両手を大地に付け、目を閉じ叫んだ。
「……地母神イディスよ、今年も我ら大地の民に、豊穣と繁栄を!」
少しの間をおいて、彼は立ち上がった。
そして手に持った杖を使い、一回だけ強く地面を叩き、一番大きな声で叫んだ。
「―――これより、ヴァルブルギスの夜を始める!!」
「オオーー!」
人々は喜びの声を上げた。
そして何人もの人々が、組み上げられた木材のところへ近寄り、そして火の付いたたいまつを次々と投げ入れた。
人々はしばらく黙って、その様子を見守っていた。
すると、ラオルバの木に火が付き始めた。
そこから白い煙とラオルバの木が燃えたときに出す橙色の煙、それに炎が混ざり出ていた。
そして更に火は大きくなると、その3色の色が何層もの帯を重ねるかのように、ゆっくりふわふわと煙が立ち昇り、ラオルバの甘い香りと共に、町を覆い始めた。
人々は歓声を上げた。
ヴァルブルギスの夜の始まりである。
町は、沈みゆく太陽から発せられた光と、燃えるラオルバの木から生み出された橙色の煙が混ざり合い、独特の幻想的な雰囲気を作り出し、賑わっていた。
あちこちに小さなかがり火が焚かれ、そこを囲むように座って楽器を奏でる人や、露店を出し、そこから何かを焼いた食べ物の匂いが漂い、それを食する人々。
エールを飲みながら談笑している者。
様々な人が行きかい、皆楽しそうに、春の祭りを楽しんでいた。
シュリン・マーベリックとミレイ・バルドの2人もそんな人々の1人となっていた。
「ミレイちゃん、何か食べよう!」
「エルディアが来るまで、待つんじゃなかったのかい?」
「……あ、そうだった……だけど、匂いを嗅いでたらお腹減ったー!」
「じゃあ、ちょっとだけ食べて待つかい?」
「うん、そうしよ!」
何か食べたい物はないか、町の中を2人は歩いていた。
あの事件があったせいか、町の中は例年とは違い、自警団員の数が多かった。
「あんなことがあったから、なんかちょっと厳重だ……」
「そうだね……ま、何かあれば、それはそれで、あたしは少し嬉しいかもね」
それを聞いたシュリンは、すぐに不安な表情になっていた。
「だめだよ!……何も無いほうがいい……」
シュリンの顔を見たミレイは、笑っていた。
「ははっ!冗談だって、シュリン」
「もうっ!」
どうやらミレイは冗談のようだったが、まんざらでもないようだった。
「(ふふっ、だけど、ちょっとは……ね……)それより、どこの店にするんだい?」
「うん……えーっと、どこがいいかなー」
すると、その時、彼女たちの近くを通りかかった学院の学生らしき者たちの話が聞こえた。
「おい、寮でなんかあったみたいだぞ!寮母のリーネさんが騒いでいたぞ!」
「どうせ、大したことじゃないだろ」
「いや、いつもとは様子が違うみたいなんだ」
「そうなのか?……じゃあ、ちょっと見に行くか!」
学生たちは、寮へ向かって走っていった。
話を聞いていたシュリンとミレイは、顔を見合わせた。
「……ミレイちゃん、何があったんだろうね?」
「さあ、でも……楽しそうな話だったね」
「ひょっとしたら事件と何か関係があるのかな?」
それを聞いたミレイは、にやりとすると背中にある剣に手をかけた。
「……シュリン、あたしらも見に行くかい?あんたは、あたしがこれで守ってやるから安心しなよ」
シュリンは、エルディアに言われた事を思い出した。
(危険だから、あまり近づくなって言われてたけど……でも、ちょっとだけなら……先輩疲れてたし……少しは私もお手伝いしないと……)
そして、シュリンは行くことに決めた。
「ちょっとだけ、見に行こう!だけど、危険だと思ったらすぐに出よう!」
「ああ、わかったよ!」
シュリンとミレイも、学生寮へと向かって行った。
クフィンは、父親のジェラルドと共に、エレーナ・マキュベルのいるパーティーに出席していた。
2人とも自警団の正装である、白と青を基調としたサーコートを鎧の上に着ていた。
そしてエレーナの家の大広間に、多くの人々が集まっていた。
審議会のメンバー、様々な商会の人々、有名な芸術家や学者など、どの人物もそれなりに裕福な者たちだった。
季節の食材を用いた、いろとりどりの料理がテーブルに置かれ、楽器の演奏もあり、優雅な音楽で広間を満たしていた。
中でも一番目を引いたのは、広間の中央に置かれた人よりも大きい、大地神イディスの氷の彫刻だった。
このレイアークの北部にある、島最大の山、アルフィス山にある氷をバルガ族に運ばせ、それを有名な彫刻家に一夜限りの芸術として、ここに作らせていた。
2人が広間に入るなり、すぐにエレーナの父親と母親が声をかけてきた。
「やあ、ジェラルドさん。お待ちしておりましたよ、どうぞ中へ」
「まあ!クフィンも来てくれたのね。とっても嬉しいわ!きっとエレーナも喜ぶはずよ!」
エレーナの父親の名前はチェスター・マキュベルと言い、彼は代々あったマキュベル宝石を受け継いだ人物だった。
口ひげを蓄え、身長の高い、紳士風の品のある男だった。
そして母は、太った体系をしていたが、元々はダンサーだった。
彼女は、アデラ・マキュベルと言った。
厚めの化粧をし、上等そうな服に身を包み、たくさん宝石の付いたアクセサリーを様々な場所に着けていた。
ジェラルドは笑顔で、エレーナの両親に話しかけていた。
「この度は、息子共々お招き頂きまして、ありがとうございます」
そして、クフィンにも挨拶するように、視線を送った。
クフィンは、表情の無い顔で短く挨拶をしていた。
「どうも……」
「……おい、クフィン!」
ジェラルドが、注意しようとすると、それをエレーナの父親が制止させた。
「ジェラルドさん、かまいませんよ。ほとんどの者が私の前では媚びへつらうんです……だけど、彼は違う……思ったことを言えるんだ。それは良い事だよ。ふふっ……はっはっは!」
「そうですよ、クフィンは、私にとっては息子みたいなもの。だから気にしないで下さいな」
どうやら、エレーナの両親もクフィンの事を気に入っているようだった。
そんな夫婦を見たジェラルドは安堵した。
「……そうですか……(この夫婦のおおらかさに感謝するんだな……)」
そして、ジェラルドはエレーナが居ない事に気が付いた。
「……娘さんが、いないようですが?」
エレーナの父親が困った顔になっていた。
「エレーナは、今は準備中なんです……」
そして彼女の母親が、理由について話した。
「あの子、クフィンが来るって聞いたら張り切っちゃって、まだどのドレスにするか悩んでるみたいなんですよ!もう、困ったわ……」
「そうですか……」
そして、アデラは「エレーナを見てくる」と言って、広間から出て行き、ジェラルドとチェスターが、ワインを片手に小さな声で表には出せない話をしていた。
クフィンは、ラプルの果汁の入ったグラスを手に取り、ちびちびと飲みながら、2人の話をなんとなく聞いていた。
(ふんっ!……下らん……)
ジェラルドとチェスターは、それぞれの立場から手に入った情報を出し合い、お互いの利益になるようしていたようだった。
しばらく、クフィンは表情を変えることなく、話を聞いていたが、ある話をジェラルドがしたため、彼は一瞬、目を大きくさせると、すぐに睨むように、父親を見つめながら話を聞いていた。
「……チェスターさん、ここからが重要な話なんですが……」
そう言うと、ジェラルドは軽く辺りを見回した。
そして、小さな声で話し始めた。
「……実は今日、ヴィガル商会に強制捜査を命じたんです」
それを聞いたチェスターの顔から笑みが消えた。
「……ほう、ついに踏み切られたのですか」
「ええ、証拠が見つかりましてな……あの商会、『ベラフォラ』と言う麻薬になる植物を栽培していたんです」
それは、クフィンも知っていたものだった。
(……確か、古代時代の戦争中にあったハイエルフとドワーフが休戦協定を結ぶきっかけになったものだったな)
古代の資料によると、長引く戦争の中、両方の陣営に、この麻薬がどこからかもたらされ、流行った。
そして、多くの中毒者を出した。
この薬は中毒性があり、幻覚、酩酊や多幸感を感じさせるだけではなく、魔法の抵抗力も無くしてしまうものだった。
そして特に、安全な場所にいる町の中で、流行ることが多かったため、国力は低下の一途をたどった。
あまりの広がりの速さから、「漁夫の利を得ようとした、闇の種族の仕業ではないか?」と言う結論に両国は達し、事態を重く見たそれぞれの王は、休戦をすることになったと言うことだった。
(そんな物を……どこで手に入れたんだ?)
ジェラルドは話を続けた。
「今頃、彼の所有している様々な建物に、団員が向かっているはずです」
「……なるほど……」
「ですから、彼らの権益のいくつかが空くはずです……ふふっ……動かれるなら、お早めに……」
ジェラルドから情報を聞いたチェスターは、満足げな顔になり、再び笑みを浮かべていた。
「……そう言う事ですか……はっは!これはありがたいですな。分かりました。早々に部下に申し付けておきましょう」
そして、エレーナが姿を現した。
彼女は、髪を結い上げ、花の髪飾りをし、マキュベルの宝石を身に付け、そしてこの空間で一番目立つ、深紅のイブニングドレスを着ていた。
この場を支配する女王のような、そんな雰囲気をエレーナはもって、悠然と歩きながら部屋に入ってきた。
彼女が現れると、すぐに若い男たちが何人か近づき、話しかけていた。
「おおっ!これはまた、お美しい……」
「エレーナさん、今宵は私と踊っていただけませんか?」
「あたなのために、曲を作って参りました」
皆、彼女に取り入ろうとしていた。
しかし、エレーナは、そんな男たちに、澄ました顔で軽く挨拶をしただけだった。
「ごきげんよう……(ふんっ!どうせ、家のお金目当てなんでしょ……どうでもいい男たち……それより……)」
そして、周囲に目を配り、クフィンを見つけると、表情を一変させた。
「クフィン!」
エレーナは、笑顔を浮かべ、彼に近づいた。
クフィンは、先ほどの父親がしていた話を考えていた。
だが、エレーナに声をかけられられると、仕方なくといった感じで彼女を見ていた。
「ん……エレーナか……」
エレーナは、クフィンが来てくれたことが嬉しかったのか、はしゃいでいた。
「クフィン、パーティー楽しんでる?あなたの好きな料理もあるはずよ、たくさん食べて!」
クフィンは気の無い返事を返した。
「ああ……」
そこで、エレーナはクフィンの目の輝きが失われていることに気が付いた。
(……クフィン……どうしたの?……すごく落ち込んでいるわ……何かあったみたい……)
いつもクフィンを見ていた彼女には、分かった。
最近の彼は、目に輝きがあった。
(……エルディアと何かあったのかしら……今度、デニスの奴から……いや、カーリオから聞いた方がいいかしら?……だけど、あの男……こういうことに関しては口が堅いのよね……とにかく、誰かから聞いた方がいいわね……)
そして、エレーナはクフィンの目の前で両手を広げ、回って見せた。
「どう、クフィン!ふふっ、このドレス!」
ジェラルドの視線を感じたクフィンは、先ほどと変わらぬ表情で、エレーナに答えていた。
「(ちっ……面倒なことだ……)……ああ、似合っているぞ……」
それを聞いたエレーナは、嬉しそうにしていた。
「ふふふっ……そう、良かった!(長い時間をかけて選んだ甲斐があったわ!)」
娘の笑顔を見たチェスターは、ジェラルドからもたらされた情報もあってか、満面の笑みを浮かべていた。
そして手を叩き、叫んだ。
「さあ、みなさん!好きな物を食し、良いお酒を飲み、今日は大いに盛り上がってください!我々のヴァルブルギスの始まりです!」
マキュベル邸でのパーティーは本格的に始まったようだった。
一方、寮を出たエルディアは、そこでカーリオと合流し、クフィンがエレーナのパーティーに出席するために、来ることができない事を聞くと、2人で大図書館へと向かっていた。
「……カーリオ。私達のクエストは、この事を報告するだけで終わりだったけど……」
そこでカーリオが、話しかけてきた。
「ええ、分かっていますよ。最後まで見届けたいんですよね?ふふ、私もそうなんです」
「そう……」
「まあ、きっとクフィンもそう思っているはずですよ……とにかく、私が調べた限りでは、この町以外で、鑑定を頼んでいたみたいですね。どこで聞いても分かりませんでした」
「あの部屋に杖もなかったし……」
「そうです……恐らく、犯人が持ち去ったのでしょう……」
「何か手がかりがないか、大図書館へ行こう……」
「ええ……あるといいですが……」
そして、2人は大図書館の中へ入った。
中は、入るとすぐに円形の大きな広間のような場所になっていて、上を見上げるとステンドグラスの大きな天窓があった。
そして光が当たることで、ステンドグラスの絵が大図書館の床に、鮮やかな色と共に出現していた。
絵は、エルガイアの神々をモチーフにしたものだった。
そして奥へ続く通路を見ると、木で出来た丈夫そうな本棚に、所狭しと様々な書物があった。
書物は元々あった物や、暗黒世界で冒険者が旅をする中で見つけた物だった。
そして、書物だけではなく、調べ終わった資料やグリモワール(魔道書)なども、閲覧することが出来た。
エルディアとカーリオは、すぐに奥へ進んだ。
中を進むと、いくつもある窓から夕日が差し込み、天井には神々の戦いを描いた絵が一面にあった。
そして館内が暗くなってきていたので、所々ランプが置かれ、中を照らし明るくしていた。
入り口の広間からいくつも通路があったことから、かなりの広さがありそうだった。
しかし、場所によっては、本の無い場所もあるようだった。
どうやら、これから見つかったときのための空間として、残されているようだ。
地下にも資料などがあったが、厳重な警備で守られている物もあるようで、一般の者は入ることはできなかった。
政治、経済、歴史、他種族の文化、音楽や芸術、宗教、魔法、武器や防具、自然や動植物、モンスター、料理に関するものなど、様々な書物があった。
エルディアたちは、アイテムに関する場所へ向かっていた。
「エルちゃん、確かアイテム関連は、こっちでしたよね?」
「カーリオ、こっちよ……」
エルディアが、指を指した場所へ歩いていると、本をたくさん手に持った人物と遭遇した。
顔が見えないほど、その人物は本を積み上げ、移動していた。
そして、その人物とぶつかりそうにカーリオがなった。
「―――おっと、これは失礼……」
本が崩れ、床に何冊か散らばった。
「ああ、ごめんなさい!」
その人物は、編みこまれた髪に緑がかった青色の鳥の羽飾りをしていて、草色の革の服に身を固め、メガネをかけた女性だった。
背丈は、エルディアよりも少し低いぐらいだった。
そして、カーリオとその女性、エルディアも加わり、すぐに落ちた本を拾っていた。
すると、カーリオがその人物が誰なのか、すぐに気が付いた。
「……ん、よく見ればあなたは……レビア、『レビア・クレール』じゃないですか」
そう呼ばれたその女も、少しずれたメガネを元に戻し、彼を見た。
そして相手がカーリオだと分かると笑顔になっていた。
「……カーリオ!珍しいわね、あなたがこんな所にいるなんて」
「ははっ、そうですね。普段の私なら書物よりも実際に見る方が好きですからね。ですが、今回は少し用事がありましてね」
「そうなんだ」
「それより、あなたの方こそ、西のエルフィニアへ調査に行っていたのではなかったのですか?」
「そうよ!それなんだけど……」
「あ、エルちゃん。紹介しますね、彼女は、私の研究室の隣の部屋の人です。名前は、レビア・クレールと言います」
「レビアって呼んで!」
レビアは、明るい声でエルディアに手を差し出した。
「エルディア・スティラートです。よろしく……」
エルディアも手を差し出し、2人は軽く握手を交わした。
そして、カーリオがレビアについて話出した。
「彼女は、かつて古代に冒険者として存在したクラス……『ビーストテイマー』と言われた者たちが扱っていた技術を研究しているんです」
「ビーストテイマー……確か、魔獣を操る……クラス……だったかな……?」
聞き覚えのあったその名称をエルディアは、呟きながら思い出そうとしていた。
「そうね……大体そんな感じかしら」
彼女の呟きを聞いたレビアは、軽く頷いた。
そして、それだけでは満足できなかったのか、ビーストテイマーについて説明を始めた。
【ビーストテイマー】
正確には、魔獣だけでなく、様々な魔物たちを従えることが出来るクラス。
このクラスが使う特殊な魔法の契約を、対象となるものと交わすことで、自らの支配下に置き、冒険や生活を共にすることが出来る。
伝説によれば、小さな小動物から大きな火を吹く魔獣、翼を持ち、大空を飛翔する幻獣、海の魔物たち、そして上級者になれば竜を従えた者も存在したと言うことだった。
しかし、このクラスの情報に関しては、現在、何も見つかってはいなかった。
説明をしているレビアは、目を輝かせていた。
「人以外のものたちと、生活できるなんて、素敵だと思わない?」
エルディアもイシュト村にいるときは、白いウサギを飼っていたことがあった。
だから、彼女の言いたいことも理解できた。
「……そうですね……わかります」
「そうでしょ!……あ、エルディア、私には普通に喋って!」
「うん、わかった……」
そして、彼女はビーストテイマーの魅力について語っていた。
人は、「自分の好きなことを話すときは、皆、ああなるものだ」と、カーリオはレビアを見て思った。
(……ふふっ、レビア……相変わらず、この話題になると嬉しそうですね……私も石の時はあんな感じなんでしょうか?……)
そして、一通り話し終えた彼女は、穏やかな表情になった。
「今日は朝から色々ここの本や資料を見ていたんだけど……特に目新しいものはなかったわ……ふぅ……やっぱり、ここじゃだめみたいね……」
「その様子だと、あまり進展はなかったみたいですね」
「うん……西の大陸で、ユニコーンを見たぐらいかな。他は、これといってなかったかな」
「ほう、ユニコーンですか……」
「レビア、角はあった?」
「うん、あった、あった、あったわよ!たてがみも綺麗でさー」
彼女の話が長くなりそうだと、思ったカーリオは、ここで話を切り上げることにした。
「レビア、申し訳ないんですが、我々は、これから調べものでしてね……」
「……あ、そうだったね。ごめん、私、喋りすぎたね……」
「また今度、話を聞かせて……」
「うん、いいよ!私はお腹が減ったから、この本仕舞ったら、何か食べに行くね。2人とも、それじゃ、また今度!」
レビアは笑顔で、山のように本を抱え、どこかへ向かっていった。
「元気な人……」
「ええ、いつも彼女は、あんな感じですよ。彼女は小さなときから動物に好かれると言っていましたけど、きっと、あの人柄が好かれる理由なのかもしれません」
「そう……(ちょっと羨ましいかも……)」
そしてエルディアとカーリオは、しばらく何か手がかりになる本がないか、探していた。
武器や防具などのアイテムは、まだまだ未知な部分が多いようで、本格的なものは、あまり無いようだった。
「新しい物も、ほとんど入っていないみたいですね……うーん、これでは……」
「そうね……」
2人の視線の先にある本棚は、空いていた。
そして、エルディアが隣の本棚に移動し、本を手にしようとしたとき、突然、隣に歩いてきた人物が彼女が手にしようとした本へ手を伸ばした。
そして手が、ぶつかりそうになった。
「―――あっ……」
「―――おっと、すまねぇ!」
その人物は、赤い髪をもった青年だった。
男は、手を引っ込めると、エルディアに話しかけてきた。
「……あんたも、その本読むのか?」
その本は、『海の魔物』と書かれていた。
エルディアは、今調べている事とは関係ないと思い、男に譲ることにした。
「いえ、どうぞ……」
「そうか、悪いな!」
そう言うと、赤毛の青年は軽く笑顔を見せ、本を手に取った。
そして、ページをパラパラとめくりながら、呟いていた。
「これじゃないな……くっそー……なかなかないもんなんだな……」
本を閉じ、また次の本に手を出そうとした。
すると、横から声が聞こえた。
「デュラーン!これに、載っていました!」
珊瑚色のポンチョを着た女性が現れ、赤い髪の青年に話しかけていた。
「一つ目の魔物の事なんですけど、多分これだと思うんです……」
この2人は、デュランとエリーシャだった。
デュランは、隣で本を見ているエルディアを気にしながら、小さな声でエリーシャに話しかけた。
「……おい、ここは大きな声を出しちゃいけねぇ場所だって言っただろ、静かに話しかけろ!」
「……あ、そうでした……ごめんなさい……」
「とりあえず、向うに行くぞ」
デュランは、モンスターに関する本を手に取り、エリーシャと共に机と椅子がある場所へ向かった。
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