Dark world~Adventurers~

yamaken52

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第十八話 6

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世界を一本の魔法のロウソクに例えた者が古代にいた。

天動説が世界の主流に思われており、太陽はロウソクに灯された火で、溶けた蝋は海、冷えて固まったのが大地とされた。

ロウソクの下には、更に大きなロウソクがあり、太陽によって蝋が全て溶けると、炎と共に次のロウソクへ世界は移り、徐々に世界は広大になっていくと言われていた。

そして人々は、色々考えた。

蝋が溶け、溢れ出ているのは、何かが増えている証拠だ。

だから溶けたものに含まれているのは、蝋だけではないはずだと。

その狭間で生きる人々の何かも入っているはずだ。

それは血と汗であり、肉や骨でもあり、そして多くの人々が流した涙だろう。

また、全てのロウソクを繋げている一本の糸は、ヴァベルの塔とされた。

そして、その話を詩に書いた詩人の男がいた。

彼は世界を旅するバードでもあった。

その詩人は、その後、人魚の娘と恋に落ちた。

だが、人魚たちは不死の噂を聞いた人間たちによって、狩られ始めていた。

2人は離れ離れになり、男は海を見て、狭い世界が広くなっていけば、人魚たちは助かるだろうと思い、自分が書いた詩を歌にし、その歌を歌った。

海には、命を失った人魚たちの涙も入っていると付け加えて、彼は歌った。

ロウソクから流れ出る一滴の何か。

溢れ出るのは、そこに住む光の種族の思いと涙。

それは世界と言う一本のロウソクから流れ出たもの。

そんな事を彼は考え、歌っていたと言う。

それが、蝋涙の歌と言われるものだった。

時と共に忘れ去られるはずだった歌は、なぜか人魚たちに継承されていた。

そう、人魚の娘は、彼の歌を遠い海から聴いていたのだ。

海に涙を流し、世界を広げながら。


【蝋涙の歌】

人魚たちの間で継承されてきた魔法の歌。

人間たちの世界では忘れ去られてしまっている。

魔力を含み、邪悪な闇の声などからの攻撃を和らげる効果と、声を聞いた光の種族の心を落ち着かせ、呪いの抵抗力を高める効果がある。


人魚の娘の歌声が墓地に響くと、集まってきていたアンデッドたちは突然、動きを止めた後、辺りを彷徨い始めた。

エリーシャの歌は、死者の杖から発せられる音の効果を打ち消していた。

(相変わらず、良い声だ。流石、人魚だぜ!)

デュランは、エリーシャの声を聞き、すぐに攻撃を防いでいるボルウィンに加勢した。

クフィンも剣を抜き放った。

そして、隣りにいた黒づくめの服を着た少年に話しかけた後、周囲の敵に切り込んで行った。

「ベルフレード!お前はデュランやボルウィン自警尉と共に悪魔と対峙するんだ!俺はここを守る!―――はあ!」

ベルフレードは、不安を感じながらも返事を返した。

「……はい……(色々……初めてなんだけど……上手く出来るかな……?)」

エクソシストの少年がデュランたちの所へ着いたとき、ボルウィンが楯を使い、じりじりとクリスに寄っていた。

そして、隙を見てデュランとミレイが攻撃をし、辺りにいるアンデッドたちを倒していった。

そんな彼らを見たベルフレードは、魔法を詠唱し始めた。

(これは魔法を使うか……)

連携を取りながら、デュランたちは、クリスを追い詰めて行った。

また、クリスの後ろには白い建物があったが、入り口にエルディアの放った炎の壁があり、進退谷まっているようだった。

しかし、手にはカロンの手が出た鏡を持っていた。

それに気付いたボルウィンは、ミレイにそのことを尋ねた。

「バルガの女戦士よ、あの鏡から出ている手はなんだ?」

ミレイは、短く説明をした。

ボルウィンやデュランたちは話を聞き、ここのまま進むか迷った。

「迂闊には、飛び込めねぇってことだな……」

敵の魔法を楯で弾き返し、ボルウィンは話した。

「―――ふん!あの鏡をどうにかせんとだめと言うことか」

その時、後ろから声がかかった。

「………私の魔法を使って、倒して……」

デュランたちは、振り返った。

「あんたは……」

エルディアがシュリンやクフィンと共に近づいてきた。

「エルディア、大丈夫かい?」

青白い表情になっていた彼女を見たミレイは思わず聞いていた。

「大丈夫……それより、早くしないと被害が町に広がっていくだけ……」

その時、弓矢が一本飛んできた。

それを、クフィンは剣で素早く叩き落した。

「スケルトンアーチャーも来たようだな……ミレイ、俺はこちら側の敵を叩く、お前は反対側を!」

「わかった!」

2人は、それぞれ単独で敵に向かって行った。

エルディアは、赤毛の青年に話しかけた。

「シュリンのお兄さんの……デュランと言ったわね……」

名を呼ばれ、彼は振り返った。

「……俺か?」

「あなたの短剣に、魔法をかけるわ……それをあの鏡に目掛けて投げて欲しいの……出来る?」

デュランは、敵を見ながら少し考えた。

(この距離か……この距離は……)

そこでデュランは、思い出していた。

(……へへっ、相棒のことを思い出したぜ!)

そうそれは、ユラトから禁呪の魔力が込められた短剣を渡され、投げたときと同じ距離だった。

そのとき、エルディアの近くにいたシュリンが魔法を放ち、近づいてきたスケルトンの頭を飛ばしていた。

「―――ロックシュート!」

そして、すぐに兄に話しかけていた。

「兄貴、迷っていたってだめ!」

妹にそう言われたデュランは、腰から素早く短剣を抜き放った。

「ははっ、そうだな!(あのとき、みたいにやってやるぜ!)」

そして、エルディアに渡した。

「あんた、大図書館にいただろ?」

「えっ……あっ……」

そこでエルディアは、デュランの事を思い出していた。

「ははっ!やっぱりな。妹が世話になっているみたいだな。ありがとよ!」

少し照れながら、エルディアは答えた。

「……そんなことない……」

そして、彼女は短剣を両手で掴むと、目を閉じた。

(そう……いつも、助けてもらっているのは、私よ……シュリン、感謝するわ……)

エルディアは、魔法の詠唱を始めた。

人魚の娘の歌によってアンデッドたちがあまり集まらなくなってしまったため、クリスは死者の杖を手に取り、地面から引き抜いた。

そして、再び杖を掲げ、アンデッドを甦らせていた。

しかし、甦らせてもすぐに、ボルウィンやベルフレードが地面から出てきたところを攻撃し、倒していた。

(だめだ!……不味いことになったぞ……どうする?)

クリスは、後方を見た。

そこには、炎の壁があった。

(ここさえ、どうにかすれば……!?)

そして、何かに気付いた。

(……これは……)

炎の壁は、徐々に勢いを失ってきていた。

(あと少し、待てば入れるな……)

悪魔は、時間稼ぎをしようと思い、何かないか敵を見た。

しかし、正面に居る大きな楯を持った戦士の男が、2体のゾンビの頭をシールドソードの刃の部分で貫き、素早く抜くとバッシュし、相手を吹き飛ばしているのが見えたのみだった。

(……どっちが悪魔だ……時間稼ぎなど……これでは……)

クリスは、このまま残った魔力を使い、死者を呼び出して凌ぐ事に決めた。

そして、エルディアは魔法を完成させた。

短剣を握りしめ、念じた魔法を発動させる。

「太古に錬成されし……猛き炎よ、この刃に宿れ!―――ファイアーエンチャント!」

デュランの短剣に炎が宿った。

初めて見た魔法に、デュランは驚いた。

「……こりゃすげぇ……最新の魔法じゃねぇか………やるな、あんた!」

「流石、エル先輩!」

「暇だったから……覚えただけ……」

そしてエルディアは、めまいを覚え、荒い息を付きながら、手を地面につけた。

「はあ……はぁ……」

「大丈夫ですか!?エル先輩!」

シュリンが駆け寄り、彼女の体を支えた。

「武器を手に持ち、念じれば……炎も撃ち出せるわ……これで、なんとかなるはず……お願い……」

エルディアは、デュランに魔法の炎が宿った短剣を渡した。

デュランは、しっかりと短剣を握りしめ、受け取った。

「……ああ……まかせろ……」

エルディアは、そこでカーリオと同じように、意識を失った。

「……エル先輩……」

シュリンが、彼女を抱きしめていた。

デュランは、すぐに動いた。

(さあって……どこから……)

デュランは、辺りを見回した。

すると、スケルトンアーチャーの一団が左右から現れているのが見えた。

弓矢を数本、すぐに敵は撃ってきた。

「……くそっ!」

デュランとベルフレードはそれを避けた。

そして、一本の矢が先頭で戦っているボルウィンに向った。

デュランは叫んだ。

「ボルウィンのおっさん!」

ボルウィンは、その声を聞き、動きを止めた。

そして矢は、彼の手に向った。

刺さる瞬間に彼は声を上げた。

「―――かあ!!」

すると、彼の手が瞬時に黒に近い灰色になり、矢を手の甲で叩き落とした。

彼は、戦士のアイアンボディの技術を使用し、体を硬くさせ、矢を弾いた。

しかし、僅かに傷がつき、血が流れる。

「やるなおっさん!」

「おっさんではない!」

ボルウィンは僅かに流れた血を見た。

(ふふっ、しかし……私も、まだ感が鈍ってないようだ……冒険者をやれるかもしれんな……)

そして矢を放った集団には、クフィンとミレイが向った。

ボルウィンは、デュランに尋ねた。

「準備は出来たか?」

「ああ、出来たぜ!」

「エクソシストの少年、君はどうだ?」

「ええ……やってみます……」

「よし、では、私が一気に突っ込むぞ!あとは、君たちにまかせる!」

「おう、まかせてくれ!」

「……はい」

「では……」

そして、ボルウィンは、楯を握りしめると、野太い声を張り上げ、敵に向かってシールドチャージを行った。

「―――はああああ!!」

突入を見たクフィンとミレイは、彼らの後に続いた。

「一気に叩く!」

「これで終わらせたいね!」

ボルウィンは、敵を跳ね除けながら、突き進んだ。

クリスを乗っ取った下級悪魔は、驚いていた。

(なんて奴らだ……人間どもを侮っていたか……)

魔法学院の学院長や自警団員を何人か仕留める事ができたため、いつの間にか、人間の能力をやや過小評価してしまっていたことに、気が付いた。

(全て……報告したいところだが……これでは……)

その時、エルディアの放った炎の壁が消えた。

辺りは少し暗くなった。

それを見た悪魔のアルプは、心の底から喜んだ。

(―――やったぞ!これで、人間どもを始末できる!!)

そして、ボルウィンがクリスの目前に迫ったとき、地面を這っていたゾンビが手を伸ばし、彼の突入を阻んだ。

「邪魔をするんじゃあ……ない!」

ボルウィンは楯を振り回し、刃の部分で攻撃した。

敵が跳ね飛ぶ。

しかし、次々とアンデッドたちが現れ、彼の行く手を阻んだ。

クリスは、それを見て、白い建物の中へ向って走った。

それを見たクフィンは叫んだ。

「―――おい!奴は、入る気だぞ!!」

ここで冒険者として長年やってきたボルウィンが、冒険中に自分が行ったことを思い出した。

(―――そうだ!あれを!!)

彼は突然、敵に背を向け、エルディア達の方へ振り返った。

ボルウィンの周囲にはアンデッドたちがいた。

だが、彼は楯の刃の部分を斜めに大地に刺し、そして、ボルウィンの後ろを走っていた、赤毛のスカウトの青年たちに向って叫んだ。

「デュラン、ベルフレード!!」

楯を両手でしっかりと支えた。

「……私の楯を使い、―――飛び越えろ!!」

デュランは、彼の意図を瞬時に理解し、走る速度を上げた。

「―――やってやらああああ!!」

そして、彼は大きな楯を力強く飛び越えた。

宙に浮く、デュラン・マーベリック。

握りしめた短剣を敵目掛けて、投げる瞬間、彼は心で念じた。

(―――炎よ、敵を撃ちやがれ!!)

彼の短剣から、炎が玉がクリス目掛けて撃ち出される。

そして、彼は炎が撃ち出されると、すぐに短剣から手を放した。

炎と短剣の二段攻撃が、瞬時に生み出されていた。

クリスは、叫びながら飛び上がった敵を一瞬、振り返り見た。

(―――あれはっ!)

勢い良く炎が飛んでくるのが見えた。

(火球の魔法か……)

気付いたときには、すでにクリスの体に当たる寸前だった。

避けられないと思ったクリスは、カロンの杖を片手で強く握り締めた。

そして、魔法を発動させる。

「―――マナシールド!」

クリスの体に着弾する寸前に、水色の膜が現れ、炎の玉を防いだ。

(………フッ……この程度……)

しかし、赤毛の青年は地面に着地すると、嬉しそうに叫んでいた。

「………やったぜ!」

アルプにはそれが理解できなかった。、

(……どういう……)

すぐにその意味が分かるときが来た。

炎の玉の後に、短剣がすぐに飛んできていたのだ。

悪魔は驚き、一瞬、体が硬直した。

(―――しまっ!)

デュランの投げた短剣は、ニトクリフの鏡の中心に見事命中した。

魔法の鏡の割れる音が辺りに響いた。

(―――くそっ!こうなったら……)

悪魔は鏡を捨て、白い建物へ入ろうと走った。

(中で、なんとか時間を……)

しかし、なぜか、それ以上進むことが出来なかった。

(………どういうことだ?)

アルプは、体に違和感を感じた。

そして、乗っ取った体を見た。

(これは………)

そこで、悪魔は移動できなかった理由を知った。

それは、彼の首に赤紫色のストールが巻かれていて、引っ張られていたからだった。

アルプは、引っ張っている本人を見た。

(………まだ、子供ではないか……)

それは、エクソシスト見習いのベルフレード・アルペティだった。

ベルフレードは先ほどとは違う、冷たい視線を悪魔に送り、ストールを強く握りしめながら聞いていた。

「一つ……あなたに聞きたいことがあります……」

悪魔は目を細め、口元を歪ませながら答えた。

「………話すとでも?」

エクソシストの少年は冷たく睨みつけた。

「それがお前の答えか?」

アルプは杖を握り締めながら頭を働かせ、隙を伺うことにしていた。

(………甘いな……光の種族の少年よ……クックク……)

辺りに居るアンデッドがベルフレードとクリスに近づかないように戦っていたデュランが、2人を見て叫んだ。

「ベルフレード、油断するなよ!」

ベルフレードはストールを手に持ったまま、やや俯きながら、返事を返さなかった。

そんなエクソシストの少年を見たアルプは、死者を呼び寄せようとした。

(―――今だ!)

しかし、体が痺れて動けなかった。

(……どうした!?なぜ、動かん……)

ベルフレードは、やや俯きながら敵に話しかけていた。

「父さんが言っていた通りだ………」

そして彼は顔を上げ、笑みを浮かべながらアルプを見つめた。

「問いかければ、悪魔は油断するって……」

「しまった!こっちが騙されていたのか!くそっ、動け!」

「無駄だよ。お前はこの法衣で捕らえられたときに、すでに終わっていたんだ」

悪魔は足掻いた。

「私を倒せば、この人間は死ぬぞ。それに聞きたいことがあるのだろ?」

ベルフレードは冷たい顔のまま、静かに尋ねた。

「………魔王はいるのか?」

アルプは表情を曇らせた。

「………この命に代えても……そのような事……言える訳がないだろう……(こいつらは知らないと言う事か………)」

悪魔は、辺りを見回した。

(女だ……女が必要だ……何人かいるな……戦士の女に、歌を歌っている女………ん、あの銀色の髪の女は……―――あいつは!?)

遠くにいるシュリンを見たアルプは、何かに気付いたようだった。

そして、悪魔の心は躍った。

(………こいつはいい……あいつにどうにかして乗り移れないか?……この体は、もはや……)

そのとき、ベルフレードはストールを手に持ったまま、クリスの体に足払いをした。

「―――はっ!」

倒れるクリス。

「ぐはっ!」

「悪魔との交渉に時間をかけてはならない……」

ベルフレードは、父親の教えを思い出していた。

すぐに彼は、倒れたクリスの体にメイスを置いた。

そして、先ほど完成させていた魔法を発動させた。

「太陽神ファルヴァーンの光輝をここに!!―――『ファルヴァグローリー』!!」

彼がそう叫ぶと、一瞬発光が起こり、周囲が明るくなった。

そして赤紫のストールから、倒れたクリスの体に光の煌きのようなものが送られていった。

夜の墓地に、きらきらと光る輝きがクリスの体を包み込んだ。


【ファルヴァグローリー】

光の魔法。

人の体に憑依した悪魔や悪霊を魔法の光で相手を包み込み、追い出す事ができる。

より高位な悪魔や悪霊が取り憑いた場合は、術者の技量が問われる。

エクソシスト専用の魔法。


(本当は、このスティレットで手に杭を打つようにするんだけど……)

ベルフレードは、クリスを殺してしまっては、色々情報を聞けなくなることを考え、近くにいた、デュランに体を押さえるように頼んだ。

「すいません、デュランさん。この人を押さえてもらえませんか?」

近くにいた、スケルトンを倒したデュランは、すぐに少年のもとへ向った。

「ああ、いいぜ!」

デュランがたどり着くとクリスは声を上げ、苦しみだした。

「―――ギャアアアアア!」

デュランは暴れるクリスの手腕を押さえた。

「痛てえ!こいつ……俺を蹴るんじゃねぇ!!」

ベルフレードは、右手でストールを持ち、しゃがみ込むと左手をメイスに置くと、そこからクリスの体に光を送り続けていた。

そして、後方のアンデッド達を倒したボルウィンもやって来た。

「ボルウィンのおっさん。こいつを押さえるのを手伝ってくれ!」

ボルウィンは、すぐに近寄り、クリスの足を押さえた。

そして、デュランに話しかけた。

「悪魔は、どうにかなりそうなのか?」

「さあ、俺にはわからねぇ……」

2人が話していると、暴れていたクリスが突然暴れるのを止めた。

「………?」

すると今度は白目を剥いて、大きく口を開いた。

ベルフレードが叫んだ。

「―――しっかり押さえてください!!」

クリスが先ほどよりも強い力で、再び暴れだした。

デュランとボルウィンは、それを必死に押さえた。

「てめぇ、暴れるんじゃねぇ!」

「結構な力が出ておるな……」

そして、クリスの叫び声が変化を起こした。

クリスの本来持っていた甲高い声と、低音の重く禍々しい声が2つ重なり合って聞こえ始めたのだった。

そして、今度はクリスの体が一瞬霞がかり、歪んだように見えた。

押さえていた2人は、驚いた。

「………なんだ!?」

「これは……」

そして、暴れていたクリスの体が突然止まった。

「…………ん?」

するとベルフレードが光を送り込むのを止めた。

そして彼は、メイスが置かれたクリスのお腹を、気合いと共に押し込んだ。

「―――幻姿なる悪魔よ、その姿を現せ!」

口を大きく開け、咆哮をあげるクリス。

すると口から、声と共に半透明のアルプが飛び出るように現れた。

姿は、いくつも棘のある長い尾を持ったハエのような姿をしていた。

真っ赤な目を持ち、勢い良く羽を羽ばたかせていた。

その姿を見た、ベルフレードは驚いた。

「―――しまった!羽根持ちか!(もっと詳しく聞いておけばよかった!)」

ベルフレードは、ここに来るまでにクフィンから、虫のような下級悪魔だとしか、聞かされていなかった。

しかも普段、父親と共に戦ってきた悪魔は、羽根の無い下級悪魔がほとんどだったために、今回もそうだろうと彼は思ってしまっていた。

飛翔したアルプ。

悪魔は宿主を失ったかわりに、自由を得た。

しかし、この悪魔は憑依しながら生きているのが基本で、外に体を長時間出すことができない存在だった。

アルプは、すぐにでも宿主を探さなければならなかった。

そして、悪魔はすぐに次の宿主を決めていた。

(―――あの銀色の髪の女に取り憑いてやる!)

羽根を最大限動かし、悪魔はシュリン・マーベリック目掛けて飛んでいった。

デュランの周りにいたアンデッドたちと戦っていたミレイは、少し後ろで同じように戦っていたブルーアッシュの青年に尋ねていた。

「大体は、片付けられたか……クフィン、そっちはどうだい!」

最後の1体のスケルトンを倒したところで、クフィンは、返事を返した。

「……こちらも終わった……あとは……」

そしてクフィンが、悪魔と対峙しているデュラン達の方へ視線を向けたとき、ミレイの近くをアルプが一直線に進んでいた。

バルガの女戦士は、白く束ねられた長い髪を揺らして振り返った。

「……あれは?」

後方から叫び声が聞こえた。

「悪魔がそっちへ行きやがった!」

「誰か、止めてくれ!」

クフィンとミレイは、そこでアルプの存在に気付いた。

「―――はっ!」

「―――何っ!」

気付いた時には、クフィンの近くを通り過ぎていた。

その奥には、エルディアを抱いたシュリンがいた。

「―――くっ!」

2人は、すぐに走った。

アルプは、シュリンのところへたどり着こうとしていた。

(あの気を失っている女なら、すぐに入れそうだが……魔力を失っているのか……ならば、使いものにはならんか……やはり、あの銀の髪の女に!)

走りながら、クフィンはシュリンに向って叫んだ。

「シュリン、悪魔がお前を狙っているぞ!」

「………えっ!?」

シュリンは驚き、そして何か自分に向って飛んでくるのが分かった。

(何……あれ?)

アルプは、彼女の目の前にたどり着いた。

そして大きく口を開け、息を吐いた。

「ハアアアアーー!」

青紫色の煙のようなものが、シュリン目掛けて吐き出されていた。

これは、睡眠効果のあるブレスだった。

起きている者に取り憑く場合に、夢魔でもあるアルプが使用する魔力を含んだ息だった。
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