風が私の背中を押すの

ロナー

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風が吹く

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 うえっ、飲みすぎた。流石に不味い。これじゃあ二日酔い待ったなし。高校時代の友人との飲み会でついうっかり飲みすぎてしまった。視界がグラグラと揺れて気持ちが悪くて仕方がない。電柱から電柱までの距離が遠くまるで果てのない道を歩かされているかのよう。

 脚も心もまるで重りでもつけられているかのように重い。あげくポツポツと雨まで振り始めてきた。ああもう最悪だ、今日は一日中晴れの予報だったのに!

 本当最悪。思わず不満の言葉が私の口をついて出てきてしまう。あーあ。私の人生って本当にいいことがない。止まない雨はないって言うけどいつまでも雨だとうんざりしてくるわ。


 いつからおかしくなりだしたんだっけ。……ああ、そうだ。高校時代のあの時からだ。当時の私には仲のいい幼馴染の男の子がいた。彼とは小さな頃からずーっと一緒にいて……小さなときは私のことをともちゃんと呼んで一生懸命ついてきていたっけ。あのときの私にとっては彼がいて当たり前だったしこれから先もずーっと一緒にいるものだと思っていた。

 ……だけどいつからか、それは当たり前ではなくなって。出会ったときは小さかった彼の背は中学生の頃には当時女子の中では高身長だった私を見下ろせるくらいまで高くなり見た目も良かったからか女子生徒が常に彼に話しかけるようになって。高校時代のバレンタインデーの日、彼と手を繋いで歩いていたのは私…ではなく知らない女子生徒。

 割り込む余地なんかなかった。だって本当に仲が良くてお互いにお互いが好きなのが理解できたから。彼らはとっくに結婚し、今では子供は高校生。実家に届いた年賀状に写る美しい夫婦とその娘は何よりも幸せそうな笑みを浮かべていたな。

 ともちゃん、巴。私を呼ぶ声が今でも耳に残っている。結婚式に呼ばれたときの新婦のドレス姿も新郎のタキシード姿も全て覚えている。四十をとっくにいくつか超えた今巴も結婚相手を探したほうがいいよ、と周りにはそう言われるけれどそういう気にはもうなれない。大学時代一人と交際したものの長続きせずその後縁もなく今ではずっと独り身だ。


 体を濡らす雨の粒が大きくなり体を濡らす。ああ、これは本格的に降り出した。あーあ。これはもしかしたら風邪をひいてしまうかもしれない。

 あーあ。今この瞬間全てが夢だったらいいのに。今この現実世界ではない何処かに行きたい。ほら、ふと意識を失って目が覚めたら私は素敵で美しい令嬢、イケメンな王子様が悪夢にうなされていた私を心配して甲斐甲斐しく世話を焼いてくれるの。そして美味しいお菓子を食べて可愛いドレスを着て……ああ、虚しい。そんなことあるわけがないのに。

 過去に戻りたいよ。学生時代は毎日キラキラ輝いていたのに。私は特別美人ではないけれど友達もいたし父さんも母さんも元気だった。今はどうだ?父さんは去年体を壊して施設に入り実家は売却され母さんはとうに死んだ。兄は嫁子供と一緒にかなり遠い距離のところにいて滅多に会わない。私自身もう四十をとっくに過ぎ若くはないし仕事が辛いし…何よりも孤独が辛い。帰りを待ってくれる家族なんて私にはいないのだ。視界がじんわり滲んでいく。

 ああもう。学生時代に戻ってもう一度彼に会いたい。今度こそあの子よりも先に彼に告白して彼の隣に立ちたい。何も言わなくてもずっと一緒にいられると思っていたそんな愚かな私に平手打ちしたい。ああ、戻れたならば今度こそは、今度こそは……



 その時その妄想を断ち切るかのような突然の強い風に背中を押され、バランスを崩して転倒してしまい着ている服がドロドロになってしまった。風ですらもう過去になんか戻れないのだから現実を見ろと突きつけるのか。私が無駄に過ごした時間を示すように風は私の背中を押し続ける。

 ……過去に浸っている場合ではないのだ。過去になんて戻れないし彼を手に入れることなどもうできやしない。人は常に未来を見て生き続けるしかないのだ。ならばせめて今の現実を受け入れて生きていく。この風は後押しだ、そう思うことにしよう。何時までも風が私の背中を押してくれますように。
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