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成功2
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今日の試合がすべて終わった。
会場では、観客が退出している。通路に列をなし家路につく観客たちは、だれもがみな満足げな表情で、試合の興奮を語り合っている。
「ライオン強かったし、かっこよかったな。応援グッズ買って帰ろうぜ」
「俺は地球防衛軍のやつを買うよ。チームで強敵に向かうってのがイカす」
「ライオンが仲間を集めると言っていたのが気になる」
「バックドロップって、あれ、くらっても死なないで済むんだな。レスラーってすげえよ」
パイプ椅子の陰に隠れ、アレックスはファンの声を聴いていた。大歓声や拍手はもちろん嬉しいのだが、やはりどこか漠然としている。具体的な言葉をもらうと感動以上のものが胸にあふれる。飛び出して握手しに行きたいところだが、フィオナに礼を言うのが先だ。ぐっと衝動を抑えていると、二人組のオカルトファンの声が耳に入ってくる。
「プロレスって見るの初めてだったけど、面白かったな」
「ああ、サイコーだったよ。はじめはオカルトのライオンさえ見れればいいやと思ってたけど、プロレスのファンになっちまった。次の試合も見に来ようぜ」
最も聞きたい言葉だった。新しいファンを開拓できたのだ。アレックスは感動を抑えるので必死だった。観客全員の背中を何とか見送ると「うおおおおおおおお」と勝利の雄たけびを上げる。雄たけびは狭い会場に響き渡った。
「おめでと、スターさん」
背後から肩を叩かれ、声をかけられた。アレックスが振り返ると、そこには大恩人であるフィオナがいた。
「おおおおおおお、フィオナ。今日、こんなに盛り上がったのは、全部、全部お前のおかげだ。ありがとう、本当にありがとう」
アレックスは感謝の気持ちを全力で表現する。プロレスラーの筋肉全てを動員し、フィオナを抱きしめた。すると、フィオナの喉からぐえええといううめきが漏れる。
「あたしのおかげだなんて、そんなことないわよ。私はただきっかけを……って、ちょっと、痛いわよ。はなして、はなして」
締め付けられ、フィオナの背骨からゴキゴキと鈍い音が鳴る。一般人の細身ではプロレスラーの全力の感謝に耐えることができない。アレックスが「すまないな」と解放すると、フィオナはオホン、と呼吸を整え、言いかけた言葉を続ける。
「私はきっかけを作っただけ。あなたたちのプロレスが素晴らしかったからこそ見た人もファンになったのよ」
「なんだっていいよ。お前がいなければ今日という日はなかった。本当にありがとう。この恩は一生忘れない」
「一生だなんて、別にいいのよ。あたしだってあんたに感謝してるんだから」
「感謝? 俺に? なんで」
「そう。アレックス、あんたによ。あんた言ってたじゃない。『オカルトのすばらしさ、人を楽しませるすばらしさを知ってほしい』って。私は今まで記事を書いていただけだから、それを読んだ人がどう思い、どう感じるか考えたことがなかったの。でも今日、私の記事を読んだ人があんなにも喜んで、楽しそうにしてるのを見たわ。人を楽しませることって素晴らしいことだと知ることができた。そのおかげで、今まで大嫌いだった自分の仕事が好きになれたの。本当にありがとう」
今度はフィオナからアレックスを抱きしめ、アレックスも十分な加減をしてそれに応えた。
「そうか、分かってくれたのか」
「ええ。あんたのおかげよ。こんな気持ちになれるだなんて思ったこともなかった。だから、私のほうこそありがとう」
そう言ったフィオナに見つめられ、アレックスの胸が高鳴った。オカルトの良さを知ってもらえたことは嬉しかったし、それ以上に彼女の笑顔に心を奪われた。彼女の笑顔は魅力的だった。オカルトを拒絶するしかめっ面から憑き物が落ち、別人のように輝いている。これまではうっさい女としか思えなかったが、共に危機へ立ち向かったりプロレスを作り上げたりしているうちに、彼女に惹かれていた。そっと手を伸ばしてフィオナの顔に触れると、彼女も身を預けてきた。
二人はただ黙って見つめ合い、どちらからとなく顔を寄せ合い――
「アレックス、こんなところにいたのか」
NWEの面々がやってきた。アレックスとフィオナが反射的に離れると、レスラーだけでなく裏方のスタッフも勢ぞろいで駆け寄ってきて、アレックスはたちまちに囲まれた。
「今日の試合は大成功だったな。大歓声に拍手に、俺、こんなの初めてだ。リングに上がった瞬間からドキドキしっぱなしで、心臓が口から飛び出るんじゃないかと思ったよ」
「俺もだ。途中から訳が分からなくなって、自分は本当にライオン星人なんじゃないかって思ってたよ。ファンやお前らのことがマジでおいしそうな肉に見えたし」
「ほう、じゃあかじってみるか?」
レスラーの一人がそう言ってケツを出すと、どっと笑いが起きた。
アレックスは仲間と共に笑いあい、プロレスラーらしく体をぶつけ立ったりして喜びを分かち合った。すると一人の時より何倍もうれしさが増した。普段冷静なアンソニーもこの時ばかりは馬鹿になり、仲間と一緒に大声を出してまわっていた。
「よおし、それじゃあここいらで写真を撮って、SNSにアップロードしようぜ」
「おう、そいつはいい考えだ。俺がシャッターを押すよ」
アレックスが言うと、レスラーも裏方スタッフも全員が賛成する。アレックスを中心として肩を並べて整列すると、裏方スタッフの一人がカメラ係を名乗り出た。
「シャッターを切るまえに、ちょうど全員揃っているから聞いてほしいことがある。裏方スタッフからのお知らせってやつだ」
丸顔の裏方スタッフ、ブルースがいったんカメラを下ろした。
「なんだよ、水差してねえで速くシャッターを押せよ。この盛り上がりがわからねえのか?」
「おいおい、そんなこと言っていいのか? 聞かなきゃ後悔するぜ」
「は? 聞かなきゃ後悔するってなんだよ」
「観戦グッズのことだよ。NWEが応援タオルやキャップやTシャツを販売していることは知っているよな? これらが、今日、それらが全部売れた」
レスラーたちはどよめいた。
「全部って、嘘だろ。アレも売れたってことか? 長い間売れ残ってる缶バッジ」
「ああ。NWEの不良在庫、具現化した悪夢、10年前からホコリかぶってた缶バッジもだ。今日は全員に特別にボーナスが出るぞ」
レスラーたちは喜びを爆発させた。
その瞬間ブルースがシャッターを切ると、最高の写真が取れた。
NWEにとって、アレックスにとって、絶頂の時が訪れた。
会場では、観客が退出している。通路に列をなし家路につく観客たちは、だれもがみな満足げな表情で、試合の興奮を語り合っている。
「ライオン強かったし、かっこよかったな。応援グッズ買って帰ろうぜ」
「俺は地球防衛軍のやつを買うよ。チームで強敵に向かうってのがイカす」
「ライオンが仲間を集めると言っていたのが気になる」
「バックドロップって、あれ、くらっても死なないで済むんだな。レスラーってすげえよ」
パイプ椅子の陰に隠れ、アレックスはファンの声を聴いていた。大歓声や拍手はもちろん嬉しいのだが、やはりどこか漠然としている。具体的な言葉をもらうと感動以上のものが胸にあふれる。飛び出して握手しに行きたいところだが、フィオナに礼を言うのが先だ。ぐっと衝動を抑えていると、二人組のオカルトファンの声が耳に入ってくる。
「プロレスって見るの初めてだったけど、面白かったな」
「ああ、サイコーだったよ。はじめはオカルトのライオンさえ見れればいいやと思ってたけど、プロレスのファンになっちまった。次の試合も見に来ようぜ」
最も聞きたい言葉だった。新しいファンを開拓できたのだ。アレックスは感動を抑えるので必死だった。観客全員の背中を何とか見送ると「うおおおおおおおお」と勝利の雄たけびを上げる。雄たけびは狭い会場に響き渡った。
「おめでと、スターさん」
背後から肩を叩かれ、声をかけられた。アレックスが振り返ると、そこには大恩人であるフィオナがいた。
「おおおおおおお、フィオナ。今日、こんなに盛り上がったのは、全部、全部お前のおかげだ。ありがとう、本当にありがとう」
アレックスは感謝の気持ちを全力で表現する。プロレスラーの筋肉全てを動員し、フィオナを抱きしめた。すると、フィオナの喉からぐえええといううめきが漏れる。
「あたしのおかげだなんて、そんなことないわよ。私はただきっかけを……って、ちょっと、痛いわよ。はなして、はなして」
締め付けられ、フィオナの背骨からゴキゴキと鈍い音が鳴る。一般人の細身ではプロレスラーの全力の感謝に耐えることができない。アレックスが「すまないな」と解放すると、フィオナはオホン、と呼吸を整え、言いかけた言葉を続ける。
「私はきっかけを作っただけ。あなたたちのプロレスが素晴らしかったからこそ見た人もファンになったのよ」
「なんだっていいよ。お前がいなければ今日という日はなかった。本当にありがとう。この恩は一生忘れない」
「一生だなんて、別にいいのよ。あたしだってあんたに感謝してるんだから」
「感謝? 俺に? なんで」
「そう。アレックス、あんたによ。あんた言ってたじゃない。『オカルトのすばらしさ、人を楽しませるすばらしさを知ってほしい』って。私は今まで記事を書いていただけだから、それを読んだ人がどう思い、どう感じるか考えたことがなかったの。でも今日、私の記事を読んだ人があんなにも喜んで、楽しそうにしてるのを見たわ。人を楽しませることって素晴らしいことだと知ることができた。そのおかげで、今まで大嫌いだった自分の仕事が好きになれたの。本当にありがとう」
今度はフィオナからアレックスを抱きしめ、アレックスも十分な加減をしてそれに応えた。
「そうか、分かってくれたのか」
「ええ。あんたのおかげよ。こんな気持ちになれるだなんて思ったこともなかった。だから、私のほうこそありがとう」
そう言ったフィオナに見つめられ、アレックスの胸が高鳴った。オカルトの良さを知ってもらえたことは嬉しかったし、それ以上に彼女の笑顔に心を奪われた。彼女の笑顔は魅力的だった。オカルトを拒絶するしかめっ面から憑き物が落ち、別人のように輝いている。これまではうっさい女としか思えなかったが、共に危機へ立ち向かったりプロレスを作り上げたりしているうちに、彼女に惹かれていた。そっと手を伸ばしてフィオナの顔に触れると、彼女も身を預けてきた。
二人はただ黙って見つめ合い、どちらからとなく顔を寄せ合い――
「アレックス、こんなところにいたのか」
NWEの面々がやってきた。アレックスとフィオナが反射的に離れると、レスラーだけでなく裏方のスタッフも勢ぞろいで駆け寄ってきて、アレックスはたちまちに囲まれた。
「今日の試合は大成功だったな。大歓声に拍手に、俺、こんなの初めてだ。リングに上がった瞬間からドキドキしっぱなしで、心臓が口から飛び出るんじゃないかと思ったよ」
「俺もだ。途中から訳が分からなくなって、自分は本当にライオン星人なんじゃないかって思ってたよ。ファンやお前らのことがマジでおいしそうな肉に見えたし」
「ほう、じゃあかじってみるか?」
レスラーの一人がそう言ってケツを出すと、どっと笑いが起きた。
アレックスは仲間と共に笑いあい、プロレスラーらしく体をぶつけ立ったりして喜びを分かち合った。すると一人の時より何倍もうれしさが増した。普段冷静なアンソニーもこの時ばかりは馬鹿になり、仲間と一緒に大声を出してまわっていた。
「よおし、それじゃあここいらで写真を撮って、SNSにアップロードしようぜ」
「おう、そいつはいい考えだ。俺がシャッターを押すよ」
アレックスが言うと、レスラーも裏方スタッフも全員が賛成する。アレックスを中心として肩を並べて整列すると、裏方スタッフの一人がカメラ係を名乗り出た。
「シャッターを切るまえに、ちょうど全員揃っているから聞いてほしいことがある。裏方スタッフからのお知らせってやつだ」
丸顔の裏方スタッフ、ブルースがいったんカメラを下ろした。
「なんだよ、水差してねえで速くシャッターを押せよ。この盛り上がりがわからねえのか?」
「おいおい、そんなこと言っていいのか? 聞かなきゃ後悔するぜ」
「は? 聞かなきゃ後悔するってなんだよ」
「観戦グッズのことだよ。NWEが応援タオルやキャップやTシャツを販売していることは知っているよな? これらが、今日、それらが全部売れた」
レスラーたちはどよめいた。
「全部って、嘘だろ。アレも売れたってことか? 長い間売れ残ってる缶バッジ」
「ああ。NWEの不良在庫、具現化した悪夢、10年前からホコリかぶってた缶バッジもだ。今日は全員に特別にボーナスが出るぞ」
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その瞬間ブルースがシャッターを切ると、最高の写真が取れた。
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